完璧な星喰い王子 

keima

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前作「星が泣いた夜」の続編ですが、別作品「ホドワールの兄弟」とリンクしています。 
前半は第2王子視点 後半はゴーレム4兄弟視点になります。
 
自分ほど完璧な人間はいない。 
 第2王子ギルベルト=リヒャルト・ボルゾイはそう自負している。  
 癖のない黒髪にエメラルドグリーンの瞳、190㎝以上ある長身に贅肉のついていない引き締まった体躯。そしてなによりも美姫と呼ばれた王妃譲りのこの美しい容姿。そして賢王と呼ばれた先代王によく似た優秀さと剣技の腕は確かで、王国騎士団総隊長からも認められるくらいだ。 
他の臣下や貴族たちからは兄である第1王子では無く、彼が次の王になるのではないかと噂されているが、本人にはその気はなくいずれ王として即位する兄の補佐をつとめるつもりでいる。 
そんな彼が運命の出会いをしたのは偶然だった。  
辺境の小さな土地の領主の一人娘 レイチェル・マーシャリー。  

美しい蜂蜜色の金髪にクリっとした琥珀色の瞳。ほのかに甘い香りが鼻腔を擽り、それは完璧な自分に相応しい極上な香りを持つ可憐な少女だった。 
ひとめで気に入った僕は彼女を自分の婚約者にと、両親に直談判をしたが、彼女の家の爵位が低いことから難色を示していた。
それでも諦めきれず、彼女に何度かアプローチをしたが、何故か怯えて逃げまどっていた。 
自分の顔を見るたびに顔を真っ青にし、背を向けて逃げる。
何故、彼女が逃げるのか自分には不思議でならなかった。
 完璧な自分にかかれば彼女への贈り物もデートプランも完璧なはずなのに、レイチェルはそれに見向きもしない。
父親のマーシャリー子爵にも彼女を婚約者にしたいと告げると
 
「娘は殿下とは婚約できる身分ではない。と訴えています。不敬を承知で申し上げますが、どうか娘のことは諦めてください。」 
 という返事がかえってきた。

 その直後、マーシャリー子爵が急死し父親の喪に服すため、父の遺骨と共にレイチェルは領地に帰ってしまった。 
 父親を亡くした可哀想な彼女を慰めるため、単身彼女のいる領地に向かった。
 私の突然の訪問に驚いた彼女は逃げだし、階段を下りようとした瞬間、足を踏み外し、その身体は宙を舞い、落下した。

 気がつくと、血みどろになった彼女を抱き上げ泣いていた。 

 嘘だと思った。 

彼女が僕を置いて死ぬだなんてありえなかった。  
だからアイツを見つけたときは僥倖だった。  

イレーニア=テオドラ・ダーロン。

 かつて自分の死んだ息子を蘇らせるため、不老不死の研究をしていた錬金術師。
 その研究を止め、姿を消していたアイツを見つけたときに閃いてしまった。  

--レイチェルを蘇らせる。 

 そのためにアイツをマーシャリー子爵一家殺害容疑という罪を着せ、僕のもとに連れてきた。

 僕が特別に作り上げた研究施設にアイツに呼び寄せレイチェルを蘇らせるよう命じた。 
 最初は渋っていたが、をつけたらしてくれた。 
 そしてアイツはレイチェルの細胞からレイチェルのゴーレムを作りあげた。
 生まれたばかりの彼女はまだ赤子で、触れたら壊れてしまいそうだった。
成長するに従い、美しさを増す彼女に今すぐにでも自分のモノにしたくてたまらなかったが、側近からは全力で止められた。 
だけど、彼女の声が聞きたくて、あの甘い香りが忘れられず、彼女が生まれて7年たったころに彼女と話をする機会ができた。
目の前の彼女は不安そうに琥珀色の瞳で僕を見つめ、あの甘い香りが鼻を擽り、この子を滅茶苦茶にしたいという欲望を何とか抑え込み、何か言おうとして出てきた言葉は思いもよらないものだった。

 「お前がダーロンの作った出来損ないのゴーレムか。フンッ、お前のような醜い娘に何の価値がある?ないだろう。お前はただ、出来損ないらしく、誰にも迷惑かけず死んだように生きていけばいいんだ。お前は人間の皮をかぶった化け物なのだからな。」 

そんなことを言うつもりはなかった。けれど、彼女の瞳が自分を見てくれるだけでそれでよかった。それに自分の妻になるのだから強く言ってもかまわないだろう。それから研究施設を訪れては彼女のもとに向かった。 

