山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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80.【担任の言葉】

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後2年経てば、俺も桂樹先輩みたいになれるのだろうか。

俺より背が少し高いだけなのに体格も度量も容姿も、何もかもが全然違う。

普段こんなに間近で先輩の顔を拝むことはなく、改めて見ると本当に美形で黒髪に戻したら元の良さが余計に際立って見えた。


桂樹「どした?」

雅臣「……いや、かっこいいなって…あ、」


しまった……!!

蓮池の言う通り、俺は人のことをじろじろと見すぎだ!!

本音がつい出てしまい口を押さえるが、


桂樹「褒めても何も出ねぇぞ?ほら好きなだけ見ろよ」


先輩はわざと顔を近づけてきて笑うから狼狽えることしかできない。


雅臣「ち、近い、近い近いです!」


が、顔面偏差値が高すぎる!!

東京でもこんなかっこいい人は見たことがないぞ!

俺の反応を見て笑う先輩に、そういえばこの人悪ノリが好きだったなと思い出す。

近いを通り越して至近距離で体温を感じて、心の中で梓蘭世が俺の代わりに悲鳴を上げてるような気がした瞬間、保健室の扉が開いた。


小夜「おー、何じゃれてんのよ、藤城生きてるか?」

桂樹「顧問!!」

小夜「小夜先生な」


まあ合ってるかと傍にやって来た担任を見て、まさか俺と蓮池のやり合いが職員室にまで広がったのかと遠い目になる。

入学式の遅刻騒動以来大人しくいたが、〝今度やったら退学ね〟と言った担任の言葉を思い出して嫌な予感しかない。

まさかお咎めを食らうのではと怯えていると、


小夜「藤城、車で送ってったるわ」


…………。

……あれ?

怒られるんじゃないのか?

予想した展開とは違い、ついぱちぱちと瞬きしてしまう。


小夜「何だその顔。お前熱あんだろ?病院寄ってからついでに自宅まで届けたるわ」

桂樹「先生車通勤だっけ?」

小夜「さっき持ってきた、桂樹は授業戻っていいぞ」


担任の言葉にもう授業が始まってるのかと慌てて桂樹先輩に頭を下げてお礼を言った。

桂樹先輩はまた治ったらチャットしろよと保健室を後にした。


小夜「これお前の荷物な、歩ける?」

雅臣「歩けます…あれ、先生授業は……」


5限は確か担任の授業だったはず。


小夜「自習にした。藤城のおかげだってあいつら喜んでたから多分ゲームでもしてんじゃねぇか?」


行くぞ、と俺の荷物を持ったままの担任の後を着いて行った。





_________

__________________



小夜「……まぁ医者があー言ってることだし、帰ったらゆっくり休めよ」


小夜先生が知り合いの医者に頼んで診療時間外でも診てくれることになったのだが、そこで言われたのは、疲労とストレス。

思い当たる節しかなかった。

医師によく食べて良く寝なさいと点滴を打たれ、頓服の解熱剤を出されただけで済んだ。

点滴が効いたのか体が少し軽い気がする。

駐車場に停めた担任の車は意外にもグリーンのビートルで新車ではないクラシックカーだった。

レトロを通り越したそれは維持費とメンテナンス代がかなりかかりそうだが、教師なんて薄給だろうに大丈夫なんだろうかと疑問が浮かぶ。


……いや、これが余計なお世話ってことだよな。


そう思いながら助手席に座らせて貰うと音を立てて車は発進した。

しばらく車を走らせてから、


小夜「めっちゃ派手にやったみたいだな」


担任に笑いながらそう言われて心臓が跳ねた。

やっぱり教師達にまで話が伝わってるんだと横目で見るが怒ってる風には見えず胸を撫で下ろす。

……でも派手にやった、は正しいよな。


雅臣「すっきりしました。俺、親から愛されてないって分かって……」


思い出し笑いをしながら答えると、担任はブレーキを踏み間違えたのか一瞬車が少し前のめりになり、一旦路肩に寄せて停め直した。


小夜「だ、誰がそんなこと言ったの!?」

雅臣「蓮池が教えてくれて…」


余程驚いたのか珍しく狼狽えて素っ頓狂な声を上げる担任にその名前を出すと、深くため息をついてからもう一度車を発進させた。


小夜「ったく…しょうがねぇなあいつは…お前も全部真に受けるなよ?大丈夫なん?」

雅臣「大丈夫です」


大丈夫、とはどういう意味だろう?

