魔法なきこの世界で……。

怠惰な雪

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青年期

誤診

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「ペニシリンを両親に処方した。」

 ペニシリンを作った次の日、俺とクリスはまた、玄関越しに話していた。

「ペニシリンってあの抗生物質の?確かに細菌性の肺炎ならそれで治るわね。」

 ペニシリンは細菌の細胞壁を薄くして、増殖を抑制する効果を持つ。

「そうか、昨日のカビたパンを使ったんだね。ペニシリンはパンなどに生えるアオカビから取ることができるから。」

 そういえば、カビたパンをもらった時、急いで家の中に戻ったな。使い道すら話していなかった。

「ごめん、説明すらしていなくて……。本当にごめん。」

 いつもクリスには世話になっているのに……。本当にすまないことをしたな。

「いいよ、それよりさ、この扉開けてくれない?ちょっとルイスの顔が見たくてさ。」

 扉をたたきながら、開けるよう催促してくる。

「悪いな、まだペニシリンを出しただけで、治ったわけじゃない。病気から君を守るためなんだ。」

 それでも納得していないようで、残念そうな声が聞こえてきた。





 居間に戻って座っているとエラが降りてきた。どうやら、ペニシリンを両親に渡してきてくれたらしい。実際は渡すんじゃなくて、部屋の前においておくだけなんだけど……。

「ありがとね、エラ。」

 薬を出してきてくれたエラにお礼を言いつつ、朝食の準備を始める。

「いえいえ、そんな……。ありがとうございます。ところで、本当にダイナさん、苦しそうですね。」

「えっ、でもエラは薬をドアの前においてきただけなんだろ?どうして今の様子がわかるんだ?」

 感染予防のためにもあまり顔を合わせないほうがいいのだが……。

「ええ、でも、部屋の前から離れて、階段を降りようとしたとき、ドアが開いて、ダイナさんが少し見えたんですよ。」

 階段と両親の部屋とはかなりの距離がある。おそらく感染の心配はないだろう。

「それにしても、本当に辛そうでしたよ。、見てて辛かったです。」

 エラがそう言うと、勢いよく振り返ってしまった。無言で振り返ったため、エラが少しびっくりしたような表情になる。

「まって、今顔が真っ黒になっていたって言った?どんなふうに黒かったか覚えてる?」

 なんか、変なことを言ってしまのか不安がるエラはおそるおそる口を開いた。

「顔に、真っ黒の斑点がくっついていたんです。しかもそんな感じ物が腕にもついていたんです。」

 高熱に、痰がからむ咳、身体の衰弱のような肺炎に見られる症状に加えて、黒い斑点のようなものができる。これらが症状としてでる、病気はしか思いつかない。

 前の世界でも猛威をふるい、当時の世界人口の4分の1の人が命を落としたと言われる病気。体に黒い斑点ができるから黒死病とも呼ばれている病気。

 そして病気。

「ペストだ、俺の母は、父はペストにかかったんだ。」
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