「出来損ないめ!!(この完璧な僕の隣に立つためには完璧でなければならない。だからこうやって教えているんだ。)」 

「何でお前は生きている(ああ、君の存在は何なんだ。何でこんな可憐で美しいんだ。君は僕を狂わせるために生きているのか。)」

「お前さえいなければ……(ああ、愛しいレイチェル。身分や今の僕達の年齢が離れていなければ、すぐにでも君を妻にできるのに。もう少しだけ待ってくれ。)」 

あの香りがするだけで自分は狂ってしまう。完璧な自分というものが壊れてしまう。 だから、彼女が成人するまでは冷たく、そして完璧な淑女にするまで手を出さず、そして彼女が自分に依存するように冷たい言葉を吐き、をしてきた。
時折、研究施設の職員達が僕に苦言を呈していたが、彼らはレイチェルに危害を加えていたのはわかっていたのでしてやった。ダーロンも僕とレイチェルの仲を裂こうとしたので、。 

あと数年すれば彼女を妻にできる。
もう少し、もう少しだ

――― なのに、彼女は消えた。

僕が仕事で国を離れている間に研究施設が爆破され、ダーロンの死体が見つかったが、彼女の遺体は見つからなかった。

彼女をも失い 最初は荒れに荒れたが、調査でダーロン以外の遺体が見つからなかったのと、絶対的な確信があった。

--彼女は生きている。 
  
そう自分に言い聞かせながら、執務の合間をぬっては彼女を探した。


                                                                  
「レイチェルが見つかった……?」

捜索から1年。側近の1人が レイチェルらしき少女が、流れの薬師達とともに行動しているという報告が僕のもとに伝えられた。

「その薬師、アルフェン・ダーロンと名乗っているようです。おそらくはダーロンの親族だと思われます。」

「アルフェン・ダーロン………あぁ、ダーロンの死んだ息子を基にしたゴーレムか。行方不明になっていたとは聞いていたけど、まさか生きていたとはね……」

そう言うと僕は踵を返し歩き始めた。

「……殿下、どちらへ?」

「決まっているだろう。レイチェルを迎えに行くんだ。」

「迎えにって……殿下、今はそれどころではないんですよ!!あと1週間後には立太子の儀があるんです。失脚した兄君に代わり貴方はこの国の次期国王になるんですよ。」

「どうでもいいよ。レイチェルがあの人間の皮を被った化け物どもゴーレムから救い出さなければならないんだから。」

「どうでもいいって………あっ、殿下!?殿下!!」

ああっ、愛しい愛しいレイチェル。 
人の皮をかぶった化け物たちに攫われてひどい目にあっていないだろうか。 
 待っててね。今この僕が助けてあげるから。  
そして今までの分までたっぷり溺れるくらい愛してあげるよ。
待ってて・・・

 「今、迎えに行くよ。」 




























「…兄さん?アルフェン兄さん。」


その日、錬金術ギルドの片隅にあるテーブル席で、アルフェン・ダーロンは一枚の紙を険しい顔で見つめていた。
思考の海に落ちていたアルフェンはトントンと肩を叩かれて、ハッと我に返ると夜色の双眸が心配そうに自分を見つめている。 

 「あっ・・・ヴァルト。」

「あっ・・・じゃないよ。まったく。」


そう言って呆れながら男ー弟のヴァルトは反対側の席に座った。
この青年2人が錬金術師ヒトによって生み出された人造人間……ゴーレムだと誰がわかるのだろうか。

「なんか心ここにあらずって感じだったけど、どうした?」

「いや、ちょっと占いの結果が良くなかったものだったから・・・」 


主に薬の調合や卸売を生業とするアルフェンは、薬を処方する際、占星術を用いて調合している。 

自分達の生みの親である錬金術師ダーロンから学んだ錬金術の中で占星術はアルフェンの得意分野で、それは今の仕事に役立っている。

「で、誰を占っていたんだ。」 


「・・・怒らないかい?」

「俺に怒られるようなヤツなのかよ。」

「・・・これを見て下さい。」 

スッとテーブルの上に置いてあった一枚の紙をヴァルトの前に移動させる。 

「な・・・んだよこの滅茶苦茶な星の並びは!?」


星のことをわからないヴァルトから見ても、その星図はあまりにも酷かった。
月や太陽が2つあったり、惑星の位置が逆だったり、さかさまだったりとそれは滅茶苦茶なものだった。

