やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら

文字の大きさ
5 / 15
ルシアン様を訪ねる理由

しおりを挟む
「お勉強を邪魔してはいけないと思い直し、待っておりましたの」

「え? じゃあ……。いや、こんな廊下で待たずとも、明後日には課業後の茶会があるのだから、その時にいくらでも……」

「どうにも気が急いてしまって。申し訳ありませんでした」

 迷惑そうな顔色を見てとって、わたくしはしおらしく頭を下げた。

 ルシアン様はバツが悪そうに視線を逸らして、それからわたくしを教室へ招き入れる。

「すまない。一つ片付けたい用事があるんだ。椅子に掛けて、待っていてくれるか」

「お約束もなしにお伺いしてごめんなさい。そのご用事、わたくしにできることでしたらお手伝いして差し上げたいのですが」

「いや、すぐに済むから待っていてくれ。すぐに、な」

 ルシアン様は手早く机の上を片付けると、足早に部屋を出て行った。

 わたくしはありがたく、椅子を拝借し、ルシアン様の帰りを待つことにする。

 窓の外を眺めれば、噴水の周辺をうろうろしていたマリアナ嬢は誰かに微笑みかけ、バルコニーの影に入り見えなくなった。

 1階に降りたルシアン様に呼ばれたのだろう。

 ルシアン様が教室に戻って来るまで、時計を見ればかかった時間は10分足らずだった。

 しかし、マリアナ嬢と2人で何を話しているのだろうと考えると、ほんの少しだけ気分が落ち込んだ。

 いや、面白くない、と表現すればいいだろうか。

「待たせて悪かった。オデット……」

 戻って来たルシアン様は、小脇に厚みのある書籍を抱えている。

 行く時には携えていなかったものだ。

 ルシアン様は何か言いたげに目を上げ、しかし、口ごもった。

 わたくしは小首を傾げて微笑み、お話を聞く姿勢を見せる。

 ルシアン様が何を仰りたいのかが、何となく察せられたからだ。

「ルシアン様、わたくしに何か確かめたいことがおありではありませんか?」

「何故、それを……いや、うん、そうだな、君は……。話が早いのは助かる」

「差し支えなければ伺います」

 ルシアン様はそれでも、一度は躊躇った。しかし、キリ、と目元を引き締めると、やや固い口調で切り出した。

「君はマリアナ・グランド嬢を知っているか」

「ええ、隣のクラスですもの。存じておりますよ。それに、近頃は良く噂を耳にします。ルシアン様と懇意になさっていると」

 知らずのうちに、言葉に棘が混ざって、わたくしの表情も固くなる。

「別に、懇意にはしていない。多少、共通の話題があるだけだ。それでだな、今……階下で彼女と会ったのはもう分かっているようだから、単刀直入に聞く。君は、 ”マリアナ嬢に嫌がらせをするよう指図した” のか?」

「お答えする前に、お聞かせください。ルシアン様はわたくしが、仰ったような行為をしたと、お思いですか?」

 マリアナ嬢は、真偽も不確かな情報を、ましてやわたくしの否定した行為をルシアン様に告げ口した。

 ルシアン様がマリアナ嬢の元へ向かった時点で、その話をする可能性には気づいていた。

 だから、動揺はしない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの、初夜の延期はできますか?

木嶋うめ香
恋愛
「申し訳ないが、延期をお願いできないだろうか。その、いつまでとは今はいえないのだが」 私シュテフイーナ・バウワーは今日ギュスターヴ・エリンケスと結婚し、シュテフイーナ・エリンケスになった。 結婚祝の宴を終え、侍女とメイド達に準備された私は、ベッドの端に座り緊張しつつ夫のギュスターヴが来るのを待っていた。 けれど、夜も更け体が冷え切っても夫は寝室には姿を見せず、明け方朝告げ鶏が鳴く頃に漸く現れたと思ったら、私の前に跪き、彼は泣きそうな顔でそう言ったのだ。 「私と夫婦になるつもりが無いから永久に延期するということですか? それとも何か理由があり延期するだけでしょうか?」  なぜこの人私に求婚したのだろう。  困惑と悲しみを隠し尋ねる。  婚約期間は三ヶ月と短かったが、それでも頻繁に会っていたし、会えない時は手紙や花束が送られてきた。  関係は良好だと感じていたのは、私だけだったのだろうか。 ボツネタ供養の短編です。 十話程度で終わります。

老け顔ですが?何かあります?

