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しる

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プロローグ

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 結衣と友達になったその一件があってから、イジメていたやんちゃ男子達は、私や結衣には手を出さなくなった。私に対しては、「バケモノ」という言葉そのものを現すかのような目で見ていたが、今更そんなことを気にする様な自分でもない。

 7月の放課後。
 学校内で結衣に関わると女子達のイジメの矛先が結衣に向きかねないので、私は帰り道に結衣に話しかけた。
「花村さん」
「なーに?心結ちゃん」
「この前言ってたパンケーキなんだけど、今度本当に食べに行っていいかな?」
 私にとっては、かなり図々しいお願いだと思っていたので、遠慮しがちに聞いてみた。
「もちろんだよ!じゃあ明日とかにする?」
「え、明日!?」
「あ、急過ぎる?」
「いや、明日食べられるなら明日がいい。早く食べてみたい」
「ホント!?じゃあ今日ママに伝えておくね!」
「ありがとう。楽しみにしておくね」

 結衣と帰り道で別れた後、私は一つ気がかりなことを思い出した。服がボロボロのものしかない。こんな服で人様の家に上がっていいものだろうか。
「うーん、ダメもとで頼んでみるか…」
 私は一縷いちる希望のぞみを持って帰宅した。
「ただいまー」
 珍しく玲奈は起きていた。出掛ける準備をしている。
「おかえり」
 私の希望というのは、子供への愛情をまったく感じないこの母親に、服を買ってもらうようにお願いすることである。チャンスは今日しかない。なのに、
「出掛けるの?」
「うん。ちょっと買い物に。あんたも行く?」
 私の目が点になった。聞き間違いか。
「え、買い物行っていいの!?」
「いいわよ。たまには何か買ってあげるわ。だってあんた今日誕生日でしょ」
 そういうことか。誕生日なんて特に良いこともないのですっかり忘れていた。
 それにしてもである。玲奈が私に何か買ってあげようとするなんて、奇跡以外の何物でもない。
「玲奈、熱でもあるの・・・?」
「は?あるわけないでしょ。なに、あんた。ケンカ売ってんの?」
「いや、ゴメン!ありがとうございます。買い物お願いします」
 どうやら奇跡が起きたようだ。

 買い物は日野の隣駅、立川に行くことになった。電車ですぐの距離だ。
「あんた、欲しい物あるの?」
「うん!服が欲しい!」
「服ね。たしかにボロボロだものね」
 それはあんたのせいだろ。そうツッコミたかったが、気分を損ねるわけにもいかないので、何も言わずニコニコしていた。
 まずは玲奈の買い物である。高そうな服を気に入った物から躊躇なく買っていく。夜のお仕事道具だそうだ。やはりこの女には何でも似合う。
 実際玲奈は貧乏なわけではない。ただケチだ。
「さて、と。私の買い物はこんなとこかしら。次はあんたの服見に行くわよ」
 ひとまず子供の服がある洋服屋さんへ連れて来てくれた。私は恐る恐る気になっていることを聞いた。
「ねぇ、玲奈」
「うん?」
「何着買っていいの・・・?」
「そうね・・・何着でもいいわよ」
「へ?」
「たまにの買い物でしょ。何着でもいいわよ。好きに選びなさい」
 明日は雪でも降るのだろうか。地球最後の日なのだろうか。ここは玲奈の言う通り甘んじるしかないだろう。欲しい服はたくさんあるのだ。いつもクラスの子達のかわいい服を見て憧れていた。
 欲しい服を選び、試着をし、お洒落な玲奈のアドバイスを受けながら服を十着近く買った。最高の誕生日だ。
「惜しむらくは、あんたの髪よね」
 玲奈は私の髪を見ながら、呟いた。私自身も気にしている問題だ。
 実は、私はただ髪を放置して伸ばしているわけではない。髪が伸びるのが異常に速いのだ。切っても切っても次の日には、物凄い長髪となっている。手入れをしてもすぐに生え変わるので、意味がない。生まれながらの習性か、はたまた何かの病気か。原因は不明である。
 この髪さえなければ、不気味なんて言われないだろうに・・・。
「あんた、顔は結構良い顔してんのよ」
「ウソだ。目つり上がってるよ、私」
「ホントよ。たしかに目はつり上がってるけど、鼻立ちはいいし、肌も綺麗。って小五だから当たり前か。とにかく顔の良さに関しては私が保証するわ」
「玲奈に言われてもな・・・」
 とは、言いつつも美人な玲奈に保証されるとやはり嬉しくはあった。
「次はケーキ食べに行くわよ」
「えぇ!!」
「何?大きな声出して。イヤなの?」
「イヤじゃないよ!でもなんでこんなに今日・・・。玲奈、やっぱり熱あるでしょ!?」
「ないっつーの!!はっ倒すわよ!!」
 照れているのか、玲奈の耳が微妙に赤い。
「私だってケーキ食べたいのよ。あんたはついで。ほら、行くわよ」
 ウォルが言っていたことを思い出す。

「まああいつは確かにだらしのないところもある人間かもしれないが、心結が思っている以上にいい奴だと思うぞ」

 本当にそうかもしれない。
 と、私は首を横に振った。今日はたまたまだ。何か奇跡が起きただけだ。
 そもそも誕生日を祝ってもらったことなんて、この十一年間一度もなかった。服やらご飯やらだって、最低限のものを与えられただけだ。小学校に入る時は、ランドセルを買うことにひどく不満を露わにしていたし、学校には授業参観どころか個人面談にだって来やしない。
 なのに、今日は変だ。

 ケーキ屋に着いた。学校でちょっとしたケーキは食べたことはあるが、本格的なケーキは初めてである。いつもケーキ屋の前を通る度に羨望の眼差しを向けたものだ。
 私はショーケースの中にあるケーキを爛々としながら眺めた。
「あんた、なんつー目してんのよ」
「しょうがないでしょ!生まれて初めて食べるんだから!」
「あれ?そうだっけ?私いつも食べてるからうっかりしてたわ」
 この女は・・・!と、怒りを覚えつつもやっとケーキが食べられるのだ。怒っている場合ではない。

 私は大好きな果物がたくさん乗ったケーキを食べることにした。
「いただきまーす!」
 ケーキを口に入れると、この世のものとは思えない程甘く柔らかかった。ほっぺが落ちるとはまさにこのことだろう。幸せが全身を駆け巡る。
 玲奈がすごい目で私を見ていたが、この際どうでもいい。今はこのケーキが食べられるだけで満足だ。
「えへへ~。幸せ」
「良かったわね」
「玲奈、ありがとう」
 玲奈がぎょっとする。
「は?礼なんて言うんじゃないよ。気持ち悪い」
 どうやら照れたようだ。
「でも誕生日を祝ってもらったのなんて初めてだよ。何かあったの、玲奈?」
「・・・・・・・・・・」
 玲奈はどこか遠くを見て、話を聞かないようにしている。
 しばらく沈黙が続いた後、玲奈が口を開いた。
「心結」
「ん?」
「もしもあんたが・・・」
 言葉はそこで止まった。玲奈はいつも見せない表情をしている。
「・・・やっぱり何でもないわ。今日で十一歳ね。おめでとう」
 玲奈が何を言いかけたのか気になったが、私は照れ臭くてそこで会話を止めた。
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