猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第165話・繋がり

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「──てなワケでさ、」

 話を一区切りし、ヴィルジール達の様子を窺う。
 1時間はぶっ通しで思い出話を語った俺だが、まだまだ話したい事が沢山ある。
 しかし、既にサンクイラの頭がパンクして放心状態で、シルビアは情報過多による頭痛に悩まされていた。
 唯一ヴィルジールは、何度か聞き返したりして話に食らいついている様子だが⋯⋯。
 
「⋯⋯以前の俺が、お前に強い興味を持っていたのは、アリアって奴の仕業だったと。
 それは、クローネでの迎撃戦の時にいたバルドールって男も同様で、俺とアイツが偶然出会した事で お前の“取り合い”になった⋯⋯って訳か?」
「まぁそうなるな。彼女曰く、『君の成長を促す為に、ある程度の実力者が接触してくる様に仕組んでいた』という事らしいが⋯⋯」
「そんな勝手な⋯⋯ってのは言いてぇが、今までの話が真実なら、お前が強くならなければ世界が終わるって訳だしな⋯⋯」
「う~ん⋯⋯」

 男二人。首を傾げて腕を組む。
 俺としては、ヴィルジールに『ふざけんじゃねぇ!』と殴られる覚悟だったが⋯⋯
 当時の状況を冷静に分析されると、幼女の行動も真っ直ぐと否定が出来ない事に気付かされるな。
 まぁとはいえ、思考と行動に勝手に干渉されたって事実には変わりないし、逆に殴られた方がスッキリする気がする。

「なぁ、ヴィル──」
「いえ、結果は変わらなかったと思うわ」

 不意に、シルビアが口を開いた。
 やっぱり殴ってくれと言いたかったんだが、『結果は変わらなかった』とは一体どういう意味だ⋯⋯?

「猛紅竜。彼はね? 魔物に対しては、元から強い興味を持つ事がある性格なの。
 その性格が表に出るのはごく稀だけど、それでも私は彼のそんな姿を何度か見た事があるのよ」
「し、シルビア? 俺ってそんなトコあったのか?」
「ええ、そうよ。私は、貴方の本性が現れる度に、周囲の人々が貴方から離れて行かない様にしてたんですもの」

 ヴィルジールは、疑問げな表情を浮かべる。
 会話の内容から察するに、幼女がどうこうするまでも無く、ヴィルジールは微かな狂気を秘めていたと。
 それは、彼本人としては自覚の無い狂気であったが、いつも傍に居るシルビアとしては感じれる程のものだった。
 そして彼女は、その狂気があらわなったヴィルジールが周囲から糾弾されない為の努力をしていた。
 大まかに話をまとめるなら、こんな感じだろうか?
 シルビアの努力にヴィルジールが気付いていない点には⋯⋯まぁツッコまなくてもいいか。
 そこら辺は二人の関係性の話だ。俺が兎や角言う筋合いは無い。

「──ねぇ、覚えてる? 猛紅竜がまだ銀灰竜と呼ばれていた頃、個体名が銀槍竜へと変更された時の事を」
「え⋯⋯?」
「あの時、“本当の貴方”を目にしたサンクイラは、酷く困惑していたのよ?
 あと一歩でも踏み込んでいれば、彼女も確実に貴方に呑まれていたと思うわ。
 それ程までに、貴方の内側にある存在は強力なんだから」
「そ、そうか⋯⋯。ごめん、シルビア。ありがとう」
「バカね、私と貴方の仲でしょ?」
「シルビア⋯⋯。お前だけだ、俺なんかの世話が出来んのは」
「⋯⋯ばっ、バカっ/////」
 
 うおっ、途中までシリアスかと思ってた。
 唐突にイチャコラしやがってコイツら。

「──まぁ、兎に角、ね? 負い目を感じているのは察せれるけど、猛紅竜あなたは気にしなくてもいいと思うわ」
「ばっ、バカっ/////」
「⋯⋯は? なによ急に?」
「ゴメンって」

 照れ隠ししたら、真面目なカオされちゃった。
 久し振りに母親に頭が上がらない感覚を思い出したぜ。
 いやしかし、『ヴィルジールには元から狂気があった』か。
 それも、他人がそれに呑み込まれる程のものであると。
 ⋯⋯思えば、バルドールは初めから異様な雰囲気だったが、ヴィルジールは少し変わっていたな。
 初めて会った頃の彼は、俺に闘争的な興味があったのかすら疑問になる程、普通の冒険者の男だった。
 いや。寧ろヴィルジールは、“普通過ぎた”のかもしれない。
 本来の彼の狂気に加え、幼女の手による思考への干渉⋯⋯。
 それは恐らく、“狂気の増幅”という結果を生み出した。
 だからこそ彼は、それを必死に押さえ込み、あたかも普通であるかの様な自分を装った。
 しかし、それが偽りの自分である事に変わりは無く、彼の内側で狂気は増幅し続けていた。
 そして、クローネでの迎撃戦の時。俺とバルドールの戦いという“刃”が、張り詰めていた彼の“糸”を断ち切った──。
 ⋯⋯あくまでこれらは、俺の予想でしかない。
 だが、先程のシルビアの台詞と、今までのヴィルジールとの取りを思い返すと、全てが上手く繋がる気がする。

