戦闘力ゼロの錬金術師、なぜか魔王軍の専属健康担当になりました

冷鳥パコラ

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5話 三百人分の注文が入りました

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翌朝。

研究室の扉が、勢いよく開いた。

「メウラ!」

幹部が珍しく声を荒げている。

メウラは攪拌を止めた。

「どうしました」

幹部は一枚の紙を差し出す。

「三百人分の注文が入りました」

沈黙。

メウラは紙を見る。

・安定型回復薬 三百
・疲労軽減補助薬 三百
・腸内環境改善薬 三百

「兵士たちが自発的に希望している」

メウラは少し考えた。

「意識が高いですね」

「違う。便秘が解消された者が自慢している」

メウラはうなずいた。

「腸は大事です」

幹部が咳払いをする。

「問題はそこではない」

「量ですか」

「量だ」

研究室を見回す。
小さな鍋しかない。

三百人分。

メウラは計算する。

「今日中は無理ですね」

「戦は三日後だ」

「では間に合います」

幹部が一瞬止まる。

「間に合うのか」

「睡眠を八時間取れば」

「お前が寝るのか」

「はい」

幹部の顔がわずかに引きつる。

「徹夜ではないのか」

「効率が落ちます」

真顔だった。

その頃。

兵舎では兵士たちがざわついていた。

「俺は三本頼んだ」

「腸内用も追加した」

「前回、戦闘後に立てたからな……」

「俺は暴発ゼロだったぞ」

「俺もだ」

「軽かった」

「軽かったな」

廊下の向こうで、別の兵士が叫ぶ。

「旧型は危険だ! 床が割れたぞ!」

研究室。

メウラは大きな鍋を持ち込ませていた。

「量産体制に入ります」

幹部が問う。

「秘伝はないのか」

「ありません」

「門外不出ではないのか」

「常識と睡眠でできています」

幹部は天井を見た。

「……恐ろしい」

材料が並ぶ。

触媒。
沈殿。
調整剤。

メウラは淡々と混ぜる。

「三百人分なら、濃度は一定に」

「鍋が小さい」

「もう一つ必要です」

「用意しろ」

魔王城の厨房が一時的に封鎖された。

料理長が抗議する。

「昼食はどうする!」

「兵が強くなる」

「なら仕方ない」

巨大な鍋が運ばれる。

攪拌。

温度調整。

微調整。

幹部が呟く。

「これが戦争の裏側か……」

三時間後。

最初の百本が並ぶ。

兵士が受け取り、飲む。

三秒。

五秒。

十秒。

「揺れない!」

「腹が静かだ!」

別の兵士が涙ぐむ。

「俺……明日も立てる気がする……」

幹部が報告書を書き始める。

・量産成功
・事故なし
・兵士の士気上昇(主に腸内)

そのとき。

玉座の間の扉が開いた。

魔王が現れる。

「様子はどうだ」

幹部が答える。

「三百人分、間に合いました」

魔王は並んだ薬瓶を見る。

「……壮観だな」

メウラは答える。

「生活改善の結果です」

魔王は一本手に取る。

「これで三百名が強くなるのか」

「はい」

「副作用は」

「水を飲みます」

沈黙。

魔王はゆっくりとうなずいた。

「……全軍に拡大せよ」

幹部が震える。

「全軍……三千です」

メウラは少し考える。

「鍋を十個に増やしましょう」

魔王は呟く。

「戦とは、鍋の数で決まるのか」

メウラは首をかしげた。

「環境と体調管理です」

玉座の間に、静かな空気が落ちる。

外では兵士が叫んでいた。

「腸内が整ったぞ!」

「俺もだ!」

「静かだ!」

魔王は遠くを見つめる。

「……強い軍とは、静かなのだな」

メウラは真顔で答えた。

「はい。よく眠れますから」

その日。

魔王軍の兵舎は、

過去一番、静かだった。

その日、

魔王軍の鍋が、さらに五つ増えた。
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