山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

文字の大きさ
8 / 360

7.【相手は選べ】

しおりを挟む


___確信した。

蓮池は確実に、俺に悪意を持っていると。

コスプレだのパチモンだのなんとも分かりやすく俺を煽っているが、何が気に入らなくてそんなに突っかかってくるのか。

何度も言うが今日初めて会ったんだぞ?

初めて会う相手に気に入らないも何もないだろう。

やはり一言言ってやらないと気が済まない。

そんな馬鹿げた衝動が駆け巡る。


夕太「それにしてもさぁ、運命っていうか?ねー?どうやってあの先輩に話しかけようか」

楓「重症。恋じゃんもう」


ため息をつく蓮池に独り言のように口が出た。

度重なる挑発に無視するという決意は脆くも崩れ去った。


雅臣「…ハッ。散々俺の髪をいじってたくせに…多様性はお前じゃないか、柊」


憧れの先輩だか知らないが俺から見れば柊の方が充分多様性だ。

蓮池も自分の友達の多様性は許せて人の多様性は許さない矛盾に気づけよ。

いや、俺は別に多様性ではないのだが。

もし俺が本当に多様性とかで向けられる悪意に病んでどうにかなったら、お前は責任が持てるのか?


楓「は?お前のかまってちゃんで伸ばしてる汚ねえ髪と、夕太くんのピュアな心一緒にすんなよ」

雅臣「誰がかまってちゃんだよ!髪だってもう切ろうと__」


横柄に脚を組んで椅子に座っていた蓮池は俺の話を遮るよう鼻で笑ったかと思うと、立ち上がって目の前に来た。

デカい体で威圧しにわざわざこっちに来るな。

俺が臨戦態勢を取るより早く蓮池は胸の内ポケットから何かを取り出し、机の上に無造作に置いた。

教室に硬質で重い音が響く。


楓「貸すよ。どうぞ」


ガシャン、と置かれたハサミと蓮池の顔を交互に見る。

鉄製のハサミ……?

何しにこんな物騒なもん持ち歩いてんだ?


