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【本編】
14話/ セオドア兄ちゃんとカレン姉ちゃんは苦労人である
しおりを挟む「二人も……?……あっ」
ディアナはすぐに気がつきました。二人のうち一人はあの後すぐにドアを叩いたフェリア。
そして、本来はフェリアがドアの前で盗み聞きなどできない筈です。しかし、それを許したのは……。
ディアナの真紅の瞳がキラリとします。
「……ドアの前の、護衛の兵士!!」
ディアナの答えに、王子と従者が笑顔で頷きます。
「そう。昔の経験から僕の護衛は買収などされないように気を付けていた筈だ。それなのにこんな事が起きるのは、フェリア嬢と王家の人間が……それも小者ではなく僕の命令を覆せるような力をもつ人物と繋がっているとしか思えない。お陰で彼女を幾ら調べても情報が一切上がってこない理由がわかってホッとしたよ」
ディアナは感心しながらも、自分が蚊帳の外でいた事をちょっぴりだけ悔しく思いました。うらめしそうにカレンを眺めながら言います。
「カレンはその時は全然知らんかったんでしょ? いつ気づいたん?」
「私がヘリオス様の仕業だと気づいたのもお嬢様がきっかけですよ。ハーブティーを召し上がりながら話していた時です」
「ああ、あの(ホンマにきっしょい! って言うてた)時ね」
「以前外様の令嬢達が、フェリア嬢がヘリオス様と話す時は口元を隠していると言っていたでしょう? 彼女らはあざとい仕草だと批判していましたけど」
カレンがその時を真似て両の拳を並べて口元を隠して見せます。
「エドワード殿下とご一緒の時にはそんな素振りを見せなかったので、唇の動きを読まれるとまずいような会話をしているのだと気づいたのです」
「はぁ、そうか……。カレンなら声が聞こえなくても遠くから見て、唇の動きで大体何言うてるのかわかるから……」
「ええ。ヘリオス様がこの婚約を潰そうと狙っているのまではわかりましたが、まさか王家まで一枚噛んでいるとは予想できませんでした。その事はセオドア様から情報を頂いたのです」
「えっいつ!?」
「つい先日です。今週はヘリオス様ができるだけ長くフェリア嬢に接触すれば"ご褒美"を差し上げる事にしましたからね。ヘリオス様がはりきってフェリア嬢を探る演技をしている間に、こちらも殿下側と接触したんですよ」
セオドアが口を挟みます。
「もっとも、疑われないようにアレス殿に手紙を託すのが精一杯でしたけどね。アレス殿は二度もカレン殿を口説く事になったわけです」
「ノーキン様には申し訳ないことをしましたわ。誰が見ているかわからなかったので仕方なかったんです。何せこちらは私以外の公爵家の人間は全員ヘリオス様の手先と思った方が良い状況でしたもの。お嬢様の今日のドレスの色も筒抜けだったでしょう?」
「!……侍女の中に!? お兄ちゃん、そこまでやるか……ていうかなんでこんな手の込んだ事を……」
「「「それは……」」」
ディアナが頭を抱えながら言うと、その場の三人が口を開きかけ、従者の二人はその口を閉じます。エドワード王子が美しい笑顔で言います。
「それはディアナがとても可愛いからだ。君が望まぬ結婚などさせたくなかったんだろう」
「可愛……っ!……ななななにを……」
「まあお嬢様。そんなに動揺されることですか? 貴女は私の知る中で一番可愛く美しい存在です、と小さな頃から私も申し上げていたでしょう?」
「カレンとか公爵家の皆が贔屓目で言うのと、殿下が言うのとはちゃうもん!」
恥ずかしさに赤く染まった顔を見せまいとするディアナを、子供をあやすかのように軽く抱いて背中を撫でるカレン。それを嬉しさ半分、羨ましさ半分で眺めるエドワード王子。苦笑するセオドア。
「はぁ。まさか学園で"氷漬けの赤い薔薇姫"と異名を取り、周りを寄せ付けぬ冷たさと美貌を持つ姫君が『可愛い』と言われただけでその氷が融けてしまうとはねぇ。まぁそれも悪くはないですが」
「何よその"氷漬けの赤い薔薇姫"て恥ずかしい呼び名! 皆が勝手に呼んでただけでしょ? 私、そんなん知らんし! それに……それに殿下に『可愛い』て言われたのはこれが初めてやし……」
「「え!?」」
ディアナが恥ずかしさに耐えながら返答するのを微笑ましく聞いていた王子とその従者は、最後の言葉にサッと表情を変えます。
王子は顔色を失って脂汗を垂らし、従者は頭上に雷雲でも広がっているかのように顔に陰がかかっています。
「殿下……まさか、これまで一度もディアナ殿を口説いたり、誉めたりされてないんですか……? 二人きりになるように、お茶のテーブルから僕達が距離を取った時も……?」
(あれ……なんだかデジャヴのような?)
