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京都へ

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“じゃあ手をつないでどうするの?この手を取ってついていく先は知れているでしょう?この建物に入るんでしょ?”

(入ったからって何よ。えっ、入るって、ここに?)

 だってここは――

 予想だにしなかった展開に、とても考えがまとまらない。

 心臓がバクバク脈打ち、頭に血が上る。脳内分裂は早くも限界だ。

 掌からは汗が吹き出し、めまいがしてくる。

 この問題は完全に深雪のキャパシティを超えていた。

“入ってどうするつもりだと思う?だってここは”

 ここは、ラブホテルなんじゃないの??

 実際にこんなに間近で “ラブホテル” を見たことは無かった。

 だが、繁華街やテレビドラマで看板くらいは目にしたことがある。

 ここでおいでっていうことは、それはつまり、つまり、つまり――――

「深雪?」

 負荷がかかりすぎて、深雪の脳はついに思考を停止してしまった。

 それから先は考えられない。考えたこともなかった。

 深雪の様子の変化に、和貴は気付いていただろうか。

 すぐに手を握り返してくれないことへの疑問はあったようだが、余裕がないのか、伸ばしかけになっている手を取り、先へ進もうとする。

 その時だった。

「バカ野郎、浜崎!!」

 飛び出してきた人影が、強引に深雪を奪い取った。

「植田さんに触るな!」

 影の正体はすぐにわかった。明日の自由行動で一緒になると紹介されたうちの一人だ。

「藤原……?」

 和貴はわずかに眉根を寄せ、唸った。

 咄嗟に拳を握るものの、殴るまでは至らない。

 どんなに気に入らなくても、深雪のクラスメイトだからだ。

「お前一体何のつもりで、深雪を」

「何のつもりはこっちのセリフだ!」

 臨戦態勢の和貴を前に、拓也は気丈にも立ち向かった。

 オーラの凄まじさに気押されながらも深雪を背後にかばい、なんとか前に出る。

「修学旅行だろうが!? お前みたいな不良には当たり前の事かもしれないけど、あり得ないだろ!?こ の流れでラブホテルなんて!!」

 信じられない展開に、自分のスト―キング行為は棚に上げ、拓也は思いのたけをぶちまけていた。

「そりゃ、気持ちはまあわからんでもないよ。けど、だからって何ですぐホテルなんだ!? それに僕たちは高校生だし、今は修学旅行中、しかも二人が付き合いだしたのはつい最近なんだろう?」

 拓也は腹にありったけの力を込めて絶叫してやった。

「こんなとこに植田さん連れ込もうなんて、何考えてんだよ、クソ外道!!」

 言葉を吐き切って見上げると、先ほどまでの鋭い眼光は跡形もなく消え去っていた。

 和貴は黙って、俯いた。

 指先で蟀谷を押さえ、小刻みに震えている。

「何だよ、お前。気持ち悪いな。何を……ってか、想像するなよ! なぁ、想像したな」

「お前が、言い出したんだろ……」

 和貴は、口ごもりながらも、ぼそぼそと反論した。

「こんな時に、ヤラシイこと想像するなー! 馬鹿野郎! 真面目にしろよ! 植田さんが可哀そうだと思わないのか……!!?」

 後ろの深雪を振り返った拓也は、声を詰まらせた。

「え? ……ヤダ、なに、これ」

 深雪の頬を、温かいものが一筋、滑り落ちる。

「あはは、やだ、雨じゃ……ないよね……」

 自分でも、泣いていると、俄かに認められなかった。

 だって、どうして泣くのかわからない。

「深雪……!?」

 涙だと知った途端、和貴は顔色を失う。

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