95 / 361
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》
揺れる二つの銀尾《ダブルパーソナリティー》47
しおりを挟む
「セ、セイナ!?」
ロアが驚いたように声を上げる。
そりゃそうだよな……
────裏切り、あまつさえ殺してしまったかと思っていた人物が急に目の前に現れれば、そんな声も出るよな……
「貴様は!?」
それは黒髪女も同様らしく、大きな黒目を丸くして驚いていた。
電車の外から窓をぶち破って、内部に突入してきた金髪碧眼の少女、ロアがさっきまで羽織っていたICコートを肩にかけたセイナ・A・アシュライズは、簀巻きのアルシェの隣に降り立った。
電車の照明に照らせれた黄金の長いポニーテールが、突風に煽られて揺れる中、セイナは深緑色のコートの下で素早く右のレッグホルスターから銃を引き抜こうとしていた。
「チィッ!」
黒髪女が咄嗟に持っていたFNブローニング・ハイパワーを構えようとする。
バンッ!!
「あッ!」
痛みと衝撃に黒髪女が喘ぎ、銃を床に落とした。
俺の0.13秒とまではいかないが、それでも0.16秒。Desert Eagleの時に比べれば0.03秒も早く引き抜かれたセイナのコルト・カスタムが、銃を持っていた黒髪女よりも早く火を噴き、見事に銃だけを撃ち抜いていた。
やっぱお前は優秀だよ。
「ナイスタイミングだぜ、セイナ……」
「……」
セイナは俺の声には反応せず、無言のまま片膝を着いていた黒髪女の頭部に銃を構えた。
「セ、セイナ?」
「……」
────あれ、集中しているのか?
俺の言葉にセイナがなにも返さないどころか一切反応すらしない。
電車の窓から突風が吹きつけているせいで聞こえないのか?いや、それにしたっておかしい。
────まるで、誰の声も届いてないかのような……
「お、おい!セイナ!?」
「……」
氷に張り付いたTシャツを脱ぎ捨ててセイナに近づこうとしたところで、俺はようやく異変に気が付いた。
セイナが本気で黒髪女の頭を撃ち抜こうとしていることに────
トリガーにかけた指が今にも引き抜かれようとしていた。
だがそれは決して妹を傷つけた恨みとか、そういった激情、復讐に身を任せた様子は一切なく……寧ろその逆、表情もしっかり見ないと分からないが、いつもに比べて感情が死んでいて……生気を感じない、まるでロボットのような無表情に近かった。
「お、おい!?ヤバいんじゃないか?」
ロアもそれに気づいたのか、俺と一緒に急いでセイナのもとに駆け寄ろうとしていた。
だが、氷の張った電車内は走りにくく、上手く走ることができない。
「────」
セイナが黒髪女に何かを呟いた。
なんて言ったのか聞き取れず、読唇術を使う余裕すらなかったのでなんと言ったか分からないが、黒髪女はその短い言葉を前に眉間に深いシワを作り、鋭い眼光でセイナを射抜くように見上げていた。
そんな黒髪女の様子など意に介さないといった感じで、セイナは人差し指に力を入れた。
「セイナ!!」
「……ッ」
間に合わない、と思った俺がもう一度大きな声で呼びかけると、セイナは一瞬だけ反応したようにピクリッと身体を震わせたが────
バンッ!!
短い銃声が電車内に響いた────
黒髪女の頭からツーと血が流れる。
「……ッ!」
セイナのブルーサファイアの瞳が少しだけ開かれた。
銃の先端を黒髪女が掴み、銃口がカチカチと音を立てて明後日の方向を向いていた。
俺の声に一瞬反応したセイナが、若干だが引き金を引くことに躊躇した瞬間、黒髪女……いや、東洋人の彩芽は咄嗟に銃を掴んで弾丸の直撃を防いでいた。それでも側頭部にかすったのか、象牙色の横顔を綺麗な紅い鮮血で染めていく。
「クソッ!」
セイナの銃口を払いのけた彩芽が悪態をつき、後方に飛ぶ────
展開された黒いオーラに身体が溶け込んでいき、簀巻きにされたアルシェと神器の入った白いケースを残したまま、彩芽の姿は電車から忽然と消えていた。
「セイナ!」
消えた彩芽に反応することなく、棒立ちになっていたセイナに俺が声を掛けるが反応しない。
「おい、大丈夫か?」
小さな肩を掴んでこちらに顔を向けさせる。
俺がセイナを鼻と鼻が触れ合うくらいの距離で見つめると、焦点の合っていなかったブルーサファイアの瞳が次第にハイライトを戻りだし、俺と目がしっかりと合う。
「……?……ッ!?」
辺りに未だ残っている氷と同じくらい真っ白なセイナの肌が、まるでかき氷にイチゴのシロップでも掛けたかのように、かぁーと真っ赤になっていく。
「へ……へ……へ……」
「け、怪我は無いか?おい?」
さっきの彩芽の横顔と同じくらい顔を真っ赤に染め、セイナは何か言おうとしているのか、口元をわなつかせた。
────明らかに様子がおかしい……
と俺がもう一度声を掛けようとした瞬間────
「グッ!?」
みぞおちに凄まじい激痛が走り、俺はその場でしゃがみ込んだ。
一瞬何が起こったか理解できなかったが、よく見ると、眼前で俺を見下ろしたセイナが繰り出した正拳突きを小刻みに震わせていた。
「このッ!?変態!!なんで上半身裸なのよ!!このド変態!!」
いつものセイナ節を披露させてキレるセイナ。
────あーさっきTシャツ脱いだせいで上半身裸だってこと忘れてたぜ……
どうやらそれをセイナは、俺が裸で詰め寄って勘違いしたらしい……
とりあえずいつものセイナに戻ったようだったが、これは喜ぶべきなのか正直迷うところだ……
「なんでアンタはいつもいつもそうやって見境なく……!!このッ……獣!!淫獣!!帰ったら調教よ!!調教!!」
ビシィ!!人差し指を俺に突き立てながら叫ぶセイナ。
セイナさん、あんま公共の場で調教と言った言葉は控えて欲しいな……って、そこの魔女娘、えーとアルシェだっけ?セイナの言葉を鵜呑みにして何を想像したか知らないが、顔を真っ赤にするな。このマセガキめ。
簀巻きのアルシェがあわわわと口を動かしながら、顔を真っ赤にしてうわ言のように「そ、そんな危ない遊びを……」と言っていることなどセイナは気づかずにガミガミガミガミと文句を垂れていたところで────
「セイナ……」
俺の後ろに立っていたロア……ではなく、いつもの高い女声に戻ったロナが少し俯きながら声を掛けてきた。
「生きてて……生きててよかった……!」
と、俺の横を通り過ぎてセイナにロナが抱き着いた。
「ちょッ!ちょっと!?」
「ごめん……ごめんなさい!」
突然のことに驚くセイナに、ロナは若干涙声で謝罪の言葉を繰り返した。
「な、なんで謝る必要があるのよ?アンタ、アタシを助けてくれたじゃない?」
「え……?」
「覚えてないの……?」
────セイナの手を掴むことのできなかったあの時、二両目の電車が切り離され、その衝撃でガクンッ!と身体が揺れ、ロアの意識が一瞬緩まった瞬間────身体の支配権が数瞬戻ったロナは、咄嗟に懐に残ったクナイ式ナイフを二両目の車両に突き刺していた。
そのクナイ式ナイフの柄には隕石の糸が括り付けてあり、そしてそれは、セイナの掴んでいたICコートにもつながっていた。ロアは真下の死角に消えたセイナを視認することができなかったが、そのおかげでセイナは直接地面に叩きつけられることは無かった。
