魔法なきこの世界で……。

怠惰な雪

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青年期

15の日常

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 俺がエラと出会ってから5年の月日が流れた。

 その間エラは文字が読めるようになったり、計算ができるようになったり、本を読んで知識を蓄えていった。

 体も大きくなり、短かった身長も俺と同じくらいまで伸びていた。

 そんな中、店の手伝いもするようになり、店を任されることも多くなった。

 そんな感じで、忙しくはなっていたが、俺とクリスの交流は続き、毎日顔を合わせ、ご飯食べたり、買い物にでかけたりしていた。





「ねぇ、ルイス、私達もう長いよね。」

 ある秋の日のお昼ごろ、一緒に昼ごはんを食べているとクリスが憂鬱そうに言ってきた。

「確かに、前世で出会ってから20年経つか経たないかぐらいなのか。」

 もうそんなになるのかと、感傷に浸っていると……。

「いやそういうのじゃなくてさ、ルイス、私の気持ち知ってるよね?」

 クリスから思いを伝えられたのは、一月ほど前だった。買い物に付き合ってほしいと言われ、その帰り道に告げられた。

 とても緊張していたのだろう、クリスの顔が真っ赤に染まっていたのをよく覚えている。かく言う俺も嬉しさなのか、驚きなのかよくわからない感情で、体が熱かった。

 でも、確かその時の答えには、

「気持ちも何も、俺はクリスに告られて、OKしたよ。」

 そう、元男だろうが関係ないっと言って、確かOKしたはず……。

「確かにそう言ってくれたけどさぁ、ところで、君の本屋に結婚の情報誌みたいなのってある?」

「気が早いよ。」

 そんな押し問答をしていたら、母親に呼ばれてしまった。

「もう行かないと、またね。」

 そう言っていこうとした時、クリスに止められた。

「ねぇ、次はいつ会える?」

「そうだなぁ、いっそ今夜、俺の部屋に来るか?」

「じゃあ、お邪魔します。」

 予想外の返答に驚いてしまった。





 店に行くと、エラが何冊も本を運んでいた。

 重そうだったので、半分持って手伝う。

「ありがとうございます、ルイスさん。」

 エラはそのまま本を棚に入れると、カウンターに座った。

 そのとなりに俺も適当な本を持って座り、ページを開いた。

 結局のところ、店には誰ひとり来なかった。
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