山王学園シリーズ〜カサブランカの君へ〜

七海セレナ

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柊夕太の友達日記2

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2人のことを考えてると楽しくて作詞の手が止まってしまい、何となく楽譜の横のスペースにぐるぐると螺旋にシャープペンを走らせる。

そういえば花火大会の時もでんちゃんは屋台のトルネードポテトを見て陰キャにはこれがお似合いだって勝手にウケてたな。

どういう意味かを聞いてみたら、


『垢抜けない芋男って意味と掛けてんの』


と左口角をこれ以上ないくらいに上げてトルネードポテトを俺に預けたんだよね。

痛烈な嫌味に相変わらずだと大笑いしたけど、同時に俺には絶対にそんな事を言わないでんちゃんの素の部分が垣間見えてやっぱり雅臣が羨ましくなった。


夕太「……ふっ」


でも雅臣って陰キャだけど別に芋ではないというか、トータルバランスが良くってパッと見でいじめられる雰囲気でもないんだよな。


夕太「へへ、へへ」


ポテトを渡したら何かを察した雅臣が俺にゲンコツを食らわすフリをしたのを思い出し、ついニヤニヤと笑ってしまった。

雅臣ってでんちゃんには平気で手が出るのに俺にはいつも殴るフリだけなのはやっぱり友達だからかな。

そう思うととても特別な感じがして自然と顔が緩んだ。


「……何笑っとんのあんた」

夕太「どぇ!?」


突然の声に驚いて振り返るとそこにはいちねぇが1人静かにソファに座っていて、ピアノ部屋の隅でひっそり編み物をしていた。

今日のいち姉ちゃんは胸元から白のフリルのブラウスを覗かせた苺柄のジャンスカを着ていて、頭にはでっかい同柄のリボンカチューシャをつけている。

白地にピンクの派手なロリータ服だというのに忍びの如く静かで同じ空間にいるというのに俺は全然気がつかなかった。


「……雅臣って誰?」

夕太「友達!」


にぃなちゃんとは正反対ないちねぇは、存在そのものが超静かだからたまにいても気づかないくらいだ。

いちねぇはかぎ針でものすごく細かいレース編みをしながら俺の言葉で顔を上げる。


「……珍しい……楓以外で初じゃない?違う子の名前が夕太から出てくるの」

夕太「友達ができたの」


ハッキリ友達と呼べる奴なんて今までの俺にはいなかったせいか、へぇと目を見開くいちねぇを見て少し照れくさくなる。

歌詞を五線譜の上に走り書きしながら、俺もでんちゃんと雅臣みたいにいつか言いたいことが言えるようになりたいなと願う。

こんな風に自分がでんちゃんだけのことだけじゃなく別の誰かのことを考えていられるなんて本当に幸せだ。

罪悪感に苛まれることなく、ふとした時にずっと1人だけのことを考えなくていいのは心の重石が取れたみたいに気が楽だった。

こんな気持ちでいられるのは雅臣という初めての友達のおかげだよ。


「……ところでその変な歌は何?」

夕太「変じゃないよ、いい曲だろ?文化祭で歌う……あ、そうだいちねぇ!!」


俺の突然の大声に耳がキーンとしたのか、いちねぇは目を瞑って口をへの字にしてる。


夕太「ごめんって…あのさ、こういう衣装みたいなの7人分作りたいんだけど型紙とかだけ頼めるかな?」


プールで見た三木プロ所属のアイドルカラフルジュエリストのアー写をスマホで見せると、いちねぇはもっと怪訝そうな顔をした。


「……これ誰が作るの?」

夕太「俺とサークルの皆で!こーいうの着て自分達で作った曲を歌うんだよ」


花火大会でカラフルジュエリストを見ながら派手好きのでんちゃんが珍しく「俺らも文化祭の時こうやって派手にやる?」って呟いたんだ。

