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謎編
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「し、死刑?」
スマホを隔てた先にいる弁護士の言葉を僕は簡単に信じる事ができなかった。
「どうしてですか!小百合は何も知らないって、」
「ですが無視できない証拠があり、精神疾患の可能性から執行猶予をつけようと私なりに奮闘したのですが、十七人も、それも残酷な方法で殺しているとそれすら難しく…お力になれず申し訳ございません。」
「なん、でだよ…もう、良いです。お疲れ、様でした。」
「はい、失礼します。」
意識とは関係なく、僕はスマホを落としていた。すぐに硬いフローリングから鈍い音が鳴った。
「小百合が、死刑…」
僕の大学生活は、たった一人の女性によって照らされていた。
その女性が七瀬小百合、僕の恋人だ。
小百合は遠い所からやってきたせいか人に全く相手にされない僕に対して唯一積極的に話しかけてくれた人だった。
そして二年生になってすぐに告白され、僕はもちろん了承した。恋人になってからも小百合は頻繁に家に来ては家事をしながら僕のわがままを聞いてくれ、独占欲の強い人だったが僕は友人をもたず、長い時間を小百合に割くことができたから喧嘩になることも全くなかった。
それから半年が経ち、このまま結婚するかもしれないと考えていたころに、小百合が捕まった。しかも大量殺人の疑いで。
少しだけ小百合に聞いてみたけど、彼女は全く身に覚えがないようだった。潔白を主張しながら涙を流していたし、それが無くとも二年以上関わりがあった僕からすれば小百合が嘘をついていないことは明らかだった。
でも彼女は逮捕され、数か月後死刑が決まってしまった。
もう、僕はどうやって生きればいいんだ。
時刻を確認すると日付が変わろうとしていたが、どこかへ逃げたい衝動を抑えられない僕は家を出て散歩にでかけた。
辺りの静けさに反して、頭の中でやるせなさや悲しみ、怒りなど様々な感情が渦巻きながら足の感覚が無くなるまで歩いていると、気づくと知らない道を歩いていた。いや、深夜の風景が見慣れないだけかもしれない
僕はいつの間にか剥がれ落ちていた野心を久々に取り付けて冒険してみることにした。
怪しい物を見つけるのにそう時間はかからなかった。十分も経ってない気がする。
それは『忘れさせ屋』と入り口付近の看板に書いてある店だ。建物からは実家の近くにあった駄菓子屋を思い出させるような造りと材質。
小百合の件で心が半壊している僕は全く怪しさに慄くことはなく、木製の引き戸を開けた。
中も外からの印象を裏切ることはなくレトロを感じたが、カウンターの奥に座る僕より一回り年上で燕尾服を着た男性がその雰囲気を壊していた。
「あらら、いらっしゃい。」
「あ、こんばんは。」
店のはずなのにあちらから話しかけてきたことになぜか驚いてしまった。
「今日は誰にしますか?」
「え?」
「ん、あーさては君どんな店か分からずに入ってきた人か。」
「すみませんそうです、入り口に『忘れさせ屋』とあったとは見ましたけど…」
「その通り。ここは忘れさせ屋。誰かとの思い出を消すことができる店。ただし死期が近いと思われる人に関する記憶に限られるけど。」
「すみませんちょっと意味が。」
「例えば飼っているペットが平均寿命を超えて明らかに身体が弱っているのを見たとき、そのペットとたくさんの思い出をもちながら別れるの悲しいでしょ?だからそういう人のペットに関する記憶を私がもらって、ペットが死んでも大して悲しまずに済む、という店。」
ペットが生きていたときどんなに楽しくても、死んだときの悲しみがその思い出を存分に塗りつぶすからねと、彼は付け足した。
「では『死期が近い』人ということは、死んでしまった人の記憶は消せないのですか?」
「そうですね、少なくとも意識はないと不可能です。」
「なるほど…」
「ただし私が記憶をもらうと、忘れられた人もこの店を利用した人に関する記憶を忘れることは注意した方が良いですよ。」
「僕がある人との記憶を消してもらうと、そのある人も僕との記憶を忘れるということですか?」
「そういうことです。」
