SEVEN TRIGGER

匿名BB

文字の大きさ
356 / 361
神々に魅入られし淑女《タイムレス ラヴ》

仲間と共に《Bet my soul》16

しおりを挟む
「え────?」

 ボタボタっ、水風船が弾けたように紅いものを垂れ流す音に彩芽は瞳を丸くする。
 彼女は撃たれたのだ。
 急所でもある腹部の位置を。

「彩芽ッ!?」

 一体誰が撃った?混乱の中で駆け出そうとした俺の眼前で彩芽は再び撃たれた。
 二発目は肺の辺りをやられたらしく、彩芽は血の泡を吐き出しながら四つん這いに倒れる。

「────下らん」

 此の世の全てに対して告げるような傲慢不遜な低い声。
 ついさっきまで居なかったはずのは、未だ硝煙が立ち上る銃口をこちらに向けていた。

「復讐から解放された?違うな。その小娘は下らん同情とやらにかまけて本質を見失った愚か者に過ぎない。そんな覚悟だから絶好の復讐の機会も逃す上に私なぞに裏を掻かれるのだ、彩芽」

 闘いで荒れ果てたこの場にそぐわない、折り目正しい濃紺のスーツに身を包んだ初老の男。
 そのたった一人の人物に皆が眼を丸くする。
 淡々とした様子で相手を糺弾するその仕草は、一年近く前のあの時と何一つ変わっていなかった。

「ミチェル・ベアード!?どうしてここに、いや、何故貴様が生きている!?」

 収めていた銃を取り出して向けた先、ミチェルは持っていた銃口の代わりにギョロリと視線を向け返してくる。
 たったそれだけの仕草で、俺の全身は銃口を向けられるよりも遥かに重い緊張が圧し掛かってきた。
 細められた瞳孔にはオオカミだった時の狂気なごりがしっかりと宿っている。

『ミチェルだと?!あのクソったれがどうして生きてやがるんだ隊長!?』

『嘘でしょ?仮に生きていたとしてどうしてこんなところにいるのよ?』

 かつての宿敵の存在を明言したことにより、レクスやリズを含め、元部下達が口々に動揺を表している。
 その畏れは隣にいたセイナにも波紋していた。

「ミチェルってまさか、フォルテが以前話していたFBI長官のこと?確か崩落した連邦捜査局に巻き込まれたんじゃ……」

「それはえらく浅慮な発想だな、イギリスの王女よ。瓦礫に押し潰されたからといって人が死ぬとは限らない。本当に人が死ぬのは与えられた役割を果たした時だ。例えば、今もそこでムシケラみたいに這いつくばっている小娘のようにな」

 指の代わりに恐ろしいほど軽い仕草で銃口を差し向けるミチェル。
 命を何だとも思っていないような軽薄な態度に、俺の中で沸々と怒りが込み上げてくる。

「……ミ、チェル……どうし……て、裏切った……」

 今際の際から発せられたようなかすれ声は彩芽からのものだった。
 彩芽は未だ何が起きたのか把握できておらず、朦朧とする意識の中でぼんやりとミチェルの構える銃口の方を見ている。
 おそらくは警察時代の繋がりもあったのだろう……どうやら今回の騒動で彼女のバックについていたのはFBIだったらしい。

「なんだ、まだ生きていたのか死に損ない。お前の役割はとうの昔に終わったんだ……だからあの世でご両親に会わせてやろう」

「止めろミチェル!!」

 三発目の銃弾を彩芽に向けて放とうとしたミチェルに、俺が銃口を向けたまま叫ぶ。
 両者が引き金に指を掛けた瞬間、突然俺とセイナの横を凄まじい風圧を伴った何かが駆け抜けていく。
 あれはアイリスが放つ魔術弾マジックブレット
 螺旋に渦巻く竜巻の如きジャイロ回転によって威力を増した、7.62×51㎜NATO弾がミチェルへと差し迫る。
 だが────

『────外れた……っ!?』

 無線越しに聞こえたのは表情の乏しいアイリスからは想像もつかない驚愕の声。
 実際その事象を目の当たりにした俺もセイナも言葉を失っている。

『魔術防壁!?いや、もっと異質な空間の歪みを感じたにゃ』

 どうやらその道に詳しいベルですらも形容し難い事象だったらしい。
 有り体のまま語るなら銃弾は確かに命中した……が、激突した途端、何事も無かったかのように風圧は霧散してしまったのだ。
 もちろん、ミチェル本人は何事も無かったかのように佇んでいる。
 銃把を握りしめたまま。

