SEVEN TRIGGER

匿名BB

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赤き羽毛の復讐者《スリーピングスナイパー》

鎮魂の慈雨《レクイエムレイン》10

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 あれから────どれくらいの時間が経っただろうか……
 あの工場から離れてから数時間、変わらない密林の景色に注意を張り巡らせながら、ジープの後部座席に身を預けていた俺はそんなことを考えていた。
 あれから中国サイドの部隊からも、魔術弾使いのスナイパーからも襲撃されることは無かった。だが、ここはまだ敵地であることに変わりはない。
 普段なら硬いと感じる座椅子も、洞窟の地面と比べたら雲泥の差だ。柔らかいその感触が、疲れ切った身体に睡魔という誘惑となって襲い掛かる感情を押し殺しながら、俺は周囲を警戒していた。
 そんな俺の様子に気づいたらしいセイナが助手席から振り返る。

「フォルテ……疲れているなら休んでいても────」

「いや、大丈夫だ。ありがとうセイナ……」

 俺はその甘美のように感じる提案を静かに断った。
 たぶん……今この誘惑に負けて寝てしまったら、俺は数日間は眼を覚まさないだろうからな。
 二日連続で魔眼を乱用した俺の身体は限界を越えかけていた……それくらい今回の敵は一筋縄では無かった。
 神器を順調に回収できてはいるが……今後現れるであろう強大な敵に、俺の身体はどこまで持つだろうか……
 張りつめた空気が車内に立ち込める中、膝の上で気絶していたアイリスが目覚めたのは、俺がそんなことを考えている時だった。

「ん……ここ……は……フォル……テ……?」

 虚ろな眼で目覚めたアイリスは、数時間前に聞いた元気ある声ではなく、いつもの低い声で譫言うわごとのようにそう呟く。

「工場にあったジープで逃げている最中だ、アイリス……」

「逃げている……?ッ……!」

 俺の言葉に、アイリスはを思い出したのか、虚ろだった瞳を僅かに見開いた。

「父さんは……?」

「「「……」」」

 その悲痛な問いに、俺達三人は押し黙った表情のまま顔を背けた。
 それを見たアイリスは、車内に流れていた重たい空気に気づいたのだろう……「そうか……」とマフラーの中で静かに呟いてから────

「────父さんの……最期を教えてくれないか……?」

 アイリスは逸らしていた俺の顔を覗き込んできた。
 その結末をすでに知っているセイナとロナが、心配そうな様子で顔を見合わせる中、俺は重く閉ざしていた口を開いた。
 詳細を話している間、アイリスは相槌あいづちも打たずにじっと黙ったまま話しを聞いていた。

「すまない……アイリスの使っていたレミントンも、その時に落としてしまった……」

「そうか……面倒を掛けたよ……」

 決して喜怒哀楽、どの感情も表に出さないまま話しを聞き終えた彼女は、それ以上口を開くことは無かった。
 本当に……強い子だ……
 父を二度も失い、本当は世界中の誰よりも泣きたい状況なのにも関わらず、士気を落とさないために決してその感情を見せない姿勢は、まさにスナイパーの鏡のようなだった……
 でも今くらい、ここで泣いたっていいんだぞ……アイリス。
 お前は確かに今まで一人で戦ってきたかもしれない……だが今は俺達がいる。
 だから……少しくらい弱みを見せたっていいんだぞ……

「……アイリス……」

 恐らく同じことを考えたのか、心配そうなセイナがそう呟いていた。
 それ以降、誰一人として喋らないジープは密林を抜け、ベトナムの都市ハノイに着いたのは、それから数時間後だった。

「到着したよ……フォルテ」

 ハノイの中心街にそびえ立つ、見上げるほど大きな建物の前に車を止めたロナがそう呟いた。
 十時間近い運転を終えたばかりだというのに、文句の一つ二つ漏らすことなく静かにそう告げたロナも、今回ばかりは流石に空気を読んでいるのだろう。

「ここは……大使館か?」

 てっきり空港にばかり向かうと思っていた俺は、塀に囲まれた建物の中で揺れていたStars and Stripesを見て何となくそう思った。

「うん……ここならとりあえずは安心かと思って、あらかじめ連絡は取ってあったんだよね……ちょっと話しつけてくるからここで待ってて」

 そう言ってロナはエンジンをかけたまま運転席から降り、塀の前に居た警備員と短く話しをしてから、すぐに戻ってきて────

「入っていいけど車は隠してくれって言うから、三人は先に建物に入ってて」

 流石にベトナムの秘密の工場から盗んだジープが表に止められていては、アメリカの敷地内とは言え不味いのだろう。ロナの言葉に俺達三人は車を降りて、アメリカへと入国した。
 その安心感から、曇り空の下で思わずクラッとしかけた俺の身体を、横に居たセイナが支えてくれた。

