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披露宴会場で……
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ほとんどを離宮で過ごしていたとはいえ、16年暮らした城だ。
「では、20時に時計台の下で。……早く持ち場に戻りなさい」
「はっ、失礼致します」
キャヴスはアルダシールの許しを得て、ようやく安堵の表情を見せると、再び一礼し持ち場に戻っていった。
「アルダ、ごめんなさい。些細な醜聞も避けるべきなのに、私ったらつい……」
「いいさ。気持ちは分かる。だが、油断はするなよ」
アシュレイは頷き、アルダシールの腕にそっと手を添える。
「ありがとう。……私、本当に幸せ者だわ」
「人前では駄目だと言っていたろう? ……さて、そろそろ挨拶に回るか。シュナイゼルのところも列が途切れたようだ」
アルダシールはアシュレイの手を取り直して、広間の中央へとエスコートした。
その仕草に、僅かな違和感を覚えたが……。
アシュレイも気を引き締めて、主役である王太子夫妻に挨拶に向かうことにした。
***
「シュナイゼル殿下、コリーヌ妃、ご結婚おめでとうございます」
「アシュレイ妃殿下、アルダシール陛下。この度はご列席いただき、誠にありがとうございます」
シュナイゼルとコリーヌは揃って礼を執った。
「本日はお招きいただき感謝いたしますわ」
アシュレイが挨拶を返すと、シュナイゼルの隣でコリーヌも会釈した。
「アシュレイ妃殿下には、改めて御礼申し上げたいと思っていましたの。こうしてお目にかかれて光栄です」
コリーヌの濃桃色のドレスは、上品な色合いでありながらも派手すぎず上品だ。
装飾品には花をモチーフにしたものが散りばめられていて、華奢なコリーヌの美しさを惹き立てている。
「あの……お姉様とお呼びしても……?」
コリーヌはアシュレイにおずおずと申し出る。
「ええ、勿論です。では、私もコリーヌ様と呼ばせて頂きますね」
「いえ、どうぞコリーヌとお呼びください。お姉様」
アシュレイが微笑むと、コリーヌはふわっと、花開くような可憐な笑みを浮かべた。
「シュナイゼル様からお話を伺って、お会いしたいと願っていたのです」
(うわぁ、可愛い……!)
「ありがとうございます、コリーヌ様」
こうして二言、言葉を交わしただけだが、コリーヌからは悪意の欠片も感じない。
これが演技なら大したものだが、義妹の意外すぎる人物像にすっかり毒気を抜かれてしまった。
愛らしさに、アシュレイもつられて破顔する。
「意外だわ、シュナイゼルのお嫁さんがこんなに愛らしい方だなんて。あの、馴れ初めをお聞きしてもいい? とても気になるのだけど……?」
コリーヌは公爵家の出だと聞いている。
身分は充分、王家に釣り合うが、キューべルルの好みだとは思えない。
アシュレイの素朴な疑問に、コリーヌはぽっと頬を染めた。
そんな反応も可愛らしく、ますます好奇心が唆られる。
今までアシュレイを揶揄っていたジェニスたちの気持ちが、ようやく分かる気がした。
「えっ、な、馴れ初め、ですか……」
「ええ、是非、聞きたいわ」
コリーヌはもじもじと指を絡ませて、恥ずかしそうに俯いた。
「2年前に催された舞踏会で出会ったのです。その半月後には婚約の申し出をしました。仰りたいご心配はわかりますが、彼女は私が選んだのです」
助け舟を出したのは、意外にもシュナイゼルだった。
暗にキューべルルの采配ではないと主張している。
抑揚のない口調ながら、シュナイゼルの強い想いが感じられた。
「まぁ、そうだったのね。それなら…余計に素敵だわ。ねえ、陛下」
恥じらい、俯いてからシュナイゼルを見上げるコリーヌと、それを待って頷くシュナイゼル。
言外の仲睦まじさに、相手がシュナイゼルである事実も忘れ、アシュレイは胸を暖かくした。
「お兄様。この度は誠におめでとうございます。わたくしからも祝福させてくださいませ」
……せっかく暖かくしていたのに、唐突に遮られてアシュレイは内心で眉を顰めた。
直ぐに態度に出しがちなアシュレイだが、それでも一応表向きの態度は心得ている。
真後ろからというよりも、横から声を掛けられた形なので、声の主の姿も目に入る。
