霊感頼みの貴族家末男、追放先で出会った大悪霊と領地運営で成り上がる

とんでもニャー太

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静かなる嵐

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# 第45話:静かなる嵐

アリストンの消失から4ヶ月が経った頃、ヴェイルミストに異変が起き始めた。

朝、レイモンドが執務室に入ると、エリザベスが慌ただしく書類を整理していた。

「どうした?」

レイモンドが尋ねる。エリザベスは顔を上げ、疲れた表情で答えた。

「昨夜、北の村で事件がありました」

「事件?」

「はい。能力者の一人が...暴走したんです」

レイモンドは眉をひそめた。

「暴走?弱まっていたはずじゃなかったのか?」

「そうなんです。でも...」

エリザベスは言葉を選びながら続けた。

「弱まっていた力が、突然爆発的に強くなったようです。村の半分が、霧の渦に飲み込まれてしまいました」

レイモンドは息を呑んだ。

「被害は?」

「幸い、人的被害はありません。でも...」

エリザベスは窓の外を指さした。遠くに、紫色の渦が見える。

「あれが...北の村?」

レイモンドは信じられない思いで眺めていた。

「すぐに現地に向かおう」

二人が北の村に到着すると、そこには信じられない光景が広がっていた。建物の半分が霧の中に溶け込み、現実と非現実の境界が曖昧になっている。

「これは...」

レイモンドが言葉を失う中、村の長が近づいてきた。

「レイモンド様、エリザベス様、来てくださって感謝します」

「状況を教えてください」

エリザベスが尋ねた。

「昨夜、突然ジョンが...」

村長は震える声で説明を始めた。ジョンは、最近まで霧を少し動かせる程度の能力者だった。しかし昨夜、彼の力が突然暴走し、村の半分を霧の中に飲み込んでしまったのだ。

「ジョンは今どこに?」

レイモンドが尋ねる。

「あそこです」

村長が指さす先に、一人の若者が座り込んでいた。彼の周りには、薄い霧が渦を巻いている。

レイモンドが近づくと、ジョンは顔を上げた。その目には、恐怖と後悔の色が浮かんでいた。

「私は...何をしてしまったんだ」

ジョンの声は震えていた。

「落ち着け」

レイモンドは優しく声をかけた。

「アリストン様がいれば...」

ジョンの言葉に、レイモンドの胸が痛んだ。確かに、アリストンならこの状況をすぐに収束させられただろう。

その時、エリザベスが駆け寄ってきた。

「レイモンド、大変です!」

「何があった?」

「他の村でも、同じような事態が起きているという報告が...」

レイモンドは愕然とした。状況は、予想以上に深刻だった。

城に戻った二人は、緊急会議を開いた。エドガーも参加している。

「各地で能力者の暴走が起きています」

エリザベスが報告する。

「農作物にも異変が...」

エドガーが続けた。

「再び異常成長が始まっているそうだ。このままでは、収穫が困難になる可能性がある」

レイモンドは深くため息をついた。

「何が起きているんだ...」

エリザベスが静かに言った。

「私の仮説では...アリストン様がもたらした均衡が、崩れ始めているのかもしれません」

「どういうことだ?」

レイモンドが尋ねる。彼の目には、懸念と疲労の色が混じっていた。

「アリストン様は、自身の存在を消すことで世界の調和を取り戻そうとしました。しかし、その効果は一時的なものだったのかもしれません」

エリザベスの声には、自信と不安が入り混じっていた。彼女は窓の外を見つめ、遠くに広がる紫の霧を観察した。

エドガーが口を開いた。彼の表情には、兄としての責任感と、現状への焦りが見てとれた。

「つまり、再び世界が混沌に向かっているということか」

エリザベスは静かに頷いた。彼女の目には、研究者としての冷静さと、友人を失った悲しみが共存していた。

「では、どうすれば...」

レイモンドの言葉が途切れた時、突然城全体が揺れ始めた。

「なっ...!」

窓の外を見ると、空に大きな裂け目が開いていた。そこから、紫色の光が漏れ出している。

「まさか...」

エリザベスが息を呑む。

「闇の霧が...再び」

レイモンドは拳を握りしめた。アリストンがいない今、この危機にどう立ち向かえばいいのか。彼の心には、友への思いと、領民を守る責任が交錯していた。

その時、遠くの森から一陣の風が吹いてきた。それは、かすかに懐かしい香りを運んでいた。

「この匂いは...」

レイモンドが呟く。彼の目に、一瞬希望の光が宿った。

「まさか...」

エリザベスの目が輝いた。彼女の科学者としての直感が、何かを感じ取ったかのようだ。

二人の心に、小さな希望が芽生え始めた。それは、失われた友の存在を感じさせるかのような、不思議な感覚だった。

しかし、空の裂け目はどんどん大きくなっていく。

レイモンドとエリザベス、そしてエドガーは、決意の表情で互いを見つめた。アリストンがいなくても、彼らには守るべきものがある。友の意志を継ぎ、この危機を乗り越えなければならない。

その時、誰もが気づいていなかったが、森の奥深くで、一つの光が瞬いた。それは、失われたと思われていた希望の証なのか、それとも新たな脅威の予兆なのか。

ヴェイルミストの運命は、再び大きな転換点を迎えようとしていた。
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