コートに引っ張られていたセイナは、安全に減速しながら線路に着地。
そのまま無駄だと知りつつも、セイナが走って電車を追いかけていたところを、連絡を受けて地下鉄に行ったという情報を頼りに、バイクで追いかけていた俺がたまたまそこを通りかかった。
「マラソンコースにしては暗すぎないか?」
「アンタも、ツーリングにしては趣味が悪いんじゃない?」
軽口を叩き合いながらセイナを拾った俺が状況を聞きつつ、電車に追いた俺達は、ICコートで姿を隠したセイナを伏兵として電車の上部に待機させ、俺はロアと共闘して連中に立ち向かっていた。
あの黒髪女、彩芽の対策というのは、過去の戦闘で奴がセイナのスピニングスラッシュ、つまり面攻撃を嫌ってたところからヒントを得た俺が、彩芽の展開する黒いオーラとは別の方向で攻めれば攻撃が通るかもしれないといった仮説を立てていた。
まあ、本音を言うと、鎖の方の仮設のが有力だったので本当はそれで仕留める予定だったが、状況が状況だったのでこれは仕方ない。
ともかく俺の立てていた仮説を信じてくれたセイナのおかげで、彩芽を捕まえることはできなかったが、撃退することには成功した。
────まだ足りないが、とりあえず一か月前の借りは返してやったぜ……
「それよりセイナ、お前大丈夫か?」
抱き合うロナの肩に顔を乗せたセイナに俺が声を掛けると、セイナは首を傾げた。
「何のこと?」
「いや、お前さっき正気を失ってたようだったから……」
「そんなこと……あれ?」
俺の指摘にセイナは反論しようとしたが、改めて思い出してみると本人も違和感のようなものがあったらしく、ブルーサファイアの瞳をパチパチと動かした。
「確かに……記憶がちょっと曖昧だわ……」
と、さっきまでの出来事を思い出そうとしていたセイナの思考を遮るようにして、ロナが大きな声を上げた。
「って、喜んでいる場合じゃなかった!電車!この電車を早く止めないと!!」
確かに、考えるのは後回しだ。
電車は既に200㎞近い速度で走っている。あと2、3分で通過する、例の大きなカーブにこの速度で突っ込むようなことをしたら……ここに乗った運転手と車掌を合わせた6人全員あの世行きだ。
「運転手と車掌は伸びてる!俺達で何とかするぞ!」
と俺がドアを開けて運転室に入る。
凍り付いたレバーを動かそうとしたしたが、レバー全体を覆うようにして氷が張られているため握ることすらできない。
しかも氷は魔力によって作られているため、通常のものよりも強度があるような感じだった。
────氷を割るにも道具は皆無、銃で壊す手もあるが、それだと跳弾やレバーを破壊する可能性もある……何より砕いてる時間が無い……
「速度レバーもブレーキレバーも両方氷を張られてて触ることすらできねえ!」
と俺が叫ぶと、後ろにいたセイナが銃をアルシェに向けた。
「あの氷を解除しなさい!アンタならできるでしょ?」
一瞬、また何かにとりつかれたのかと心配したが、今度は正気のままのセイナがアルシェを脅しにかかる。
「鎖を解いてもらわないと無理だわ。でも、鎖を解いた瞬間、私が大人しく言うことを聞くなんて思う?」
「無理にでも言うことを聞かすに決まっているでしょ!」
アルシェの着ていたドレスの胸元をセイナが掴んで睨む。
だが、アルシェはそれに臆することなく、いや、もうあきらめたかのように視線を逸らしてから、力なく口を開いた。
「それに、どちらにしろ私はもう終わり……私が捕まれば、組織はきっとどんな手を使ってでも私を殺しにくるはず。結局はここで死ぬか、あとで死ぬかの違いしかない……それなら……いっそのことお前達も一緒に道連れにしてやる!」
顔を見てなくても分かる。人が覚悟を決めた時に発する声でそう告げたアルシェに、セイナも無駄だと判断したのだろう……そのまま地面に突き放してこっちにくる。
「ダメ、フォルテ……電気系統の一部が凍っててブレーキと速度レバー、非常停止ボタンが死んでる……これじゃあ電車止まらないよ……」