車がゆっくりと坂道を登っていく途中、静かに考える。


小夜「ほんと1回説教しないとな」

雅臣「え!?いや!!蓮池は悪くないんです!!」


丁度赤信号で停車して、担任は1人焦る俺をじっと見つめた。


小夜「……何で?」


その目に担任が蓮池を責めることのないようきちんと説明しておかないと思った。

まだ体はだるいけれど蓮池と言い合いした時よりも頭痛は大分マシになっていて、言いたいことが直ぐに纏まった。


雅臣「あいつは……俺の聞かなくていい話を聞いてくれたんです。それに俺から突っかかったから」

小夜「お前から?珍しい、何言ったん?」


思い返せば俺の思い違いが恥ずかしくて少しだけ言い淀むが、誤解は解かないといけない。


雅臣「あいつがブランド物をたくさん買ってるからストレス発散で買ってるのかと心配して、お母さんの支払いも心配したんです。そしたらてめぇも親金だろってキレられて……」


とりあえず事の発端だけ話すと、担任が大笑いしたところで青信号になった。

車は八事やごとという交差点を抜けて、緩い坂を登りきった辺りに名古屋大学と書かれたキャンパスが見えてきた。

所々に植えられている街路樹の緑は青々としていて、東京とは違う風景を眺めながら気づけば随分遠くに来たなと少しだけ感慨に耽ける。


小夜「いいとこつくけどな。…あいつ尖ってるもんなー、目いっぱいキリキリしていてさ。まぁ若さだよ若さ」


俺も色々やったと呟く担任に、職員室でも廊下でも、どの教師にも小夜!と叫ばれているのを思い出した。

最近この人が山王出身って知ったんだよな。

担任の未だに明るい髪色を見て、山王は昔から自由奔放で派手な生徒が多いのだろうかとぼんやりと考える。


小夜「藤城は真面目だからな。でももし自分で対処出来ないことがあったらすぐ俺に言えよ?友達関係でも何でもいいから大人を頼れ」


……多分、担任は蓮池のことを言ってるんだ。

誰からどのように聞いたかは分からないが、誤解した桂樹先輩のように蓮池が悪いと言う輩は一定数いるだろう。

それに〝大人を頼れ〟だなんて、そんなことを初めて言われて驚いた。

今まで大変なフリをしていた時は誰も声をかけてくれなかったのに、ずっと言って欲しかった言葉は蓮池や担任に立て続けに貰えて、名古屋に来てから全てが良い方向に向かってる気がした。


雅臣「…はい」

小夜「ま、学校みたいなクソ狭い世界で生きてると目の前にいるものが全部になるよな」


ハンドルを握って前を向いたままそう言う担任の言葉には真実味があった。

山王で学生時代を過ごした担任だからこそ重みを感じ、その言葉をすんなりと受け入れることができる。


小夜「でも、もっと視野広げないと駄目だぞ。何も蓮池と絶対一緒にいないといけないわけじゃねぇんだから」


それはその通りで、俺も分かってはいる。

何も蓮池と柊じゃなくてもいい、探せばもっと別のキツくない優しい奴が学校にはいるだろう。


小夜「お前と合うやつはどっかに必ずいる。学校だけじゃないぜ」


担任の言ってることは何も間違っていない。


でも。


それでも俺は……。










____________
【後書き】

読んでいただきありがとうございます。
お気に入りやいいねがいだだけて本当に嬉しいです!
いただけると書き続ける励みになるので、ぜひよろしくお願いいたします♪♪

そしてついに80話!
読んでくださる皆さんのおかげで書き続けられています!これからも毎日更新しますのでよろしくお願いします✨
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