霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

霧晴れし後の真実

目を覚ますと、そこは城の一室だった。柔らかな光が窓から差し込み、部屋を優しく照らしている。

「ここは...」

「目が覚めましたか、アリストン様」

エリザベスの声に、僕は顔を向けた。彼女の表情には安堵の色が浮かんでいる。

「エリザベス...みんなは？」

「無事です。レイモンド様も、他の皆も」

その言葉に、僕は安心のため息をついた。

「闇の霧は...？」

「おかげさまで、大部分が消え去りました。ただ...」

エリザベスの表情が曇る。

「ただ？」

「完全には消えていないんです。一部の地域に、まだ紫の霧が残っています」

僕はゆっくりと体を起こした。窓の外を見ると、確かにヴェイルミストの大半は晴れ渡っている。しかし、遠くの地平線に、かすかに紫の霧が見えた。

「そうか...」

その時、ドアが開く音がした。

「よく戻ってきたな、アリストン」

振り返ると、そこにはレイモンドが立っていた。その顔には疲労の色が見えるが、同時に安堵の表情も浮かんでいる。

「レイモンド...」

「お前が闇の霧と戦っている間、我々も必死だったぞ」レイモンドは僕のベッドの傍らに座った。「だが、お前の力のおかげで、最悪の事態は避けられた」

「みんなのおかげだ」僕は静かに答えた。「一人では、ここまで来られなかった」

レイモンドはうなずいた。しかし、その表情にはまだ何か言いたげな様子が見える。

「アリストン、話があるんだ」

「何だ？」

「闇の霧が晴れた後、我々は奇妙な発見をした」

レイモンドの声が低くなる。

「霧に覆われていた地域から、古代の遺跡が見つかったんだ」

「遺跡？」

「ああ。そして、そこには...お前の家系に関する記録があった」

僕は息を呑んだ。

「どういうことだ？」

レイモンドは深く息を吐いた。

「どうやら、ヴァンガード家は代々、霧の守護者の血を引いているらしい。そして、その力は...闇の霧を封印する鍵でもあるんだ」

僕は言葉を失った。家族のこと、そして自分の力のことを考えると、確かに納得できる部分もある。

「だが、それだけじゃない」レイモンドは続けた。「遺跡の中には、もっと驚くべき事実が記されていた」

「何だ？」

「闇の霧は...完全に消し去ることはできないらしい。なぜなら、それは世界の均衡を保つために必要な存在だからだ」

「均衡...」

僕は、闇の霧との戦いの中で見た光景を思い出した。確かに、完全な光の世界ではなく、光と闇のバランスが取れた世界...。

「つまり、私たちがすべきことは...」

「そう」レイモンドが頷く。「闇の霧を完全に消すのではなく、適切に制御し、世界の均衡を保つことだ」

僕は深く考え込んだ。これまで単純に「闇を倒す」と考えていたが、現実はもっと複雑だったのだ。

「でも、どうやって？」

その時、部屋の隅に霧が渦巻き始めた。

「若き守護者よ」

ヴァルデマールの姿が現れる。

「ヴァルデマールさん！」

「お前の真の試練は、これからだ」ヴァルデマールの声には、厳かな響きがあった。「光と闇のバランスを取り、世界の調和を保つこと。それこそが、霧の守護者の真の使命なのじゃ」

僕は静かに頷いた。

「分かりました。でも...どうすれば」

「古の知恵を学ぶのだ」ヴァルデマールが答える。「遺跡に眠る秘密を解き明かし、そしてお前自身の中にある力を更に引き出すのじゃ」

レイモンドが立ち上がった。

「私も全面的に協力しよう。シャドウクリフの力を借りて、遺跡の調査を進める」

エリザベスも前に出た。

「私たち研究者も、全力を尽くします」

僕は二人を見て、そしてヴァルデマールを見た。

「ありがとう、みんな」

僕はゆっくりと立ち上がった。体はまだ完全には回復していないが、心の中に新たな力が湧いてくるのを感じる。

「行こう。これが終わりじゃない。新たな始まりなんだ」

窓の外を見ると、晴れ渡った空の彼方に、かすかに紫の霧が見える。それは脅威でありながら、同時に世界の一部でもある。

僕たちの新たな旅が、今始まろうとしていた。光と闇のバランスを取り、真の平和を築く旅。

その時、突然部屋が揺れ始めた。

「なっ...！？」

窓の外を見ると、遠くの地平線に巨大な影が現れつつあった。

「まさか...」

レイモンドが息を呑む。

「闇の霧の本体が...完全な姿を現そうとしている」

僕は拳を握りしめた。

「行くぞ、みんな。最後の戦いだ」

こうして、僕たちの最終決戦への準備が、急ピッチで始まった。世界の運命を賭けた戦い。それは、単なる善悪の戦いではなく、調和を求める戦いになるだろう。

僕は深く息を吸い、決意を新たにした。

「必ず...この世界に、真の平和をもたらしてみせる」