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第11話 疑惑

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 墓地に面した石塀に新たな警報の魔道具を設置し終えた時には、もうとっぷりと陽が暮れていた。
 警報装置はいたって単純で、なにかが障壁を越えたら屋敷でベルが鳴る。さらにだいたいの侵入場所が分かる仕組みだ。
 そもそも錬金術師荘園は錬金術師協会の管理地であり、その荘園主となる錬金術師の許可を得た者以外が素材採取をすることは固く禁じられている。よって侵入者を発見した場合、荘園主は厳罰を以て対処することが許されている。
 厳罰——すなわち死罪だ。

「くっくっくっ……。狙撃王のブレスレットを作ったあたしの荘園に不法侵入するなんて、いい度胸じゃない」

 マーナは荘園主の権限を最大限に利用して、自分が制作した魔道具の性能試験をする気満々だった。
 なによりこの侵入者だが、マーナにはなんとなく心当たりがあった。
 翌朝、素材採取ギルドの受付が開いた時間を見計らい、マーナはギルドを訪ねた。

「なんか、連日のようにきてない?」
「連日のように問題が起こるからよ」

 受付のサキナはトゲのあるマーナの言葉と表情から、その問題がかなり深刻なものだと察したのか真顔になった。

「ここで聞くような話じゃなさそうね。あっちの部屋で上長と聞くから来てくれる?」

 サキナはカウンターに受付休止の札を出し、マーナに個別相談室に案内した。ここは防音の魔道具が配置され、盗聴防止もされている部屋だった。
 4人掛けのテーブルの席に座って待っていると、サキナがオシロを連れて戻ってきた。

「なにか深刻な問題がおありだとか?」

 席に着くなり前置きもなくオシロが切り出してきたため、マーナは頷き直球で問題を話した。

「荘園に泥棒が入ったの。3人組で、1人は体格がよく、1人は前屈みで歩き、1人は線の細い男性か女性かもしれない」
「そこまで判明してるのか……。で、盗まれた物は?」
「木星花の未熟子房よ」

 オシロの表情は変わらなかったが、サキナが息を呑んだ。そこに経験の差があるのだろう。

「勘違いではなく?」
「荘園の雑木林に足跡が残されていたわ。さっき言った特徴の足跡。木星花の未熟子房を摘んだ痕跡もあったし、散った花びらも残っていたのよ」
「つまり、未熟子房か種がなければおかしい……と」
「そうね。そして、ちょっと前にここに木星花の未熟子房が持ち込まれたって聞いたけど……」
「疑っている……と?」
「疑っているし、情報を提供して欲しいの。ジャクソンは普段何人組で活動しているの?」

 名前までマーナがつかんでいるとなると、ギルドとしてはもうシラを切ることはできない。オシロはため息をついて仕方ないというように話しはじめた。

「ジャクソンは3人組のパーティで採取活動している。ジャクソン自身は戦士で、盗賊と魔術師で組んでいる。全員男でキミの想像通りの印象の3人だ」
「ありがとう。彼らが路上で何をしていようが構わないし、ヨソの山に行こうが問題ないわ。ただ、荘園に侵入した場合は、あたしは錬金術師協会規則に則って厳罰を以て対処するから、ギルドもそのつもりでいて」
「承知した。彼らにギルドから警告しても問題ないかね?」

 オシロの質問になにを言ってるの? と言うようにマーナは顔をしかめた。

「当たり前じゃない。そちらが警告してくれて泥棒しなくなるならそれで問題なしよ。ただ、警告をしても繰り返すようなら……その時は分かるわよね?」
「承知した。では、穏便に済むことを願っているよ」

 そう言いつつもオシロの顔には諦めに似た感情が浮かんでいた。
 採取ギルドに出入りしているハンターたち——しかも、気性の荒い連中が警告を聞き入れるとは考え難い。そのため警告しても無駄という心理が働いているのだろう。
 部屋を出るオシロを見送ってからサキナがマーナに食いついてきた。

「どういうこと⁉︎」
「話を聞いていたのなら分かるでしょ。以前、ここに持ち込まれた木星花の素材は、ウチの荘園から盗み出されたものなのよ」
「それって……盗品って決まったわけじゃないよね!」
「そう。だから以前持ち込まれたものについてはあたしも追求しないわ。でも、また泥棒に入ってきたら容赦しない。そういうことよ」
「だから厳罰っていうこと? でも、その厳罰って」
「決まってるじゃない。最悪は死刑よ。錬金術師協会の管理物に手を出したんだもの仕方ないでしょ」
「素材ひとつを盗んで死刑⁉︎」
「それひとつで何万ゼラしたの? それに、ひとつとは限らないじゃない。彼らが売りに出した素材の何割かは、無人だった頃に荘園から盗み出されたものかもしれないのよ!」

 さすがにそこまで言われれば、もうサキナも擁護はできそうになかった。
 マーナは今日までの分の薬草を買い取り、家路についた。
 ジャクソンたちのことは詳しくは知らないが、初めて会った時の印象から考えればどんな人間か想像がつく。ギルドから警告を受けて引き下がるような人間ではないだろう。
 もちろん、それはマーナも望むところだった。いつまでも小娘と舐められていては、今後仕事に支障をきたすだろう。

「そろそろ、錬金術師は怖いって思ってもらわないとね」

 誰に言うでなくマーナはそう呟き、人の悪い笑みを浮かべていた。
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