「ボブやカルロス、そして彩芽。私の駒は全て貴様達に敗れた……だがその代わりに私はこの絶対的護りと絶対的破壊を手に入れた。魔科学弾頭という名の世界で唯一神であろうと抗うことのできない兵器をな」

「ウソよ!その魔科学弾頭には動力源である神の加護が足りていないと彩芽は言っていたわ。扱うことは不可能よ」

 隣のセイナが傍若無人な態度に反論する。
 確かに彼女の指摘通り、そうでなければ彩芽がわざわざ姿を晒してまで時間を稼ぐ理由にならないうえに、もし本当に使用できるのであれば、ミチェル自身も悠長に時間を浪費せずに発射していたはずだ。
 だが何故だろう……
 ミチェルの力強い言葉には有無を言わさぬ説得力が篭められている。
 大統領であると全く同じよう。

「半分正解で半分誤りだイギリスの王女。確かにまだ魔科学弾頭これは未完成品。だが扱うために必要なパーツは全てここに揃っているのだ」

 ミチェルの言葉を解する前に、奴は銃を持つ手とは反対の左手を地と並行に掲げる。
 一体何をする気だと、皆が身構えた眼前で既に変化は訪れていた。

「彩芽ッ!?」

 何も無かったはずの左手には、いつの間にか満身創痍の彩芽が掴まれていたのだ。
 スーツの袖から覗くその腕も人のものではなく、獣の如き艶やかな体毛と刃物のように尖った黒い鋭爪に姿形を変化していた。
 サイズ感まで以前対峙した時のような荒々しい姿ではない。
 人の体躯を保ったままミチェルは力も理性も完全に制御しはいしていた。

「グッ……ぅ……っ」

 細い首を鷲掴みにする指先が、白い肌へとどんどん食い込んでいく。
 撃たれた場所も致命傷である彩芽は抵抗することもままならない状態で、減少していく酸素の中を必死に喘いでいる。

「そう暴れるな……今ここで綺麗さっぱりラクにしてやる。お前の復讐も野望も全てな」

 血の滴る身体を掲げたまま、右手に持っていた銃口を彩芽の胸元へと押し付ける。
 俺を含め皆が一斉に銃を放つが、どうやっても銃弾はミチェルへは届かない。

『────皆んな伏せるにゃ!』

 銃弾の豪雨が降り注ぐ中、掛け声と共にベルの放ったRPG7が炸裂する。
 鮮烈な威力を物語る火柱と爆煙。
 彩芽も巻き込む危険はあっても、攻撃が通らないのであれば必要な火力だ。
 例え相手が戦車であろうとも耐えることはできないだろう。
 だが────

「嘘でしょ……ッ!?」

 撃ち尽くした空のマガジンを素早く交換しながらセイナは驚愕を顕にする。
 魔力によって精製された金属片と火薬が入り交じる爆風が晴れた先には、傷どころかシワ一つ見て取れないミチェルが口角を上げていたのだ。
 俺達全員の銃撃を以てしても、その見えないを貫通することはついぞ叶わなかった。

「最期だ。ここまで私達の野望の為に暗躍してくれた彩芽には真実を教えてやろう」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

「ただの経費削減ですが?」 銀河最弱の補給艦隊が、俺の「在庫管理」で最強になったようです

空木 架
SF
日本の企業で総務として働く星野明日虎(32歳)は、ある日突然、見知らぬ宇宙の帝国へと転移してしまう。彼が配属されたのは、整理整頓もままならない「銀河最弱」の補給艦隊だった! ひょんなことから戦艦の艦長に任命されてしまった明日虎だが、宇宙の戦い方など全く分からない。そこで彼が武器にしたのは、長年の社畜生活で培った「経費削減」と「在庫管理」のスキルだった。 「弾薬の無駄遣い禁止!」「エンジンはこまめに切れ!」――ただ徹底的なコストカットと業務効率化を推し進めただけなのに、それがなぜか「天才的な軍事戦略」として周囲に大勘違いされていく。 個性豊かな仲間たちと共に、最弱だった倉庫部門を最強の組織へと育て上げる、痛快・お仕事&成り上がりSFファンタジー! ※この作品は、「小説家になろう」「カクヨム」でも連載しています