セオドアの迫力に慌てて両手を広げ弁解するエドワード王子。
「いやしかし、ディアナはそういう話よりも異国とか地方の話の方が好きでな。そんな時は赤い瞳がまるで朝露を抱く薔薇のようにキラキラするんだ。ほ、ほら、相手が喜ぶ話をするのが基本だろう?」
(朝露を抱く薔薇のようて……それ多分……)
(お嬢様……お金になるアイデアのヒントを貰って、瞳がキラキラしてた時ですよね)
王子の言葉に、何とも言えない気持ちになって目だけで会話するディアナとカレン。その横で笑顔のまま王子を責め立てるセオドア。
「だからって少しも婚約者の美しさを誉めないなんてどうかしてます! このヘタレ王子!」
「い、いや! 誤解だ! セオ。お前も聞いたことがある筈だ。最初の挨拶で『今日も麗しいな、ディアナ』と何度か言った事がある!」
カレンが不敬ギリギリの態度で、はぁ……と溜め息をつきつつ言います。
「……恐れながら殿下、それはノーカウントでしょう。どう聞いても社交辞令ですもの」
セオドアが顔に陰をかけたままで王子に詰め寄ります。
「そうですね。挨拶の時ならディアナ殿には全く響いていなかったと記憶しています。大体それくらいなら今の王妃にも、他の貴族の奥方様やご令嬢やらにも普段平気で言ってるじゃないですか!」
「……中身が! 心のこめ方が違うんだ!!」
「そんなの伝わるわけないでしょう!! このヘタレ! そりゃ陛下も心配してこんな馬鹿馬鹿しい賭けに乗るわけだ!!」
「ふふふ……あ、伝わらないと言えば。お嬢様、今こそあの事を聞いた方が良いかもしれませんね?」
楽しそうにいたずらっぽく言ったカレンの言葉に、ディアナはすぐに何の事か思い当たります。
「……あの、特別室で『僕がこの数日で奇妙な……』て言うてた件? あれ、でも……」
「!!」
エドワード王子の動きがピタリと止まります。セオドアは今日一番の大きなため息を吐き出しました。
「はぁ……。ほら! だから! あれじゃあディアナ殿には気づいて貰えないのではって言ったじゃないですか! それで今日になって急に求婚し抱きしめるとか、順番がおかしいでしょう! ヘタレを通り越して男としてあり得ない存在ですよ!」
「いや、求婚を受けてくれたからこっちの気持ちは伝わってるものだとばかり……それに、あの時は盗み聞きされてたから本当の事は言えなかったし仕方なく……」
「じゃあせめて今、男らしく決めてください!」
「……」
「???」
ぼろくそに言われ、若干しゅんとしてディアナの方に一歩進みでる王子。
ディアナは事情を飲み込めず頭の中に疑問符を浮かべたまま、カレンによって王子の前に押し出されます。
「あ、ええ……うん、ディアナ」
「はい。殿下?」
王子は腕組みをして、指を上げ下げしながらあの時の言葉を再び口にします。
「"君は僕がこのすう日で奇妙な事をしていると思うだろうが、ずっと前から考えていた"」
「え……っ」
「ディアナ、君が好きだ ずっと前から」
「……いつから……?」
四度真っ赤になり、その後の言葉を続けることができずに口元を覆い、王子を見上げるディアナ。
そのディアナを見つめ、こちらも頬を染めて言葉に詰まるエドワード王子。
そのシルエットが月あかりに照らされ、まるで恋愛小説を彩る挿し絵のように美しい二人。その様子を眺めながら、少し距離を取った其々の従者は蚊の鳴くような小声で囁きあいました。
「やれやれ……これが皆の前でひざまづいて求婚までしてみせた男女の会話とはね……今更すぎませんか?」
「初々しいのはとても良いですけど……国民にはちょっと見せられませんわね」
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