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1章
30 蝶の羽ばたき
しおりを挟む夕飯時になり、見ていた村のみんなは食事に去っていったが2人は作業を続けていて気付いた様子は無い。
集中しているセフィールとキールは時間を忘れて錬成を行っていた。
「おーい、セフィール、キール!食事行くぞ?」
「・・・え?あれ?みんなどこ行ったんだ?」
遠くで見てたはずの村の錬金術師達が居なくなっていた事に、ルークに声を掛けられて気が付いた。
「お前らに呆れて夕飯食いに出てったぞ。ほら、キールもいつまでやってんだよ。続きは明日だ!夕飯だ夕飯!!」
「ーーん?あぁ・・・。先生とルークは食事に行ってくれここまでやってから行く。」
「キール・・・お前もセフィール寄りの人間だったのか・・・。」
「そうだな、じゃあその一枚作ったらキールも一緒に食事に行こう!」
「ーーはいっ!!終わらせます!!」
セフィールとルークはキールが切りのいい所まで終わるのを見守り、終わった所で全部の材料をセフィールは回収した。
「おおっ!まさかの強制終了!!セフィールってよく分かんね~・・・。」
「ん?夕飯なんだろ?ルークをこれ以上待たせられないし、キールにはご飯たくさん食べて休んで貰わないと明日に響くしな。」
「休憩なしでやらせてた時は悪魔と思ったが、お前が思ってたよりとまともで良かったわ~。」
「??ーーさぁ!アオとクロもお腹を空かせているしみんなで食事処へ行くか!」
3人と2匹で以前行ったお店に行った。
「オレも先生達とご一緒して良かったのか?」
「今日は随分長い事付き合わせたからここは奢らせてくれ。ルークももっと早く言いたい事あったら言ってくれても良いから。」
「俺はお前の弟子?みたいなもんだし気にすんな。まぁ、他の奴が困っている様だったら教えてやっから。」
「頼むな、ルーク。」
「おう!頼まれた!」
今後の屋根の改修の事を話し合いながら、ウエイターが持ってきた料理を摘む。ルークはいつも通りエールを頼んでいる。
「キールさんには明日もチタン板を錬成して貰って、明日中には屋根を仕上げて貰おうと思います。キールさんは修復技術があるので、苦手意識無くせばステンレス鋼も問題なく作れると思うんです。それに今日の錬金術ずっと見ていましたがコツを掴んだらあっという間に純度の高い精錬を行う事が出来ていたので、近いうちに領主様が下さった納品作業の仕事に入って貰おうと思います。」
「コイツ真面目だからなぁ~やっぱ、修復だけでも錬金術真面目に続けてた奴は飲み込み早いな~・・・」
「っっ!?もう仕事させて貰えるのか!?粉骨砕身で務める!!」
「宜しく頼むね。ーールークも本当だったら早く覚えて欲しいんだけど、ルークは薬が得意だからそっちの方面で錬金術学んで貰おうと思うから、もう少し待ってて欲しい。ただ、領主様が下さった仕事が出来るまでの精錬作業と錬金術は教えるから。」
「俺は何があってもお前について行くからそこまで領主の仕事に拘っちゃ無いんだけどな。」
「でも、エール呑みたいんだろ?」
「そりゃあな。でも、お前について行くとなんか面白そうな気がするんだよ。だから、現実より冒険してみたいってヤツ?そんな感じ。」
「それはオレも分からんでは無いな。ルークは先生について行くと面白い事を目にする事が出来る予感の様なものを感じるのだろう?」
「あ、キールもそう思った?セフィール、そう言う事だから♪」
「よく分からんが、ルークが冒険者に憧れているのはなんとなく分かったよ。」
和やかに夕食の時間を終え明日の為に皆早めの就寝をした。
♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎♦︎
ミジュア王国 王城
「ウェリー男爵本日見せて頂いた旱魃の悪魔の死骸は廃ダンジョンに居たと言うのは本当なのですか!?」
クリストファー陛下・ドライド宰相・ウェリー男爵・アーサー騎士団長・メリダ魔法師長が集まった城の一室で最初に口火を切ったのは国を守る壮年の騎士団長であった。
「騎士団長、焦るのも分かるが陛下がいらっしゃるのだ。弁えろ。」
