同窓会

あさのいりえ

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喜寿の同窓会

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 喜寿の同窓会も、直接参加する事にした。実家の墓参りもしたかったし、新しい試みが気になっていた。
 リアル参加者はそれでも二桁はいた。
 リモート参加者もいた。今回は今の自分でと条件がつけられたが、画像処理が上手くなっていたので、皆元気そうで美しかった。
 高校全体の同窓会が、VR 仮想現実空間に高校を再現していた。それも年代別に。何層も。
 当時の資料は沢山残っていた。写真部も新聞部もあったし、放送部もあったので画像も音声もそのままが再現された。資料を募集すると大量に集まったし、暇を持て余していた卒業生を中心に、科学者、技術者がボランティアを買って出て最先端を突き進んでいった。
 今回は、文化祭当日に同窓会の日程を合わせた。なので、VR空間には家族でも誰でも参加可能だった。
 卒業アルバムや本人の写真から、より精密にアバターが造られた。参加が決まって登録すると、高校生の自分になって、高校に「登校」できた。
 以前のアイドルまがいのものや、漫画のキャラクターもどきでなく、制服を着た当時の高校生の自分だった。
 リアル同窓会会場には、リモート画面と共に大型スクリーンに文化祭の学校が映し出されていた。この場所に参加してもしなくても、文化祭の高校に訪れることが出来た。
「あー、私もあっちだけにしとけば良かったかな。」
 隣で呟いたのは、同窓会役員の彼女だった。高校当時から美しく、生徒会でも目立っていた。
「高校生の自分に戻れたのに、ここにいるのはおばあちゃんの私。」
「今の君も素敵だよ。」
「ありがとう。でもね、目の前に高校生の当時の友達がいて、私はおばあちゃんでここにいるって不思議よ。孫を見てるような気になってきたり、仲良かった子達が笑ってるのを見ると、なんというか。」
「複雑。」
 そう言いながら、グラスのお酒をグイッと飲み干した。
「まあ良い飲みっぷり。」
 隣にいた役員の一人が笑って言った。皆呑気におだやかな宴を過ごしていた。
 なんとなく孫の文化祭を見ながら宴会している気がしてきた。
「おい、お前がいたぞ。」
 チャットブースに行っていたやつが興奮した顔で戻ってきた。
「私はずっとここにいたから、誰かと間違えたんだろう。」
「いや、絶対お前だよ。俺はお前を追いかけて図書室に行ったんだ。」
「人違いだろう。」
「俺は今度こそお前に言うために。」
 涙目になっていた。
「そしてお前はありがとうと言ってくれたじゃないか。」
 私の手を取って、言った。その真剣さに驚いた。
「残念ながら、私はここにずっといたよ。人違いだと思うよ。」
「いや、絶対お前だよ。佐藤と呼びかけたら返事したんだから。」
「でもな、お前は荒巻と待ち合わせしてたんだ。荒巻がやってきて、二人で校舎内を見て歩くんだと言って図書室から出て行ったじゃないか。」
「だから、私はずっとここにいたし、荒巻って。」
「そうだ、荒巻だよ。お前は荒巻といつからだったんだ。」
 地声が大きいので、周りが皆注目している。
「荒巻くんが参加してるのか。彼はAIだよ。死んでるんだよ。」
横で聞いていた役員が驚いて聞いてきた。
「荒巻くんが死んでるってどう言うこと?一組の荒巻くんなら参加してるわよ。」
「佐藤さんって何組の佐藤さんなの?しっかりしてよ、衛藤くん。」
 衛藤を取り囲んで口々に聞いている。
「ほら、佐藤と荒巻だよ。」
 指差したスクリーンに自分が映っていた。荒巻くんと手を繋いで笑顔で中庭を歩いている。
「嘘じゃないだろう。ほら、手まで繋いで。」
 じゃあここにいるのは誰なのか。
 
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