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Story1 -slavely- 服従の糸口
Ⅰ
しおりを挟むヨダカは囲われている。
目には見えない冷たい鎖と有刺鉄線が張り巡らされた、愛のない箱庭で。
部屋から出る自由はなく、建物の外観も、他の部屋も、建物がどこにあるのかさえも、知らない。
外界との繋がりを絶たれた部屋で、唯一外の様子を伝えるのは、天井の中央部分にぽっかりと口を開けた、はめ殺しの小さな天窓だけだ。
それも、目を凝らさなければ分からない程小さい。日中か夜かを知らせるくらいには役に立つだろうか。
インターネットは排除され、外部との交信手段もない。財布やスマホなどの必需品は勿論、自分のルーツが分かるものは一切手元にない。
サトウの言葉通りなら、残らず廃棄されたのだろう。手元にあるのは、支給品の分厚い毛布が一枚だけだ。
ついこの間まで大学に通い、バイトに明け暮れていた、ありきたりで平凡な学生だった自分がまるで幻のようで、ヨダカは頭を抱える。
(何で、こんなことに………)
監禁当初は、毎日暴れて喧嘩を売り、出された食事を拒否して、出来る限りの抵抗をした。
何か脱出する手段がある、と信じていたし、誰かが助けてくれるはずだと思っていた。
そもそも悪い夢に違いない、と。
しかし、指折り数えて早240日。
何一つ変わらない毎日を重ねる中で、抵抗が何の意味もなさないことを嫌と言うほど思い知らされ、心は蝕まれていった。
あの、裕福ではなくても平凡な日々を思い出し、今でも涙が出ることがある。
しかし同時に、あれは幻だったのではないか、とも感じ始めている。それほど「ヨダカ」としての日々は濃く、強烈だった。
ヨダカには、専属の世話役と躾役がいる。
世話役は、頭に目指し帽を被った例の屈強な外国の男たちで、英語ではない異国語を話し、言葉や意思は全く通じない。
情が通じない相手のためか、反抗すれば、凄い力で押さえこんでくる。他愛のない雑談さえ一切できない。
彼らは屈強だが、初日以来、暴力や手出しは一切しない。ヨダカの飼い主や躾役から、強く禁じられているようだった。
そのため、ヨダカが暴れ始めると、すぐに拘束具を付け、食事を拒否すれば強制的に栄養剤を点滴し、あまりにも眠らなければ睡眠薬を投与した。
そうして、規則的な生活を徹底的に管理しようとした。
力では到底敵わない。
数人で押さえつけられるとどうしようもなく、次第に抵抗する意欲さえ毟り取られていった。
一方、躾役としてあてがわれたのは、自らをイトウと名乗る男だった。
サトウ同様に、編み上げ式のマスクを被り、常にかっちりとグレーのビジネススーツを着ている。
薄茶のゴム手袋に重ねた、革製の指が切れた手袋、高そうな革靴。いつも、靴のソールをカツカツと鳴らしながら、スラックスのポケットに手を突っ込み、気まぐれに鞭を振りながら気怠げにやって来るのだ。
ヨダカの奴隷化は、部屋の真ん中に設置したガラスとアルミのボウル、重い石で出来たボウルの3つの容器から始まった。
監禁された日に世話役が配置したボウル。
それは、まさか、ヨダカ自身のライフラインだった。
ガラスのボウルは脱糞排尿用、アルミは飲料水。石のボウルは食事用。ボウルは隣り合わせで三角形に並べて置かれた。
ルールは3つ。
全てのボウルの位置を動かさないこと。食事に手は使わないこと。排便は世話役が立ち会い、尻穴を拭いてもらうこと。
「そんな…!俺は犬じゃない!」
あまりにも屈辱的なルールに絶句した後、激昂するヨダカに、イトウは当然のように淡々と言う。
「お前は、奴隷であり家畜擬きだ。それを身を持って理解してもらう。お前は犬や豚と同類だから当たり前だろ」
「俺はそんなんじゃない!」
暴れ出そうとして、世話役にあっという間に制圧され、羽交い締めされたヨダカは、晒された股間をイトウに革靴で蹴り上げられた。
「くう、っ!」
「煩い、馬鹿犬。お前が何と思おうと勝手だが、サトウ様の奴隷だ。ま、我慢できるもんならやってみろよ。耐えられるもんならな」
イトウは、股間の痛みに悶絶するヨダカの顎を掴んだ。
「今回は特別に、これだけで許してやる。次はないぞ」
「ふざけんな…………!」
イトウは、それきり振り向くことなく部屋を出て行った。
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