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7.【相手は選べ】
しおりを挟む___確信した。
蓮池は確実に、俺に悪意を持っていると。
コスプレだのパチモンだのなんとも分かりやすく俺を煽っているが、何が気に入らなくてそんなに突っかかってくるのか。
何度も言うが今日初めて会ったんだぞ?
初めて会う相手に気に入らないも何もないだろう。
やはり一言言ってやらないと気が済まない。
そんな馬鹿げた衝動が駆け巡る。
夕太「それにしてもさぁ、運命っていうか?ねー?どうやってあの先輩に話しかけようか」
楓「重症。恋じゃんもう」
ため息をつく蓮池に独り言のように口が出た。
度重なる挑発に無視するという決意は脆くも崩れ去った。
雅臣「…ハッ。散々俺の髪をいじってたくせに…多様性はお前じゃないか、柊」
憧れの先輩だか知らないが俺から見れば柊の方が充分多様性だ。
蓮池も自分の友達の多様性は許せて人の多様性は許さない矛盾に気づけよ。
いや、俺は別に多様性ではないのだが。
もし俺が本当に多様性とかで向けられる悪意に病んでどうにかなったら、お前は責任が持てるのか?
楓「は?お前のかまってちゃんで伸ばしてる汚ねえ髪と、夕太くんのピュアな心一緒にすんなよ」
雅臣「誰がかまってちゃんだよ!髪だってもう切ろうと__」
横柄に脚を組んで椅子に座っていた蓮池は俺の話を遮るよう鼻で笑ったかと思うと、立ち上がって目の前に来た。
デカい体で威圧しにわざわざこっちに来るな。
俺が臨戦態勢を取るより早く蓮池は胸の内ポケットから何かを取り出し、机の上に無造作に置いた。
教室に硬質で重い音が響く。
楓「貸すよ。どうぞ」
ガシャン、と置かれたハサミと蓮池の顔を交互に見る。
鉄製のハサミ……?
何しにこんな物騒なもん持ち歩いてんだ?
小夜「父兄の皆様、お子様の教室を確認した後にもう一度体育館の方へお戻り………」
その時、遠くに先程の担任の声が聞こえた。
式を終え次第に廊下が騒がしくなってきた。
教室へ近づいてくる生徒や父兄の足音と、俺の心臓の音が入り乱れる。
冷静を装いたいのに、感情がぐちゃぐちゃになって剥き出しになる。
普段の俺ならこんなに挑発に乗らないのに。
いやそもそもこんな挑発を受けることなんてないのだが。
夕太「でんちゃん、仕舞いなよ」
何の悩みもなく楽しそうに話す柊の声も。
呑気に入学式に参加してる奴らも。
当たり前に両親が来ることも。
今現在ずっと振り回してくるこいつも。
自分の運の悪さを憎むよう舌打ちし、ドンと机に両手をついて立ち上がった。
俺が何をしたっていうんだよ。
目の前に差し出されたハサミを右手で取り、重なった苛立ちをぶつけるかのように結った髪を反対の手で引っ掴む。
自分でも驚くほどに、躊躇はなかった。
夕太「おい!!」
伸ばしてきた髪が床に落ちていく。
蓄積された苛立ちは全て髪と共に無理やり切り落とした。
久しぶりに軽くなった頭をガシガシと掻く。
雅臣「ほらよ、これで満足かよ」
点々と床に散らばった髪が、あの病室と連鎖する。
勝手に始めたことだった。
終わらせ方がわからなかったんだ。
雅臣「…呆気ねえな」
夕太「何やってんだよ!!」
元々大きな目を鳥のように見開き、慌てて俺のそばに寄ろうとする柊を蓮池が手で制した。
楓「ほらな、そうやって短気起こしてドヤ顔するところがかまってちゃんだって言ってんだよ」
雅臣「…っ、お前…」
吐かれた言葉に怒りが湧き上がり声が上擦る。
夕太「でんちゃん煽るな!お前も乗るなよ!」
柊が慌てて諌めようとするが、今の俺には売られた喧嘩を買うことしか頭になかった。
掴みかからんばかりの勢いで距離を詰めると、蓮池の眉が一瞬歪んだ。
機嫌が更に急降下したのが見て取れる。
そうだな。こんな奴、話して丸め込めるわけがない。
驚かせる気持ちも込めて、手にしたハサミを蓮池に当たらないように投げ捨てた。
鬱屈した空気を断ち切るような金属音に、胸がすく思いがした。
楓「イキってんなあ」
しかし、蓮池は全く動じもしなかった。
それどころか少し目を細めるようにしてじっと俺見つめたまま、ニヤリと唇を歪めた。
落ちたハサミを拾い上げながら、シャキン、と数回音を鳴らす。
楓「こういうのはな、」
相手の異常を察知し硬直した身体を引こうとした瞬間、
楓「当てなきゃ意味ねえんだよ!」
蓮池はいきなり俺の前髪を鷲掴にし、顔を上げさせ刃先を俺の方に向けた。
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【後書き】
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