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案件その2 農家の娘 カンナ

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その日、第3者意見司法機関サードセクション婚約・離婚訴訟問題対策課の相談窓口に来た人物にその場にいた職員はざわついた。というのも、美しい金髪碧眼の体格の良い20代後半ぐらいの男が、15・6歳くらいの若い女の腰にガッシリとホールドしているのだ。 
ズリズリと男を引きず、若い女は窓口に居た職員にこう訴えた。 

「お願いします・・・この男をどうにかしてください。」

 









 「まずいくつか質問しますがその前に………邪魔じゃありません?」


「メッチャクチャ邪魔です。」
 
 相談カウンターのレオンとロゼットの向かいに座る女性の背中に男がガッチリとしがみついていた。

「っ……いい加減離れろ!!」

「嫌だ。君と離れてしまったら私は死んでしまう!」

――――イヤ、そんなわけないだろう。

と、レオンやロゼット、ほかの職員は心の中で突っ込んだ。

「………いい加減にっ、しろっ!!」

「グモぅっ・・・!?」

女の頭突きを顎に受け、男があまりの痛さに女から離れて悶絶している隙に3人は話を始めた。

「どうにかしてほしいと申しましたが、どういうことですか?」
 
「はい、じつは・・・・」

 女性の名はカンナ。 地方の野菜農家の娘で、実家の手伝いをしながら地元の郵便局に勤務している。 
 ある日の夕方、仕事が終わり帰宅していた時、職場の近くの河原で男性が倒れているのを発見した。彼女は同僚に協力してもらい病院に搬送させた。 そして所持していたものから男性は王都で侍従武官を勤めるダグラス・マッケンジーだと判明し、王都や彼の家族にも報告した。ここまではよかった。 ダグラスはケガ人にも関わらず、事あるごとにカンナにつきまとい、デートに誘うのだが彼女はそれを断ってきた。 そして何をおもったのか、 カンナの同意もなく、自分とカンナの婚姻届けを役所に提出したと言ってきたのだ。


「そもそも・・・何でカンナさんはそんな嫌がるのですか?」

ロゼットのその問いに、カンナはギロリとダグラスを睨みつけた。
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 「だって・・・・このヒト、既婚者なんですよ!!」

「「・・・・・マジ!?」」

 実はダグラスの家族に連絡してすぐ、彼の妻が病院に来て、入院中もダグラスを献身的に看護してきたのだが、何故かダグラスは妻に冷たく当たり散らし、カンナを追い掛け回してきたのだ。

「……それはダメだろう。」とレオン。

「ダメですよ。」とロゼット。

「かっくじつにダメ。アウト。」
とその話を聞いていた職員全員は声をそろえて叫んだ。 

 「なっ!?何で?」

「何でって……貴方既婚者ですよ。自分の看病してくれる奥さん蔑ろにして……言い方悪いけど、若い女の子の尻をおっかけるのはどうかと思いますよ。」
 

「そ・・・アンタらに関係ないだろう。」


「カンナさん。 貴女は彼のこと、どう思いますか?好きだな~とかって感情、ありますか?」

ロゼットのその問いに、カンナは思いっきりプ頭を横にふった。

 「いいえ。 はっきりいって付きまとわれて迷惑でした。奥さんいるのに、ひどい言葉ばかり言って最低だと思ったし、勝手に婚姻届け出されたときは気持ち悪いと思いました。」


「きっ、気持ち悪い・・・?」

「それに、私奥さんいるのに堂々と浮気や不倫する人、大嫌いです!!」

 「っ……浮気じゃない!不倫なんかじゃない!!君への思いは純愛なんだ!!」

 「何が純愛だ、このバッカチンが!!」

レオンとロゼット、そして彼らの やりとりを見ていた職員達はダグラスのこの発言に、東の国で有名な演劇作品で
「アナタがぁ、スッキだっからぁ~!!」
「オマエタチは腐ったオレンジじゃない!!」
と言う名台詞で有名な歌手兼役者さんの口調風に突っ込んだ。 
 

「っ・・・妻とは別れる。だから、安心して私と結婚を・・・」
 
「言っときますが、今年から法律が改定されまして、今まで女性だけに適応されていました再婚期間が男性にも適用することになりまして、男性でも離婚して100日以上経過しないと再婚できないんですよ。」 

 「そっ、そんな・・・」
 
「もし奥さんと離婚することになれば、 貴方有責の離婚ということで奥さんに慰謝料払うことになりますよ。もちろん、カンナさんにも。」
 
「・・・・・・」
 
 レオンから離婚してすぐ再婚できないと言う事実と追い打ちをかけるロゼットの慰謝料請求の話に段々とダグラスの顔色が白くなっていく。そこへ、ロゼットの同期に当たる事務官がバタバタと慌ててやってきて、レオンに耳打ちしてきた。


「・・・今、警察から連絡がありまして、貴方が倒れていた川の上流で1人の男性が意識不明の重体で発見されました。身元が分かるものがなかったので、その人の髪の毛と血液のサンプルから遺伝子情報鑑定をしまて鑑定した結果、その人がダグラス・マッケンジーであることが判明したのですが・・・・貴方、誰ですか?」 


 
 
 「いやぁ~~、ビックリしたよ、まさか……なりすましだったなんてなぁ。」

 
「そ~ですね。」

 あの後、遺伝子情報鑑定した結果、ダグラス・マッケンジーを名乗った男の正体は本物のダグラスの先輩武官で、自分の妹がダグラスに振られた事への逆恨みから、顔を変えてダグラスを襲い、彼の所持品を奪ったはいいが土砂崩れに遭いカンナの暮らす田舎に流れ着いた。
ダグラスの妻がやって来た時、正体がバレるのではないかと恐れて彼女にキツく当たり、あわよくば離婚してダグラスの人生を滅茶苦茶にしてしまおうと目論んでいたらしい。 


 「あの偽ダグラス氏最低ですね。カンナさんにちょっかいを出したのも、本物のマッケンジー氏への復讐のためでしょうか?」

 「ん~、どうだろう?本人は本気だったって行って入るけど、どっちにしろ浮気しようとしていたのは間違いないんだし。」

その先輩武官自身、すでに結婚して子供がいるが、今回の事を受けて実家に戻り離婚の手続きを行うつもりだ。 
そして、ダグラス・マッケンジーになりすました先輩武官は、強盗殺人未遂及び婚姻届の偽造を行った結婚詐欺の現行犯として逮捕された。
婚姻届が偽造された上に本人の許可なく書かれたものであるため、カンナの婚姻はなかったものと判断された。 
 
昨今さっこんの婚約破棄の案件で、真実の愛とか言っている人がいるけどさぁ~結局のところ、自分の浮気を正当化したくて真実の愛って言って現実から目を背けて自分の疚しさを美化してるだけなんだよ。今回の件だってそう。純愛って言っているけど、マッケンジー氏になりすましてその家庭を壊そうとしてるんだからアウトだろう。昔、不倫は文化だって言っていた人物がいたけど、文化じゃないから。不倫は不貞だから。自分の疚しさを正当化するんじゃない!!」

「同感(です/だ)!!」

レオンの正論にロゼットと他の職員達は大きく頷いた。 



 
 数週間後、本物のダグラス・マッケンジーが意識を取り戻し、妻と再会した。

 その後、双子の赤ちゃんが生まれたマッケンジー夫妻に逢いにいったカンナが夫人の弟を紹介され、彼と交際期間を得て結婚し、2人の男児の母親になるのは、それから4年後のことである。

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