思い出したかのように急に始めた敬語にわざわざツッコまず、僕はこの店の理解に全力を注いだ。
「でも死期が近い人との記憶しか消せないのだから、あまり注意する必要は無い気がしますけど。」
「正確には死期が近いとこの店に来た人が思っていれば良いんです。」
「なんか違いありますか?」
「…まあいいです。それでお客さんは誰か忘れたい人はいるんですか?」
「いますけど、忘れてしまって良いのか、っていう葛藤が残っていて、決心がつきません。彼女は家族を除けば僕の唯一の親しい人なので。」
「彼女、というのは恋人ですか?」
「そうですね。」
「なるほど、であれば少々お値段は張るでしょうね。」
「あ、そういえば値段、どのくらいですか?」
「基本的に千から五万円くらいですかね。その人との親しさと思い出の量で変動して、ペットだと寿命によってかなり変動するので目安は言えませんが、友人であれば一万円ほど、恋人であれば三万、仲の良かった家族であれば五万を超えることもありますね。」
「ということは僕の場合は三万円くらいですか?」
「私が査定しないと詳しい価格は分かりませんが、大体そのくらいでしょうね。」
「あの、カードって使えますか?」
「こんな建物ですけど、その辺は乗り遅れていませんよ。」
「…じゃあ、お願いします。」
小百合との思い出を失うことよりも、小百合がこの世からいなくなることの方が怖く感じてしまった。
「ありがとうございます、ではこれに自分と忘れたい人の名前、年齢を書いてください。」
そう言いながら彼は引き出しから取った縦長の白い紙と赤のボールペンを僕に手渡した。一見よくある紙だが持ってみると少し重い気がしたこと違和感を持ちつつ、言われた通り僕と小百合の名前、年齢を縦に並べて書いた。
「荻野優介さんと、峯川小百合…って、あの?」
「すいません、小百合は僕の彼女です。でも彼女は無実なんです!でも死刑になってしまって。」
連日ニュースで彼女の名前が報道されているのだから蔑みの目を向けられる可能性に書いてから気づき、僕は慌てて取り繕ったが、彼は特に気にしない様子だった。
ただ小さい声で「捕まったのか」と発したのが聞こえた。
「ではその紙を両手で持って、小百合さんとの思い出をなるべく頭の中で呼び起こしてください。」
僕は指示通り紙を強く持ち、目を閉じて小百合との思い出を振り返った。それだけで瞳が潤んでいるのを感じた。
「荻野さん、もう十分ですよ。」
言われてようやく目を開けると、持っていた紙に異変が生じている。僕が書いた二つの名前の間が黒に近い紫色で五センチほどの幅の線によって結ばれていた。
「あの、これ…」
「この線の色と太さで忘れたい人との親密度を測っているんです。線の太さが単なる思い出の量、色は赤から黄、緑、青、紫といくにつれて思い出の質、どれだけ幸せであったかが分かります。つまりお客さんと小百合さんの間にはかなり強い絆があったことが分かります。紫色なんて、家族でないと見ないんですよね。太さは見たことありますが。」
「ということは値段は…」
「そうですね、この線だと…おお、七万四千円ですね。」
男は引き出しから取り出したマニュアル本のようなものを見ながら言った。
「ななまん?!か、カードで…」
「先に払いますか?ではこちらに差し込んでください。」
カード決済の流れはコンビニなどと似たようなものだった。
「支払い完了ですね。では今から記憶を頂きますが、なにか心残りはありますか?」
「…特にないです。お願いします。」
「では失礼します。」
そう言うと男は引き出しから取り出した真っ黒の紙を僕が書いた白い紙の上に置き、確実に日本語ではない呪文のようなものを唱え始めた。
その瞬間小百合との記憶が吸われていく。誰かが僕の頭から生えている糸を綱引きのように引っ張っているようだ。
呪文が終わった。男が僕と誰かの名前が書かれた黒い紙を背後にあるタンスに入れながら言った。
「では終了です。おかえりください。」
「え?俺はここで何を…」
「あなたはここである人との記憶を消したんですよ。それが完了したので目的は達成されました。なのでおかえりください。」
「は、はあ。」
俺は確かに頭から何かが抜けた感覚を持ちながら『忘れさせ屋』を出た。俺は誰を忘れたんだ…
