親子そろって悪役令嬢!?

マヌァ

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白魔法の文献編

198話『砦の現状 2』

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「そう……。

 貴女が本当に彼らを癒せるのなら…… 着いてきて」





女性医師に案内された場所は、宿舎の隣にある別の宿舎だった。

宿舎の中に進み――





「うあああぁあぁあぁ――」 「助けてくれえぇえ――」





「痛い 痛い 痛い いだあぁ――」 「嫌だ! 嫌だ!――」





さまざまな悲鳴が、宿舎の中に響き渡っていた。



女性医師の説明を受け、案内は続く。

すくみそうになる足に力を入れて、付いて行く。





「ここの宿舎は皆、状態段階2~3の者が集められているわ。

 私達が交代で治療を施し、炎症を抑えるのがやっとの者達も……」





言いよどみ、女性医師が足を止める。目的の部屋に着いたようだ。



扉の中はシーンとしている。

まるで、中には誰もいないかのような。

そんな人の気配が感じられない扉の前で、女性医師に入るように促された。



私は意を決して、扉に手をかけた。

部屋の中は暖かく、暖炉の置かれた少し大きな部屋だった。

棚には医師が使っていたであろう代えのシーツやタオル、包帯に桶が置かれ、

棚の隣には小さいけれど洗面台もあった。



寝台の数は6つ。

内4つは、がら空き状態で、残り2つの寝台には包帯で巻かれた患者が

静かに寝かされている状態だった。

毛布の類はない。

ただ寝かされている状態といえばわかるだろうか。



1人は、右腕、右足が無い男性の患者だ。

表情はまったく動かない。

胸の部分がわずかに上下に動いているので生きてはいる。

けれど、開かれた目は天井のずっと一点を見つめたままだった――。



もう一人は、全身を包帯で巻かれていた。

頭まで撒かれていて、表情はもちろん、生きているのかすら不思議だった。



2人共、撒かれた包帯から染み出る赤黒い血が寝台のシーツまで

達している状態だった。



包帯の下がどうなっているのか――。

確認するのが正直怖かった。



喉の奥に、苦いものがこみ上げる。

必死で堪え、私は一番酷いであろう全身包帯の患者の方に近づいた。



(こんな状態の患者がいるのに、医師一人いないなんて……)



幸いだったのは、定期的に綺麗な包帯に換えられていたことか。

思った疑問はあとで女性医師に確認すればいい。



私は、ベリアル様に視線を送る。

それだけで、頷いたベリアル様は、

タオルや桶を取り出し、お湯の用意をしてくれる。



目の前の患者に声をかけ、触診する。





「……失礼しますね」





「――……ひゅー ひゅー」





僅かに聞こえる呼吸音。

息をするのも辛い状態なのだろう。

患者は、わずかに首を動かし、私のいるほうを向いた。





「――ひゅー、わ 私の―……ひゅー、ばん……か?」





「え?」





「――ひゅー、わた……、ひゅー、まだ……に……たく……ないっ……」





声は、かすれていたけれど女性だった。





「大丈夫です。絶対に助けます」





「……ちが……ひゅー」





首を僅かに振る女性は、目元の包帯がじんわりと湿りだした。




「わた……は、ひゅー、

 もう……助……な……のだ……ろ? だ……殺ず……」





『私はもう助からないのだろう? だから、殺す』

途切れ途切れの言葉なのに、私にはその言葉が良く聞こえた。





「ひゅー、前の――人達……ひゅー、ように……」





「そんな事――!」





思ったよりも大きな声を出していた。

そして、疑問に思う。


どうして、彼女はそんな事を言うのか。

心が死んだような男性患者。

空になった寝台。



『私のばんか?』 という最初の言葉――。



私は、女性医師を睨みつけた。


女性医師は、一瞬目を逸らし、真っ直ぐに見つめて言った。



「苦しんでいる人を救う方法は、癒すだけが全てじゃないのよ」




女性医師の言葉で、理解してしまった。

私は、女性医師に詰め寄る。




「だからって、そんなの――!!」





「私達の力だけじゃ、限界がある!!

 救いたい。 救いたかった!! それは誰でも同じなのよ!!

 だけど、救えない。 私達の力じゃ限界がある!

 苦しんでいる人が、じわじわ弱って、苦しんで死んでいく。

 それなら、苦しむ時間が少しでも短くなるようにって――!!」





「もういいです!!」





私は、女性医師の言葉を遮って、患者の元へ戻る。





「触れますね」





そう声をかけ、胸元に触れた。

祈りを込めて、アリエ様に問いかける。





(アリエ様、彼女を癒せますか?)





「『桃の子を呼んでくるのであーる!』」





私は、ベリアル様に視線を向ける。





「ナナリーを!」 「わかった」





ベリアル様は、駆け足で部屋を出て行った。


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