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学生.柾臣×BER店員大学生.哩月

柾臣×哩月 ⑴

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大学に入った10代の時から、母子家庭の僕は生活の為にこの顔面を活かして高いバイト代…バーテン紛いの仕事をしていた。
夜の仕事の人達と仲良くなったし大人のお客様から教わる事も多かった。

そして僕の趣味、僕好みの顔面が現れたら仕事に影響が出ない程度…1度きりの関係。
アッサリサッパリした関係をいつも楽しんできた。
偶に連絡を取り合う男もいるけど、僕の性格を理解してくれる人だけ。



『…りつき、今日はどうなの?
入れたい気分?
入れられたい気分?』

この電話の相手はタチ。
入れられたい気分を期待してるんだろう。

「…んー…今日は変な客に沢山ぶりっ子して
ストレス溜まったから、
ガツガツ僕のペースでやりたい気分。
ごめん、また今度ね。」



『…りつきさん、今日…もし…
時間が合えば、僕の家に…』

この電話の相手はネコ。
…そろそろ僕への気持ちが重くなってきたから
面倒になる前に距離をつくる。

「…今日は行けなそう。ごめんね。
……あとさ、決まった相手を作らないの
理解してくれてるの有難いし、
凄く君とのSEXは良いんだけど
僕…最近抱かれる側の方が合ってる気がして…」



楽しい職場。

初対面の人とのコミュニケーションはお手の物。今日ものらりくらり。

僕目当てで来店するお客様もいるけど、ほぼ相手にしない人ばかり。ゴメンね。週1くらいで楽しめればいいから手持ちの電話番号で充分なんだ。

「……これ、番号。
りつきが教えてくれないのはわかってるけど
暇だったらかけて?」

「……僕…学生だからー…
学校行って、仕事して、
毎日凄く忙しいんですよ?
…番号眺めるだけで…
顔見たくなっても我慢できるかな…
頂いておきますね…オーナーには秘密ですよ。
…番号だけじゃなくて
顔も見せに来て下さいよ?」

満足そうに微笑む客を作り笑顔で見送る。

ドアが閉まり、後ろ姿が消えた途端、僅にため息を吐いてしまった。

「…モテるって大変ですね。
あしらい方が雑だけど。」

ため息がバレたか?
しかも僕の渾身のあしらい方を…雑だって?

「……お客様…何度かいらっしゃってますよね。
僕、お話するの初めまして、ですよね。」

営業スマイルを向けた先、帽子を深く被って隠れていたのは潤んだ大きな瞳。
綺麗で可愛いくてカッコよくて…営業スマイルが直ぐに消える程僕のタイプでびっくりした。
まぁ、イケメンだからって惚れないけど。

