11 / 17
【R15・ショートショート】黒い環のある密室
しおりを挟む
「ここが予約のとれない店?」
知る人ぞ知る看板のない店。
その個室に通された男は部屋をぐるりと見渡す。
赤墨色の壁。足元に冷えた空気が忍び寄る金属の床。黒漆塗りのテーブルの向こうの壁には黒く丸い形の窓枠が切ってあり、障子が嵌め込まれている。
部屋の造りから和食……いや、中華の店かなと男は考えた。
「そう。最低半年待ちなのにあちこちに頼んで今日入れて貰ったの」
細い下がり眉の女が媚びた微笑を返す。
「ふん。マズい時は……わかってるよな?」
「……ええ。この店は安心よ」
背の高い硬質な黒い椅子に腰掛けると、無表情の給仕が最初に運んだ料理はカルパッチョだった。
鯛の上にコショウボクの粒、緑のディル、輪切りにされた黒オリーブが散らされている。
男は給仕には愛想よくして見せたが、彼が去った途端に吐き捨てるように呟いた。
「……なんだ。イタリアンかよ」
男の声に女はびくりと小さく肩を揺らす。条件反射だ。
青白い顔は更に血の気を失い、昨夜蹴られた腹の痛みが疼く。
女が俯くと黒オリーブが目に映る。先程までテラテラと美味しそうに光っていた黒い環は、もう無機物にしか見えない。
「そう言わずに食べてみて……」
やっと絞り出した言葉に男は鯛の身を口に運んだが、直後ワザと派手な音を立てて立ち上がった。女の肩がまた揺れる。
「……お客様、何か?」
いつの間にか横にいた給仕に男はどきりとした。急いで笑顔を貼りつける。
「いや、水を頼む。炭酸水が良い」
「かしこまりました」
給仕が去ると男は素早く出口に近づいた。この部屋に入った時内側から鍵がかけられることに気づいていたのだ。
「さっき言ったよな?」
女は俯き震えており顔が見えない。男はその目に嗜虐心を隠さぬまま扉を閉め、鍵をかけ密室を作る。
バチッ!
鍵を回した瞬間、小さく弾けるような音と共に男の右手が焼けただれ全身に電流が巡る。激痛に男がくずおれると、閉めた筈の鍵が反対側から回され、厚手のゴム手袋をした給仕がドアを開けた。
「なっ……」
回復する間を許さず、男は椅子に座らされ黒い手錠で後ろ手に拘束された。
「くっ……あははは!」
女が笑い出す。震えていたのは笑いを堪えていたのだ。
「なんの真似だ!」
「ここはね、黒い環の店なの。私みたいな女が耐えられずに駆け込んで、貴方みたいな男で遊ぶのが好きっていう特殊な人達に紹介するのよ」
女は障子を開ける。そこは窓ではなくこれから男に使う為の道具がズラリと納められていた。
知る人ぞ知る看板のない店。
その個室に通された男は部屋をぐるりと見渡す。
赤墨色の壁。足元に冷えた空気が忍び寄る金属の床。黒漆塗りのテーブルの向こうの壁には黒く丸い形の窓枠が切ってあり、障子が嵌め込まれている。
部屋の造りから和食……いや、中華の店かなと男は考えた。
「そう。最低半年待ちなのにあちこちに頼んで今日入れて貰ったの」
細い下がり眉の女が媚びた微笑を返す。
「ふん。マズい時は……わかってるよな?」
「……ええ。この店は安心よ」
背の高い硬質な黒い椅子に腰掛けると、無表情の給仕が最初に運んだ料理はカルパッチョだった。
鯛の上にコショウボクの粒、緑のディル、輪切りにされた黒オリーブが散らされている。
男は給仕には愛想よくして見せたが、彼が去った途端に吐き捨てるように呟いた。
「……なんだ。イタリアンかよ」
男の声に女はびくりと小さく肩を揺らす。条件反射だ。
青白い顔は更に血の気を失い、昨夜蹴られた腹の痛みが疼く。
女が俯くと黒オリーブが目に映る。先程までテラテラと美味しそうに光っていた黒い環は、もう無機物にしか見えない。
「そう言わずに食べてみて……」
やっと絞り出した言葉に男は鯛の身を口に運んだが、直後ワザと派手な音を立てて立ち上がった。女の肩がまた揺れる。
「……お客様、何か?」
いつの間にか横にいた給仕に男はどきりとした。急いで笑顔を貼りつける。
「いや、水を頼む。炭酸水が良い」
「かしこまりました」
給仕が去ると男は素早く出口に近づいた。この部屋に入った時内側から鍵がかけられることに気づいていたのだ。
「さっき言ったよな?」
女は俯き震えており顔が見えない。男はその目に嗜虐心を隠さぬまま扉を閉め、鍵をかけ密室を作る。
バチッ!
鍵を回した瞬間、小さく弾けるような音と共に男の右手が焼けただれ全身に電流が巡る。激痛に男がくずおれると、閉めた筈の鍵が反対側から回され、厚手のゴム手袋をした給仕がドアを開けた。
「なっ……」
回復する間を許さず、男は椅子に座らされ黒い手錠で後ろ手に拘束された。
「くっ……あははは!」
女が笑い出す。震えていたのは笑いを堪えていたのだ。
「なんの真似だ!」
「ここはね、黒い環の店なの。私みたいな女が耐えられずに駆け込んで、貴方みたいな男で遊ぶのが好きっていう特殊な人達に紹介するのよ」
女は障子を開ける。そこは窓ではなくこれから男に使う為の道具がズラリと納められていた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
洒落にならない怖い話【短編集】
鍵谷端哉
ホラー
その「ゾワッ」は、あなたのすぐ隣にある。
意味が分かると凍りつく話から、理不尽に追い詰められる怪異まで。
隙間時間に読める短編ながら、読後の静寂が怖くなる。 洒落にならない実話風・創作ホラー短編集。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。
ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。
真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。
引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。
偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。
ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。
優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。
大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる