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一章
6 ラーメン
しおりを挟む「…大丈夫?」
ジョンの屋敷、いつもの広くて使い易いキッチン。
契約してから2週間くらい。
起きてる時間はほぼ、僕はここに居た。
そしてその時はジョンも。
「…全然大丈夫ー。
こういうのは感覚なんだろうね。
いつも美味しい物食べてるから美味しく出来る
はず……だけど…
今回は食べれればいいよね?」
「…えーー…僕手伝おうか…?」
「NO.それじゃ、毎日働かせてた俺が…
ジンにもキチンと休日がないと…
毎日働かせてたら労働法違反だからね。」
「…そう…かな…
まぁジョンがやる気ならいいけどさ…」
ラーメンを作ると言い出した。
今日の朝ごはんもジョンがパンを焼いてくれた。
飲み物も出してくれた。
その後1人でインスタントの物を買ってきた。
…今日、僕はジョンの家で過ごす休日らしい。
「ブエンプロベチョ!!」
僕のアドバイス通り、レタスやモヤシ、卵、ハムなどが入ってる。
モヤシは洗うだけ、レタスもハムもちぎるだけ。
卵は黄身が割れてても、入っていれば…
味もインスタントだからそのままで問題無いはず。
「…え?ブ…ベチョ?」
「美味しく召し上がれー。スペイン語。」
「ああ…じゃあ、頂きます。」
「いただきまーす。」
野菜が沢山のインスタントラーメン。
…そう言われれば、
人が作った物を食べるのなんて久しぶり。
一口食べてジョンが話しだす。
「…あれ?
このインスタント麺がまずいのかな。」
「そう?確かに麺は…
ちょっと伸びちゃってるけど…
今度は時間を短くすればいいんだよ。」
「味も薄い…」
「野菜沢山入れたからね。
もう少し濃い味にしたかったら
後から塩胡椒かけるとか。」
薄いとか、まずいとかも言うんだな…
僕の料理に何にも文句言わず、美味しいと言って食べてくれるのに。
大きなテーブルに2人向かい合って、シンプルな器によそられたラーメンをすする。
「ご馳走さま。美味しかった。」
すでに食べ終わっていたジョンは少し不満そうに僕を見ていた。
「またジンの休日には俺が料理する。
今度はもう少し美味しく…」
「うん、またラーメンでもいいし、
よろしく。」
あと残り2週間くらいの契約期間。
もう一度くらいは作って貰えるかな。
…その後は、ジョンはどうするつもりだろう。
自由な彼でも仕事はあるだろうし、ここで生活したいみたいだけど…
どうなるんだろう…
まだ言えてない。
僕自身を面倒から守ろうとした、彼女がいるっていう嘘。
言ったらどうなるかな…
もしかしたら、よくある男のハンターの血が冷静に…落ち着きを取り戻したりして…
「後片付けは、僕がやるから。」
「いや、俺だよ。」
流しに2人並んで譲らないジョン。
「…これは、僕がやった方が早いし、
ホントに。
朝もやって貰ったから、今度は僕が。」
「いやいや…ジンは休日なんだってば。」
「休日でもこれくらい毎日するから。
ジョン、今日まだギター弾いてないでしょ?
ほら、毎日の日課をしないとウズウズしない?
あー僕もギターが聴きたくてウズウズ…」
「…結構頑固だね。
…俺を手玉に取ろうとしてんの?
それともホントに俺のギターが聴きたくて
ウズウズ?」
訊かれた瞬間、両手を掴まれた…と思ったら顔が近づいてきて、柔らかなキスをされた。
何度もして慣れたような気もするけど、やっぱり全然慣れてなくて、突然のキスにビックリして固まってしまう。
戸惑う僕にジョンは困ったように笑って…繰り返してくるキス。
…僕の唇が味われてる…
…このまま僕はいつもの様に、快楽に襲われるんだろうか…
少しだけ期待してしまい、背筋と下半身が意識したのが自分でも分かった。
プルルルル!プルルルル!……
僕のケータイが鳴る。
ジョンが目で問いかけてくる。
でるの?でないよね?