「…初めまして…
はい、3回目…です。
話しても無いのによく分かりますね。
そういう所はプロなんだ。」

「…ありがとうございます…
帽子をそんなに深く被って…
誰とも話さずに1杯飲んで帰られるので…
印象に残ってました。」

変な客がいるな、と思っていた。
顔を隠してるし、こんな店で誰とも話さないし、1杯しか飲まないし…
変に関わらないでおこうとしていた。

「…場慣れしてないんで、
様子をこっそり見てました…」

…照れたように…くしゃっと笑う…
あれ……?チョー可愛い…
……抱きたい……

「……あぁあ、何か飲みます?
あれ?今何飲んでました?」

「…お酒は…あまり強くなくて…
あの、僕、いくつに見えます?」

「え…?あ、もしかして未成年?!
…それならノンアルコール…」

「…何歳だと思う??」

答えなかった僕に顔を近づけて
大き目を更に大きくして判定を待ってる…
え、なにその少し開いた口から見える白い歯…
ピンクの唇…
……舐めたい……

「19?20?…僕が21で…同じか少し下…」

「20……だけどノンアルコール下さい。」

「……へー……あ、はい。
少々お待ちください…」



ノンアルコールでも、カクテルの様な見た目のものを出す。

いつも気にならない手元、自分では気に入らない曲がった指先が彼の前だと恥ずかしい。

「…どうぞ。ノンアルなのでご安心を…」

「ありがとうございます…ん、美味い。」

普段ならここで微笑み、お客様から離れる……が、足が動かない。

「………あの、僕…
あと20分くらいであがれるんだけど…」

初めて僕から誘った言葉は
マヌケな言葉を繋げただけのものだった。



仕事が終わり、店の外へ向かう。

待たせている相手とホテルへ向かうのが僕の中では当たり前だけど、こんなに緊張するのは初めてかも知れない。
彼もその流れまでは考えてないかも知れない。

「お待たせ。飲み直…さないか。
呑んでないしね…学生?僕も。終電とかは?」

緊張のせいか、いきなり畳み掛けてしまった僕に優しく笑いながら…

「学生だけど、
終電は気にしなくてもいいかな…
ホテルとかに泊まれるなら
朝 帰ってもいいし…」

…夜の暗闇、と言ってもここは街灯やネオンで眩しい程。僕のにやけた顔がバレて無ければいい…

「あ、りつきさんは呑みたいですか?
呑むなら付き合いますよ?」

僕の正面に立ち、進む方向をアッチ?コッチ?と目と指で確認してくる彼はもしかして僕より慣れているんだろうか。

…身長がそこそこある僕は、同じくらいの男だったら抱く事の方が珍しい。それでも抱きたいと思うこの可愛さ。

彼の瞳と笑顔に一目惚れしたからか…?
この瞳に見つめられながらクシャッと笑われたら…もう…

「…あー…少し呑んでるから大丈夫。
えっと、こっちの…ホテル…」

別に肩を抱く必要なんて無いし、滅多に僕からはしない。他の客に見られる可能性もあるから。
けど…彼の肩をしっかり捕まえながら同じ歩幅で寄り添い歩く。
よく考えたら会話の数的には過去イチで少ない。
普段1度きりでもマナーで聞く名前でさえ、まだ聞けてない。

「…そういえば、僕、名乗ったっけ?
…君の名前は?」

「………」

返事が無いとは…結構ショック。
僕に名乗らずに終わるつもりか。
…これ以上聞いて素直に断られたり、理由まで言われたら更にショックを受ける。

また会話が途切れた。

さっき、店で僕が誘った時も、同じように会話が途切れた。

『あがるの、店の外で待ってます…』

この言葉が聞けたまでの空気、今の空気…
初めて味わう緊張感が帽子を深く被る隣の彼には伝わらないはずだけど、彼の見えない表情が
余計に僕の足取りと心臓を速くさせた。


「先にシャワー…浴びていい?」

後でシャワーを浴びて出た時に彼の姿が無いくらいなら、自分が出たら彼をシャワーに入らせずに、ことへ運んでしまおうかってくらい彼を逃したくない。

「はい。いいですよ?」

ベットに勢いよく座り、そのままベットのスプリングで身体を動かして遊ぶ彼を横目に浴室へ入る。

……何なら逃げられたって、他を呼べば済むだけなのに…さっきから、自分でも驚く程臆病になってる。

シャワーを済ませ、髪も全然拭けてない状態でベットへ向かった。

上着を脱いでTシャツ、帽子をとった姿がベットにあってホッとする。

「…君もシャワー浴びたい?
浴びなくてもいいよ…?」

「……そうですか?
シャワー浴びるのが礼儀なのかと…」

僕はバスローブだけ羽織り、ベットに座る彼に跨った。

「…大丈夫。僕気にしないから。
…自分で気になる?なら…一緒にお風呂入って
洗ったり慣らしたりしてあげようか?」

「……」

…また返事がないのかって思うくらいの沈黙、気まずくて目を見て待てなかった僕は両手を彼の肩に置きながら横から後ろにかけての首筋にキスを落とした。

「……っ…はい…一緒にシャワー…」

熱を持った吐息が僕の首筋にあたり、余計僕を熱くさせる。
…このままでも構わないんだけど…やっぱり彼のを…洗ったりした方がお互い気を使わず楽しめるかな…

洗面所で何の恥じらいも無く裸になる彼。
潔いし、男らしいし、仕草も目を惹く。
…細い身体からは想像出来なかった、ほどよく付いている筋肉や血管が目から離れない。

シャワーを出し振り返ってくる彼。

「……?どうしたの?一緒に入るんでしょ?」

シャワーとかどうでもいい。
ゆっくり彼に近づいて…顔を両手で包み、唇を合わせた。

…僕の唇の動きのリズムで動く彼の唇。
誘うような、誘われるような。
キスも相性ってあると思う。
だんだんとお互い深くなるキスに合わせて僕は彼の頭に腕を回しながら密着する身体。
彼の手はくすぐるように優しく腰の辺りに添えられた。
シャワーが微妙にかかる浴室の壁に彼を追込むとキスから熱い吐息が漏れた。

