婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも

文字の大きさ
11 / 17

11 執事が行った情報収集

 ケヴィンが報告を行う。

「エーファお嬢様、最初にお嬢様が赤の方と呼ぶフレイヤの報告を」

「グレーテル……緑の方は良いのですか?」

 問うのはリリー。

「えぇ、お嬢様が彼女から直に聞いた話に間違いはないので、それよりも赤との関係を語るにも、其方を説明したほうがいいでしょうから」

 そしてケヴィンは語りだす。

 赤の方(フレイヤ)は、上級貴族専用の高級娼館だった。
 長くナンバーワンの地位にいたが、客である男が持ち込んだ病気がうつり気づいた時には、食欲が失われ、髪が抜け、肌がかさつき、皮膚が黒ずみ、肉が落ち……客がつかなくなっていた。

 彼女が客を取っていない事をチャンスだと思う客が、彼女を一度は指名したため、上客が減った事に店の者が気づかなかったのだ。 それに、彼女が抱えている借金があった。

 飢饉のおり、村を助けるために彼女は売られた。 売られた店が上級貴族専門で無ければ彼女は借金を返し終えていただろう。 上級貴族の客を満足させるためには娼婦自身が贅沢でなければならず、彼女は今も借金を抱えており、魔法医に見てもらう等出来るはずもなかった。

 そして彼女は身を落とす。

 戦場娼婦に……。

 高級娼館で贅沢に慣れた彼女が、そんな場所で客を取れるはずもなく、何より客も相手にしなかった。 ただ、死を望まれ戦地に送られたのを実感したのは……病もかなり進行した頃……そして助けたのが、声をかけたのは女騎士として戦場にいた緑(グレーテル)であり、彼女が次期公爵であるカスパーに紹介したのだ。

 そして、従軍の魔法医に治療を施される機会を得たと言う事だった。

「自分が助けてもらっている状況で、人を助ける余裕があったなんて……」

 私が腑に落ちないと言う顔をすれば、ケヴィンは話を途中で止めて言うのだ。

「まだ女騎士として活躍していた頃だったようですよ」

「同情?」

「彼女の心までは知りかねますね」

 そして、話は続けられる。

 赤は病気が治ったけれど客を取れるような身体では無かった。 そしてこのような会話が交わされたと言う事だった。

『この御恩は、御側に仕える事でお返ししますから、側においてください』

『必要はない。 残りの借金は決して多くはないのだろう。 村に帰って村の者達と共に残りの借金を返していけばどうだ。 その方が家族も喜ぶだろう』

『子を産めぬ元娼婦が帰ってまともな扱いを受けるはずありません。 どうか、どうか、御側においてくださいませ!!』

 そう、頭を下げ懇願したそうだ。 そこで、口添えを聞いたのもグレーテルだったと言う話である。



「良く、会話の内容まで……」

「まぁ、公子様の美談として、割と簡単に聞き出す事が出来ましたよ」

 軽薄な様子でケヴィンは言う。

「緑の方は、公子様の理解ある友達を演じたから、女性を斡旋したのかしら? 私だったら好きな人に娼婦を斡旋しないわ」

「さてねぇ……。 ソレの答えは本人に聞いても分からない所では? 考えられるのは多いですけどね」

「考え……ですか……。 私だったら……自分に自信がないため女性を宛がうか、高級娼館元No1だった女性と言う栄誉に重点を置きながらも、それでも病気の女より私が良いでしょうと、アピールするとか……でしょうかね」

「わ、私は別にそう言うのじゃないから!! 私は、ただ……愛人が三人もいて、子供も生まれそうな人と愛情を交わしたくないだけなんだから!!」

「リリー、そう言う事をエーファお嬢様に聞かせるな……だが、そう言う経緯があったからこそ、緑がケガをして騎士としての道を断念するしかなかった時。 赤が共にカスパー様を支えようと手を差し伸べたと言う話だった」