「兄さん、これって・・・一体誰を占ったんだよ!!」


「・・・ギルベルト=リヒャルト・ボルゾイ第2王子殿下。」

このボルゾイ王国の第2王子で、世間では文武両道の美しい完璧な王子と呼ばれ、とある事情で失脚した第1王子に代わり執政を任され、次期国王との呼び名の高い優秀な王子だが、彼ら兄弟達にとっては母親ダーロンを監禁し、妹レイリーンを作り出し、彼女を理不尽に虐げてきた天敵だ。


「はっ、アイツの?でもこれ1人分じゃないだろう。」 

「そうですね。ヴァルトの言う通り、普通だったらこんな風にはならない。この星を見てください。」

 トントンと星図にある星の1つを指さす。

 「この星は………?」

 「……レイチェルお嬢様の星だ。」

「!!」


レイチェル・マーシャリー。

かつてアルフェン達が暮らしていた辺境の村を治めていた領主の一人娘で、末の妹レイリーンのベースとなった少女。
彼女の死後、領主一家を殺害したという濡れ衣を着せられ、ダーロンが捕らえられ、アルフェン達兄弟は逃げるように村を飛び出した。

星喰ほしくいだ……」

「星喰い?」

星喰いとは、その名の通り他者の星-運命や運勢-をらい、自分の糧としてしまう者。星喰いに喰われた者は命を奪われるため、別名『死神星』とも言われている。

「星喰いは特定の人に執着する性質タチがある。レイチェルお嬢様は彼に執着され、自分の星を喰われ死んだ……恐らく、両親である領主様達も……。」

12年前、王家主催の舞踏会に参加するため今年デビュタントのレイチェルを伴い王都に行った領主が滞在先の王都で亡くなり、領主の遺骨を抱えたレイチェルが領地に帰ってきた。夫の急死に妻である夫人はショックから元々弱かった身体を崩してしまい、寝込むようになり、レイチェルも精神的ショックから自室に引きこもるようになった。 
当時、主治医をつとめていたダーロンがていたのだが、その直後に夫人やレイチェル、屋敷の使用人達が相次いで亡くな
った。 
その死に領地では、領主様は王都で陰謀に巻き込まれたんだ。王都で呪いをかけられたんだという噂が住人達の間で流れていたのをアルフェン達は子供ながら覚えていた。


「……完璧と謳われている王子の正体が死神星だったとはなぁ……そういえば、リュークとレイリーンはどこ行った?」

「2人だったら、買い物に行くって言って、少し前に出ていきま………」

「兄さん!!」

「アルフェン!!」

言い終わらないうちに、噂の本人たち--弟のリュークと末妹レイリーン--がバタバタとアルフェンのもとへと駆け寄ってくる。

 「どうした?リューク、レイリーン。」

急いでいたのか、2人ともゼーゼーと息が上がっている。

「っ・・・第2王子が…騎士団が、ここに来るって、それで……騎士団が来るまで町から出てはいけないって言って町の門を全部封鎖したんだ。」 

「はあっ!?」

「何だって!?」 

アルフェン達が滞在している町は貿易や観光で有名な港町だ。陸路や海路の便利さから観光客や旅人、冒険者や商人などが訪れる。そんな町を封鎖してしまえば、人々は戸惑い混乱が起こるのは目に見えている。

「・・・馬車や港の船もみんな止まったせいで旅人や商人達が騒ぎ立てて、巡回兵を問い詰めて大騒ぎになってるの。」 

「兄さん……」 

「……どうやら、向こうは本気で僕達を捕らえるつもりだね。」

おそらくはこの混乱を利用して、混乱を引き起こしたと自分達に濡れ衣を着せて捕まえる算段なのだろう。 

「どうする兄さん?」

「ん~…………」

ヴァルトに訪ねられて、アルフェンは腕を組んで考えこむ。

--門は閉鎖され、船も使えない。 どうする………

 「アルフェン・・・」 

 考えこんでいたら、レイリーンの声でハッと我にかえり、真っ青な表情の末っ子と目があう。 
不安と恐怖が入り混じった瞳で見つめるレイリーンをアルフェンはその頭を軽く撫でた。

 「大丈夫だよ。」

 --アルフェン、弟達を頼んだよ。


……分かってるよ、母さんダーロン
こんなことがあっても、弟達は守る。絶対に…


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この後の展開が「ホドワールの兄弟」の「泣き女と妖精隠し」に続いています。 
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