ヘタレ王子「今日は婚約破棄には日が悪い」外面令嬢(はよ言えボケ、慰謝料請求したるわ)

黒星★チーコ

文字の大きさ
19 / 27
【番外編&おまけ】

こぼれ話その1【前編】/ 公爵令息は妹の従者にずっと連戦連敗である

しおりを挟む
【前書き】
前編の時間軸は、二人が小さい頃です。

===================

 
「カレン! お前従者のくせに生意気だぞ!」

「違うもん! 私を従者扱いして良いんはディアナお嬢様だけやもん! ヘリオス様なんて大嫌い! あっちいって!」

「なにっ……!?」

 カレンの言葉にカッとなるヘリオス少年。普段は子供らしくない冷静沈着な態度で居るのですが、思わず拳をぎゅっと握ります。

「やー!!」

「うっ……」

 そこにヘリオスへどすんとぶつかる。ぶつかった拍子にヘリオスの呻き声が漏れ、の銀糸のような髪の毛と身につけたドレスのスカートがふわりと広がりました。

やーや! ケンカせんといて!」

 ヘリオスがそのを見下ろすと、磁器人形のように可愛らしい妹が赤いつり目に涙を溜め、口をへの字にしてこちらを見上げています。

「ディアナ……」

「お嬢様!」

「お兄ちゃんも、カレンも、仲良うして……ううっ」

 そこまで言った妹の口元がわななき、遂に涙がポロリとこぼれ落ちました。

「ごっ……誤解だよ! 仲悪くないよな? カレン!」

「そうです! ヘリオス様と私はめっちゃ仲良しですよー! ほらねっ」

 慌てたふたりはディアナの前で手を繋いでぶんぶんと振って見せます。
涙に濡れた目をぱちぱちさせて訊くディアナ。

「ほんま……?」

「本当だ!」

「ホンマにホンマです!」

「……良かった~。どないしよと思ったぁ……」

「「!」」

 赤いほっぺたを緩ませ、涙声でふにゃりと笑顔になるディアナ。それを見たヘリオスは複雑な気持ちになります。

(クソっ、めっちゃ可愛いな。コレじゃ八つ当たりもできひん……って、おい、カレン?!)

 ディアナの笑顔に心を撃ち抜かれたカレンはヘリオスの手を振りほどいて駆け出し、がばりとディアナを抱きしめます。

「天使……! うちのお嬢は世界一優しくて美しくて可愛い!! 天使過ぎるっ……!」

「カレン……なんで泣いてんの? どっか痛いん?」

「心臓ですー! キュンキュンしてますー!」

「?……だいじょうぶ? とんとんしよか?」

「うああああ! 可愛いっ!!」

 涙が引っ込み、不思議そうな顔をしたディアナをそのまま抱き上げるカレン。この歳で既に厳しい訓練を重ねているためか、10センチも身長差の無いディアナを軽々と持ち上げてみせます。

「さっ、あっちで涙を拭いて、ちーんして、お顔をキレイキレイしましょうねっ」

「うっ、うん……?」

「あっ、カレン……」

 呼び止めようとするヘリオスの声が聞こえないのか、それともわざとなのか、カレンはディアナを抱えたままさっさと遠くへ行ってしまいました。

「クソっ……あいつ腹立つ…………」

 そう言いながら、先程まで繋いでいた右手をじっと見つめるヘリオスの後ろから、世話係の侍女ドロランダがそっと現れます。

ボン、手がどうかされました?」

「わあっ!?……いっ、いや何でもない! それから"坊"はやめろ!」

「失礼致しました"ヘリオス様"。……おや、カレンは?」

 少しだけムッとして返答するヘリオス。

「またディアナの世話を焼きにいったよ」

「あらあら、まあ。カレンはお嬢様を溺愛してますからねぇ」

「でもシノビならさ、僕に従うべきだろ!? 僕は将来父上の跡を継いで公爵になるんだから。それなのにカレンは僕に言い返すばっかりで生意気なんだよ……」

 ドロランダは目をぱちくりさせました。

「ヘリオス様、カレンに何を命じたんですか?」

「え?……いつもディアナの為に働いてるか、訓練してるかのどっちかだろう? だから『たまには息抜きをしろ』って言ったんだよ」

「ふふっ。そんなお優しい事を言ったのに、何故あんな言い合いに発展するんでしょうね?」

「聞いてたのか!? じゃあわざわざ訊くなよ!」

 ドロランダは目だけでニヤッとしながらも優しい口調で返します。

「いいえ。最初は聞こえませんでしたよ。ヘリオス様とカレンが勝手に大声で言い合いをし始めたので、私のいる所まで声が届いただけです。……でも、ヘリオス様? 嘘は良くないですね」

