短編集 ~考え事から生まれた物語達~

闇潜人

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一話完結物語

星達を本体として繋がる心

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 澄み切った星空の下、ひときわ輝く星を見つめる。
 全天中、もっとも明るい星。
 そこに視線を合わせていると、他にも強い煌めきをもつ星が二つ、自然に目に入った。
 三つを結ぶと、綺麗な三角形が出来上がる。
 星々の煌めきが散らばる中、その光に彩られ、意識の中で結ばれる、三点の星。

 綺麗だな、と思うそこに、他の感情はなかった。
 過去も、未来も、自分の存在さえも、意識の中には無く。
 ただ、綺麗だなと感じていた。
 ただただ、星空を見つめていた。


 * * * *


 夜の澄んだ空気の中、息が白いなぁと思いながら駅へと向かう。
 隣を歩く同じ部活の仲間もまた、白い息を吐きながら、しきりに手をこすり合わせている。

「今日は寒いねぇ、放射冷却ってやつ? あ、でも見て! 空、星が凄く綺麗!」

 彼女の言葉に、歩きながら空を見上げる。
 雨も雪も降らず、風一つない冬の空気は、いつもより透明な感じがした。
 どこまでも深く深く続く、夜空いっぱいに光る星々。
 月の無い空で、星達の光は一層輝いて見えた。

「本当だ、綺麗だね。いつもより、空気が澄んでいる感じがするよ」
「あ、ほら、あれ、オリオン座! 星座とかさっぱりわからないけど、あのリボンみたいな形だけはわかるんだよね。わかりやすくない?」
「あー、わかる。オリオンの腕の部分とかもあるらしいんだけど、あのリボンのところしかわからないわ」
「わたしもー。あ、あとアレ。あのオリオン座の端っこの星と、こっちの一番明るい星と、そっちの星で作った、冬の大三角形ってやつ!」

 今まで意識したことはなかったけれど、言われてみると確かに、三角で結べる明るい星がある。

「星、けっこう詳しいの?」
「ぜんぜんだよー、それしかわからないし。でも、それだけは、なぜか子供のころから好きでさぁ。
 昔から変わらない気持ち。たぶん、星が綺麗だなって思う気持ちが、本当のわたし、わたしの本体なんだよ」
「うん……どういう意味?」

 また何か奇妙なことを言い出したな、と思いながら。
 私は興味を持ち、その意味を考えてみつつ問いかけた。
 学校にウクレレを持ってきたかと思えば、廊下で延々と、あまり上手ではない弾き語りをしていたり。
 かき氷機を持って来て、お昼休みに作って食べ始めたかと思えば、興味を持った周りの人にも、かき氷を振舞っていたり。
 少し変わった行動の目立つ人ではあったが、嫌な感じがせず、むしろ私は彼女の言動を好ましく思っていた。

「色んなものが変わっていく中で、昔から変わらない、ずっとそこにあるものってこと。
 年を取って体の形が変わってもー、人になんて言われるかとか、どう思われるかが変わってもー、ずっと変わらないもの。
 そういうものが、ずっと変わらずにそこにある、わたしの本体なんじゃないかなーって!
 星を見た時に、星が綺麗だなって思う気持ちは、変わらない。その気持ちがある限り、わたしはそこに居るのかなぁって思うんだ。
 そういう気持ちになること、ない?」

 ちょっと何言ってるかわからない。どんな気持ちを持っていようと、この体が自分でしょ……と言いかけて。
 けれどそんな自分の価値観を、いったん離れて考えると、彼女の言っていることも、わからなくはないような気がした。
 やっぱり面白い人だなぁ、と改めて思う。
   
「ほらほら、心を開放して考えてみて! あなたの本体は、これが自分だって言える気持ちは何!?」

 楽しそうに瞳を輝かせている彼女の言葉に付き合い、ちょっと真剣に考えてみる。

「うーん、音楽を聴くのが楽しいとか、そういうの?」
「お、いいねー。わたしも音楽は好きだから、それもわたしの本体だなッ!」
「いや、たった今、自分の本体は星が綺麗だと思う気持ちだ……って言ったばかりじゃない?」
「本体なんて、いくつあったって良いじゃない。そういえば、生きていたいなぁっていう気持ちも、変わらないなぁ。それもまた、わたしってことで!
 それこそ、星の数だけ、わたしの本体はあるのかも! たくさんのわたしが集まって、一つのわたし、みたいな?」

 彼女のその言葉を聞いて、私の中にひとつのイメージが浮かんだ。
 星が綺麗だと思う気持ち。音楽が好きだと思う気持ち。生きていたいと思う気持ち。色々な、気持ち。
 星々の様に光を放つ、それらの一つ一つが、どれも彼女の本体で、それらが集まって一つの彼女だというのなら。
 それは、まるで……