もっと深くキス、舌の絡め方も強くなると、お互い十分過ぎる硬さになったのがどことなく伝わった。

…そもそも彼は抱かれたいのか…

僕は抱きたいし、抱かれたい…
どっちでもいい……

抱きたいと思っていたのに…
脱いだ姿を見たら上とか下とか関係なく善がらせたい、とか、彼と壊れるくらいおかしくなりたい、感じまくりたい、と思ってしまった。

ただ……歳下で…僕より少し背の低い彼に"抱いて欲しい"って言える程……僕は可愛くない。

濡れてる指を彼の後ろに伸ばすと、彼にその手を掴まれた。

「……やっぱり…慣らすって…僕の?」

唇が離され、俯く僕の上から話しかけてくる彼。

「……そう。だけど…嫌?
僕は……どっちもいけるけど……」

「……りつきさんのは…
どれくらい慣らせばいいの?」

「それは…僕がベットで少しやればいいくらい…」

下から伺うように彼を見ると、勢いよくキスをさ今度は僕が壁に身体を押された。

彼の手が僕のお尻に伸びてくる。
動く指先の感触で大きな吐息が出てしまった。
彼の身体にしがみつく力も強くなってしまう。

キスの合間、唇を少し浮かせて聞いてくる。

「……気持ち…いい?」

「……ん。ん?今は…気持ちいいっていうか…
これからの…期待で…すごい感じてる……」

少し、言葉が震えてしまうのは指がそこで動いているから。
そして指が2本になり、奥へ…

「……っぁ……」

「…これは?…感じてる?
それとも気持ちいい?…っていうか…
感じてるのもエロいし…
奥はもっと?……指じゃ届かなくない?」

奥で動く指…吐息が漏れ、彼にしがみつく。
そしてお互いが触れ合いぶつかり硬さが伝わりますます期待が膨らむ。

「……んぅ…指じゃなくて…」

「…だよね?」

指をあっさり抜かれ、後ろ向きにされると僕が壁に手を着いたと同時に…大きな質量でジリジリと奥に進まれる。
圧迫と気持ちいい場所への刺激で身体が震える。
気持ちいい場所を擦られ、1番奥を何度も突かれ…壁に手をついて身体を支えるのも大変な程
身体が震え、跳ね、振り返り、彼をもっと求める。

「……っ…中…すご…何これ……」

……ああ…その反応…よくある…

「……初めて?」

「…初めて…ってか、女の子でもこんな腰…
りつきさん、反則……」

お風呂場で彼は激しく腰を動かし…達した。


僕は…この男の女性経験をひっくり返したい。
ワンナイトとしか考えてない彼を、彼の方から先も望むセリフを吐かせたい。

裸のままキスを繰り返し、胸や直ぐに元気になった箇所をいじりながらベットに倒れ込む。
同時に覆い被さってくる彼の目は真っ直ぐで強くて…その目で見つめられながら正面から組み敷かれただけで、僕のが何故か…溢れてきた。

「……ぁ……ぅそ……ンッ……」

声も自然に漏れるし、多分…お尻も…意思とは別に相当締め付けてしまってるのが、彼の眉間に皺を寄せ、必死に堪える顔で伝わる。

その表情は…
僕の全身のチカラが抜けたのに変わらずで…

「…りつきさん…
ぁー……もう、僕だけにして……
もう他の誰にも抱かれないで……」


何度も他の男から聞いた事がある言葉も彼から聞くと…可愛いおねだり。
彼の為ならそれもいいかな…彼となら…こんなに気持ち良くなれるし……

緩々と動く彼の腰は、優しかったり力強かったり変化する。


翻弄され、凄く満たさたまま眠りついたのは初めてだった。




朝、彼の姿は無かった。
半分以上なホテル代のお金とメモ。

『学校があるから先帰るね
またね、りつきさん』


連絡先は交換しなかったし、結局名前は聞けなかったけど"またね"が直ぐに店へ来てくれるものだと思って安心した。

なのに。





「前に話した弟になる柾臣まさおみ君。
えっと…哩月りつきとは3歳違うから18歳。
こちら哩月。私と顔似てるかしら?
よく似てるって言われるのよねー。
あ、こう見えて哩月、
勉強出来るから何でも教えて貰ってね!」


今日から一緒に暮らす再婚予定の父と弟。

義父は出張も多い仕事らしく、引越しの今日、初めて会うのはしょうがないとしても…


柾臣……朝まで一緒に過ごし、名乗られなかった彼の名前を母から聞くなんて。


「……たしか歳、20って…」

母は旦那になる人からキッチンの使い方を教えて貰っている。
リビングからキッチンは見えるものの、距離があるから小声にならなくても大丈夫なくらいだけど…

「…ホントは18…
18だと、お店に入れて貰えないのかな?って…」

一緒に小声で話す柾臣。
怒られないとでも思ってるのか、小声だけど柔かに笑いながら話す義弟…
弟?!

「……お前……知ってて近づいて……
しかも…僕と…僕が下………」

騙された事と、何度も突っ込まれて気持ち良くなった自分に頭きて…
どうしようもなく、机にうなだれる。

「………もー……ヤダ…」

「…ふっ……りつきさん…?
また、一緒にシャワー浴びようね…」

見上げると 顔を近づけてきて視線が近い。
…だから…その大きな瞳…
緩く開いた口元から見える白い歯…
ピンクの唇…

彼の熱を持った力強さを奥で覚えてしまってる僕は…返事なんてしないし、シャワーなんて2度と一緒に浴びないと心に誓っても……

「りつきさん…?」

見つめられただけで欲情が疼く。

キスしたい気持ち、奥に触れられたい気持ち、
これから毎日どうやったら耐えられるか……

耐えられなかったら………いやいや、弟だぞ……




僕に似た母と、
彼に似た義父と、
昨日から今日にかけて
愛し合った義弟と僕。



4人での生活が始まった。



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