「何が?!嘘なんて……」

「そういう時は素直さが肝心ですよ。『息抜きをしろ』ではなく、『たまには僕とも遊んでくれ』と言わなくては」

「は?…………はぁ!?!?」

 ところで、ヘリオスは誰もが認める美少年です。
先程カレンはディアナを天使と讃えましたが、その兄の外見こそ多くの貴族に『天使のよう』と例えられ誉めそやされ、軽く愛想笑いをすれば皆がつられて笑顔になり、あちこちから誘いを受け、時には絵のモデルを求められる程の人気ぶりです。

 太陽を連想させる美しい黄金の髪。青い目はグレーが入りやや曇天気味ではあるものの、何故か見るものが引き込まれる空を思わせます。
 恐ろしいほど整った顔立ちは愛らしさと美しさに理知的な面も混じっており、その白い肌はきめ細かく艶があり白磁のようです。

 そして、その白磁のような美しいヘリオスの頬が今は少し朱に染まっています。

「ドロランダ!……僕を馬鹿にする気か!?」

「まさか! ヘリオス様は私の大事なお坊っちゃまですからね。……そうそう。僭越ながらこの私めが大事なことをふたつ申し上げたいのですが宜しいでしょうか?」

「なんだ!?」

「ひとつ目は、ヘリオス様がシノビを将来使うのならシノビについての知識と理解が必要という事です。は組織的に動きますが、単独行動を許されている者はあるじを持つ者が多いのです」

 ヘリオスとディアナの世話係、そしてシノビとして主のアキンドー公爵に仕えるドロランダは微笑んで続けます。

「そういったシノビは常に主の為を考えて動きます。主の命令は基本的に絶対服従ですが、その命令が主自身を脅かすものであれば敢えて諫言をする者もいるほどです。カレンは生まれた時からのシノビです。もうあの歳で"主とは何か"を肌で理解しているのです」

「……」
(あれは諫言ではなく反発だった……。僕はまだ、あいつに主だと認めて貰えないと言うことか)

 ヘリオスは苦い顔で下唇を噛みました。
ドロランダは自分が匂わせた内容をきちんと理解した様子のヘリオスの聡明さに感心と満足の笑みを浮かべ、話を切り替えます。

「ではふたつ目です。……これは相手がシノビですとか、女性であるか等とは全く関係ないのですが。例えば、これから仲良くしたいと思う人間との距離を縮めるためにはどうしたら良いと思いますか?」

「話すとか、贈り物とか?」

「そうですね。まずは話し合うこと。中でも劇的に効果があるのは"共通の敵が存在すると相手に認識させること"です。敵の敵は味方というでしょう?」

「!!」

「しかしこれは毒を薄めて薬として使うような物で、劇的に効果はありますが長続きしなかったり、デメリットが付いてきたりします。そこでお薦めは"共通の趣味があると相手に認識させること"です」

「しかし、あいつに趣味なんて………あ。」

「ふふふ。趣味とは、何も遊びや特技に限りません。好みや愛でる物も含みますね?」

「……ディアナか」

「そうですよ。ディアナお嬢様に嫉妬したり八つ当たりをしても逆効果です。お嬢様と一緒に三人で楽しく過ごせば状況はきっと変わりますよ?」

「……わかった。……でも! 嫉妬なんかしてないからな!」

 ヘリオスはそう言うと、カレンとディアナを探しに世話係の元を去ります。その後ろ姿を見てニィ~と笑うドロランダ。

「うふっ。坊が素直なのって良いわねぇ。坊と仲良くするように是非カレンも誘導しなくっちゃ!」


 ヘリオスがディアナの部屋を訪れると、長椅子の端に座るカレンの膝を枕にしてディアナは眠っていました。

「……昼寝か」

 小さな声でカレンに言うと、彼女はコクリと頷きながら優しい伏し目でディアナの顔を眺め、髪の毛を撫で、整えています。そのカレンの長い睫からディアナの寝顔に視線を移すヘリオス。

 ディアナはすうすうと寝息を立てています。薔薇色のふくよかなほっぺたとカレンよりも更に長い銀の睫が愛らしさをより際立たせているのを見て、ヘリオスは先程のカレンの言葉を思いだし呟きました。

「……天使、か」

 カレンが音もなく素早く顔をあげ、ヘリオスの方を見ました。ヘリオスも目を合わせると今まで見たことのない彼女の表情がそこにあります。
目に力を込め口は一文字に引き結んでいるのに、いつもの挑戦的な態度はひとかけらもありません。むしろこちらの意見を強く肯定するような、喜びを爆発させるのを必死で止めているような様子で、小刻みにコクコクと首を縦に振っています。

 ヘリオスは思わず口元が緩みました。

「ふっ。お前はそういうが、天使にしてはちょっと目が吊り上がってるし髪も綺麗な銀髪だろ。見た目だけならむしろイタズラ好きな雪か氷の妖精……のほうがぴったりじゃないか?」

「んんんッ。それも捨てがたい……でもお嬢様はイタズラ好きとはちゃいます!」

 ヒソヒソと……しかし嬉しそうにまなじりを下げて言うカレンの様子に、ヘリオスは今までにない手応えを感じて密かに高揚します。元々ディアナの事を可愛いと思っていたのですから少々それに色を付けて言えば良いだけなので、無理をする必要や嘘をつく罪悪感もありません。

