山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

文字の大きさ
169 / 423

蓮池楓のゲーム日記1

しおりを挟む


楓「美沙子さんありがとうございました」

「いいのよぉ!楓さんのお友達びっくりしてて可愛かったわぁ!」


高校生なら誰でもいいのか。

ババアはほんときめぇな。

大体あのアホはアホで何しに俺んとこに電話掛けてきたんだとは思ったがある意味ナイスタイミングだった。

こちとら絶賛華展の準備前、とはいえジジイが横からあーだのこーだの口出ししてくるわハゲは俺と似たような作品作りやがるわでもうキレそうだった。

少し抜けて休憩しようとしたところにトイレから出てきたあの勘違い発情ババアとバッタリ遭遇してしまった。

無駄に話したがる素振りを見せてきて勘弁しろよと心で中指を立てていると、良いんだか悪いんだかのタイミングで陰キャから電話がかかってきた。

ババアと立ち話なんてする気もない俺は咄嗟にあの女に電話に出させて滅多にない男子高校生と話せる機会を与えてやり、陰キャには女と話す機会を与えてやって……。


はぁー、俺っていい奴だわぁ……。


ババアとはいえ生物学上はメスだし、母性に飢えとるあいつはそれはさぞかし嬉しかっただろう。

ブランドを買い漁っていても発散しきれない苛立ちをどうしたもんかと考えながら自室に移動する。

一旦帯も襟も全てを弛めてから、自室に設置してある簡易冷蔵庫を開けて炭酸の入ったオランジーノを取り出した。

ベッドに腰をかけて一気にそれを煽るとしゅわしゅわと弾ける炭酸が口に広がりようやく肩の力も一緒に抜けた気がする。


楓 「これ廃盤になる前に買い占め……あ、」


スマホでブランドのサイトを漁りながら、ふと足元に夕太くんのくれたマヌルネコのマスコットが落ちていることに気づいた。

気に入って買った螺鈿細工の飾り棚の上に飾っておいたのに何かの拍子に落ちてしまったのだろう。

今まで夕太くんから貰ったものは大切に棚の上に1つずつ並べてある。

慌てて拾い上げると何となくそれと目が合って、苛立つ気持ちも全て引いて自然と口元が綻んだ。

夕太くんが俺の為にわざわざマヌルネコを取ってきてくれたと知って、久しぶりにそんなことをして貰えて本当に嬉しかった。

夕太くんは元々UFOキャッチャーが大好きでゲーセンに立ち寄ってはアームの強さを見るとか言って数回やるのはざらだった。

前はたまたま取れたぬいぐるみを俺にくれたのに、中2ぐらいからパタッと止んでしまい最近はめっきりそんな機会もなくなっていた。


楓 「……言えないよな」


どうしてくれなくなったのなんて、夕太くんに言えるわけがない。

マヌルネコの頭を撫でて元の位置に戻す。

瞬間スマホの通知音が鳴って、画面に目をやれば〝おすすめの新しい思い出〟と通知が表示されている。

スマホの新しい機能なのかフォルダに入ってる華の写真が纏められていて、そういえばとチャットのアルバム欄を覗いた。


楓「ははっ………」


1枚の写真につい声を上げて笑ってしまう

それは夕太くんがコアラのマーチングを巨大チョコボールに変える技を披露した時の写真だ。

『箱を思い切り振りまくってから袋を開くと全てのコアラのマーチングは1つに纏まりチョコボールになる』

夕太くんは昔からそう豪語していたけれど、もし本当にそんなことをされたらそれを食べるのは俺になる。

それが嫌で俺は絶対食べないからね、と断ると渋々諦めた夕太くんが1つずつ食べるのがコアラのマーチングを買った時の一連の流れだった。

しかしこの日は無類の甘いもの好きが横に座っていたおかげで夕太くんは念願叶って妙技を披露できたわけだ。


楓「うわ」


よく見るとその横には目をひん剥いて無様に口を開けたままの陰キャも写りこんでいて舌打ちしてしまう。


___こいつほんと…くそ、またイライラしてきたな。


あのバカは夕太くんが俺のマヌルネコのついでに取ったクロヒョウを後生大事に新学期から通学カバンにぶら下げてくるのがもう見える。

プールでも友達気取りで俺と夕太くんの写真を撮ってやるだなんて偉そうに、相変わらずどこポジだよと死ぬほど腹が立ってきた。



楓「……俺は写真なんか嫌いなんだよ」



何とか写真を撮ろうする陰キャを躱した時のことを思い出す。

わざと飲み物を買いに行くフリをしたけれど、しばらくして遠目に見た夕太くんは浮かない顔をしていた。


楓「はーやだやだ、きも、最悪、何だってこんな……」


てか、あの陰キャ本当にしょーもない内容で電話なんかかけてきやがってなんなんだ。

とび森のフレンドとか抜かしてたけど夕太くんにかけた方が確実なのに__。


………。


待てよ?