知らない訳ではないーーでも、ほとんど顔を合わせた記憶もない義妹の1人がすぐそこにいた。
「では、20時に時計台の下で。……早く持ち場に戻りなさい」
「はっ、失礼致します」
キャヴスはアルダシールの許しを得て、ようやく安堵の表情を見せると、再び一礼し持ち場に戻っていった。
「アルダ、ごめんなさい。些細な醜聞も避けるべきなのに、私ったらつい……」
「いいさ。気持ちは分かる。だが、油断はするなよ」
アシュレイは頷き、アルダシールの腕にそっと手を添える。
「ありがとう。……私、本当に幸せ者だわ」
「人前では駄目だと言っていたろう? ……さて、そろそろ挨拶に回るか。シュナイゼルのところも列が途切れたようだ」
アルダシールはアシュレイの手を取り直して、広間の中央へとエスコートした。
その仕草に、僅かな違和感を覚えたが……。
アシュレイも気を引き締めて、主役である王太子夫妻に挨拶に向かうことにした。
***
「シュナイゼル殿下、コリーヌ妃、ご結婚おめでとうございます」
「アシュレイ妃殿下、アルダシール陛下。この度はご列席いただき、誠にありがとうございます」
シュナイゼルとコリーヌは揃って礼を執った。
「本日はお招きいただき感謝いたしますわ」
アシュレイが挨拶を返すと、シュナイゼルの隣でコリーヌも会釈した。
「アシュレイ妃殿下には、改めて御礼申し上げたいと思っていましたの。こうしてお目にかかれて光栄です」
コリーヌの濃桃色のドレスは、上品な色合いでありながらも派手すぎず上品だ。
装飾品には花をモチーフにしたものが散りばめられていて、華奢なコリーヌの美しさを惹き立てている。
「あの……お姉様とお呼びしても……?」
コリーヌはアシュレイにおずおずと申し出る。
「ええ、勿論です。では、私もコリーヌ様と呼ばせて頂きますね」
「いえ、どうぞコリーヌとお呼びください。お姉様」
アシュレイが微笑むと、コリーヌはふわっと、花開くような可憐な笑みを浮かべた。
「シュナイゼル様からお話を伺って、お会いしたいと願っていたのです」
(うわぁ、可愛い……!)
「ありがとうございます、コリーヌ様」
こうして二言、言葉を交わしただけだが、コリーヌからは悪意の欠片も感じない。
これが演技なら大したものだが、義妹の意外すぎる人物像にすっかり毒気を抜かれてしまった。
愛らしさに、アシュレイもつられて破顔する。
「意外だわ、シュナイゼルのお嫁さんがこんなに愛らしい方だなんて。あの、馴れ初めをお聞きしてもいい? とても気になるのだけど……?」
コリーヌは公爵家の出だと聞いている。
身分は充分、王家に釣り合うが、キューべルルの好みだとは思えない。
アシュレイの素朴な疑問に、コリーヌはぽっと頬を染めた。
そんな反応も可愛らしく、ますます好奇心が唆られる。
今までアシュレイを揶揄っていたジェニスたちの気持ちが、ようやく分かる気がした。
「えっ、な、馴れ初め、ですか……」
「ええ、是非、聞きたいわ」
コリーヌはもじもじと指を絡ませて、恥ずかしそうに俯いた。
「2年前に催された舞踏会で出会ったのです。その半月後には婚約の申し出をしました。仰りたいご心配はわかりますが、彼女は私が選んだのです」
助け舟を出したのは、意外にもシュナイゼルだった。
暗にキューべルルの采配ではないと主張している。
抑揚のない口調ながら、シュナイゼルの強い想いが感じられた。
「まぁ、そうだったのね。それなら…余計に素敵だわ。ねえ、陛下」
恥じらい、俯いてからシュナイゼルを見上げるコリーヌと、それを待って頷くシュナイゼル。
言外の仲睦まじさに、相手がシュナイゼルである事実も忘れ、アシュレイは胸を暖かくした。
「お兄様。この度は誠におめでとうございます。わたくしからも祝福させてくださいませ」
……せっかく暖かくしていたのに、唐突に遮られてアシュレイは内心で眉を顰めた。
直ぐに態度に出しがちなアシュレイだが、それでも一応表向きの態度は心得ている。
真後ろからというよりも、横から声を掛けられた形なので、声の主の姿も目に入る。
知らない訳ではないーーでも、ほとんど顔を合わせた記憶もない義妹の1人がすぐそこにいた。
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