同窓会

あさのいりえ

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古希の同窓会

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 70歳の古希の同窓会から、リモート参加者が増えてきた。会場も壁一面がスクリーンになっていて全員の顔が見渡せた。
 VR内にも、同窓会会場を作っていて、そこではグループトークができるようになっていた。
 リモート参加の画面には、ありのままの今の姿で参加している人が多かったが、高校時代の写真を貼り付けていたり、アバターを作りいったい誰だかわからない人もいた。当時のアイドルやアニメの登場人物もどきもいておかしな事になっていた。
 会場に直接出向いた参加者は、現地参加者とかリアル参加者と呼ばれそれでも50人は超えていた。
 司会者が「お前はいったい誰だ?」クイズと称して色々な質問をしてリアル参加者に、誰だか当てさせていた。当てられたら、今の自分に画面を変えなければならないとしたが、なかなかうまくはいかなかった。なにせ、生徒数が多かったし、記憶が薄れていくお年頃になっていたので、名前が出てこないのだ。
 そんな中で、今のリアルな姿で参加しているのにクイズに参加させられたのが、「お騒がせAくん」と紹介された男だった。
 60歳の同窓会でのお騒がせについてだった。あの日に何をしていたのか聞かれ、骨折で入院していたと正直に答えた。ではあれは誰だったか?それは覚えていないと。とぼけていた。
 高校卒業からはどうしていたか聞かれ、大学に進学し留学して国を離れ現地で就職したと。55歳で、帰国し同窓会に還暦で初めて参加したと。
 司会者が、卒業アルバムの写真と還暦の同窓会で隠し撮りされていた写真をスクリーンに映し出した。
 皆が気がついた。あの時の青年が彼だということに。
 確かに似ているが、高校時代の彼は黒縁の眼鏡にモサモサの髪だし、同窓会での彼は眼鏡もかけていないし髪もサラサラの茶髪だった。
 写真は誰かと尋ねたら、高校時代の自分と、息子だと答えた。何故息子を参加させたのか問われても、友達に会いたかったからと。
 彼は脳梗塞になり今もリハビリ中なので、そろそろ疲れてきたので解放してほしいと申し出た。それでやっとクイズから解放されて、画面からの参加に戻った。
 最後に思わず聞いてしまった。
「初恋の人のことはもう良いのか。」
 返事は貰えなかった。
 後日、職場で彼の息子に会った。
 初恋の人とは会えないままだったが、父はあれから吹っ切れた様に人生を楽しむ様になっていた。自分の身辺を整理し、思い出や記憶をデータ化した。家族にも優しい人だったが、それに朗らかさが加わり、明るい楽しい父になっていた。
 そして脳梗塞になったが、リハビリに懸命に努力した。
 しかし二度目の脳梗塞の発作で、実は亡くなったと。
 母はそんな父を愛していて、AIとして再生させた。彼が残したデータがあったので簡単だったと。
 先日の同窓会にも、AIの父が参加していたと。
 話す言葉がゆっくりなことや皆の質問に答えられないのは、本人がリハビリ中と言っていたのでそのせいと思っていた。
 まさかAIだったとは。
 今の彼は、彼が選んで残した記憶と思い出のデータから再生されているので、還暦の同窓会に初恋の人に会いに行ったことは息子だけが覚えていて、AIの彼は知らないことだった。
 日々、母と共に生活し母の記憶の中の父に作り替えられていると息子は笑って話してくれた。
 
 
 
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