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7.いきなりのお泊まり ②
しおりを挟む「はぁ、はぁ…ちょっ、ちょっと、テオ様、落ち着いて?」
私は息を整えながら、テオベルトの胸を力一杯手で押して懇願する。
このまま流されていいのか、分からないからだ。
私の表情を見て、テオベルトにも冷静さが戻ってきたのか、隣にどさっと横になる。
「すまない。焦ってるのかも…あと、君の声が…可愛くて…」
手の甲で目を覆い、目の端に涙が光っているように見えなくもない。
私にずっと明るく接してきたテオベルトが初めて見せる姿だ。
「何に焦っているのか分かりませんが、私はテオ様と一緒に居ると楽しいです。く、口付けも、い、嫌ではありません…でも、もっとゆっくり優しくしていただけると…」
「ほんとに、すまない。セナ嬢の可愛い声に理性が焼き切れそうになった…落ち着かなきゃな。今夜は別の部屋で寝るから安心して?」
そっぽを向いたままのテオベルトが、とても傷付いているようで、私は傍に居たいと思った。
私が忘れている人であるなら、気付かぬうちに、こういうふうに何度も傷付けているのかもしれない。
それでもいいと思って、この人は私の傍に居るのだろう。
「ダメですよ。一人にしないで?」
「いや、何もしないという自信がない。」
「だーかーらー、焦らないで、ゆっくり優しくって言ってるじゃない。」
「え……?」
怖がらせた、嫌われたと思っていたのか、テオベルトは私の言うことが信じられないという表情をしている。
このままは良くない。
丸っと信用していいのか自問自答して、私が出した答えは、テオを失いたくないということだ。
テオベルトのシャツの襟を掴んで引き寄せ、私は唇を奪った。
ぎこちなく舌を差し入れると、同じぎこちなさで舌を絡めるテオベルトに、胸がいっぱいになる。
「セナって呼んで?私もテオって呼ぶ。」
「いいのか?セナ…」
「もちろん。テオだから。私、テオのこと好きよ。」
「あぁセナ…俺も君が好きだ…愛してる。」
愛おしげに私を抱き締めるテオベルトに、同じ熱量で応えたいと思う私は、疾うにこの人を愛してしまっていたのだろうか。
それとも、記憶は無くても心はこの人を忘れていなかったのだろうか。
ただ、今この目の前の人を手放せない、失いたくないという想いは絶対的なものだ。
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