俺は善人にはなれない

気衒い
ファンタジー
とある過去を持つ青年が異世界へ。しかし、神様が転生させてくれた訳でも誰かが王城に召喚した訳でもない。気が付いたら、森の中にいたという状況だった。その後、青年は優秀なステータスと珍しい固有スキルを武器に異世界を渡り歩いていく。そして、道中で沢山の者と出会い、様々な経験をした青年の周りにはいつしか多くの仲間達が集っていた。これはそんな青年が異世界で誰も成し得なかった偉業を達成する物語。

最弱無双は【スキルを創るスキル】だった⁈~レベルを犠牲に【スキルクリエイター】起動!!レベルが低くて使えないってどういうこと⁈~

華音 楓
ファンタジー
『ハロ~~~~~~~~!!地球の諸君!!僕は~~~~~~~~~~!!神…………デス!!』 たったこの一言から、すべてが始まった。 ある日突然、自称神の手によって世界に配られたスキルという名の才能。 そして自称神は、さらにダンジョンという名の迷宮を世界各地に出現させた。 それを期に、世界各国で作物は不作が発生し、地下資源などが枯渇。 ついにはダンジョンから齎される資源に依存せざるを得ない状況となってしまったのだった。 スキルとは祝福か、呪いか…… ダンジョン探索に命を懸ける人々の物語が今始まる!! 主人公【中村 剣斗】はそんな大災害に巻き込まれた一人であった。 ダンジョンはケントが勤めていた会社を飲み込み、その日のうちに無職となってしまう。 ケントは就職を諦め、【探索者】と呼ばれるダンジョンの資源回収を生業とする職業に就くことを決心する。 しかしケントに授けられたスキルは、【スキルクリエイター】という謎のスキル。 一応戦えはするものの、戦闘では役に立たづ、ついには訓練の際に組んだパーティーからも追い出されてしまう。 途方に暮れるケントは一人でも【探索者】としてやっていくことにした。 その後明かされる【スキルクリエイター】の秘密。 そして、世界存亡の危機。 全てがケントへと帰結するとき、物語が動き出した…… ※登場する人物・団体・名称はすべて現実世界とは全く関係がありません。この物語はフィクションでありファンタジーです。

ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜

KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞 ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。 諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。 そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。 捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。 腕には、守るべきメイドの少女。 眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。 ―――それは、ただの不運な落下のはずだった。 崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。 その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。 死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。 だが、その力の代償は、あまりにも大きい。 彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”―― つまり平和で自堕落な生活そのものだった。 これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、 守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、 いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。 ―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。

人生初めての旅先が異世界でした!? ~ 元の世界へ帰る方法探して異世界めぐり、家に帰るまでが旅行です。~(仮)

葵セナ
ファンタジー
 主人公 39歳フリーターが、初めての旅行に行こうと家を出たら何故か森の中?  管理神(神様)のミスで、異世界転移し見知らぬ森の中に…  不思議と持っていた一枚の紙を読み、元の世界に帰る方法を探して、異世界での冒険の始まり。   曖昧で、都合の良い魔法とスキルでを使い、異世界での冒険旅行? いったいどうなる!  ありがちな異世界物語と思いますが、暖かい目で見てやってください。  初めての作品なので誤字 脱字などおかしな所が出て来るかと思いますが、御容赦ください。(気が付けば修正していきます。)  ステータスも何処かで見たことあるような、似たり寄ったりの表示になっているかと思いますがどうか御容赦ください。よろしくお願いします。

異世界転生おじさんは最強とハーレムを極める

自ら
ファンタジー
定年を半年後に控えた凡庸なサラリーマン、佐藤健一(50歳)は、不慮の交通事故で人生を終える。目覚めた先で出会ったのは、自分の魂をトラックの前に落としたというミスをした女神リナリア。 その「お詫び」として、健一は剣と魔法の異世界へと30代後半の肉体で転生することになる。チート能力の選択を迫られ、彼はあらゆる経験から無限に成長できる**【無限成長(アンリミテッド・グロース)】**を選び取る。 異世界で早速遭遇したゴブリンを一撃で倒し、チート能力を実感した健一は、くたびれた人生を捨て、最強のセカンドライフを謳歌することを決意する。 定年間際のおじさんが、女神の気まぐれチートで異世界最強への道を歩み始める、転生ファンタジーの開幕。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...