「…でないと…」
気まずい視線を避けるように身体を離した。
「はい」
『ジンさん、今平気?
今日の仕事の事なんだけど…』
コール表示されてたのは、
テレビ関係でお世話になってるホンミさん。
『間違えて東京のスタジオって
伝えてたんだけど、今日だけ
ゲストの関係で大阪だったんだよね!
収録は夜だから…すぐ新幹線乗れる?
間に合うなら行って欲しいんだ…』
まだ早いお昼で今12時を過ぎたくらい。
急げば間に合うはず。
「…多分大丈夫なはず…
何か持って行く物とか…」
『いつものアシスタントの子…
アミちゃんには
もう話したから…その子が荷物持って、
同行してくれるって。
新幹線もその子と乗れるなら、
時間もそんなにギリギリじゃないはず』
「じゃあ、急いで向かいますね。
アミちゃんに連絡してみます。」
急がなきゃかな…
アミちゃんに連絡して、時間を確認しないと。
僕が電話をしている間、結局ジョンが洗い物を始めてくれていた。
「…洗い物、ありがと…
時間わからないけど、
すぐ出かけないといけないかも…夜ご飯は…」
何か用意しようか?と聞く前に、
「自分で適当に食べるから大丈夫だよ。」
と低い声で冷静な返事が返ってくる。
「ゴメン、…大阪行かなきゃだから、
帰ってくるのも明日だ…」
「…わかった。」
とりあえず、アシスタントのアミちゃんに
電話をかける。
「アミちゃん?
ホンミさんから聞いたんだけど…
うん、…うん、………
ありがとう、じゃあ品川で。」
荷物は一泊分なのでごく僅か。
着替えを済ませて
隣のジョンの部屋を覗いてもいない。
キッチンに向かってもいない。
…行ってきますをして、早く行かないと。
…アトリエへ向かうと………いた。
「ジョン、行ってくるけど…
ちゃんと夜ご飯食べて、ちゃんと寝るんだよ?」
「大丈夫だよ。」
…言葉とは裏腹な顔にしか見えない。
表情が出ないように、無表情を作ってあまり目も合わせてくれず、大きな描きかけの絵に向かって座りペタペタ色を付けている。
もう…ほんと後ろ髪引かれ過ぎる。
どんな気持ちか、僕が確かめたら素直な顔が見れるのかな…
ジョンのもとまで駆けて行き、座っている背中を後ろから抱きしめた。
「………汚れるよ?」
「…じゃあ、明日…
早く帰ってくるから。行ってくるね。」
「………うん。」
契約が始まってからずっと一緒に夜ご飯、寝る時を過ごして来た。
一晩離れるってだけであんなに態度を変えられてホント僕まで戸惑う。
そう言えば、なんで大阪行くか…
仕事って僕、説明したかな…
大阪へ向かう新幹線の中、ジョンの事が頭から離れない。
アシスタントのアミちゃんの隣に座って、会話は特に続かないけどそんなに気を使う仲でも無いから助かる。
いろんな料理人のテレビ関係でのアシスタントをしていて、僕も1年くらいお世話になってる。
ジョンの前で電話して…
アミちゃんって名前出して…
もしかして勘違いさせたかな…
まさかな。
ジョンは余裕があるだろうから、誘えば大阪まで一緒に遊びに来たかも…
いや…さすがに何時間も無駄にしないよな。
さっきだって、油絵描いてたし、ギターも弾くだろうから…
ケータイを握りしめる。
LINE…ジョンとのトーク画面。
[今、新幹線の中。
…大阪のスタジオでの収録の仕事、
終わったらまた連絡するね。] 送信。
何となく誤解されていても嫌だから、
仕事って事を伝える。
…僕がいない時、用意したご飯を結局今まで食べた事が無いジョン。
最初は1人でも食べるって言ってたのに。
用意した物を食べる、大丈夫、って言うくせに、いつも絵に夢中か寝ているか…