夕太くんじゃなくてこの俺と通信したい理由が何かあるのか?

夕太くんが陰キャにとび森を勧めたと言ってたのはほんと最近のことだし、多分今日か昨日あたりにゲームが届いたはず。

………となると、アイテムか素材欲しさに俺に情けなく頼んできたってところか。


我ながら名推理だわ。


それにあの気取り散らかした男が作る部屋なんかもう簡単に想像がつくが、暇つぶしに覗きに行くのも悪くない。

フレンドコードを要求すれば浮かれて直ぐに送ってくるだろとチャットに送れば、ものの数秒で返ってきて巣に絡まった獲物を食う蜘蛛の気持ちがよく分かる。


楓「掛かった……」


適当に放置してあったゲーム機を取り出してテレビに繋げると画面に透けて映る俺の顔はものすごく口角が上がっていた。


しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

とある冒険者達の話

灯倉日鈴(合歓鈴)
BL
平凡な魔法使いのハーシュと、美形天才剣士のサンフォードは幼馴染。 ある日、ハーシュは冒険者パーティから追放されることになって……。 ほのぼの執着な短いお話です。

騎士団で一目惚れをした話

菫野
BL
ずっと側にいてくれた美形の幼馴染×主人公 憧れの騎士団に見習いとして入団した主人公は、ある日出会った年上の騎士に一目惚れをしてしまうが妻子がいたようで爆速で失恋する。

笑って下さい、シンデレラ

椿
BL
付き合った人と決まって12日で別れるという噂がある高嶺の花系ツンデレ攻め×昔から攻めの事が大好きでやっと付き合えたものの、それ故に空回って攻めの地雷を踏みぬきまくり結果的にクズな行動をする受け。 面倒くさい攻めと面倒くさい受けが噛み合わずに面倒くさいことになってる話。 ツンデレは振り回されるべき。

ある日、友達とキスをした

Kokonuca.
BL
ゲームで親友とキスをした…のはいいけれど、次の日から親友からの連絡は途切れ、会えた時にはいつも僕がいた場所には違う子がいた

伝説のS級おじさん、俺の「匂い」がないと発狂して国を滅ぼすらしいい

マンスーン
BL
ギルドの事務職員・三上薫は、ある日、ギルドロビーで発作を起こしかけていた英雄ガルド・ベルンシュタインから抱きしめられ、首筋を猛烈に吸引。「見つけた……俺の酸素……!」と叫び、離れなくなってしまう。 最強おじさん(変態)×ギルドの事務職員(平凡) 世界観が現代日本、異世界ごちゃ混ぜ設定になっております。

【完結】もしかして俺の人生って詰んでるかもしれない

バナナ男さん
BL
唯一の仇名が《根暗の根本君》である地味男である<根本 源(ねもと げん)>には、まるで王子様の様なキラキラ幼馴染<空野 翔(そらの かける)>がいる。 ある日、そんな幼馴染と仲良くなりたいカースト上位女子に呼び出され、金魚のフンと言われてしまい、改めて自分の立ち位置というモノを冷静に考えたが……あれ?なんか俺達っておかしくない?? イケメンヤンデレ男子✕地味な平凡男子のちょっとした日常の一コマ話です。

攻められない攻めと、受けたい受けの話

雨宮里玖
BL
恋人になったばかりの高月とのデート中に、高月の高校時代の友人である唯香に遭遇する。唯香は遠慮なく二人のデートを邪魔して高月にやたらと甘えるので、宮咲はヤキモキして——。 高月(19)大学一年生。宮咲の恋人。 宮咲(18)大学一年生。高月の恋人。 唯香(19)高月の友人。性格悪。 智江(18)高月、唯香の友人。

【幼馴染DK】至って、普通。

りつ
BL
天才型×平凡くん。「別れよっか、僕達」――才能溢れる幼馴染みに、平凡な自分では釣り合わない。そう思って別れを切り出したのだけれど……?ハッピーバカップルラブコメ短編です。

処理中です...