「お互い協力関係にあったから、彼女達は、お互いを受け入れる事が出来たと言うことなのかしら? それで……黄の方は?」

「彼女は、戦場娼婦として各地から集められた奴隷でした。 それだけなら、赤と似通っているかもしれません……が、絶対的に違うのはその性格です」

 そしてケヴィンが話し出す。

 黄は自分が可愛いと言う事を理解していました。

 それは、日頃から彼女が得意げにしていたため、そのことを耳にしたと言う情報は多かったと言う話だ。

「……それにしては、情報集まるのが早くはありません?」

「公爵家の弱点を知っておくと何かの時に役に立つと言う者が多いんですよ」

「それは……身内となった今は、対処すべき事……なのかもしれませんね」

 戸惑いと言うのでしょうか? 困惑と言うのでしょうか? そんな感情に囚われていればケヴィンは笑って見せるのだ。

「しばらくの間、身内と思えるようになるまでは情報源は秘密にしておきましょう。 十分に利用価値がありますから」



 黄の方が、他のお二人と違うのはその自信。
 自主性が高く、行動力がある。

『私を奴隷として売ってくれないかしら?!』

 黄の方は自分から奴隷商にそう願い出たのだそうだ。 だから赤の方のように借金等はない。

『確かに君のようなカワイイ子なら、買いたいと言う方は多いでしょう』

『なるべく高く値をつけて下さいよね!!』

『貴方をそうさせるのは、何ですか?』

『こんな田舎の村にいても、私には未来が無いわ。 この小さな町で生まれた、小さいときから付き合いのある男と結婚して、子供を産んで……そんなんで終わりたくないのよ!! でもさ、奴隷としてでも都会に行けば何かが変わる。 それも高い値をつけてくれたなら、買える人もお金を持っている人に限られるでしょう? 私は可愛いし……愛される自身はあるわ!!』

 そう言う理由から黄の方は自分から奴隷となる事を決めたそうです。

 だけど、現実的には難しかった。

 戦場娼婦として売られてきた子達は、若く可愛い。 怯えたような様子が……庇護欲を煽り、挑発的な黄の方への評価は高くはなく、そして……娼婦としての彼女は客を選んでいた。

 結果として彼女の望みは叶う事は無く、戦争が一区切りした頃……行き場を失い。 彼女を買いたいと言うのは、その強気な性格をへし折ってやろうと言う変態だった。

『違う!! こんなの私が望んだ未来じゃない!!』

 そんな彼女に手を差し伸べたのが、緑と赤の方だったと言う話だ。

あなたにおすすめの小説

白い結婚の行方

宵森みなと
恋愛
「この結婚は、形式だけ。三年経ったら、離縁して養子縁組みをして欲しい。」 そう告げられたのは、まだ十二歳だった。 名門マイラス侯爵家の跡取りと、書面上だけの「夫婦」になるという取り決め。 愛もなく、未来も誓わず、ただ家と家の都合で交わされた契約だが、彼女にも目的はあった。 この白い結婚の意味を誰より彼女は、知っていた。自らの運命をどう選択するのか、彼女自身に委ねられていた。 冷静で、理知的で、どこか人を寄せつけない彼女。 誰もが「大人びている」と評した少女の胸の奥には、小さな祈りが宿っていた。 結婚に興味などなかったはずの青年も、少女との出会いと別れ、後悔を経て、再び運命を掴もうと足掻く。 これは、名ばかりの「夫婦」から始まった二人の物語。 偽りの契りが、やがて確かな絆へと変わるまで。 交差する記憶、巻き戻る時間、二度目の選択――。 真実の愛とは何かを、問いかける静かなる運命の物語。 ──三年後、彼女の選択は、彼らは本当に“夫婦”になれるのだろうか?  