宵森みなと
恋愛
可愛くなりたくて、似合わないフリフリの服も着てみた。 でも、鏡に映った自分を見て、そっと諦めた。 ――私はきっと、“普通”じゃいられない。 5歳で10歳に見られ、結婚話は破談続き。 周囲からの心ない言葉に傷つきながらも、少女サラサは“自分の見た目に合う年齢で学園に入学する”という前代未聞の決意をする。 努力と覚悟の末、飛び級で入学したサラサが出会ったのは、年上の優しいクラスメートたちと、ちょっと不器用で真っ直ぐな“初めての気持ち”。 年齢差も、噂も、偏見も――ぜんぶ乗り越えて、この恋はきっと、本物になる。 これは、“老け顔”と笑われた少女が、ほんとうの恋と自分自身を見つけるまでの物語。

私と彼の恋愛攻防戦

真麻一花
恋愛
大好きな彼に告白し続けて一ヶ月。 「好きです」「だが断る」相変わらず彼は素っ気ない。 でもめげない。嫌われてはいないと思っていたから。 だから鬱陶しいと邪険にされても気にせずアタックし続けた。 彼がほんとに私の事が嫌いだったと知るまでは……。嫌われていないなんて言うのは私の思い込みでしかなかった。

大好きな婚約者に「距離を置こう」と言われました

ミズメ
恋愛
 感情表現が乏しいせいで""氷鉄令嬢""と呼ばれている侯爵令嬢のフェリシアは、婚約者のアーサー殿下に唐突に距離を置くことを告げられる。  これは婚約破棄の危機――そう思ったフェリシアは色々と自分磨きに励むけれど、なぜだか上手くいかない。  とある夜会で、アーサーの隣に見知らぬ金髪の令嬢がいたという話を聞いてしまって……!?  重すぎる愛が故に婚約者に接近することができないアーサーと、なんとしても距離を縮めたいフェリシアの接近禁止の婚約騒動。 ○カクヨム、小説家になろうさまにも掲載/全部書き終えてます

【完結】初夜の晩からすれ違う夫婦は、ある雨の晩に心を交わす

春風由実
恋愛
公爵令嬢のリーナは、半年前に侯爵であるアーネストの元に嫁いできた。 所謂、政略結婚で、結婚式の後の義務的な初夜を終えてからは、二人は同じ邸内にありながらも顔も合わせない日々を過ごしていたのだが── ある雨の晩に、それが一変する。 ※六話で完結します。一万字に足りない短いお話。ざまぁとかありません。ただただ愛し合う夫婦の話となります。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載中です。

好きな人

はるきりょう
恋愛
好きな人がいます。 「好き」だと言ったら、その人は、「俺も」と応えてくれました。  けれど、私の「好き」と彼の「好き」には、大きな差があるようで。  きっと、ほんの少しの差なんです。  私と彼は同じ人ではない。ただそれだけの差なんです。 けれど、私は彼が好きだから、その差がひどく大きく見えて、時々、無性に泣きたくなるんです。 ※小説家になろうサイト様に掲載してあるものを一部修正しました。季節も今に合わせてあります。

悪役令嬢だったので、身の振り方を考えたい。

しぎ
恋愛
カーティア・メラーニはある日、自分が悪役令嬢であることに気づいた。 断罪イベントまではあと数ヶ月、ヒロインへのざまぁ返しを計画…せずに、カーティアは大好きな読書を楽しみながら、修道院のパンフレットを取り寄せるのだった。悪役令嬢としての日々をカーティアがのんびり過ごしていると、不仲だったはずの婚約者との距離がだんだんおかしくなってきて…。

地味令嬢、婚約者(偽)をレンタルする

志熊みゅう
恋愛
 伯爵令嬢ルチアには、最悪な婚約者がいる。親同士の都合で決められたその相手は、幼なじみのファウスト。子どもの頃は仲良しだったのに、今では顔を合わせれば喧嘩ばかり。しかも初顔合わせで「学園では話しかけるな」と言い放たれる始末。  貴族令嬢として意地とプライドを守るため、ルチアは“婚約者”をレンタルすることに。白羽の矢を立てたのは、真面目で優秀なはとこのバルド。すると喧嘩ばっかりだったファウストの様子がおかしい!?  すれ違いから始まる逆転ラブコメ。

処理中です...