猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

文字の大きさ
176 / 195
1章【暗黒討伐編】

第175話・神話の果てに目指すもの

しおりを挟む
 ──オーガとの決戦を、明日に控えた今日。
 俺と幼女は、夜の“王の庭”を目的地も決めずに歩いていた。
 日が暮れた頃──丁度リゼさんとの鍛錬が終わった時だった──に、幼女が俺の所に顔を出したのだ。
 どこかいつもと雰囲気の違う彼女が、『少し歩こう』と言い出したのが現状までの経緯である。

「星が綺麗だね~」
「な。排気ガスが無い世界は、空がよく澄んでる。コッチにも星座とか無いのか?」
「あるよ~。あの星とあの星とあの星、あの星とあの星とあの星の並びが“アリアちゃん座”だよ♪」
「いや、『あの星』じゃ分からんし。というか、アリアちゃん座ってなんだよ」
「うふふん。正式名称は“星龍座”。六角形の星の並びを、翼と尻尾に見立てた星座らしいよ♪」
「えっ、ホントに存在する星座なのかよ」

 なんてことの無い会話をしつつ、ただ歩く。
 鈴虫やフクロウの様な鳴き声、草木が静かにそよぐ音など、夜の森は昼間と違った顔を見せている。
 月明かりや、ホタルに似た虫が放つ光。暗がりの中で僅かに発光するキノコのお陰で、足元の心配はいらない。
 不気味という訳でも無く、幻想的で神秘的な大自然はまるで俺達を歓迎してくれているかの様だ。

「ほっ、と♪」
「よっ、と」

 軽く跳ね、小川を飛び越える。
 少し先を歩いている幼女は、俺が話し掛けない限りは基本的に無言のままだ。
 たまに口を開いたかと思えば、先程の様にさほど重要でも無い話題を持ち出してくる。
 わざわざ顔を出したのだから、何かしらの要件を伝えに来たのだと考えていたが⋯⋯。
 ううむ。まぁこうして首を傾げたところで、何かが変わる訳でも無しか。

「──なぁ、幼女?」 
「うん? なに?」
「いや、その⋯⋯。ホラ、なんの用かなって。明日の決戦について~とか、オーガに新しい動きがあった~とかか?」
「⋯⋯⋯⋯⋯⋯。」

 俺の質問を聞き、幼女がピタリと立ち止まる。
 位置的に表情は見えないが、少しだけ俯いた様に見えた。
 つまり、何か気分を悪くさせてしまった可能性がある⋯⋯?

「⋯⋯そっか、そうだよね」
「どうかしたのか?」
「いや、さ。私としては特に要件も無くて、単に明日に向けてリラックスしてかったんだけど⋯⋯」

 手を後ろで組み、幼女が振り返る。
 彼女のその表情は、笑みを浮かべつつも内側に悲しみを含んでいる様に感じられた。

「──紅志にとって“私が会いに来た”って事は、オーガがどうとか、鍛錬がどうとか、重要な要件とそれへの対応方法を伝えに来たって事だったんだなって」
「そりゃあ、まぁそうだけど⋯⋯。それが何かあるのか?」
「⋯⋯結局、私もオーガと大して変わらないなって思ってさ。
 私は紅志を、オーガを倒す為に必要な存在だと、それだけだと考えてたのかもしれない。
 私が君に会う時は、毎回同じ様に“あれがどうなった”、“これをこうして”と、ただ言うだけだった。
 だから君も、私が来た時に“また何かを伝えに来たのか”と、それが当たり前だったからこそ、そう考えた⋯⋯」

 ⋯⋯⋯⋯。
 成程な。幼女は、そんな『当たり前』を作った事について、申し訳無さを感じているらしい。
 俺を一つの駒の様に扱っていたかもしれない、やっている事はオーガと同じかもしれない──。
 なんて考えに至るのは、実に彼女らしい優しさで、また彼女らしいだ。