「まぁ、見た目のイメージだからな。名前のイメージだとそのまま『月の女神』だが」

「あーそれ、お嬢様の未来確定ですわ。旦那様と奥様の名付けセンス凄すぎません? もう天才かと」

(……それ多分、僕の名前ヘリオスと対になってるだけなんだけどなぁ。そんな事も気づかないくらい僕は眼中に無いとか、ここら辺の貴族全員を探してもカレン以外には居なさそうだな……)

「…………ふぇ?」

 興奮を抑えきれないカレンがほんの少し動いてしまったためか、ディアナがパチリと目を開けます。ヘリオスはディアナに優しい眼差しを向けて言いました。

「お目覚めかい、妖精さん? 僕の世界で一番可愛い妹」
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」 教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。 ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。 王命による“形式結婚”。 夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。 だから、はい、離婚。勝手に。 白い結婚だったので、勝手に離婚しました。 何か問題あります?

もう演じなくて結構です

梨丸
恋愛
侯爵令嬢セリーヌは最愛の婚約者が自分のことを愛していないことに気づく。 愛しの婚約者様、もう婚約者を演じなくて結構です。 11/5HOTランキング入りしました。ありがとうございます。   感想などいただけると、嬉しいです。 11/14 完結いたしました。 11/16 完結小説ランキング総合8位、恋愛部門4位ありがとうございます。

働かないつもりでしたのに、気づけば全部うまくいっていました ――自由に生きる貴族夫人と溺愛旦那様』

鷹 綾
恋愛
前世では、仕事に追われるだけの人生を送り、恋も自由も知らないまま終わった私。 だからこそ転生後に誓った―― 「今度こそ、働かずに優雅に生きる!」 と。 気づけば貴族夫人、しかも結婚相手は冷静沈着な名門貴族リチャード様。 「君は何もしなくていい。自由に過ごしてくれ」 ――理想的すぎる条件に、これは勝ち確人生だと思ったのに。 なぜか気づけば、 ・屋敷の管理を改善して使用人の待遇が激変 ・夫の仕事を手伝ったら経理改革が大成功 ・興味本位で教えた簿記と珠算が商業界に革命を起こす ・商人ギルドの顧問にまで祭り上げられる始末 「あれ? 私、働かない予定でしたよね???」 自分から出世街道を爆走するつもりはなかったはずなのに、 “やりたいことをやっていただけ”で、世界のほうが勝手に変わっていく。 一方、そんな彼女を静かに見守り続けていた夫・リチャードは、 実は昔から彼女を想い続けていた溺愛系旦那様で――。 「君が選ぶなら、私はずっとそばにいる」 働かないつもりだった貴族夫人が、 自由・仕事・愛情のすべてを“自分で選ぶ”人生に辿り着く物語。 これは、 何もしないはずだったのに、幸せだけは全部手に入れてしまった女性の物語。

婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。

黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」 豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。 しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

身代わりで呪いの公爵に嫁ぎましたが、聖女の力で浄化したら離縁どころか国一番の溺愛妻になりました〜実家が泣きついてももう遅い〜

しょくぱん
恋愛
「お前のような無能は、死神の生贄にでもなっていろ」 魔力なしの無能と蔑まれ、家族に虐げられてきた伯爵令嬢レティシア。 彼女に命じられたのは、近づく者すべてを病ませるという『呪いの公爵』アレクシスへの身代わり結婚だった。 鉄格子の馬車で運ばれ、たどり着いたのは瘴気に満ちた死の城。 恐ろしい怪物のような男に殺される――。 そう覚悟していたレティシアだったが、目の前の光景に絶望よりも先に別の感情が湧き上がる。 (な、何これ……汚すぎるわ! 雑巾とブラシはどこ!?) 実は、彼女が「無能」と言われていたのは、その力が『洗浄』と『浄化』に特化した特殊な聖女の魔力だったから。 レティシアが掃除をすれば、呪いの瘴気は消え去り、枯れた大地には花が咲き、不気味だった公爵城はまたたく間にピカピカの聖域に塗り替えられていく。 さらには、呪いで苦しんでいたアレクシスの素顔は、見惚れるほどの美青年で――。 「レティシア、君は一体何者なんだ……? 体が、こんなに軽いのは初めてだ」 冷酷だったはずの公爵様から、まさかの執着と溺愛。 さらには、呪いが解けたことで領地は国一番の豊かさを取り戻していく。 一方で、レティシアを捨てた実家は、彼女の『浄化』を失ったことで災厄に見舞われ、今さら「戻ってきてくれ」と泣きついてくるが……。 「私は今、お城の掃除と旦那様のお世話で忙しいんです。お引き取りくださいませ」 これは、掃除を愛する薄幸令嬢が、その愛と魔力で死神公爵を救い、最高に幸せな居場所を手に入れるまでのお話。

処理中です...