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16 日常
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前世の俺にも、家族がいた。母子家庭育ちで、母と妹と3人で暮らしていた。
母は強い人で、一人で二人の子供を最後まで育て上げた。そこまでしてくれたのに、恩を返すこともなく俺は死んでしまったのだ。思い返せば思い返すほど不甲斐なさが募るばかりだから、自然と家族のことを考えないようにしていた。
……そういえば、仕事で出張に出る前日に妹と電話をしていたなぁ。『早く帰ってきてね』とか、珍しく可愛げのあることを言ってたっけ。心做しか声が弾んでいたから、俺に何か用事でもあったのかもしれない。いたずら好きな妹だったから、きっと俺に蛇のおもちゃでも渡すつもりだったのだろう。
けれどそんな幸せな時間は、永遠に来ない。
ごめんな、死んでしまって。家族のために生きると決めていたのに、結局何もできなかった。
出張前に最後に聞いた妹の声が、頭から離れなくなる。どうして今に限って、こんなこと思い出してしまうんだろう。俺よりももっと悲しむべき人が、家族においていかれた寂しい人が、すぐ隣りにいるというのに。
「悲しんでくれてるの?ありがとう。……ずっと一人でこの家にいたから寂しかったけど、今はとらまるが居てくれるから、寂しくない」
「……」
「明日、外に遊びにでも行こうか。うちの子になってから、あまり外に出ていないでしょ」
違うんだ。俺はただ、今更遠い過去を思い出しては、後悔していただけ。
……でも、そっか。俺の存在は大輝の支えになれてるんだ。そっかそっか。
俺も大輝がいるから寂しくないよ。といつか言える日が来るだろうか。……来ないと逆に困るな。早く普通に話せるようになりたい。
「この話は一旦終わり。火傷のこと忘れてるでしょ。手当するから、こっちに来て」
場の空気を変えるような大輝の声。手を引かれるがまま歩いていくと、ベッドまで誘導された。
「ベッドに座って、俺を見上げて」
「ん……んむむ」
言うとおりに顔を上げると、口に指を突っ込まれた。待て待て、いきなり塗るのか。突然だったからちょっとびっくりしちゃったよ。
大輝の指がぬるりと咥内をなぞる。今まで忘れていた痛みが蘇ってきて、視界が滲んできた。思ってたより痛い。
「……炎症しかけてるかもしれないな。鎮静剤だけじゃ心許ないか」
「んにゃ…、だいきぃ~、」
「口内炎の薬も塗っておこう。もっかい口開けて~」
ちょ、痛い痛い!優しく塗っても痛いものは痛いから!早く開放して!!舌って薬塗るときすごく痛いんだな。次は本当に気をつけないと。
痛いし、涙目になるし、うめき声をあげちゃうし。本当に情けない。あ、ちょっとだけ大輝の指噛んじゃったかも。
耐え難い痛みに目を固く閉じて耐える。猫の舌って刺激に弱かったりするんだろうか。
「あぐ…ん、っく」
部屋に自分のうめき声ばかり響いているから、早くこの時間を終えたい。
……って、薬塗るの長くない?一回目はこれぐらいで指抜いてくれたじゃん。
唾液を飲み込めないから、だんだん顎まで垂れてきているし。泣いてるし、ぐちゃぐちゃな顔になってそうなんだけど。
目を開けて第きの姿を確認しようとした瞬間、咥内の異物感が消えた。そして顔面に、なにか柔らかいものがぶつかってくる。
「うぶっ」
「変な声出すな、バカ!」
ぶつかってきたのは、大輝がたった今投げた枕だった。デジャヴ……!
え、なに、そんなに変な声出てた?割とショック。
っていうか、そんな声出すことになったのはお前がずっと俺の口の中に指突っ込んでいたからだろ。いくら俺の声が不快だったとしても、責任転嫁するなコノヤロ!
顔面の枕を退けて、大輝を睨んだ。なぜか薄っすら頬を染めている大輝は、俺と目が合うときまり悪そうに眉尻を下げた。
「大輝……?」
「も、もう寝ようか。睡眠が一番の薬だしな!」
露骨に話をそらされて、ムッとする。何だってんだ、いったい。
薬箱をしまいに行く彼の背中を見送りながら、俺はベッドに潜り込んだ。寝ろって言われたからな。仕返しも兼ねて、今日はこのベッドを占領してやる!
