染みてない大根 9月

鯨骨

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力強くピアノを弾くということ

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ピアノの発表会の練習に出て、色々恥をかいて、小さい子の圧倒的な演奏と歌唱に震える夢をみた。
夢の中のぼくはそれなのにその後、ピアノ教室について調べ始める。
ピアノが家になくても関係ない、と。
自分がただ弾けるようになりたくて。

夢から覚めると電気のつけ忘れていた暗い部屋で爆睡していたことをぼんやり理解する。
じゃあピアノ教室について調べていたことも夢か、とGoogleを立ち上げると、ぼくが寝る前に使っていた新しいオカズが浮かび上がる。
今はそんなことどうでもいいんだと思いながら、ブックマークをつけることは忘れない。
当たり前だろ、新規のオカズは大事だ。

それから今度は現実で改めてピアノ教室について調べてみる。
バイトしてるから、通うのは現実的にあり得ないわけじゃない。
値段的にはありえなくない。
教材とめにはいって、小さい頃に使っていたものが頭に浮かぶ。
ろくでもない寝てる間の夢の中の1つだったのに、なぜか情熱が離れないのだった。

小さいときにピアノを始めた。
ぼくが初めて自分からやりたいというからやらせたと言うのだがぼくには全く動機が思い出せない。
むしろ不真面目で練習は全然しないので、年の割に上達せず、発表会では年下の方がぼくより後のプログラムでめちゃくちゃ上手いなんてこともしばしばだった。
なにも感じないわけじゃなかったが、動機が思い出せないんじゃどうにもやる気が出ないという言い訳。

弾けるようになりたかった曲が2曲あった。
1曲目はベートーヴェンの『エリーゼのために』。
なんでと問われると音が好きだからとしか言いようがない。
2曲目はショパンの『ノクターン』。
こちらは、買ってもらった電子ピアノの中に入っていて、これも音が好きだった。
どちらも難易度が初心者がまずやるものではないわけで、誰かにやりたいと言うこともなく終わってしまった。
電子ピアノももうない。

電子ピアノの鍵盤はそんなに好きじゃなかった。
押したらすぐ返ってくる軽い鍵盤だから。
鍵盤の数が足りないこともあるし。
先生の家のグランドピアノの鍵盤は強く押さないとちゃんと音は返ってこない。
その鍵盤の記憶が指先にだけ残っているんだ。
でもそのピアノを自信満々に力強く押せたことはなかった。
いつも教材の方に必死になってたどたどしくなるばかりだった。

テレビで年を取ってから始めたとか、独学でピアノをやってるとか流れてくる度にどきっとする。
今日の夢が囁く。
本当にピアノをこれから先やることは不可能なのか?
弾けるようになりたかったで終わっていいのか?と。
もう一度、今度は目標を持って、お金を自分で払って、ピアノを弾けるようになりたい。

今思えば、グランドピアノを弾いていたなんて、とても貴重だった気がする。
学校だって、ピアノを弾くのは合唱祭とか卒業式とかで伴奏をするような人くらいだ。
そして、合唱祭のアナウンスで歌う大多数の人より先に出ていく伴奏者を、卒業式で名前を呼ばれ、1人歩いていきピアノの前に座り、みんなの歌を支える伴奏者を、自分にはできないなという気持ちと、自分がもしあそこにいたら、という夢想と羨ましさを抱えていたことを思い出す。

鍵盤を自信を持って押してみたい。
そんな思いが夢から覚めても残った。
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