やさしい・悪役令嬢

きぬがやあきら

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ルシアン様を訪ねる理由

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 けれど、それをルシアン様がどう受け止めたのかは気になった。

 ルシアン様の目にわたくしがどのように映っているのか。

 わたくしが転校して間もない女生徒に、他人を使って嫌がらせをするような人間に見えているのか。

「質問を質問で返すのはずるいぞ、オデット」

「左様でございますね。では、お答えします。わたくしはマリアナ嬢に嫌がらせをするよう指図など、しておりません」

 ルシアン様は正面に立ったまま、じっとわたくしの目を見つめて観察する。

 彼も立場上、大勢の人間と対面してきた。その中で育んだ観察眼には自信があるだろう。

 わたくしも怯むことなく、ルシアン様を見つめ返す。

 だって、実際のところわたくしには何一つの後ろめたさもないのだから。

 指図をするどころか、わたくしはマリアナ嬢が危害を加えられると察知して忠告までしたのだ。

 その結果、見当違いの誤解を受ける羽目になったが。

 本当なら素知らぬ顔をして通り過ぎても良かったのに、マリアナ嬢に声をかけた。

 それは、何も知らない彼女が不憫になったからだ。

「マリアナ嬢がルシアン様にそう、仰ったのですか? わたくしから嫌がらせを受けたと」

「あー……そうだな、勘違いしないでもらいたいのだが、この話のきっかけを作ったのは俺だ。マリアナ嬢の服装が制服でなかったから不思議に思って尋ねたのだ。そうしたら、昼休みに泥水を被ったと聞かされた。君に話しかけられた直後に、泥水が降って来たのだと」

 ルシアン様はわたくしの答えに、幾分かホッとしたように声を落として、そう教えてくれた。

「これは状況的な判断であって、直接的な証拠じゃない。あまり憶測で物を言わないほうがいいと、マリアナ嬢には釘を刺しておいた」

 ガシガシと、ルシアン様にしては荒っぽく後ろ髪を掻くと、わたくしに向き直る。

「そうでしたか。ありがとうございます。実はわたくしも今日はそのお話をしにまいりましたの。このままではマリアナ嬢への嫌がらせの改善は難しいでしょうから」

 ホッとしていたのに一変し、ルシアン様は弾かれるようにお顔を上げる。

「何? しかし、今、君は” 指図などしていない” と……」

「ええ。わたくしは指図などしていません。しかし、わかるのです。原因を除かなければ行為はエスカレートするに決まっていますわ」

 ルシアン様は愕然とした様子でわたくしに詰め寄った。

「驚いたな。指図はしていない、だが事態は君の予想に従って起こる。……それは指図しているも同じではないか?」

 困惑しているようだが、ルシアン様の目には非難の色が滲み始めていた。

「同じではありません。許容もしておりませんし、わたくしはただ、これ以上の被害を出さないためにもルシアン様とお話をーー」

 ルシアン様の曲解に、わたくしは初めて、マリアナ嬢へ忠告した行為を後悔し始めた。

 ルシアン様はよりによって、周囲がわたくしのためにマリアナ嬢へ嫌がらせを実行していると受け止めたようだ。

 忠告はしても、咎めないわたくしを非難しようとしている。
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