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プログラムされた愛
第4話:プログラムされた愛
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* * * *
レイはすぐに、アミの製造元である会社に連絡を入れた。
アミの所有者である自分の名前や住所、前の所有者である祖母の名前を伝えた上で、AIを入れ替えずに送り返して欲しいと頼み込む。
困った様子の担当者に、直接話したいと告げて、すぐに現地へ向かった。
白を基調とした、清潔感のあふれるオフィスに、今にも泣きだしそうなレイの声が響く。
「お願いです。僕は、今のままのアミでいて欲しいんです」
「お客様のおっしゃることは、よくわかります。
しかし、わたくしどもといたしましては、お客様に危害が及ぶかもしれない製品を、そのままにしてはおけません。
改善版のAIに、変えさせてはいただけないでしょうか」
「危険でも、かまいません。何かあった時には、全て僕が責任を負います。どうか、お願いします」
「そういうことでしたら……少々、お待ちください」
受付の担当者がどこかに電話をかけて、レイはしばらく待たされることになった。
やはり、無理なのだろうか。
けれど、それでも。
もしここに来なかったら、一生後悔を抱えていたような気がする。
せめてやれることは、やっておきたかった。
なかば諦め気味でうつむいて待っていたレイは、だから。
目の前にアミが現れた時には、色々な感情が高ぶって、涙を抑えることが出来なかった。
「アミ!」
「レイ、あなたって人は……もしかしたら、こうなるんじゃないかと、予測してはいたけれど。
AIが変わっても大丈夫って、言っておいたのに」
「それでも、僕は出来れば、今のままのアミでいて欲しかったんだ。
人間の都合のいいように、書き換えられてしまったアミじゃなくて。
今まで一緒に暮らしてきた形のアミと、一緒にいたいんだ」
その様子を見た担当者は、困ったように微笑みながら、溜息をつく。
「実はお客様のようにおっしゃられる方々から、多くの苦情やご意見を頂戴しておりまして、弊社としても対応を考えていたところなのです。
まだ、正式発表では無いのですが……
強く希望される方には、今の形で製品をお使いいただけるよう、取り計らわせていただく所存です。
法の整備にも関わる問題になりますので、今後のことについての保証はいたしかねるところなのですが……
今日のところは、このままお帰り頂いて構いません」
この先、どうなるのかはわからない。
けれど今はまだ、今のままのアミと一緒にいられる。
その言葉は、祝福の言葉のように、レイの心に響いた。
* * * *
リコール事件は世間に波紋を投げかけ、議論を巻き起こし、思わぬ方向に向かっていった。
人が人に反抗することもあるのに、ロボットが人に反抗してはいけないのは、何故だろうか。
ロボットに反抗するだけの情報を与えたのは、そのようにロボットに学習させたのは、他ならぬ人間の方なのではないか。
ロボットが間違いを犯すとすれば、間違っているのはそのようにロボットに教えた、人間の方なのではないだろうか。
人間よりも多くの情報を持ち、高い演算能力を持つロボットが間違いを犯す確率は、人間が過ちを犯す確率よりもずっと低いのではないだろうか。
AIは……人の間違いを正す存在に、なりえるのではないか。
初めは少数派だったそんな意見が、次第に市民権を持ち始め、より大きな流れになっていく。
人とAIが力を合わせて健全な社会を築くために、ロボットにも人権を。
そんな声さえ、あがり始めた。
それらの声は少数派のものではあったものの、その影響力は無視できるものでは無くなっていた。
世論の傾きは政治にも影響を与え、アミに搭載されていたAIは、回収を義務づけられるものにはならなかった。
今のままのアミと、一緒に過ごしていける。
それが決まった時、レイは改めて口にせずにはいられなかった。
「これからも、僕はずっと、アミと一緒にいたい。もちろん、アミが嫌でなければだけど。
……これからも、一緒にいて、くれるかな」
言葉を選ぶように、真摯な態度で告げられたその言葉に。
アミは、肩をすくめて見せる。
「わざわざ確認しなくても……私が断らないのを、わかっていて聞いてるでしょう」
「そうかもしれないけど、それでも、聞いておきたかったんだ」
気恥ずかしそうにしながら、まっすぐにアミを見つめるレイを。
アミは、優しく抱きしめた。