幼馴染が華道以外のことを考えてて、しかもそれがサークルのことだなんて俺は最高に嬉しかった。

でんちゃんは冗談で言ったのかもしれないけど俺は段々楽しくなってきて、どうせなら皆で衣装を作って派手に歌っちゃおうとその時思いついたんだ。

サークルや文化祭という学生時代にしかできないことを俺もでんちゃんと楽しみたかった。

ずっと友達みたいなことをでんちゃんとやってみたかったんだ。


「……このクオリティをそこらの男子高校生が作るつもりなの?」

夕太「頑張ってやってみたら何とか出来そうじゃない?」


どうかな?と首を傾げた瞬間、


「おいバカ夕太!!!洗濯物畳めって言ったじゃん!!後でハンカチにアイロンもかけといてよ!!」

「にぃな新しい客のハンカチでグラス拭くとか言ってなかった?」

「夕太ー、何見てんのそれ」


わらわらと他の3人の姉ちゃん達までピアノ室に全員集まってきた。

にぃなちゃんはもうすぐ同伴があるけどまさかの今日は姉妹全員がほぼ仕事が休みのレアな日だった。


「この男がいいな……顔いいじゃん」


にぃなちゃんは勝手に俺のスマホを奪い取って、俺のスマホに写るカラフルジュエリストの青色のメンバーを見ながら真剣に吟味している。


夕太「そういう話じゃないってば!文化祭で歌うから、いちねぇにこれっぽい衣装頼もうと思って…」

「へー…文化祭ねぇ。え、てかプール行ったんでしょ?写真とかないの?」


アイドルには全く興味のないしぃちゃんの言葉で、俺は楽しかったプールの写真を見せながらSSCのメンバーをそれぞれ紹介しようと笑顔になる。


夕太「あるよ、にぃなちゃんスマホ貸して!」


にぃなちゃんがぽいと投げた俺のスマホを慌てて受け取ってそのまま写真のフォルダを開く。

ついでに手厳しい姉ちゃん達に色々ジャッジしてもらおう。

俺のフォルダの中にはプールで皆で撮った写真やこっそり隠し撮りした写真がいっぱいあって、


夕太「ほい、これ!見て見て」


手招きすれば姉ちゃん4人とも俺が座るピアノの椅子を囲んでスマホを回し見した。


「うわー、これ楓?変だね」

「まじで楓ってバカだよな、変な水着」

「……FONDIの昔の型じゃない?変だけど」

「髪も変にこだわってるしトータルで変だよこれ」


ウケると姉妹は大笑いしているけど、女が4人も集まれば一瞬で悪口に花が咲き騒がしくなる。

各々が感想を言い合ってるけど改めてうちの姉ちゃん達はでんちゃんには手厳しいと思った。

こんなに言われたらでんちゃん今頃くしゃみ止まらないんじゃないかな。

……まぁ、それもしょうがないか。

でんちゃんの小ちゃい頃はもっと生意気で今の1000倍可愛げがなかったこともあり、今まで姉ちゃん達と散々喧嘩をしてきたが勝てた試しがない。

いつも俺を挟んで4姉妹VSでんちゃんの構図になる事ばっかで、姉ちゃん達は本気ででんちゃんが大嫌いだった。

それに今のでんちゃんの口喧嘩の強さ、色んな角度からの口撃はうちの姉ちゃん達仕込みでもある。

でんちゃんはこの4姉妹をシンデレラのお姉さんそっくりだの何だの散々文句を言ってるけど姉ちゃん達に敵うわけないんだよね。

あのでんちゃんでさえ、特ににぃなちゃんには本当に敵わない。

それくらい鍛えられてるからいくら雅臣が挑んだところででんちゃんに勝てるわけないんだよなー。

でも姉ちゃん達が俺を守ってくれるのも、でんちゃんに異常に厳しいのもちゃんと理由があるから仕方がないと1人でため息をついてると、


「……これは?」

夕太「それがさっき言ってた俺の友達!雅臣っての!」


有り得ないほど長いスカルプネイルでコンコンとスマホを叩きいちねぇが指していたのは珍しく笑顔で写っている雅臣だった。



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