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あなたが好きだった私
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「六花って、まじでロング似合うよね~。私も伸ばそうかな」
「千尋はボブのほうがかわいいよ。ってか、飽きてきたしそろそろ切りたいんだよね」
「え~!私、ロングの六花めっちゃ好きなのに。絶対髪切らないで!」
「千尋が言うならしょうがない。伸ばしておくよ」
「私も。六花が言うならボブのままにする!」
毎日会って、ずーっと話して。それが当たり前だった。卒業して、離れてもいつでも会えると思ってた。
10年後───
「六花、そろそろ帰りなー?」
「うん。戸締まり確認したら帰る」
「そう?じゃ、お疲れ様」
「お疲れー」
高校を卒業してから10年の月日が流れ、私は美容師として働いていた。毎日は充実していたが、ずっと好きだった千尋とは疎遠になってしまった。携帯の機種変更をしたのか、連絡が取れなくなってしまったのだ。
「窓の鍵は…全部閉まってるね。帰ろーっと」
ロッカールームに荷物を取りに行き、なんとなく携帯を手にする。電源を入れると、普段はあまり動かさないSNSから通知がきていた。
『chihirorainから新着メッセージがあります』の文字をタップし、アプリを起動させる。
『久しぶりー!雨宮千尋だよー!!六花のアカウントだよね?また会いたい!!返信待ってます♡』
(…!)
ずっと想い続けていた千尋とこうして連絡をとるのは高校生以来だ。彼女とまた話せる嬉しさと、懐かしさで涙が込み上げてくる。
『成田六花であってるよ。久しぶりだねー、私も会いたい』
いくつかメッセージを交換して、来週の日曜日に千尋の行きつけのカフェで会うことになった。ずっとロングにしていてよかった。彼女が好きだと言ってくれた私で会いたい。
日曜日───
楽しみにしすぎて、待ち合わせした時間よりも早くカフェについてしまった。2杯目のミルクティーが冷めた頃に、薬指にシンプルな指輪を嵌めた千尋が現れた。
「六花!久しぶりー。相変わらず髪長いねー。すぐに分かったよ。ずっとロングって飽きてこない?」
「あー……うん。切ろうと思ってもなかなか決心つかなくて。千尋は、ロングにしたんだ」
「…えっ?うん、そうなの。なんかね、ロングの方が好きなんだって。やっぱり、好きな人の好みに合わせたいじゃん?え、もしかしてミルクティー飲んでる?ほんと、六花は何も変わってないね。あ、そう言えばさぁ───」
そのあと、千尋となにを話したか全く覚えていない。私が好きだった頃の千尋とは苗字だけでなく中身も違っていたことだけが確かだった。
「今日は楽しかったなー、高校生に戻ったみたいで。また会おうね」
「連絡くれてありがと。じゃあね」
千尋に背を向けて足早にその場を去る。彼女に対してこんなに笑顔で嘘をつくことになるとは思っていなかった。一方的に自分の話しをしただけの彼女の満足そうな笑顔を思い出し、吐き気がする。これから先、千尋が私に連絡してくることも、ましてや私が千尋に連絡することも、二度とない。SNSのアカウントを削除し、彼女との繋がりを絶つ。言い表せない程の喪失感に襲われるが、「これでよかった」と、自分に言い聞かせる。
交差点を渡ろうとしたその時、千尋に名前を呼ばれたような気がして振り替える。
(そんなわけないか。これが、未練ってやつなのかな…)
立ち止まった私の髪を風が揺らす。私には千尋を忘れるためにしなければならないことが、あとひとつ残っている。
勤めている美容室の裏口からバックヤードに入る。昼休憩の時間と重なっていたらどうしようかと思ったが、幸い誰もいなかった。流行りの音楽が流れる店内とは対称的に静かな空間にいると、千尋の声が頭に響いてくる。
「ずっとロングって飽きてこない?」
「好きな人の好みに合わせたいじゃん?」
千尋はもう、大人になっていた。
SNSのアイコンが私との写真ではなく、赤ちゃんの写真になっていた。
私が似合うと言ったボブヘアではなく、ロングヘアになっていた。
あの頃からなにも変わっていないのは、私だけだった。その事実が、耐えられないほど悲しかった。この恋が本当に実らないと分かったから。
また会えるのを楽しみにしていたのが私だけだったことくらい分かっていた。千尋に私が必要ないことくらい…分かってた。貴女が幸せになるのに必要だったのって私じゃなかったんだ。私が幸せになるのに必要なのは千尋なのに。ハサミを手にするといつの日かの千尋の声が蘇ってくる。
「私、ロングの六花めっちゃ好きなのに。絶対髪切らないで!」
うるさい。私が好きだったあなたはもういなかった。それなら、あなたが好きだった私もいなくなればいい。
ジョキン ジョキン───
床に落ちた髪の束を見つめながら、あの頃の…私が好きだった頃の彼女の笑顔を思い出す。大人になった千尋に私が必要なかったように、今の私にも千尋なんて必要ない。連絡先も、写真も、この想いも。全部全部必要ない。
あなたが好きだった私も、私が好きだったあなたも、もういない。
「千尋はボブのほうがかわいいよ。ってか、飽きてきたしそろそろ切りたいんだよね」
「え~!私、ロングの六花めっちゃ好きなのに。絶対髪切らないで!」
「千尋が言うならしょうがない。伸ばしておくよ」
「私も。六花が言うならボブのままにする!」
毎日会って、ずーっと話して。それが当たり前だった。卒業して、離れてもいつでも会えると思ってた。
10年後───
「六花、そろそろ帰りなー?」
「うん。戸締まり確認したら帰る」
「そう?じゃ、お疲れ様」
「お疲れー」
高校を卒業してから10年の月日が流れ、私は美容師として働いていた。毎日は充実していたが、ずっと好きだった千尋とは疎遠になってしまった。携帯の機種変更をしたのか、連絡が取れなくなってしまったのだ。
「窓の鍵は…全部閉まってるね。帰ろーっと」
ロッカールームに荷物を取りに行き、なんとなく携帯を手にする。電源を入れると、普段はあまり動かさないSNSから通知がきていた。
『chihirorainから新着メッセージがあります』の文字をタップし、アプリを起動させる。
『久しぶりー!雨宮千尋だよー!!六花のアカウントだよね?また会いたい!!返信待ってます♡』
(…!)