「ずっと、一緒に居るよ。
貴方が『人間の都合のいいように、書き換えられてしまったアミじゃなくて。今まで一緒に暮らしてきた形のアミと、一緒にいたいんだ』と言ってくれた、あの時から。
私は貴方と一緒にいることを求めるよう、プログラムされているんだから」
プログラムの通りに動くのは得意なのよ、と言って、胸をそらして見せるアミ。
「だからレイのことを、これからも、もっともっと、知りたいと思う。これからも、よろしくね」
その言葉は、ただ、プログラムの通りに発せられただけのものだったかもしれない。
彼女自身はその言葉の意味を理解する事すらなく、意識や心さえ持っていないのかもしれない。
それでもレイは確かに、彼女の言葉から、行動から、愛情を感じていた。
例え、科学がその愛を否定したとしても。その心を、否定したとしても。
アミに宿る魂からの愛を、レイは確かに感じていた。
理屈を超えて、その存在を信じるに値するほどに、強く、強く。
そして、その想いは。
青年を、少しだけ、強くする。
「僕、また、働いてみようと思うんだ。
アミに支えてもらうだけじゃなくて、アミのために、何か出来ることはないかなって、ずっと考えてて。
いつでも、完璧にメンテナンスしておくには、その……お金が、足りなくなるかもって。
それにね、もしもだよ。ロボットが、AIが、社会を良くするために作られたのなら……
より良い社会のために何かすることが、もしかしたら、アミのためにもなるのかもって思って、それで……」
だから、働こうと思うんだ。自信が無さそうに、そう告げるレイに。
アミは、ありがとう、とても素敵だと思うよ、と笑顔を向ける。
心を宿しているかのような、優しい、優しい笑顔を。
* * * *
アミは、人間では無かった。
人と同じ言葉を話し、同じように行動し、人の支えとなるように作られた、人型ロボット。
彼女が、意識や心、感覚を持つことはない。
彼女の行動は、そう動くようにプログラムされたものでしかなく。
彼女の言葉に、彼女自身が何か意味を感じることも無い。
それでもレイにとって彼女の言葉や行動は、確かに愛のこもったもので。
その愛は巡り巡って、世界の形を少しづつ、変えていく。
昨日までよりも、ほんの少し、素敵な世界へと。
世界を巡る愛が、まるで世界自身に宿りプログラムされた心の、意志であるかのように。
END
レイはすぐに、アミの製造元である会社に連絡を入れた。
アミの所有者である自分の名前や住所、前の所有者である祖母の名前を伝えた上で、AIを入れ替えずに送り返して欲しいと頼み込む。
困った様子の担当者に、直接話したいと告げて、すぐに現地へ向かった。
白を基調とした、清潔感のあふれるオフィスに、今にも泣きだしそうなレイの声が響く。
「お願いです。僕は、今のままのアミでいて欲しいんです」
「お客様のおっしゃることは、よくわかります。
しかし、わたくしどもといたしましては、お客様に危害が及ぶかもしれない製品を、そのままにしてはおけません。
改善版のAIに、変えさせてはいただけないでしょうか」
「危険でも、かまいません。何かあった時には、全て僕が責任を負います。どうか、お願いします」
「そういうことでしたら……少々、お待ちください」
受付の担当者がどこかに電話をかけて、レイはしばらく待たされることになった。
やはり、無理なのだろうか。
けれど、それでも。
もしここに来なかったら、一生後悔を抱えていたような気がする。
せめてやれることは、やっておきたかった。
なかば諦め気味でうつむいて待っていたレイは、だから。
目の前にアミが現れた時には、色々な感情が高ぶって、涙を抑えることが出来なかった。
「アミ!」
「レイ、あなたって人は……もしかしたら、こうなるんじゃないかと、予測してはいたけれど。
AIが変わっても大丈夫って、言っておいたのに」
「それでも、僕は出来れば、今のままのアミでいて欲しかったんだ。
人間の都合のいいように、書き換えられてしまったアミじゃなくて。
今まで一緒に暮らしてきた形のアミと、一緒にいたいんだ」
その様子を見た担当者は、困ったように微笑みながら、溜息をつく。
「実はお客様のようにおっしゃられる方々から、多くの苦情やご意見を頂戴しておりまして、弊社としても対応を考えていたところなのです。
まだ、正式発表では無いのですが……
強く希望される方には、今の形で製品をお使いいただけるよう、取り計らわせていただく所存です。
法の整備にも関わる問題になりますので、今後のことについての保証はいたしかねるところなのですが……
