隣の席のイケメンに懐かれた

しょうがやき

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隣の席のイケメンに懐かれた

文化祭

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新学期が始まると、まず席替えが行われた。
高峰と隣になるのはもう最後か。ちらりと隣を見ると、高峰は机に突っ伏していた。

高峰と喧嘩(?)してから、まともに話していない。それどころか、目も合わせていない。

くじを引き、新たな席につく。窓際の1番後ろの席だ。高峰は、廊下側の1番前だ。隣には、一軍の女子が座っている。
さっきまで机に突っ伏していたくせに、女子とは楽しそうになにか話してる。
一瞬感じた自分のドロっとした感情に驚く。
高峰から目を背けて窓の外を見た。


「あれ?柴ちゃんじゃん」


俺の前に座ったのは矢沢だった。
矢沢は俺の前の席になったらしい。


「高峰と離れちゃったねー。寂しい?」
「いや、別に……」


矢沢から顔を背ける。すると、矢沢がポンと俺の頭に手を置いた。


「嘘だ。どしたの柴ちゃん、高峰となんかあった?」


俺の嘘はつくづく分かりやすいらしい。
「お兄ちゃんに話してみなー」と矢沢は俺の頭を撫でる。
矢沢はいつのまにか、俺のお兄ちゃんと名乗ることが多くなっている。


「高峰も今日元気ないしさー。喧嘩とか?」


鋭い。あれは喧嘩と言えるのだろうか?
俺が一方的に怒っていた気がする。


「喧嘩、っていうか、俺が高峰に一方的に怒ってるっていうか」
「珍しいねー、柴ちゃんが怒るなんて。なにされたの?」


それにどう答えようか迷っていたところで、黒板の前に女子が立った。


「今日から文化祭準備期間です。役割を決めていきます」


そういえばそうだった。ちなみにうちのクラスは喫茶店だ。接客をする人は、執事服やメイド服を着るようだ。
まあ、俺は裏方を選ぶから関係のないことだけど。
役割はスムーズに決まり、俺は裏方、高峰と早川と矢沢は有無を言わさず接客にまわされていた。

そこから5日間、高峰とは話すことなく、文化祭の日を迎えた。



ーーーー



執事服を着せられた3人は言うまでもなく様になっている。教室の中で写真撮影大会が開催される始末だ。
そんな3人を眺めていると、高峰と目が合った。
俺はふいと目を逸らす。
こんなことしたいわけじゃないのに。
自分の天邪鬼さがイヤになる。

高峰の視界に入らないように、自分の持ち場についた。

しばらくすると、わらわらと人が増えてきて、あっという間に教室に設置してあった席は満席になった。
まあこの学校の「ビジュ強三銃士」がいるなら、当たり前か。
頼まれたメニューを裏方が用意し、それを接客担当の人がお客さんのところまで運ぶ、というシステムだ。


「柴野、カフェオレとコーヒー1つ」
「わかった」


早川に頼まれたものを準備し、渡す。
早川は、俺と高峰が今ギクシャクしていることにとっくに気づいていると思うが、なにも言ってこない。

高峰はというと、注文を他の裏方の人に頼んでいるようだった。
「近づくな」って言ったのは俺だけど、別にそのくらい俺に頼んでもいいのに……
と、身勝手なことを考えてしまう自分が嫌だ。
でも、高峰が他の人と話しているのはもっと嫌だ。
俺ってこんなにわがままだったっけ。