「なんだか、星がたくさん浮かんでいる、宇宙みたいだね」
「あー、そうそう、そんな感じ!」
「……それなら自分の本体は、その宇宙の方ってことになるんじゃない?」
「あ、そうかもね! でも、ちゃんと、さわれる形になってるのは、やっぱりお星さまの方だと思うなぁ」

 うんうんと、自分の言葉を確認するように頷きながら、彼女は言葉を続ける。

「だからね、そのお星さまが……その気持ちがある限り、わたしはそこに居るんだと思うんだ。
 昔のわたしが、空を見上げた時。未来のわたしが、空を見上げた時。
 もっと、ずーっと昔に、恐竜が空を見上げた時とか。ずーっと未来に、誰かが空を見上げた時。
 星が綺麗だなって気持ちが、そこにあるなら。そこに、わたしは居るんだよ」

 また何か突飛なことを言い出した。
 と同時に、話がずいぶん壮大な感じになってきた。
 その感じがおかしくて、私は思わず、ふふっと笑ってしまった。
 
「ねぇ、その考え方でいくとさ。私が、星が綺麗だなぁって思っている時、そこにあなたが居ることにならない?」
「あ、そうだね、そうなんだよ、きっと! シンクロってやつ?
 わたしの本体は、誰かにとっても本体で。一つの本体が、皆の中に宿ってるんじゃないかな?
 一つの星が、皆の目に映るみたいにさぁ。色んな気持ちの本体は一つで、それが色々な人の身体に、皆の身体に映ってるのかも。
 その時々で、どの星を見ているのかが違っても、いつでも星達はそこにあって。
 その星達が、気持ちや心が本体って意味で、きっと皆、繋がってる! そう思うと、なんだか素敵じゃない?」

 彼女の言葉は、どこかふわりとしていて、現実感のないものだったけれど。
 それは、否定するようなものではなく。

「うん、そうだね。確かに、素敵かも」

 皆、繋がっている。その考え方は。
 なるほど、悪くないと、私は思った。


 * * * *


 空にオリオン座があるのを見つける度、自然に冬の大三角形が視界に入り、同時に彼女のことを思い出す。
 社会に出てからは、お互いにプライベートで会うことも無く、久しく連絡をとっていないけれど。
 彼女と交わした言葉は、星空へのイメージと紐づけられて、私の中に残っている。
 それを思い返す度に、当時はどこか突飛でふわりとした印象だった彼女の言葉が、私の中で確かなものになっていくような感覚があった。

 ふと我を忘れて、純粋に、星が綺麗だなぁと思う度に。
 我を忘れていたその瞬間、そこに彼女が居たような、皆繋がっていると言っていた彼女と、シンクロしていたかのような感覚を覚える。

 今日もまた、星の綺麗な夜だ。
 彼女もまたどこかで、星が綺麗だと、思っているのだろうか。
 この瞬間、星が綺麗だと思っている人達が、世界にどれだけいるのだろうか。
 この瞬間に私が感じているのと、同じ気持ちを感じている生き物が。
 遥か昔に、いったいどれだけいたのだろうか。遥かな未来に、いったいどれだけいるのだろうか。

――この気持ちが、そこにあるのなら。そこに私は、確かに、居たのかもしれない。

(その気持ちがある限り、わたしはそこに居るのかなぁって思うんだ。
 そういう気持ちになること、ない?)

 そんな彼女の言葉を思い出し、あぁ彼女の言っていたのは、この感覚のことなのかなと思う。

 自分の正体を、思い出したような感覚。
 人も、獣も。虫も、恐竜も。何か同じ気持ちが、心が、そこにあるのなら。
 私は、そこにいたのだろう。

 何かを、綺麗だと思う気持ち。好きだと思う気持ち。生きていたいと、思う気持ち。
 きっと私達は、どこにいても、何をしていても。
 同じ心を持つ、仲間なのだろう。
 違う場所にいるようで、同じところに、私達はいるのだろう。
 皆、一つに繋がっている。
 その繋がりを思う度、寂しさが消えるような、どこか心が温まるような気持ちになった。

 冬の寒空の下を歩きながら。
 私は、一人、空を見上げる。
 どこまでも深く深く続く、晴れ渡った星空を。




 澄み切った星空の下で、ひときわ輝く星を見つめる。
 全天中、もっとも明るい星。
 そこに視線を合わせていると、他にも強い煌めきをもつ星が二つ、自然に目に入った。
 三つを結ぶと、綺麗な三角形が出来上がる。
 星々の煌めきが散らばる中、その光に彩られ、意識の中で結ばれる、三点の星。

 綺麗だな、と思うそこに、他の感情はなかった。
 過去も、未来も、自分の存在さえも、意識の中には無く。
 ただ、綺麗だなと感じていた。
 ただただ、星空を見つめていた。
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