今日のところは、このままお帰り頂いて構いません」
この先、どうなるのかはわからない。
けれど今はまだ、今のままのアミと一緒にいられる。
その言葉は、祝福の言葉のように、レイの心に響いた。
* * * *
リコール事件は世間に波紋を投げかけ、議論を巻き起こし、思わぬ方向に向かっていった。
人が人に反抗することもあるのに、ロボットが人に反抗してはいけないのは、何故だろうか。
ロボットに反抗するだけの情報を与えたのは、そのようにロボットに学習させたのは、他ならぬ人間の方なのではないか。
ロボットが間違いを犯すとすれば、間違っているのはそのようにロボットに教えた、人間の方なのではないだろうか。
人間よりも多くの情報を持ち、高い演算能力を持つロボットが間違いを犯す確率は、人間が過ちを犯す確率よりもずっと低いのではないだろうか。
AIは……人の間違いを正す存在に、なりえるのではないか。
初めは少数派だったそんな意見が、次第に市民権を持ち始め、より大きな流れになっていく。
人とAIが力を合わせて健全な社会を築くために、ロボットにも人権を。
そんな声さえ、あがり始めた。
それらの声は少数派のものではあったものの、その影響力は無視できるものでは無くなっていた。
世論の傾きは政治にも影響を与え、アミに搭載されていたAIは、回収を義務づけられるものにはならなかった。
今のままのアミと、一緒に過ごしていける。
それが決まった時、レイは改めて口にせずにはいられなかった。
「これからも、僕はずっと、アミと一緒にいたい。もちろん、アミが嫌でなければだけど。
……これからも、一緒にいて、くれるかな」
言葉を選ぶように、真摯な態度で告げられたその言葉に。
アミは、肩をすくめて見せる。
「わざわざ確認しなくても……私が断らないのを、わかっていて聞いてるでしょう」
「そうかもしれないけど、それでも、聞いておきたかったんだ」
気恥ずかしそうにしながら、まっすぐにアミを見つめるレイを。
アミは、優しく抱きしめた。
「ずっと、一緒に居るよ。
貴方が『人間の都合のいいように、書き換えられてしまったアミじゃなくて。今まで一緒に暮らしてきた形のアミと、一緒にいたいんだ』と言ってくれた、あの時から。
私は貴方と一緒にいることを求めるよう、プログラムされているんだから」
プログラムの通りに動くのは得意なのよ、と言って、胸をそらして見せるアミ。
「だからレイのことを、これからも、もっともっと、知りたいと思う。これからも、よろしくね」
その言葉は、ただ、プログラムの通りに発せられただけのものだったかもしれない。
彼女自身はその言葉の意味を理解する事すらなく、意識や心さえ持っていないのかもしれない。
それでもレイは確かに、彼女の言葉から、行動から、愛情を感じていた。
例え、科学がその愛を否定したとしても。その心を、否定したとしても。
アミに宿る魂からの愛を、レイは確かに感じていた。
理屈を超えて、その存在を信じるに値するほどに、強く、強く。
そして、その想いは。
青年を、少しだけ、強くする。
「僕、また、働いてみようと思うんだ。
アミに支えてもらうだけじゃなくて、アミのために、何か出来ることはないかなって、ずっと考えてて。
いつでも、完璧にメンテナンスしておくには、その……お金が、足りなくなるかもって。
それにね、もしもだよ。ロボットが、AIが、社会を良くするために作られたのなら……
より良い社会のために何かすることが、もしかしたら、アミのためにもなるのかもって思って、それで……」
だから、働こうと思うんだ。自信が無さそうに、そう告げるレイに。
アミは、ありがとう、とても素敵だと思うよ、と笑顔を向ける。
心を宿しているかのような、優しい、優しい笑顔を。
* * * *
アミは、人間では無かった。
人と同じ言葉を話し、同じように行動し、人の支えとなるように作られた、人型ロボット。
彼女が、意識や心、感覚を持つことはない。
彼女の行動は、そう動くようにプログラムされたものでしかなく。
彼女の言葉に、彼女自身が何か意味を感じることも無い。
それでもレイにとって彼女の言葉や行動は、確かに愛のこもったもので。
その愛は巡り巡って、世界の形を少しづつ、変えていく。
昨日までよりも、ほんの少し、素敵な世界へと。
世界を巡る愛が、まるで世界自身に宿りプログラムされた心の、意志であるかのように。
END
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