「良い宰相、ここは非公式の場だ。今は緊急の案件だ。国を守る騎士団長が気を急くのは仕方あるまい。ーーウェリー男爵、それであれはどういう事だ。詳しく説明しろ。」
「はっ!先程皆様にお見せしましたのは私の領、『オガルレ街』の近くに100年近く前からあった廃ダンジョンから現れた悪魔でございます。」
「100年近く前ですか・・・。確か、文献にも100年程前から大規模な旱魃が男爵の土地で周期的に起こる様になったんでしたな。これは偶然では無いのかも知れませんな・・・。」
「あれを倒したのは2名の錬金術師と連れている魔獣でございます。」
「錬金術師?あまりこの国には居なかったと思うが・・・。」
「2人ともフォルテム王国からの移民です。フォルテム王国は錬金術師を昔の法で囲っておりましたが、それが最近撤廃されこちらに流れて来たそうです。あちらは錬金術師差別が酷いらしく日々食う物にすら困っていた様です。錬金術師は攻撃魔法は無いに等しく、生活魔法すら満足に使えませんのでそれも差別の要因の一つであると思われます。」
「そんなのがどうやって、何度も兵や冒険者を向けても返り討ちにあった悪魔を倒せるのか知りたいのですわ~?よっぽど強い魔獣なのかしら~?」
頬に人差し指を添えて首を傾げ、疑いを視線に乗せ男爵を見やるメリダ魔術師長。
「確かに魔獣は強いのですが、それでもトドメを刺す事は出来ず2名の錬金術師達が討ち取りました。」
「出来るはずないでしょ~。陛下の前であんまりくだらない与太話続けるなら、魔法で男爵消し炭にしちゃうわよ~。」
「ウェリー男爵、其奴らはどうやって倒した?」
魔術師長を無視して陛下は男爵に話の続きをする様促す。
男爵は2人が錬金術の為の鉱物探しで廃ダンジョンに潜っていたことや、どこでどの様に悪魔が現れたのかと言うこと、現れた場所にあった鉱物で槍を錬成して倒した事を説明した。
「・・・確かにあの様な大きい者を倒すのに魔法や通常の武器では不可能だな。あの部屋の中で尚且つ錬金術師じゃ無いと倒せなかったと言うことか・・・。私もまだまだ考えが浅いな。」
「そんなに早く錬金術って出来るの?聞いた事ないんだけど~?」
「恐らく錬金術を行った1人が異常な速度で錬金術を使えるというだけだと思います。陛下にお渡ししたコップですが彼が私の目の前ですぐに作ってしまった物でございます。他の物は翌朝朝食前までに思い立って作ったと聞いております。」
「ウェリー男爵、陛下に献上したあの銀色のコップや燭台は何で出来ているのか聞いて良いですかな?銀ではないでしょう?」
「あれは悪魔にトドメを刺した槍と同じ素材で出来ております。名をチタンと呼ぶそうで、錆びにくく強く鉄より軽いのです。その上他の金属と異なり不純物を完全に取り除けば、装飾品として身に付けていても肌に炎症を起こす事が無いそうです。」
「鉄より軽くて丈夫で錆びにくいとか軍の増強に最適ですな・・・。これはどうしたものか・・・。」
宰相と騎士団長が唾を飲み込んだ。
「それから我が領の特産品としてコップを他国に売り出そうと思っております。あのコップは真空断熱コップで熱いものは冷めにくく、冷たいものは温くなりにくいんです。」
「あれにその様な・・・。献上品は良き品だと分かったが男爵、他国に先に売り出そうなどとは頂けぬな。宰相どう思う?」
「ウェリー男爵、チタンで出来た品は最初に我が国の貴族にお売りください。先ずは我が国の特産品としてお広め下さい。広まった後、それから国外の取り引き用に特別な品を作って頂きそれを高値で貿易を行なって頂きたい。我が国で採れた資源をみすみす大して仲の良い訳ですら無い国に売る必要はありますまい。」
「しかし、折角我が領土で採れた金になる話を国に潰されましたら、悪魔を倒した錬金術師になにを返して良いものやら・・・。私が雇った錬金術師達が他国に行ってしまうやもしれませんな・・・。」
「ウェリー男爵!!貴様陛下を脅しになるかっっ!!」
「やっぱり消し炭にした方が良いんじゃな~い?」
「ウェリー男爵ーーで、何が欲しいのだ?申してみよ。」
「彼らは廃ダンジョンの鉱物が欲しいので、国内にある全ての廃ダンジョンの諸有権を頂ければと・・・」
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