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

私を裏切った不倫夫に「どなたですか?」と微笑むまで 〜没落令嬢の復讐劇〜

恋せよ恋
恋愛
「早くあんな女と別れて、可愛い子と一緒になりたいよ」 不倫中の夫が笑う声を聞き、絶望の中で事故に遭うジェシカ。 結婚五年目に授かったお腹の子を失った彼女は、 「記憶を失ったフリ」で夫と地獄の婚家を捨てることを決意。 元男爵令嬢の薄幸ヒロインは、修道院で静かに時を過ごす。 独り身領主の三歳の男の子に懐かれ、なぜか領主まで登場! 無実の罪をなすりつけ、私を使い潰した報いを受けなさい。 記憶喪失を装った没落令嬢による、「ざまぁ」が幕を開ける! ※本作品には、馬車事故による流産の描写が含まれます。  苦手な方はご注意ください。主人公が絶対に幸せになる  物語ですので、安心してお読みいただければ幸いです。 🔶登場人物・設定は筆者の創作によるものです。 🔶不快に感じられる表現がありましたらお詫び申し上げます。 🔶誤字脱字・文の調整は、投稿後にも随時行います。 🔶今後もこの世界観で物語を続けてまいります。 🔶 『エール📣』『いいね❤️』励みになります!

死ぬまでに叶えたい十の願い

木風
恋愛
「あなたを妻として、愛することはない。おそらく、生涯抱くこともないだろう」 三年間の白い結婚——捨て置かれた王太子妃エリアーナに、側妃が『死の呪い』をかけ余命一年を宣告する。 離縁を願うも拒否され、代わりに「死ぬまでに十の願いを叶えて」と契約する—— 二人きりの外出、星空、海…ささやかな願いが王太子の心をほどいていく。

婚約者は妹のような幼馴染みを何より大切にしているので、お飾り妻予定な令嬢は幸せになることを諦めた……はずでした。

待鳥園子
恋愛
伯爵令嬢アイリーンの婚約者であるセシルの隣には『妹のような幼馴染み』愛らしい容姿のデイジーが居て、身分差で結婚出来ない二人が結ばれるためのお飾り妻にされてしまうことが耐えられなかった。 そして、二人がふざけて婚姻届を書いている光景を見て、アイリーンは自分の我慢が限界に達そうとしているのを感じていた……のだけど!?

〖完結〗あんなに旦那様に愛されたかったはずなのに…

藍川みいな
恋愛
借金を肩代わりする事を条件に、スチュワート・デブリン侯爵と契約結婚をしたマリアンヌだったが、契約結婚を受け入れた本当の理由はスチュワートを愛していたからだった。 契約結婚の最後の日、スチュワートに「俺には愛する人がいる。」と告げられ、ショックを受ける。 そして契約期間が終わり、離婚するが…数ヶ月後、何故かスチュワートはマリアンヌを愛してるからやり直したいと言ってきた。 設定はゆるゆるの、架空の世界のお話です。 全9話で完結になります。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

「既読だけだったあなたと別れて、私はちゃんと恋をした」〜言葉を失った私が、もう一度誰かを好きになるまで〜

まさき
恋愛
五年間、私は何も言えなかった。 「ねえ、今日も遅いの?」 そう送ったメッセージに返ってくるのは、いつも“既読”だけ。 仕事に追われる夫・蒼真は、悪い人じゃなかった。 ただ——私を見ていなかった。 笑って送り出して、一人で夕食を食べて、眠れない夜をやり過ごす。 そんな日々を続けるうちに、言葉は少しずつ消えていった。 そしてある夜、私は離婚届を置いて家を出た。 声にできなかった五年分の気持ちを、そのまま残して。 ――もう、何も言わなくていいと思った。 新しい生活。静かすぎる部屋。 誰にも気を遣わなくていいはずなのに、なぜか息がしやすい。 そんなある日、出会ったのは—— ちゃんと話を聞いてくれる人だった。 少しずつ言葉を取り戻していく中で、気づいてしまう。 私はまだ、蒼真のことを忘れられていない。 「今さら、遅いよ」 そう言えるはずだったのに—— これは、何も言えなかった私が、 もう一度“誰かを好きになる”までの物語。 そして最後に選ぶのは、 過去か、それとも——今か。