「柴ちゃーん。眉間に皺よってるよ」


そう言って、矢沢が俺の眉間を指で突いてきた。
いつのまにか難しい顔をしていたみたいだ。


「高峰とまだ仲直りしてないの?」
「……うん」


矢沢の言葉に頷いた。シュンとしている俺を矢沢が撫でる。


「柴ちゃん、担当何時まで?」
「11時だけど……」
「俺も一緒。ちょっと2人で話そ」


矢沢は「俺は柴ちゃんのお兄ちゃんだから」とニッと笑った。



ーーーー



11時になると、矢沢が「柴ちゃーん、行こー」と手を振った。俺は頷いて矢沢に駆け寄る。


「高峰も早川も終わんのあと1時間後なんだって。それまで2人で回ろ」
「うん」


ちらっと早川を見ると、にっこり微笑んで頷いた。
話してこい、ということらしい。

教室を出る前に、矢沢が指を立てた。


「柴ちゃん、今から走れる?」
「え、え、なに?」
「俺についてきて」


神妙な面持ちでいう矢沢に俺は頷くことしかできない。
教室を出ると矢沢は走り出した。
俺は慌ててそれについていく。
陸上部の人間についていくのは骨が折れた。

矢沢についていった先は屋上だった。
俺は息切れしながら矢沢に聞く。


「な、んで走ったの……」
「歩いてると女子に絡まれるからさー。柴ちゃんと2人で話せるの、早川たちのシフトが終わるまでの1時間しかないから。時間もったいないじゃん?」


なるほど、と頷く。それなら最初に言って欲しかった。
訳もわからず全力疾走はキツい。


「そんで、高峰と何があったの?」


矢沢は日陰になっているところに座り、俺に聞いた。
俺もその隣に座る。


「えっと……実は、俺、高峰と……」
「高峰と、なに?」


グッと拳を握りしめる。
意を決して口を開いた。


「キス……したんだよ」
「……まじ?」


矢沢は信じられない、という風に俺を見た。
俺だって信じられないよ。顔がブワァと熱くなっていくのを感じる。


「夏祭りの日に、あの茂みのベンチで……」
「え、あ、えっ?ま、マジかぁ……」


矢沢が混乱しているところは初めて見たかもしれない。


「ってことは、柴ちゃんはそれが嫌で怒ってたの?」
「それは、ちがう……と思う」


俺は何も考えられなくなっていたとはいえ、あのキスを受け入れた。それは紛れもない事実だ。


「じゃあ柴ちゃんは、高峰とキスするの、嫌じゃなかったんだ」


そういうことになるのか。
矢沢を見ると我が子を見守るような視線で俺を見た。


「嬉しかった?」
「うれっ……!?」


嬉しかったかどうかはまだわからない。ただ、あの胸の高鳴りと吸い寄せられるような高峰の瞳は目に焼きついて離れない。


「ドキドキした?もっかいしたいって思った?」
「ドキドキは……した。もっかいとか……考えたことない」
「じゃあ今考えて。高峰とキスしたいかどうか」


矢沢がずいっと寄ってくる。


「わかんないけど……したくなくはない、かな……」


赤くなる顔を思わず覆った。
俺何言ってるんだよ、ほんと。
そんな俺を見て矢沢はニヤッと笑った。


「したくなくはない、ってことはしたいってことじゃん」
「そ、そうなのかな……」
「そうでしかないよ。でも、そっかぁ。やっとだね、柴ちゃん」


矢沢はそう言って俺を撫でる。


「やっと、ってなにが?」
「なんでもないよ」


笑顔ではぐらかされた。
俺は知らなくてもいい、ということらしい。


「じゃあ、余計わかんないよ。なんで柴ちゃんが高峰に怒ってんのか」
「それは……高峰が、覚えてなかったんだよ。俺と、その、キス……したこと」


矢沢は納得したようにポンと手を打つ。矢沢の顔には笑みが広がった。


「それで怒ってんのかー。可愛いね、柴ちゃん」
「バカにしてる?」
「してないしてない。柴ちゃんがキスのことで色々考えこんでたのに、高峰がそれすら忘れてたから腹がたった、ってことね」


簡潔にまとめられた矢沢の言葉に頷いた。


「それで、高峰に『俺に近づくな』って言っちゃって……」


俺が一方的に怒鳴りつけたことを思い出し、落ち込む。
その頭を矢沢が撫でた。


「そういうことねー。よし、わかった。お兄ちゃんに任せて!」


立ち上がってニッと笑う矢沢は本当にお兄ちゃんみたいだった。
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