俺の真下でゴソゴソと運転席の制御盤を弄っていたロナが絶望したような声を漏らす。
「電気系統を入れ替えて、他のレバーでブレーキや速度を操作することはできないのか?」
「速度かブレーキの片方ならできるけど……それでも多分カーブまでには速度を落とすことができない……」
「とりあえずダメ元でブレーキだけでも切り替えとけ!」
「今やってる!」
何かできることは無いかと運転室のマニュアルを引っ張り出した俺の真下で、持っていた電子デバイスを操作しながらロナは答える。
────レバーが凍り付いた時の対処法なんてあるわけないよな……
「ねぇ……ちょっと聞いてもいいかしら?」
マニュアルを高速で呼んでいる俺の背後からセイナが声を掛けてきた。
「なんだセイナ?」
「今乗ってる電車って、確かフォルテが昨日言ってたワシントン・メトロって地下鉄よね?」
「ん?……あぁ……ホワイトハウスに向かってた時の車内で言ってた話しか?そうだが、それがどうかしたか?」
「それならこの電車、アタシが止めることができるかもしれない……」
ロアが驚いたように声を上げる。
そりゃそうだよな……
────裏切り、あまつさえ殺してしまったかと思っていた人物が急に目の前に現れれば、そんな声も出るよな……
「貴様は!?」
それは黒髪女も同様らしく、大きな黒目を丸くして驚いていた。
電車の外から窓をぶち破って、内部に突入してきた金髪碧眼の少女、ロアがさっきまで羽織っていたICコートを肩にかけたセイナ・A・アシュライズは、簀巻きのアルシェの隣に降り立った。
電車の照明に照らせれた黄金の長いポニーテールが、突風に煽られて揺れる中、セイナは深緑色のコートの下で素早く右のレッグホルスターから銃を引き抜こうとしていた。
「チィッ!」
黒髪女が咄嗟に持っていたFNブローニング・ハイパワーを構えようとする。
バンッ!!
「あッ!」
痛みと衝撃に黒髪女が喘ぎ、銃を床に落とした。
俺の0.13秒とまではいかないが、それでも0.16秒。Desert Eagleの時に比べれば0.03秒も早く引き抜かれたセイナのコルト・カスタムが、銃を持っていた黒髪女よりも早く火を噴き、見事に銃だけを撃ち抜いていた。
やっぱお前は優秀だよ。
「ナイスタイミングだぜ、セイナ……」
「……」
セイナは俺の声には反応せず、無言のまま片膝を着いていた黒髪女の頭部に銃を構えた。
「セ、セイナ?」
「……」
────あれ、集中しているのか?
俺の言葉にセイナがなにも返さないどころか一切反応すらしない。
電車の窓から突風が吹きつけているせいで聞こえないのか?いや、それにしたっておかしい。
────まるで、誰の声も届いてないかのような……
「お、おい!セイナ!?」
「……」
氷に張り付いたTシャツを脱ぎ捨ててセイナに近づこうとしたところで、俺はようやく異変に気が付いた。
セイナが本気で黒髪女の頭を撃ち抜こうとしていることに────
トリガーにかけた指が今にも引き抜かれようとしていた。
だがそれは決して妹を傷つけた恨みとか、そういった激情、復讐に身を任せた様子は一切なく……寧ろその逆、表情もしっかり見ないと分からないが、いつもに比べて感情が死んでいて……生気を感じない、まるでロボットのような無表情に近かった。
「お、おい!?ヤバいんじゃないか?」
ロアもそれに気づいたのか、俺と一緒に急いでセイナのもとに駆け寄ろうとしていた。
だが、氷の張った電車内は走りにくく、上手く走ることができない。
「────」
セイナが黒髪女に何かを呟いた。
なんて言ったのか聞き取れず、読唇術を使う余裕すらなかったのでなんと言ったか分からないが、黒髪女はその短い言葉を前に眉間に深いシワを作り、鋭い眼光でセイナを射抜くように見上げていた。
そんな黒髪女の様子など意に介さないといった感じで、セイナは人差し指に力を入れた。
「セイナ!!」
「……ッ」
間に合わない、と思った俺がもう一度大きな声で呼びかけると、セイナは一瞬だけ反応したようにピクリッと身体を震わせたが────
バンッ!!