母は強い人で、一人で二人の子供を最後まで育て上げた。そこまでしてくれたのに、恩を返すこともなく俺は死んでしまったのだ。思い返せば思い返すほど不甲斐なさが募るばかりだから、自然と家族のことを考えないようにしていた。
……そういえば、仕事で出張に出る前日に妹と電話をしていたなぁ。『早く帰ってきてね』とか、珍しく可愛げのあることを言ってたっけ。心做しか声が弾んでいたから、俺に何か用事でもあったのかもしれない。いたずら好きな妹だったから、きっと俺に蛇のおもちゃでも渡すつもりだったのだろう。
けれどそんな幸せな時間は、永遠に来ない。
ごめんな、死んでしまって。家族のために生きると決めていたのに、結局何もできなかった。
出張前に最後に聞いた妹の声が、頭から離れなくなる。どうして今に限って、こんなこと思い出してしまうんだろう。俺よりももっと悲しむべき人が、家族においていかれた寂しい人が、すぐ隣りにいるというのに。
「悲しんでくれてるの?ありがとう。……ずっと一人でこの家にいたから寂しかったけど、今はとらまるが居てくれるから、寂しくない」
「……」
「明日、外に遊びにでも行こうか。うちの子になってから、あまり外に出ていないでしょ」
違うんだ。俺はただ、今更遠い過去を思い出しては、後悔していただけ。
……でも、そっか。俺の存在は大輝の支えになれてるんだ。そっかそっか。
俺も大輝がいるから寂しくないよ。といつか言える日が来るだろうか。……来ないと逆に困るな。早く普通に話せるようになりたい。
「この話は一旦終わり。火傷のこと忘れてるでしょ。手当するから、こっちに来て」
場の空気を変えるような大輝の声。手を引かれるがまま歩いていくと、ベッドまで誘導された。
「ベッドに座って、俺を見上げて」
「ん……んむむ」
言うとおりに顔を上げると、口に指を突っ込まれた。待て待て、いきなり塗るのか。突然だったからちょっとびっくりしちゃったよ。
大輝の指がぬるりと咥内をなぞる。今まで忘れていた痛みが蘇ってきて、視界が滲んできた。思ってたより痛い。
「……炎症しかけてるかもしれないな。鎮静剤だけじゃ心許ないか」
「んにゃ…、だいきぃ~、」
「口内炎の薬も塗っておこう。もっかい口開けて~」
ちょ、痛い痛い!優しく塗っても痛いものは痛いから!早く開放して!!舌って薬塗るときすごく痛いんだな。次は本当に気をつけないと。
痛いし、涙目になるし、うめき声をあげちゃうし。本当に情けない。あ、ちょっとだけ大輝の指噛んじゃったかも。
耐え難い痛みに目を固く閉じて耐える。猫の舌って刺激に弱かったりするんだろうか。
「あぐ…ん、っく」
部屋に自分のうめき声ばかり響いているから、早くこの時間を終えたい。
……って、薬塗るの長くない?一回目はこれぐらいで指抜いてくれたじゃん。
唾液を飲み込めないから、だんだん顎まで垂れてきているし。泣いてるし、ぐちゃぐちゃな顔になってそうなんだけど。
目を開けて第きの姿を確認しようとした瞬間、咥内の異物感が消えた。そして顔面に、なにか柔らかいものがぶつかってくる。
「うぶっ」
「変な声出すな、バカ!」
ぶつかってきたのは、大輝がたった今投げた枕だった。デジャヴ……!
え、なに、そんなに変な声出てた?割とショック。
っていうか、そんな声出すことになったのはお前がずっと俺の口の中に指突っ込んでいたからだろ。いくら俺の声が不快だったとしても、責任転嫁するなコノヤロ!
顔面の枕を退けて、大輝を睨んだ。なぜか薄っすら頬を染めている大輝は、俺と目が合うときまり悪そうに眉尻を下げた。
「大輝……?」
「も、もう寝ようか。睡眠が一番の薬だしな!」
露骨に話をそらされて、ムッとする。何だってんだ、いったい。
薬箱をしまいに行く彼の背中を見送りながら、俺はベッドに潜り込んだ。寝ろって言われたからな。仕返しも兼ねて、今日はこのベッドを占領してやる!
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