ずっと想い続けていた千尋とこうして連絡をとるのは高校生以来だ。彼女とまた話せる嬉しさと、懐かしさで涙が込み上げてくる。
『成田六花であってるよ。久しぶりだねー、私も会いたい』
いくつかメッセージを交換して、来週の日曜日に千尋の行きつけのカフェで会うことになった。ずっとロングにしていてよかった。彼女が好きだと言ってくれた私で会いたい。
日曜日───
楽しみにしすぎて、待ち合わせした時間よりも早くカフェについてしまった。2杯目のミルクティーが冷めた頃に、薬指にシンプルな指輪を嵌めた千尋が現れた。
「六花!久しぶりー。相変わらず髪長いねー。すぐに分かったよ。ずっとロングって飽きてこない?」
「あー……うん。切ろうと思ってもなかなか決心つかなくて。千尋は、ロングにしたんだ」
「…えっ?うん、そうなの。なんかね、ロングの方が好きなんだって。やっぱり、好きな人の好みに合わせたいじゃん?え、もしかしてミルクティー飲んでる?ほんと、六花は何も変わってないね。あ、そう言えばさぁ───」
そのあと、千尋となにを話したか全く覚えていない。私が好きだった頃の千尋とは苗字だけでなく中身も違っていたことだけが確かだった。
「今日は楽しかったなー、高校生に戻ったみたいで。また会おうね」
「連絡くれてありがと。じゃあね」
千尋に背を向けて足早にその場を去る。彼女に対してこんなに笑顔で嘘をつくことになるとは思っていなかった。一方的に自分の話しをしただけの彼女の満足そうな笑顔を思い出し、吐き気がする。これから先、千尋が私に連絡してくることも、ましてや私が千尋に連絡することも、二度とない。SNSのアカウントを削除し、彼女との繋がりを絶つ。言い表せない程の喪失感に襲われるが、「これでよかった」と、自分に言い聞かせる。
交差点を渡ろうとしたその時、千尋に名前を呼ばれたような気がして振り替える。
(そんなわけないか。これが、未練ってやつなのかな…)
立ち止まった私の髪を風が揺らす。私には千尋を忘れるためにしなければならないことが、あとひとつ残っている。
勤めている美容室の裏口からバックヤードに入る。昼休憩の時間と重なっていたらどうしようかと思ったが、幸い誰もいなかった。流行りの音楽が流れる店内とは対称的に静かな空間にいると、千尋の声が頭に響いてくる。
「ずっとロングって飽きてこない?」
「好きな人の好みに合わせたいじゃん?」
千尋はもう、大人になっていた。
SNSのアイコンが私との写真ではなく、赤ちゃんの写真になっていた。
私が似合うと言ったボブヘアではなく、ロングヘアになっていた。
あの頃からなにも変わっていないのは、私だけだった。その事実が、耐えられないほど悲しかった。この恋が本当に実らないと分かったから。
また会えるのを楽しみにしていたのが私だけだったことくらい分かっていた。千尋に私が必要ないことくらい…分かってた。貴女が幸せになるのに必要だったのって私じゃなかったんだ。私が幸せになるのに必要なのは千尋なのに。ハサミを手にするといつの日かの千尋の声が蘇ってくる。
「私、ロングの六花めっちゃ好きなのに。絶対髪切らないで!」
うるさい。私が好きだったあなたはもういなかった。それなら、あなたが好きだった私もいなくなればいい。
ジョキン ジョキン───
床に落ちた髪の束を見つめながら、あの頃の…私が好きだった頃の彼女の笑顔を思い出す。大人になった千尋に私が必要なかったように、今の私にも千尋なんて必要ない。連絡先も、写真も、この想いも。全部全部必要ない。
あなたが好きだった私も、私が好きだったあなたも、もういない。
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