「また忘れたい人ができたらいつでもお越しください。」
と言った後に発した、
「…可哀そうに。」
という言葉だけが家に帰っても頭から離れなかった。
スマホを隔てた先にいる弁護士の言葉を僕は簡単に信じる事ができなかった。
「どうしてですか!小百合は何も知らないって、」
「ですが無視できない証拠があり、精神疾患の可能性から執行猶予をつけようと私なりに奮闘したのですが、十七人も、それも残酷な方法で殺しているとそれすら難しく…お力になれず申し訳ございません。」
「なん、でだよ…もう、良いです。お疲れ、様でした。」
「はい、失礼します。」
意識とは関係なく、僕はスマホを落としていた。すぐに硬いフローリングから鈍い音が鳴った。
「小百合が、死刑…」
僕の大学生活は、たった一人の女性によって照らされていた。
その女性が七瀬小百合、僕の恋人だ。
小百合は遠い所からやってきたせいか人に全く相手にされない僕に対して唯一積極的に話しかけてくれた人だった。
そして二年生になってすぐに告白され、僕はもちろん了承した。恋人になってからも小百合は頻繁に家に来ては家事をしながら僕のわがままを聞いてくれ、独占欲の強い人だったが僕は友人をもたず、長い時間を小百合に割くことができたから喧嘩になることも全くなかった。
それから半年が経ち、このまま結婚するかもしれないと考えていたころに、小百合が捕まった。しかも大量殺人の疑いで。
少しだけ小百合に聞いてみたけど、彼女は全く身に覚えがないようだった。潔白を主張しながら涙を流していたし、それが無くとも二年以上関わりがあった僕からすれば小百合が嘘をついていないことは明らかだった。
でも彼女は逮捕され、数か月後死刑が決まってしまった。
もう、僕はどうやって生きればいいんだ。
時刻を確認すると日付が変わろうとしていたが、どこかへ逃げたい衝動を抑えられない僕は家を出て散歩にでかけた。
辺りの静けさに反して、頭の中でやるせなさや悲しみ、怒りなど様々な感情が渦巻きながら足の感覚が無くなるまで歩いていると、気づくと知らない道を歩いていた。いや、深夜の風景が見慣れないだけかもしれない
僕はいつの間にか剥がれ落ちていた野心を久々に取り付けて冒険してみることにした。
怪しい物を見つけるのにそう時間はかからなかった。十分も経ってない気がする。
それは『忘れさせ屋』と入り口付近の看板に書いてある店だ。建物からは実家の近くにあった駄菓子屋を思い出させるような造りと材質。
小百合の件で心が半壊している僕は全く怪しさに慄くことはなく、木製の引き戸を開けた。
中も外からの印象を裏切ることはなくレトロを感じたが、カウンターの奥に座る僕より一回り年上で燕尾服を着た男性がその雰囲気を壊していた。
「あらら、いらっしゃい。」
「あ、こんばんは。」
店のはずなのにあちらから話しかけてきたことになぜか驚いてしまった。
「今日は誰にしますか?」
「え?」
「ん、あーさては君どんな店か分からずに入ってきた人か。」
「すみませんそうです、入り口に『忘れさせ屋』とあったとは見ましたけど…」
「その通り。ここは忘れさせ屋。誰かとの思い出を消すことができる店。ただし死期が近いと思われる人に関する記憶に限られるけど。」
「すみませんちょっと意味が。」
「例えば飼っているペットが平均寿命を超えて明らかに身体が弱っているのを見たとき、そのペットとたくさんの思い出をもちながら別れるの悲しいでしょ?だからそういう人のペットに関する記憶を私がもらって、ペットが死んでも大して悲しまずに済む、という店。」
ペットが生きていたときどんなに楽しくても、死んだときの悲しみがその思い出を存分に塗りつぶすからねと、彼は付け足した。
「では『死期が近い』人ということは、死んでしまった人の記憶は消せないのですか?」
「そうですね、少なくとも意識はないと不可能です。」
「なるほど…」
「ただし私が記憶をもらうと、忘れられた人もこの店を利用した人に関する記憶を忘れることは注意した方が良いですよ。」
「僕がある人との記憶を消してもらうと、そのある人も僕との記憶を忘れるということですか?」
「そういうことです。」
思い出したかのように急に始めた敬語にわざわざツッコまず、僕はこの店の理解に全力を注いだ。