短い銃声が電車内に響いた────
黒髪女の頭からツーと血が流れる。
「……ッ!」
セイナのブルーサファイアの瞳が少しだけ開かれた。
銃の先端を黒髪女が掴み、銃口がカチカチと音を立てて明後日の方向を向いていた。
俺の声に一瞬反応したセイナが、若干だが引き金を引くことに躊躇した瞬間、黒髪女……いや、東洋人の彩芽は咄嗟に銃を掴んで弾丸の直撃を防いでいた。それでも側頭部にかすったのか、象牙色の横顔を綺麗な紅い鮮血で染めていく。
「クソッ!」
セイナの銃口を払いのけた彩芽が悪態をつき、後方に飛ぶ────
展開された黒いオーラに身体が溶け込んでいき、簀巻きにされたアルシェと神器の入った白いケースを残したまま、彩芽の姿は電車から忽然と消えていた。
「セイナ!」
消えた彩芽に反応することなく、棒立ちになっていたセイナに俺が声を掛けるが反応しない。
「おい、大丈夫か?」
小さな肩を掴んでこちらに顔を向けさせる。
俺がセイナを鼻と鼻が触れ合うくらいの距離で見つめると、焦点の合っていなかったブルーサファイアの瞳が次第にハイライトを戻りだし、俺と目がしっかりと合う。
「……?……ッ!?」
辺りに未だ残っている氷と同じくらい真っ白なセイナの肌が、まるでかき氷にイチゴのシロップでも掛けたかのように、かぁーと真っ赤になっていく。
「へ……へ……へ……」
「け、怪我は無いか?おい?」
さっきの彩芽の横顔と同じくらい顔を真っ赤に染め、セイナは何か言おうとしているのか、口元をわなつかせた。
────明らかに様子がおかしい……
と俺がもう一度声を掛けようとした瞬間────
「グッ!?」
みぞおちに凄まじい激痛が走り、俺はその場でしゃがみ込んだ。
一瞬何が起こったか理解できなかったが、よく見ると、眼前で俺を見下ろしたセイナが繰り出した正拳突きを小刻みに震わせていた。
「このッ!?変態!!なんで上半身裸なのよ!!このド変態!!」
いつものセイナ節を披露させてキレるセイナ。
────あーさっきTシャツ脱いだせいで上半身裸だってこと忘れてたぜ……
どうやらそれをセイナは、俺が裸で詰め寄って勘違いしたらしい……
とりあえずいつものセイナに戻ったようだったが、これは喜ぶべきなのか正直迷うところだ……
「なんでアンタはいつもいつもそうやって見境なく……!!このッ……獣!!淫獣!!帰ったら調教よ!!調教!!」
ビシィ!!人差し指を俺に突き立てながら叫ぶセイナ。
セイナさん、あんま公共の場で調教と言った言葉は控えて欲しいな……って、そこの魔女娘、えーとアルシェだっけ?セイナの言葉を鵜呑みにして何を想像したか知らないが、顔を真っ赤にするな。このマセガキめ。
簀巻きのアルシェがあわわわと口を動かしながら、顔を真っ赤にしてうわ言のように「そ、そんな危ない遊びを……」と言っていることなどセイナは気づかずにガミガミガミガミと文句を垂れていたところで────
「セイナ……」
俺の後ろに立っていたロア……ではなく、いつもの高い女声に戻ったロナが少し俯きながら声を掛けてきた。
「生きてて……生きててよかった……!」
と、俺の横を通り過ぎてセイナにロナが抱き着いた。
「ちょッ!ちょっと!?」
「ごめん……ごめんなさい!」
突然のことに驚くセイナに、ロナは若干涙声で謝罪の言葉を繰り返した。
「な、なんで謝る必要があるのよ?アンタ、アタシを助けてくれたじゃない?」
「え……?」
「覚えてないの……?」
────セイナの手を掴むことのできなかったあの時、二両目の電車が切り離され、その衝撃でガクンッ!と身体が揺れ、ロアの意識が一瞬緩まった瞬間────身体の支配権が数瞬戻ったロナは、咄嗟に懐に残ったクナイ式ナイフを二両目の車両に突き刺していた。
