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37.帰宅
そして五日後、馬車はイグネシアス公爵邸に到着した。
まずは公爵夫人であるマリーナが先に馬車を降りる気配がし、騎士が手を差し伸べる。
「お帰りなさいませ、大奥様。」
執事のマーラー、侍女長のターニャを始めとし、使用人達一同が出迎える。
それは、ファニアが身籠り、体調を崩しての帰宅であることが公爵のアルトから伝えられ、皆心配していたからだ。
「只今戻りましたよ。ファニアの為に、すぐに医者を呼べる手筈は済んでいるかしら?」
「はい、大旦那様からのご指示で、女医のアルベッタ先生にお願いいたしました。」
「そう、アルベッタ先生なら安心だわ。マーラー、ありがとう。」
「それで大奥様、ファニア奥様は…?」
マリーナの視線が馬車のキャビンに注がれると、ジェラールがファニアをそっとエスコートし、降りて来た。
「ご心配をお掛けしました。」
「「「ファニア奥様!!」」」
少し窶れたファニアを皆が見守るように声を掛けた。
「悪阻が酷い時もあって、戻って参りました。こちらは私の護衛となったジェラールと…」
「メェェ~~~~~!」
「「「ーーーっ!?」」」
ファニアが紹介する前に、馬車からは山羊が飛び出してきた。
「「「……や……ぎ………!?」」」
「そう、護衛のポトちゃんよ。賢い仔だから、皆さんよろしくね?」
「「「は、はいっ!!!」」」
その小さな騒ぎの中、アルトが玄関先に出て来て、ポトを見て目を丸くしている。
「マリーナからの手紙で知らされてはいたが、本当に山羊の護衛!?」
「メェェ!」
ジェラールは姿勢を正し、アルトに挨拶をした。
「公爵様、護衛を命じられましたジェラールと山羊のポトでございます。」
背の高いジェラールの赤銅色の髪と、金泥を流したような瞳は他を圧倒するような威圧感があるが、ポトの青と茶色が混ざったようなマーブルのクリクリとした目が、周りの雰囲気をやわらかいものにした。
「クライスの奴、山羊にまで頼るようになったのか…」
「メェ!」
アルトが呟くと、マリーナは微笑みながら、ポトの頭を撫でた。
「ポトちゃんは優秀なのよ?お部屋に入れても粗相はしないし、ファニアの部屋で騎士をしてもらうわ。
ジェラールは部屋を用意するから、そこに常駐してね。契約もきちんと結びましょう。」
「畏まりました。」
ファニアの周りには、若い侍女達が群がり、帰宅を喜んでいた。
その中に、早速ポトも溶け込んでいる。
そんな様子を少し離れて見つめるジェラールは、ファニアは公爵邸で慕われているのだなと思った。
(連れて帰ってきて良かった。どうかこのまま無事に出産出来るといいな。そして、あの馬鹿旦那ともきちんと復縁出来れば、ファニアも幸せになれるだろう…その時、俺は…)
ジェラールは少しだけ胸がちくりとしたが、その痛みは封印することにしたのだった。
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