霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太

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三つ巴の駆け引き

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大広間に緊張が満ちていた。父上、レイモンド・ブラックソーン、そして僕。三者三様の思惑が交錯する中、交渉が始まろうとしていた。

「では、改めて交渉を始めましょう」

レイモンドが口火を切った。その表情には、先程までの余裕が消え、警戒心が見え隠れしていた。

「ヴァンガード当主殿。あなたの主張は理解しました。しかし、霧の力は一国で独占できるものではありません」

父上は冷ややかな笑みを浮かべた。

「シャドウクリフよ、その考えこそが間違いだ。霧の力はヴェイルミストの霊たちが生み出したもの。我が国の守護者たちの力だ」

「しかし、その力が周辺国に影響を及ぼす以上、我々にも発言権があるはずです」

レイモンドの言葉に、父上の表情が険しくなる。

「影響?貴国は自国の安全のために、我が国の領土を利用しようというのか?」

両者の言葉が激しくぶつかり合う。僕は、この状況をどう打開すべきか必死に考えていた。

「お二人とも、お待ちください」

僕は勇気を振り絞って割って入った。

「確かに、霧の力はヴェイルミストから生まれました。しかし、その影響は国境を超えて広がっています。だからこそ、共同で管理する必要があるのではないでしょうか」

父上とレイモンドは、驚いたように僕を見た。

「アリストン、お前は...」

父上の声には、怒りと共に、わずかな驚きが混じっていた。

「父上、レイモンド殿。私には、この地で霊たちと共に生きてきた経験があります。そして、シャドウクリフの懸念も理解しています」

僕は深呼吸をして続けた。

「だからこそ提案があります。ヴェイルミストを中立地帯として、三者共同で管理するのはどうでしょうか」

「中立地帯だと...?」

レイモンドが眉をひそめる。

「そうです。ヴェイルミストの主権は我が国に残しつつ、霧の力の管理には両国の代表者が参加する。そして、この地を平和的な交流の場とするのです」

父上が口を開いた。

「アリストン、そんなことをすれば、我が国の権益が...」

「いいえ、父上」僕は静かに、しかし力強く言った。「むしろ、これによって我が国の影響力は増すはずです。ヴェイルミストが両国の架け橋となれば、我が国の地位は更に高まるでしょう」

レイモンドがじっと僕を見つめる。

「なるほど...確かに興味深い提案だ。しかし、具体的にはどのような形で...」

僕は準備していた計画書を広げた。

「こちらをご覧ください。霧の力の研究施設、両国の叡智を結ぶ霧の塔、そして平和会議の開催地として、ヴェイルミストを整備していく計画です」

父上とレイモンドは、黙って計画書に目を通していく。

「これは...」

父上の声に、驚きの色が混じる。

「よく考えられているな」レイモンドが感心したように言った。

「もちろん、細部の調整は必要です」僕は続けた。「しかし、この方向性で進めれば、三者全てが利益を得られるはずです」

場の空気が、少しずつ変わっていく。対立から協調へ。

「アリストン」父上が静かに呼んだ。「お前は本当に成長したな」

その言葉に、胸が熱くなる。

「ヴァンガード当主殿」レイモンドが口を開いた。「あなたの息子の提案、検討の価値はあると思いませんか?」

父上はしばらく黙っていたが、やがてゆっくりと頷いた。

「...そうだな。アリストンの案を基に、具体的な協議を進めよう」

三者の合意が得られた瞬間だった。

「では、具体的な条項の詰めに入りましょう」

レイモンドが言い、父上も頷く。

その後の数時間、細かな条件の交渉が続いた。僕は、両者の意見を調整しながら、最適な解決策を模索し続けた。

夜も更けた頃、ようやく基本的な合意事項がまとまった。

「これで、暫定的な協定は結べたな」

父上が疲れた表情で言った。

「はい、素晴らしい進展です」レイモンドも満足げだ。

「あとは、両国の正式な承認を得て...」

僕の言葉を、突然の地鳴りが遮った。

「なっ...何だ!?」

窓の外を見ると、北の空が不気味に光っている。

「まさか...」

レイモンドの顔が青ざめた。

「どうしたんだ?」父上が問う。

「これは...」レイモンドは震える声で言った。「シャドウクリフの過激派が...」

その言葉が意味するものを理解した瞬間、僕の背筋が凍りついた。

平和的な解決を望まない勢力が、独自の行動を起こしたのだ。

せっかく結んだ協定が、今にも崩れ去ろうとしている。

「急いで現場に向かわなければ!」

僕は叫んだ。この危機を乗り越えなければ、全てが水の泡になってしまう。

三人は互いに顔を見合わせ、無言で頷いた。
新たな試練が待ち受ける中、僕たちは急いで北へと向かった。

ヴェイルミストの運命は、まだ予断を許さない状況に置かれていた。
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