山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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54.【俺の立ち位置】

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夕太「…………いいよ?」


な、な、何だその間は!?

その許可は本音なのか!?

即答ではない事にショックを受け蒼白になる俺に構うことなく、柊は一旦蓮池に目をやってから、


夕太「俺はいいけど…でんちゃんに聞いて」


決定権を蓮池に委ねた。

……やはり、そうきたか。

これでもし、蓮池が嫌だと言ったらどうすればいいんだ?

戸惑い俯きながらもチラと蓮池の反応を伺うが、目も合わせずいつも通りの横柄な態度に変わりはない。

こんなのどうもこうも答えは一目瞭然じゃないか!


〝B. 蓮池は柊と食いたいが俺と食べたくない〟


4限の授業中に自分で書いた関係図を思い浮かべて、直立不動で立ち尽くす。

誰が見たって元々仲が良いのは蓮池と柊で、やはりここは柊の言う通り頭を下げてお願いする立場は俺なのだ。


雅臣「……い、一緒にいいか?」


恐る恐るお伺いをたてるが、蓮池は俺を1度も見る事なく完全無視の態勢だ。

無言で拒否されたことが分かって、なんで俺はこんな女々しい事をしているんだと情けなくて死にたくなる。

そして何より、俺達を遠巻きに眺めるクラスメイトの視線が痛い。

よりにもよって教室の真ん中教卓前というこんな目立つ場所で、2人は座って見てるだけで俺1人立っている状況。

普段は騒がしい昼休みの教室だが、今日は恐ろしいほど静かで、全員が俺らの動向を見ているような気さえする。

席替えをしたからといっていちいち柊に聞かずに黙って勝手に座れば良かったのか?


……いや、それでも蓮池なら、


『何勝手に座ってんだよ、図々しい』


と言うかもしれない。


きちんと尋ねたのは正解な気がする。

蓮池に無視されたまま気まずい沈黙に耐える中、


「いやー、無理じゃね?」

「蓮池も意地悪いな」

「でも……なぁ?藤城……うん、」


クラスメイトはヒソヒソ声ならまだしも割りと丸聞こえのレベルで俺らの動向を注視している。

それなら誰か俺を誘ってくれよとも思うが、この状況で誰も助け舟を出してくれないということは……。


やはり、俺は皆から嫌われてるのだろうか?


漏れ聞こえる囁き声に、良くない考えしか浮かばない。

こんなことなら1人で食べれば良かったと弱音を吐きたくなるが、それでは東京の二の舞だと自分を叱咤し奮い立たせた。

今までの俺はあまりに未熟で、自分を買い被り勘違いしすぎていた。

実際は友達なんて1人もいない、ただのコミュ障だとようやく気がついたんだ。

いつまでもこのままなんて嫌だ。

少しでも変わりたいと思ったから、こうして羞恥に耐えている。

どうすればいいか柊に目を向けるも、ただじっと大きな目で見つめ返すだけで何も言わない。

いつもなら俺が困って目配せすれば何かしらのズレた行動を取るくせに…!!

今日に限って無反応、……どうしろと言うんだ!?

俺が何か言わないといけない空気なのはわかるが、これ以上何を言えばいいんだよ!

蓮池、頼むから一緒に飯を食ってください、と土下座でもしろと言うのか?


……そ、そんな事までしないといけないのか?


あまりにも情けない究極の姿を想像して倒れそうだ。

そうまでしてこいつらと一緒に飯を食いたいのかと再度自分に問うが、今の俺には1人で食う勇気の方がなかった。


俺にはもうこいつらしかいない。


現に今クラスの誰1人俺を助けてくれないのは、6月にもなるのに自分が誰とも関わってこなかった結果だと痛いほどわかる。

柊と大須に行ったあの日から、都合良く言い訳して自分に言い聞かせるなんてできなくなった。

俺には柊以上に話したことのある奴なんて、このクラスにいない。

その柊が蓮池に許可を取れと言っているのなら……。

いよいよ頭を下げるしかないのかと意を決して蓮池を見つめた瞬間、


楓「うじうじ突っ立ってんなようぜぇな!!!」


俺が頭を下げるより先に、蓮池がキレた。

目が合い蓮池がそこに座れと指示するように顎でしゃくったので、慌ててそばに空いていた椅子を引っ張ってきて腰をおろした。


夕太「でんちゃんそれ座っていいってこと?それともあっち行けってこと?」

雅臣「…えっ」


ようやく座れた俺に意地の悪い笑みを浮かべた柊の言葉に、確かにどちらとも取れるよなと青ざめる。


楓「さあね」


しかし、蓮池は風呂敷を広げてお重を取り出したので、柊がま、いっかと呟き自分の弁当箱を広げた。


……これは、座ったままでいいってことだよな?


雅臣「…入れてもらうな」


蓮池に軽く頭を下げて、ようやく緊張が解けた。

固唾を飲んで俺らを見ていたクラスの連中は元通りの騒がしさを取り戻し、俺も保冷バッグのチャックに手をかける。


夕太「そういえば雅臣、寝坊なんて珍しいね」


まるで何事も無かったように俺に話しかける柊を見て、どう反応するか迷う。

先程までの気まずい雰囲気が分からないわけでもないだろうにと思うも、


雅臣「あ、あぁ…ちょっとな」


出来るだけ自然を装って答えた。


夕太「でんちゃんも今日寝坊だったろ」


蓮池はさぁ、と無視して水とともに謎のカプセルを飲み込んだ。


夕太「でんちゃんが薬飲むなんて珍しい」

楓「馬鹿は風邪ひかないって言いたいの?これはね、海外から取り寄せたサプリだよ。食欲を抑えるんだって」


珍しく口角が上がった蓮池にそんな怪しいものを口にするなよと呆れるが、せっかく一緒に食べてくれてるのに機嫌を損ねたくないので黙っておいた。


夕太「そんなんで痩せるならアメリカからデブが消えるよ…あ、それちょうだい」


柊は鼻で笑い、早速蓮池の茶巾寿司を勝手に摘んだかと思えば一気に詰め込みむぐむぐと頬を膨らませる。

……お、いいぞ。

ハムスターみたいな柊を見て今日の俺の本題を思い出した。

俺が遅刻してまで作ってきた弁当の中には、柊の好きそうなメニューが入っている。

今みたいに俺のも摘んでくれるだろうと期待を胸にバッグに手を入れたと同時に、予想通り柊が話しかけてきた。


夕太「あれ!雅臣今日弁当なの!?珍しい!」

雅臣「ま、まぁな」


……い、いい感じじゃないか!?

思惑通りだと胸が踊り、俺も会話を広げるぞと意気込むが濡れた感触に違和感を覚える。


な、なんだ?


弁当箱を取り出せば茶色い汁が漏れている。


雅臣「あ、あれ?」


そっと蓋を開ければ、弁当の中身は今朝とは変わり果てていた。


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