「でも死期が近い人との記憶しか消せないのだから、あまり注意する必要は無い気がしますけど。」
「正確には死期が近いとこの店に来た人が思っていれば良いんです。」
「なんか違いありますか?」
「…まあいいです。それでお客さんは誰か忘れたい人はいるんですか?」
「いますけど、忘れてしまって良いのか、っていう葛藤が残っていて、決心がつきません。彼女は家族を除けば僕の唯一の親しい人なので。」
「彼女、というのは恋人ですか?」
「そうですね。」
「なるほど、であれば少々お値段は張るでしょうね。」
「あ、そういえば値段、どのくらいですか?」
「基本的に千から五万円くらいですかね。その人との親しさと思い出の量で変動して、ペットだと寿命によってかなり変動するので目安は言えませんが、友人であれば一万円ほど、恋人であれば三万、仲の良かった家族であれば五万を超えることもありますね。」
「ということは僕の場合は三万円くらいですか?」
「私が査定しないと詳しい価格は分かりませんが、大体そのくらいでしょうね。」
「あの、カードって使えますか?」
「こんな建物ですけど、その辺は乗り遅れていませんよ。」
「…じゃあ、お願いします。」
小百合との思い出を失うことよりも、小百合がこの世からいなくなることの方が怖く感じてしまった。
「ありがとうございます、ではこれに自分と忘れたい人の名前、年齢を書いてください。」
そう言いながら彼は引き出しから取った縦長の白い紙と赤のボールペンを僕に手渡した。一見よくある紙だが持ってみると少し重い気がしたこと違和感を持ちつつ、言われた通り僕と小百合の名前、年齢を縦に並べて書いた。
「荻野優介さんと、峯川小百合…って、あの?」
「すいません、小百合は僕の彼女です。でも彼女は無実なんです!でも死刑になってしまって。」
連日ニュースで彼女の名前が報道されているのだから蔑みの目を向けられる可能性に書いてから気づき、僕は慌てて取り繕ったが、彼は特に気にしない様子だった。
ただ小さい声で「捕まったのか」と発したのが聞こえた。
「ではその紙を両手で持って、小百合さんとの思い出をなるべく頭の中で呼び起こしてください。」
僕は指示通り紙を強く持ち、目を閉じて小百合との思い出を振り返った。それだけで瞳が潤んでいるのを感じた。
「荻野さん、もう十分ですよ。」
言われてようやく目を開けると、持っていた紙に異変が生じている。僕が書いた二つの名前の間が黒に近い紫色で五センチほどの幅の線によって結ばれていた。
「あの、これ…」
「この線の色と太さで忘れたい人との親密度を測っているんです。線の太さが単なる思い出の量、色は赤から黄、緑、青、紫といくにつれて思い出の質、どれだけ幸せであったかが分かります。つまりお客さんと小百合さんの間にはかなり強い絆があったことが分かります。紫色なんて、家族でないと見ないんですよね。太さは見たことありますが。」
「ということは値段は…」
「そうですね、この線だと…おお、七万四千円ですね。」
男は引き出しから取り出したマニュアル本のようなものを見ながら言った。
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カード決済の流れはコンビニなどと似たようなものだった。
「支払い完了ですね。では今から記憶を頂きますが、なにか心残りはありますか?」
「…特にないです。お願いします。」
「では失礼します。」
そう言うと男は引き出しから取り出した真っ黒の紙を僕が書いた白い紙の上に置き、確実に日本語ではない呪文のようなものを唱え始めた。
その瞬間小百合との記憶が吸われていく。誰かが僕の頭から生えている糸を綱引きのように引っ張っているようだ。
呪文が終わった。男が僕と誰かの名前が書かれた黒い紙を背後にあるタンスに入れながら言った。
「では終了です。おかえりください。」
「え?俺はここで何を…」
「あなたはここである人との記憶を消したんですよ。それが完了したので目的は達成されました。なのでおかえりください。」
「は、はあ。」
俺は確かに頭から何かが抜けた感覚を持ちながら『忘れさせ屋』を出た。俺は誰を忘れたんだ…
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