「──少し疲れたな。珈琲でも飲むか?」
「ん? あぁ、そうだな。貰うぜ」

 席を立ったヴィルジールの背を、後ろから眺める。
 なんというか、以前と違って安心感のある人物に見えるな。
 前は前で、他の冒険者には頼りにされていたのだろうが⋯⋯
 俺からすれば、僅かな殺気をずっと放っている様な奴だった訳だしな。
 幼女の魔法が解けた今、狂気は鳴りを潜めているだろうし、随分とスッキリした姿に感じられるぜ。

「珈琲、シルビアも飲むか?」
「えっ?! い、いや、私はいいわよ⋯⋯」
「ン? そうか? 美味い珈琲なんだけどなぁ」

 ⋯⋯あ、今の会話デジャヴだな。
 前に、ガバンとも似た遣り取りをしていた気がするぞ。
 確か、ガバンが『珈琲自体は美味い』なんて言ってた記憶があるし、やはりヴィルジールの淹れ方とかに問題が──

「⋯⋯ん?」

 その時、ふと感じた。
 ヴィルジールが用意している珈琲の、その香りを。
 だ。この香りは、俺が白厳(はくげん)から貰った珈琲と全く同じ香りをしている。
 二人が同じ珈琲豆を持っていただけの、単なる偶然とも思えるが⋯⋯。
 記憶を辿ると、以前に二人が発した台詞というのがピッタリと噛み合うのだ。

 ──知り合った人には、お渡ししているんですよ──

 ──知り合いから貰ったんだが、コイツが美味いんだ──

 うーむ⋯⋯。やはり、違和感は無いよなぁ。
 まぁ詳細を探るのも面倒だし、直接本人に聞いた方が手っ取り早いか。

「──なぁ、ヴィルジール?」
「なんだ? 砂糖は多めか?」
「いや、そうじゃなくて⋯⋯。アンタって、“黒の中折れ帽とスーツを着た男"が知り合いにいたりするか?」
「⋯⋯!? 白厳を知ってんのか⋯⋯!!」

 驚愕した表情で、ヴィルジールは動きを止める。
 どうやら、本当に白厳を知っていた様だ。

「なに? そのハクゲンって人?」
「いや、ほらさ。シルビアなら知っているだろ? 俺が違法組織の摘発やら、その被害者の保護やらをやってたの」
「えぇ、まぁ⋯⋯」
「そん時に縁あって知り合った男なんだが、マジで人柄が良くてさぁ。腹を割って話せるのは、お前と白厳くらいだと思ってる程の奴なんだよ。
 まさか、コイツまで知ってるとはなぁ。流石、あの白厳だ」

 親指で俺を差し、ヴィルジールは何度も頷く。
 俺としては、彼らが知り合いだった事より、ヴィルジールの過去の経歴の方が気になってるんだが⋯⋯。
 『違法組織の摘発やら、その被害者の保護やらをやってた』って、つまりは警察みたいな仕事をしていた訳か?
 なんだっけ⋯⋯前にギフェルタで会った⋯⋯。あぁそうだ、ギルバド・アレクターだ。
 彼みたいな感じで、表向きは冒険者だが、裏ではギルドの諜報員だった感じなのか?
 でもそんな雰囲気がある男には──。⋯⋯いや、全く違和感が無かった訳でも無かったか。
 あの時⋯⋯。そう、俺が初めてベルトンに来て、所持金を作ろうとテュラングルの鱗を質屋で売ろうした時だ。
 手間が省ける様、ヴィルジールに質屋との交渉を任せたが、その時に彼は言っていた。『裏市場とかでなら言い値で売れる代物だぜ』と。
 まるで、世間の闇の面を知っているかの様な台詞だったが、今の会話が答え合わせになったな。

「──成程。白厳あいつが関わってるのなら、お前が置かれている状況も多少は理解出来たぜ」

 淹れかけの珈琲を台所に置き、ヴィルジールが部屋を出る。
 そのおもむろな行動に、俺は勿論 シルビアも首を傾げた。
 ヴィルジールが部屋を出ていってから数十秒後。再び姿を現した彼は、緋黒の両剣を携えた姿であった。

「俺がやるべき事が、たった今、決まった。
 だが⋯⋯紅志あかし。まずは残っている俺達の問題を片付けよう」
「え? ン?? ⋯⋯えッ!? 今、俺の事を──」
「いいから、着いてこいよ」

 言われるがまま、俺は彼の後を追った。
 続けてシルビアも追って来ようとしたが、『男二人で話したい』と、ヴィルジールが彼女の同行を拒んだ。
 何が何だか分からぬまま、ヴィルジールの後ろを歩く俺。
 そして、疑問が残ったまま辿り着いたのは──

「思い出すか? シルビアとの試合を」
「⋯⋯ハッ。忘れた事なんかねぇよ」

 ベルトン・特別訓練場。
 静寂が支配するその場所で、ヴィルジールが両剣を構えた。
 ⋯⋯成程。そういえば、は幼女の横槍が入って決着がついていなかったな。

「──殺す気で来いよ、ヴィルジール」

 半身に構え、正面を見据える。
 10メートル先、一人の冒険者、緋黒の両剣──。
 拳に魔力を込めた俺は、ゆっくりと深呼吸をする。

 刹那の起爆。男の戦いが始まった。
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