そのクナイ式ナイフの柄には隕石の糸が括り付けてあり、そしてそれは、セイナの掴んでいたICコートにもつながっていた。ロアは真下の死角に消えたセイナを視認することができなかったが、そのおかげでセイナは直接地面に叩きつけられることは無かった。
コートに引っ張られていたセイナは、安全に減速しながら線路に着地。
そのまま無駄だと知りつつも、セイナが走って電車を追いかけていたところを、連絡を受けて地下鉄に行ったという情報を頼りに、バイクで追いかけていた俺がたまたまそこを通りかかった。
「マラソンコースにしては暗すぎないか?」
「アンタも、ツーリングにしては趣味が悪いんじゃない?」
軽口を叩き合いながらセイナを拾った俺が状況を聞きつつ、電車に追いた俺達は、ICコートで姿を隠したセイナを伏兵として電車の上部に待機させ、俺はロアと共闘して連中に立ち向かっていた。
あの黒髪女、彩芽の対策というのは、過去の戦闘で奴がセイナのスピニングスラッシュ、つまり面攻撃を嫌ってたところからヒントを得た俺が、彩芽の展開する黒いオーラとは別の方向で攻めれば攻撃が通るかもしれないといった仮説を立てていた。
まあ、本音を言うと、鎖の方の仮設のが有力だったので本当はそれで仕留める予定だったが、状況が状況だったのでこれは仕方ない。
ともかく俺の立てていた仮説を信じてくれたセイナのおかげで、彩芽を捕まえることはできなかったが、撃退することには成功した。
────まだ足りないが、とりあえず一か月前の借りは返してやったぜ……
「それよりセイナ、お前大丈夫か?」
抱き合うロナの肩に顔を乗せたセイナに俺が声を掛けると、セイナは首を傾げた。
「何のこと?」
「いや、お前さっき正気を失ってたようだったから……」
「そんなこと……あれ?」
俺の指摘にセイナは反論しようとしたが、改めて思い出してみると本人も違和感のようなものがあったらしく、ブルーサファイアの瞳をパチパチと動かした。
「確かに……記憶がちょっと曖昧だわ……」
と、さっきまでの出来事を思い出そうとしていたセイナの思考を遮るようにして、ロナが大きな声を上げた。
「って、喜んでいる場合じゃなかった!電車!この電車を早く止めないと!!」
確かに、考えるのは後回しだ。
電車は既に200㎞近い速度で走っている。あと2、3分で通過する、例の大きなカーブにこの速度で突っ込むようなことをしたら……ここに乗った運転手と車掌を合わせた6人全員あの世行きだ。
「運転手と車掌は伸びてる!俺達で何とかするぞ!」
と俺がドアを開けて運転室に入る。
凍り付いたレバーを動かそうとしたしたが、レバー全体を覆うようにして氷が張られているため握ることすらできない。
しかも氷は魔力によって作られているため、通常のものよりも強度があるような感じだった。
────氷を割るにも道具は皆無、銃で壊す手もあるが、それだと跳弾やレバーを破壊する可能性もある……何より砕いてる時間が無い……
「速度レバーもブレーキレバーも両方氷を張られてて触ることすらできねえ!」
と俺が叫ぶと、後ろにいたセイナが銃をアルシェに向けた。
「あの氷を解除しなさい!アンタならできるでしょ?」
一瞬、また何かにとりつかれたのかと心配したが、今度は正気のままのセイナがアルシェを脅しにかかる。
「鎖を解いてもらわないと無理だわ。でも、鎖を解いた瞬間、私が大人しく言うことを聞くなんて思う?」
「無理にでも言うことを聞かすに決まっているでしょ!」
アルシェの着ていたドレスの胸元をセイナが掴んで睨む。
だが、アルシェはそれに臆することなく、いや、もうあきらめたかのように視線を逸らしてから、力なく口を開いた。
