捨てられた王妃は情熱王子に攫われて

きぬがやあきら

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「私も、父も母も大好きです。ちっとも恥ずかしくありませんよ」

「と言っても、私はもう二十歳の男だ」

「まあ! 年齢を前提にしてはいけません。私を幾つだと思っているの……?」

「失敬。エミリアは、とても若く見えるから、つい、年齢を忘れてしまってた」

 エドワードは笑いを堪えて、エミリアの頭を撫でた。いつもとは違う雰囲気だ。

 どこか甘えるような仕草で、すっかりリラックスしているのがわかる。

 そんなエドワードを見ていると、なんだか自分まで嬉しくなってしまう。思わず口元が綻んだ。

「……さぁ、名残惜しいが、明日も忙しくなりそうだし、そろそろ休もうか」

 エドワードは、エミリアの手を取った。

 部屋まで送り届けてくれて、手の甲に唇を落とす。

「おやすみ、エミリア。良い夢を」

 最後に頬をひと撫ですると、彼は立ち去った。

「おやすみなさい……」

 一人残されたエミリアは、しばらくの間、余韻に浸っていた。



 ***



 翌日。早朝から慌ただしく準備を進めた。

 エドワードは、使用人たちに命じて早馬の支度をさせる。

 昨日のうちに、第一報は手配してあった。

 今頃はヴォルティア国王の元に届いているだろう。

 エドワードの名で署名した書簡だ。

 父であるヴァルデリア王には許可を得ている。

 ヴァルデリアに亡命を求めたエミリア・ヴォルティアを保護している。

 夫フィリップ・ヴォルティア国王との離婚協議を求む――との内容だ。

 エミリアは、不貞を理由に離婚を望んでいると、はっきり記しておいた。

 慰謝料と、国益に掛かる秘密保持の約束を含め1,000万リブラを貰い受ける、ただし最終的には協議の上決定する、とも。

 慰謝料1,000万リブラは金塊に換算すると約2㎏と、一国の王に請求するには破格の条件だ。

 本当は何も得るものがなくても離婚だけは成立させたいくらいだった。

 エミリアも同様だったが、形だけでも代償を支払わせなければならない。

 エドワードの大切な女性だ。周囲に軽んじられる真似はさせられない。

 しかし何度も出向いて、協議に時間をかけるつもりもない。

 一度で決着をつける。

 それが、エドワードとエミリアの一致した意見だった。

 エミリアの伯父については、先に手を打つことにした。

 リチャードを交渉に送り込み、ヴァルデリアへの移住を勧めさせている。

 書簡を手にしたヴォルティア王は、今頃さぞ慌てふためいているだろう。

 潜入させている間者からは、フィリップはエミリア捜索で何の手がかりも得られていないとの報告があった。

 様々の情報を纏めると、噂以上にフィリップは間抜けな男のようだった。

 そこが、エドワードにとっては大きな懸念だ。

 フィリップにとってそうでなくても、王国にとってはエミリアを失う損失はあまりに大きい。
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