小夜「父兄の皆様、お子様の教室を確認した後にもう一度体育館の方へお戻り………」


その時、遠くに先程の担任の声が聞こえた。

式を終え次第に廊下が騒がしくなってきた。

教室へ近づいてくる生徒や父兄の足音と、俺の心臓の音が入り乱れる。

冷静を装いたいのに、感情がぐちゃぐちゃになって剥き出しになる。

普段の俺ならこんなに挑発に乗らないのに。

いやそもそもこんな挑発を受けることなんてないのだが。


夕太「でんちゃん、仕舞いなよ」



何の悩みもなく楽しそうに話す柊の声も。


呑気に入学式に参加してる奴らも。


当たり前に両親が来ることも。


今現在ずっと振り回してくるこいつも。


自分の運の悪さを憎むよう舌打ちし、ドンと机に両手をついて立ち上がった。


俺が何をしたっていうんだよ。


目の前に差し出されたハサミを右手で取り、重なった苛立ちをぶつけるかのように結った髪を反対の手で引っ掴む。



自分でも驚くほどに、躊躇はなかった。


夕太「おい!!」


伸ばしてきた髪が床に落ちていく。

蓄積された苛立ちは全て髪と共に無理やり切り落とした。

久しぶりに軽くなった頭をガシガシと掻く。


雅臣「ほらよ、これで満足かよ」


点々と床に散らばった髪が、あの病室と連鎖する。

勝手に始めたことだった。

終わらせ方がわからなかったんだ。


雅臣「…呆気ねえな」

夕太「何やってんだよ!!」


元々大きな目を鳥のように見開き、慌てて俺のそばに寄ろうとする柊を蓮池が手で制した。


楓「ほらな、そうやって短気起こしてドヤ顔するところがかまってちゃんだって言ってんだよ」

雅臣「…っ、お前…」


吐かれた言葉に怒りが湧き上がり声が上擦る。


夕太「でんちゃん煽るな!お前も乗るなよ!」


柊が慌てて諌めようとするが、今の俺には売られた喧嘩を買うことしか頭になかった。

掴みかからんばかりの勢いで距離を詰めると、蓮池の眉が一瞬歪んだ。

機嫌が更に急降下したのが見て取れる。

そうだな。こんな奴、話して丸め込めるわけがない。

驚かせる気持ちも込めて、手にしたハサミを蓮池に当たらないように投げ捨てた。

鬱屈した空気を断ち切るような金属音に、胸がすく思いがした。


楓「イキってんなあ」


しかし、蓮池は全く動じもしなかった。

それどころか少し目を細めるようにしてじっと俺見つめたまま、ニヤリと唇を歪めた。

落ちたハサミを拾い上げながら、シャキン、と数回音を鳴らす。


楓「こういうのはな、」


相手の異常を察知し硬直した身体を引こうとした瞬間、


楓「当てなきゃ意味ねえんだよ!」


蓮池はいきなり俺の前髪を鷲掴にし、顔を上げさせ刃先を俺の方に向けた。




━━━━━━━━━━━━━━━
【後書き】
読んでいただきありがとうございます。
お気に入り登録や感想、いいねが励みとなりますため、この作品が面白いと思った方はぜひ!よろしくお願いいたします!
また、小説家になろうの方では先読み可能ですため、こちらもぜひよろしくお願いいたします!

しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?

perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。 その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。 彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。 ……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。 口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。 ――「光希、俺はお前が好きだ。」 次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

好きなあいつの嫉妬がすごい

カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。 ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。 教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。 「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」 ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

とある金持ち学園に通う脇役の日常~フラグより飯をくれ~

無月陸兎
BL
山奥にある全寮制男子校、桜白峰学園。食べ物目当てで入学した主人公は、学園の権力者『REGAL4』の一人、一条貴春の不興を買い、学園中からハブられることに。美味しい食事さえ楽しめれば問題ないと気にせず過ごしてたが、転入生の扇谷時雨がやってきたことで、彼の日常は波乱に満ちたものとなる──。 自分の親友となった時雨が学園の人気者たちに迫られるのを横目で見つつ、主人公は巻き込まれて恋人のフリをしたり、ゆるく立ちそうな恋愛フラグを避けようと奮闘する物語です。

天使から美形へと成長した幼馴染から、放課後の美術室に呼ばれたら

たけむら
BL
美形で天才肌の幼馴染✕ちょっと鈍感な高校生 海野想は、保育園の頃からの幼馴染である、朝川唯斗と同じ高校に進学した。かつて天使のような可愛さを持っていた唯斗は、立派な美形へと変貌し、今は絵の勉強を進めている。 そんなある日、数学の補習を終えた想が唯斗を美術室へと迎えに行くと、唯斗はひどく驚いた顔をしていて…? ※1話から4話までは別タイトルでpixivに掲載しております。続きも書きたくなったので、ゆっくりではありますが更新していきますね。 ※第4話の冒頭が消えておりましたので直しました。

何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら

たけむら
BL
何でもできる幼馴染への告白を邪魔してみたら 何でも出来る美形男子高校生(17)×ちょっと詰めが甘い平凡な男子高校生(17)が、とある生徒からの告白をきっかけに大きく関係が変わる話。 特に秀でたところがない花岡李久は、何でもできる幼馴染、月野秋斗に嫉妬して、日々何とか距離を取ろうと奮闘していた。それにも関わらず、その幼馴染に恋人はいるのか、と李久に聞いてくる人が後を絶たない。魔が差した李久は、ある日嘘をついてしまう。それがどんな結果になるのか、あまり考えもしないで… *別タイトルでpixivに掲載していた作品をこちらでも公開いたしました。

孤毒の解毒薬

紫月ゆえ
BL
友人なし、家族仲悪、自分の居場所に疑問を感じてる大学生が、同大学に在籍する真逆の陽キャ学生に出会い、彼の止まっていた時が動き始める―。 中学時代の出来事から人に心を閉ざしてしまい、常に一線をひくようになってしまった西条雪。そんな彼に話しかけてきたのは、いつも周りに人がいる人気者のような、いわゆる陽キャだ。雪とは一生交わることのない人だと思っていたが、彼はどこか違うような…。 不思議にももっと話してみたいと、あわよくば友達になってみたいと思うようになるのだが―。 【登場人物】 西条雪:ぼっち学生。人と関わることに抵抗を抱いている。無自覚だが、容姿はかなり整っている。 白銀奏斗:勉学、容姿、人望を兼ね備えた人気者。柔らかく穏やかな雰囲気をまとう。

処理中です...