今日だって多分どっちかで、夜も、明日の朝も…食べないんだろうな。
…気になるし、一緒にいたい。
会いたい。
出会った次の日には、キスされた。
性欲処理のような、sexの手前のような事もされた。
普通だったら嫌いになるような行動。
それから毎日同じ様にされて、僕も普通の感覚じゃなくなってる。
“愛されたいな” って本気なら…
エッチな関係を無理矢理…が本気の延長線上なら…って期待してしまう…
僕は既に、愛してると思うけど…
どうしよう…
ぐるぐる回る僕の悩み。
ホント、こういうのが面倒なのに…
それでも会いたいと思ってしまう。
一緒に過ごすと、二人だと、楽しくて。
[もう、会いたい] 送信。
僕にしては大胆なメッセージ。
特に返事が無ければ、電話した時にでも誤魔化せばいい……
収録が終わったのは、21時過ぎ。
少し早めに終わって最終の新幹線に間に合えば東京に戻ってしまおうかとも考えたけど、やっぱり無理な時間だ。
ケータイに返事があるか期待したけどジョンは既読無視…
それでも律儀に僕は仕事が終わった事を約束通り送信した。
「ジンさーん、お疲れ様でしたー。」
「あ、アミちゃん、お疲れ様。」
テレビ局の1階フロワーに降りて帰る途中、僕は少し立ち止まってLINEを送りケータイをしまいながら歩き出した。
「今からホテルですか?」
「うん、ホンミさんが予約してくれた。
アミちゃんは?」
「私、友達がこっちにいるんで、
泊まらせて貰うんです。
まぁ、友達っていうか彼氏なんですけどね。」
「へー、いいねー。
あ、けど、普段は遠距離だね?
いつもアミちゃんの仕事東京だよね。」
「はい、ここ1、2年頑張ってみて、
その後は私か彼氏が、拠点を移すか…
模索してく感じですね。
あれ?ジンさんもなかなか会えない彼女…
遠距離でしたっけ?」
「…遠距離じゃなくて…」
彼女はいない、好きな人はいるとか、わざわざ本当の事、話さなくてもな…
なんて…グルグル考えてたら…
見覚えのあるピンクな髪、整った顔立ち…
彼がロビーの出入り口に立ってる。
いくらテレビ局でも、彼のような整った顔の人はそうそう居ない。
沢山の人が行き交う場所で…
「ジン!!」
彼が僕を見つけて、僕を呼ぶ。
「あ…じゃあ、私は…お疲れ様でした!」
丁寧にジョンにもお辞儀をして帰って行ったアミちゃんと、軽くお辞儀をしたジョン。
そして、こっちにゆっくり歩いてくるジョン。
呆然と立ち尽くしたまま……眺めていた。
「ジン??お疲れ様。」
「……どうしたの?
あ、ごめん!LINEしたから…?」
「…何で謝るんだよ。」
「え!あ!ごめん!まさか、来てくれるとは…
思ってなかったから…」
「…そっか。
まぁ、そんなもんかとも思ったけど。
俺も…会いたくて…事務所に場所聞いて
来たんだけど…」
…俺も…って言葉を期待してた。
ただLINEのメッセージだけで良かった。
まさか、本物が来て、その言葉をくれるなんて。
僕より歳下なのに行動力があって、胸板もあって、男らしい首に、両手で抱きついた。
「…ジン…?みんな見てるよ…?」
耳元の、その優しい声と、優しい笑い声に
もっと嬉しくなって
もっと…強く抱きついた。
「ジンのホテルの部屋、
グレードアップしといた。…早く行こ。」
…ホント、食事も睡眠も適当で
1人で生活出来ないくせに…
グレードアップ?
…そういう事は、手慣れててムカつく……
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