「それに、どちらにしろ私はもう終わり……私が捕まれば、組織はきっとどんな手を使ってでも私を殺しにくるはず。結局はここで死ぬか、あとで死ぬかの違いしかない……それなら……いっそのことお前達も一緒に道連れにしてやる!」
顔を見てなくても分かる。人が覚悟を決めた時に発する声でそう告げたアルシェに、セイナも無駄だと判断したのだろう……そのまま地面に突き放してこっちにくる。
「ダメ、フォルテ……電気系統の一部が凍っててブレーキと速度レバー、非常停止ボタンが死んでる……これじゃあ電車止まらないよ……」
俺の真下でゴソゴソと運転席の制御盤を弄っていたロナが絶望したような声を漏らす。
「電気系統を入れ替えて、他のレバーでブレーキや速度を操作することはできないのか?」
「速度かブレーキの片方ならできるけど……それでも多分カーブまでには速度を落とすことができない……」
「とりあえずダメ元でブレーキだけでも切り替えとけ!」
「今やってる!」
何かできることは無いかと運転室のマニュアルを引っ張り出した俺の真下で、持っていた電子デバイスを操作しながらロナは答える。
────レバーが凍り付いた時の対処法なんてあるわけないよな……
「ねぇ……ちょっと聞いてもいいかしら?」
マニュアルを高速で呼んでいる俺の背後からセイナが声を掛けてきた。
「なんだセイナ?」
「今乗ってる電車って、確かフォルテが昨日言ってたワシントン・メトロって地下鉄よね?」
「ん?……あぁ……ホワイトハウスに向かってた時の車内で言ってた話しか?そうだが、それがどうかしたか?」
「それならこの電車、アタシが止めることができるかもしれない……」
0
あなたにおすすめの小説
異世界と地球がダンジョンで繋がった ー異世界転移者の私ー
白木夏
ファンタジー
2040年の初春、突如として地球上の主要都市に謎のダンジョンが出現した。
その特異性は明らかで、人口密集地を中心に出現し、未開の地には一切現れないという法則性を帯びていた。
人々は恐怖に震えつつも、未知なる存在に対する好奇心を抑えきれなかった。
異世界転移した最強の主人公のほのぼのライフ
主人公はあまり戦ったりはしません。
スライムすら倒せない底辺冒険者の俺、レベルアップしてハーレムを築く(予定)〜ユニークスキル[レベルアップ]を手に入れた俺は最弱魔法で無双する
カツラノエース
ファンタジー
ろくでもない人生を送っていた俺、海乃 哲也は、
23歳にして交通事故で死に、異世界転生をする。
急に異世界に飛ばされた俺、もちろん金は無い。何とか超初級クエストで金を集め武器を買ったが、俺に戦いの才能は無かったらしく、スライムすら倒せずに返り討ちにあってしまう。
完全に戦うということを諦めた俺は危険の無い薬草集めで、何とか金を稼ぎ、ひもじい思いをしながらも生き繋いでいた。
そんな日々を過ごしていると、突然ユニークスキル[レベルアップ]とやらを獲得する。
最初はこの胡散臭過ぎるユニークスキルを疑ったが、薬草集めでレベルが2に上がった俺は、好奇心に負け、ダメ元で再びスライムと戦う。
すると、前までは歯が立たなかったスライムをすんなり倒せてしまう。
どうやら本当にレベルアップしている模様。
「ちょっと待てよ?これなら最強になれるんじゃね?」
最弱魔法しか使う事の出来ない底辺冒険者である俺が、レベルアップで高みを目指す物語。
他サイトにも掲載しています。
「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです
空木 架
SF
日本の企業で総務として働く星野明日虎(32歳)は、ある日突然、見知らぬ宇宙の帝国へと転移してしまう。彼が配属されたのは、整理整頓もままならない「銀河最弱」の補給艦隊だった!