「俺は、幼女が顔を見せてくれるのが楽しみだったぜ?
 だって、会う度に面白い話が聞けるし、必ず大きな変化が起きるんだから」
「⋯⋯! それは、たまたま私が──」
「それに。本当に俺を道具か何かだと思っていたんなら、転生直後の俺に自由な行動なんてさせないし、俺が落ち込んだ時、挫けそうになった時、慰めなんてしなかっただろ?」
「⋯⋯ッ、」

 出かけたであろう言葉を飲み込み、幼女は顔を背ける。
 自己嫌悪というヤツだろう。今の彼女は、少し前の俺とよく似ている。

 ──最低な自分を否定して欲しい──
 ──最低である事実をただ肯定して欲しい──

 自分が過ちだと思っているものを、他人は認める。
 それは、実際にはあまり心地の良い事では無い。
 誰だって、自分の事は自分が一番よく分かっているからな。
 自分が悪いと思った事なら、他人にも同じ様な意見を持って欲しい。それを思い切り突き付けて、反省させて欲しい。

 ──そうなった方が、スッキリするから──

 俺もそんな風に考えていた。⋯⋯けど、違うんだ。
 自分の過ちを他人に責められないのは、確かに心地の良い事では無い。
 何故なら、「大丈夫だから」と、「何も問題無いから」と、本当は「そう」では無いにも関わらず、此方を思いやってくれているのが理解出来るからだ。
 だかしかし、「それ」が本当に「そう」である場合というのは、意外な程に予想していない事態でもある。

 だからこそ、言葉に詰まる。
 だからこそ、思わず顔を背けたくなる。
 人の優しさで、勝手に許されてしまう事が情けなくて──。
 
「⋯⋯アリア。俺は、お前の事を心から好いている。
 孤独な筈だった俺の異世界ここでの生活に、友人や、師と呼べる存在や、護りたいと思える相手をお前は与えてくれた。
 他の誰かがどう言おうと、お前がお前自身を否定しようと、俺はお前を──」
「わ、私を⋯⋯?」
「ンまぁ⋯⋯気に入ってるってトコだな!」

 大きめな声で、幼女に言い放つ。
 真面目な顔で言うのも照れくさいし、ここは茶化して誤魔化すのが一番⋯⋯
 っと? 幼女の様子がヘンだな。急にそっぽを向いて小さく震え始めたぞ。

「あぁ~⋯⋯大丈夫か?」
「うん! 平気! 全くもう! 私ったら、5万歳くらい年下のコに励まされるなんてねっ!!」
「ハハッ。そうそう、それそれ。俺の知るいつもの幼女だ」
「ふふ。ありがとう、紅志。──さ、そろそろ帰ろっか♪」
「あぁ、そうだな。明日に向けて、今日はグッスリ眠るとするぜ」

 隣に並び、俺は幼女と歩き進む。
 月明かりの下。夜の森は、爽やかな風がそよぐのであった。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

MP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。

水定ゆう
ファンタジー
 村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。  異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。  そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。  生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!  ※とりあえず、一時完結いたしました。  今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。  その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

クラス転移したからクラスの奴に復讐します

wrath
ファンタジー
俺こと灞熾蘑 煌羈はクラスでいじめられていた。 ある日、突然クラスが光輝き俺のいる3年1組は異世界へと召喚されることになった。 だが、俺はそこへ転移する前に神様にお呼ばれし……。 クラスの奴らよりも強くなった俺はクラスの奴らに復讐します。 まだまだ未熟者なので誤字脱字が多いと思いますが長〜い目で見守ってください。 閑話の時系列がおかしいんじゃない?やこの漢字間違ってるよね?など、ところどころにおかしい点がありましたら気軽にコメントで教えてください。 追伸、 雫ストーリーを別で作りました。雫が亡くなる瞬間の心情や死んだ後の天国でのお話を書いてます。 気になった方は是非読んでみてください。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

処理中です...