「フォルテ、大丈夫?」

「あぁ……悪いな……」

 我ながら格好付かねえな……心配そうに見上げてきたセイナに精いっぱいの苦笑を浮かべていた俺の前から、一人の長身の男が歩いてきた。

「相変わらずボロボロのようですね、

「あれ……アナタは……?」

 まるで俺のことを知っているかのような口調で話しかけてきた、灰色のラインスーツを身に纏った三十代前半くらいの男にセイナが小首を傾げた。

「……もと……な、久しぶりだなレクス」

 顔を見ずとも声だけで判別できるかつての部下に、俺は辛うじて頭を上げつつそう答えた。
 セイナとアイリスの間くらいの金茶色の髪を遊ばせ、薄く伸ばした無精髭と高めの鼻。
 ネクタイをしていないワイシャツの第一ボタンは開けられてはいるものの、だらしなさを感じさせないハリウッド俳優顔負けので立ちは、元がイタリア人である彼だからこそと言えるのだろう。オサレ、ダンディを絵に書いたようなその男に、セイナは眼を瞬かせた。

「レクスって確か……元S.Tセブントリガーのトリガー5の?」

 そう言えば一か月前、アメリカでセイナ達のピンチをレクスが助けてくれたんだっけか?

「……?お嬢さん……どこかでお会いしましたか?ここまでうるわしい御方なら、私も忘れることは無いと思うのですが……」

 それに気づいていないレクスが、柔らかい物腰でそう告げた言葉に、、少し気恥ずかしそうにセイナは軽く頬を染めた。
 なんだよ、お前こういうのが好きなのか?
 確かにコイツのは、女性受けしそうではあるからな……リアルお嬢様であるセイナからしても、聞きなれたその言葉でも破壊力は底知れないらしい。
 その様子を見た俺は、何故かムッと来てしまう。いやホントになんでだよ俺?どこにそんな要素があったよ?

「い、一か月前はその、ありがとうございました。あの時は電話越しで、直接お礼を言えず……」

「一か月?それにその声はもしかして……?あの時の天使様ッ!?」

 ブラウンの瞳を見開いたレクスが────ザザッ……!!とまるで特殊部隊時代にやっていた、立ちから伏せに以降する時に使う、両膝スライディングで駆け寄ってきて……パシッ!セイナの両手を掴んだ。
 ここアスファルトの地面の上なのに……それをイタリアスーツでやるかね普通……

「ちょッ……!??」

 その変貌ぶりに度肝抜かれたセイナは、為されるがまま、手を握られて動けなくなっている。
 見た目はハリウッド俳優顔負けなレクスの一番の問題点……それは美女を前にした時に露見する性格の残念さだ。普段が真面目な正確な分、余計にタチが悪く見えてしまうのが実に勿体ない、言うなれば非常に残念な男。

「あの時、暗闇に包まれていた私の心に光を灯してくれた天使様とまさかこんなところで再開できるとは……!納期を守らないあのに呼び出された時は、気が進みませんでしたが、こうして再開できたのも何かの縁……!」

 なるほど……なんで国防総省ペンタゴンで働いているレクスがここにいるかと思っていたが、どうやら不真面目なCIA副長官ロナに呼ばれたらしい。

「いや、ちょ、その……フォルテも黙って見てないで助けなさいよ!」

 いや、俺にそう言われてもなぁ……
 相変わらずの部下の姿に俺が呆れていると、セイナは手を振り解き、俺の背中をギュッと掴み、ササッと背後に隠れてしまう。いや、何で俺のことを盾のように使うんだよ……あと地味に服の上から皮膚も一緒に掴んでて痛いんだが?
 まるで親の影に隠れる子供のような仕草を見たレクスが、何かに気づいたように両手を広げてかぶりを振った。

「あぁ……なるほど、相変わらず手が早いですね……隊長は……」

「だから元隊長な……俺のことはフォルテで構わない。あと、手が早いってのは何の話しだ?」

「では改めてフォルテと……いやーそういうところ気づいてない辺りが、モてる秘訣なんですかね……大丈夫だよお嬢さん、私は別にそういう気はないから……」

 何のことを言っているかさっぱりだが、俺よりも少し高身長なレクスは屈みこんでセイナを見た。

「いや……別にアタシは、その……」

 目線の高さに立たれたセイナは、少し動揺したような様子でそう告げた。
 なんだよまったく……会話の意味が分からん……

「────相変わらずだな……レクス……」

 俺達のやり取りを後ろで黙って聞いていたアイリスが、スッと一歩前に出た。相変わらずだと……?
 その含みのある言い回しに、レクスはダンディな顔を軽く破顔させた。

「お帰りアイリス……あまり結果は芳しくなかったらしいな……」

 ポンッ……と肩に置かれた手に、アイリスは顔を俯かせた。

「二人は知り合いだったのか……?」

 一日二日ではない、随分と慣れ親しんだそのやり取りに俺が首を傾げると、レクスはキョトンとした様子でこっちを見た。

「あれ隊長……じゃなくて、フォルテは俺達の関係をアイツに聞いてなかったのか?アイリスは俺の────」

「弟子だよ」

 横から銀髪のツインテールを靡かせながら、いつの間にか近くにいたロナがそう告げた。
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