ひょんなことから戦艦の艦長に任命されてしまった明日虎だが、宇宙の戦い方など全く分からない。そこで彼が武器にしたのは、長年の社畜生活で培った「経費削減」と「在庫管理」のスキルだった。
「弾薬の無駄遣い禁止!」「エンジンはこまめに切れ!」――ただ徹底的なコストカットと業務効率化を推し進めただけなのに、それがなぜか「天才的な軍事戦略」として周囲に大勘違いされていく。
個性豊かな仲間たちと共に、最弱だった倉庫部門を最強の組織へと育て上げる、痛快・お仕事&成り上がりSFファンタジー!
※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」でも連載しています
俺は善人にはなれない
気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。
時渡りの姫巫女
真麻一花
恋愛
リィナは村の祭りで、主役である「姫巫女」役に選ばれた。舞の相手は騎士として活躍しているヴォルフ。
あこがれの彼との舞を喜んでいたのもつかの間、リィナは本物の姫巫女へと祭り上げられ神殿に囚われる事となる。
嘆く彼女に救いの手を差し伸べたのは、出会ったばかりの騎士、ヴォルフだった。
(表紙絵は、りょおさんからいただきました)
薬師だからってポイ捨てされました~異世界の薬師なめんなよ。神様の弟子は無双する~
黄色いひよこ
ファンタジー
薬師のロベルト・シルベスタは偉大な師匠(神様)の教えを終えて自領に戻ろうとした所、異世界勇者召喚に巻き込まれて、周りにいた数人の男女と共に、何処とも知れない世界に落とされた。
─── からの~数年後 ────
俺が此処に来て幾日が過ぎただろう。
ここは俺が生まれ育った場所とは全く違う、環境が全然違った世界だった。
「ロブ、申し訳無いがお前、明日から来なくていいから。急な事で済まねえが、俺もちっせえパーティーの長だ。より良きパーティーの運営の為、泣く泣くお前を切らなきゃならなくなった。ただ、俺も薄情な奴じゃねぇつもりだ。今日までの給料に、迷惑料としてちと上乗せして払っておくから、穏便に頼む。断れば上乗せは無しでクビにする」
そう言われて俺に何が言えよう、これで何回目か?
まぁ、薬師の扱いなどこんなものかもな。
この世界の薬師は、ただポーションを造るだけの職業。
多岐に亘った薬を作るが、僧侶とは違い瞬時に体を癒す事は出来ない。
普通は……。
異世界勇者巻き込まれ召喚から数年、ロベルトはこの異世界で逞しく生きていた。
勇者?そんな物ロベルトには関係無い。
魔王が居ようが居まいが、世界は変わらず巡っている。
とんでもなく普通じゃないお師匠様に薬師の業を仕込まれた弟子ロベルトの、危難、災難、巻き込まれ痛快世直し異世界道中。
はてさて一体どうなるの?
と、言う話。ここに開幕!
● ロベルトの独り言の多い作品です。ご了承お願いします。
● 世界観はひよこの想像力全開の世界です。
異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める
自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。
その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。
異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。
定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる