猛焔滅斬の碧刃龍

ガスト

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1章【暗黒討伐編】

第177話・“進”魔大戦【粉砕】

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 ──対オーガ決戦・地上側。
 彼方の黒異種の群れへと向けて、テュラングル筆頭のドラゴン族及び、セシルガとセイリスの冒険者達は前進していた。
 
「──では、まずは我からゆくとしよう」

 テュラングルの口元に、炎が揺らめく。
 火龍の王と畏敬される者の“それ”は、実際には
 炎が、炎としての形を保つには限界となる温度があるのだ。
 テュラングルの能力が、“灼熱”であるのは事実である。だがその正体は、“炎の性質を持つ魔力”なのだ。
 故に、本来なら存在しえない温度の炎を生成する事も可能。
 現在のテュラングルの口内は、太陽の表面とほぼ同等の温度と化していた。

「グルオオッッ!!」

 咆哮と共に、真赤な攻撃を放つテュラングル。
 太陽の息吹──〘紅炎プロミネンス〙──と称されるその攻撃が、遥か前方の黒異種の群れを薙ぎ払った。
 膨大な炎の前には為す術も無く、黒異種達は炎の海へと沈んでゆく。
 爆炎の荒波が通過した地表は溶岩の様に姿を変え、次第にガラス化するに至った。

 周囲の味方に高温による被害が出なかったのは、テュラングルの技術力の賜物である。
 通常なら、その点は大いに感謝され、称賛を向けられる事も考えられる程だ。
 しかし。灰塵と化した大地と敵を目撃した者達には、湧き上がる本能的な恐怖によって複雑な感情が芽生えていた。
 
「──殲滅しろ! 眼前の敵を、一つ残らず塵にするのだ!」

 檄を飛ばす龍王テュラングルに、ドラゴン達もまた続く。
 圧倒的な力への畏怖はあれど、我らが王には変わりは無いのだから。
 そして、“王の前なら我こそが”と。他のどのドラゴンよりも早く、氷月龍リゼルが天高く飛び上がった。

「〘乱咲氷華ウルティレスト〙!!」

 言い放ち、彼女は氷の粒を超音速で撃ち出す。
 氷の散弾を受けた飛行型の黒異種は、凄まじい勢いで撃墜されていった。
 攻撃に命中しつつも致命傷を免れた黒異種もいたが、直後に彼らの体内では異変が発生。
 肉体に入り込んだ氷の粒が、加速度的な勢いで冷気を発し始めたのである。
 時間にして、僅か一秒足らず。リゼルを見上げる者達の目に、無数の黒異種が氷の彫像へと成り果てる光景が広がった。

「王に続け!! 前進し、敵を粉砕しろ!!」

 上空からドラゴン達を鼓舞し、リゼルは突き進む。
 彼女の姿を眺め、テュラングルは密かに笑みを浮かべた。
 ──その時だった。彼のその様子が気に食わなかった様に、漆黒のレーザーが背後から迫ったのは。

「ム、」

 翼をはためかせ、テュラングルは攻撃を躱す。
 真下を通過したソレは、無数の黒異種が降り立った大地に、まるでレーザーの様に直線を描いた。 
 直後、爆裂。大地に刻まれた紫のレーザー跡をなぞる様に、特大の爆発が発生する。
 爆発に巻き込まれた黒異種達は、足元から全身にかけて一瞬で蒸発し、そして消滅した。

「おっと、これは失礼。彼女の鼓舞を受け、つい力が入り過ぎてしまった様です」

 わざとらしい敬語で、一体のドラゴンが謝罪する。
 現れた“彼”は、全身が黒い鱗で覆われた、グレイドラゴンの様な二足歩行型の龍であった。
 グレイドラゴンとの違いは、背中に漆黒の大翼がある点と、後方へと伸びる黒の双角がある点である。

「⋯⋯ヴァルソル。そうか、お前も来てくれたか」
「勿論 勿論。我らが王が出陣なさるとの事ですからね」

 ボロ布の様な飛膜を風に揺らし、黒龍ヴァルソルは作り笑いをする。
 しらを切る態度の彼には、周囲にいたドラゴン達も嫌悪感を顕にした表情を浮かべた。
 しかし、それを一早く察知したテュラングルが、ドラゴン達を視線で宥める。
 言いたい事はありながらも、王直々の指示にはドラゴン達も従うしか無いのであった。

「──なぁんか、ドラゴン共の空気がヘンだな?」
「そうね⋯⋯。彼らの種族も、一枚岩というワケじゃないのかしら」

 セシルガとセイリスは、ドラゴン達の様子を横目に走る。
 飛行中・疾走中のドラゴン達は音速を優に超える速度だが、二人はそれに人間の脚力で平然と並走していた。
 人間サイドにおける正真正銘の怪物の男女だが、その身体能力と魔力量にはドラゴン達も驚愕が隠せない。
 特に、「人類最強」と謳われるセシルガに関しては、生態系の最上位者達ですら“底”が感知出来ないレベルであった。
 その隣を走るセイリスもほぼ同じ内容の認識だが、幾分かは彼女の方が劣るだろう。

 ⋯⋯と。何体かのドラゴンが、そう考えた次の瞬間。
 彼らは、自分達の考えがいかに浅はかであったかを思い知る事になった。

「──私も、そろそろ働こうかしらね」

 小さく呟き、セイリスが動いた。
 走る速度を一気に上げた彼女は、あっという間に先陣の遥か先へと到達する。
 そして、黒異種の群れとの衝突まで、残りに2km程の距離になった時。自身の武器であるギターを横に構えた。
 例えるなら、そう。野球バットの様に。

「ふぅんッ!」

 力強く地面に踏み込み、セイリスは立ち止まる。
 背後からセシルガ達が向かってくる中で、彼女はただ正面を見据えて息を吸った。
 魔力をギターへ溜め、一歩踏み出し、そして振り抜く──。

「はあッ!!」

 白い魔力の塊が、一直線に打ち出される。
 それは最早エネルギーではなく、“貫通”という概念をそのまま放ったかの如く、黒異種の大群を通過した。
 その後に残る物など存在せず、まるで初めから何も無かったかと錯覚する程、鮮明かつ完璧に“そこ”は削られたのである。
 黒異種の群れがあった筈の、大地があった筈の、テュラングルやヴァルソルによる攻撃の痕があった筈の、“そこ”が。

「──『大崩貫だいほうかん』、そう呼ばれてる技だ」

 セシルガは、ドラゴン達に向かって言った。
 人による、あまりの人外ぶり。流石のドラゴン達も、セシルガの話に興味を向けざるを得なかった。

「本人が名を付けたのか、誰かがそう呼んだのか。詳しい事は知らねえが、兎に角アレがセイリスの必殺技とっておきだ。
 アイツと戦う予定があるヤツぁ、覚えといて損はないぜ」
「「「⋯⋯⋯⋯⋯。」」」
 
 大きく、ドラゴン達の胸が鼓動する。
 もし本当にあの人間と戦ったとして、その『ダイホウカン』という技を食らったら、自身はどうなるのだろうか?
 全力の攻撃で相殺は可能だろうか? 防御に徹すれば致命傷は避けられるだろうか?
 猛スピードで展開される脳内戦闘において、多くのドラゴン達は終着に辿り着く。
 その答えはシンプルで、明確で、あまりに分かり易かった。
 だが、“不可能である”という回答を導き出した途端に、

「それじゃあ、折角なら俺もカッコつけておくか」

 更なる胸の鼓動が、ドラゴン達を内側から叩いた。
 いつの間にか抜刀していたセシルガが、遂に動きを見せたからである。
 ドラゴンの頂点であるテュラングルから見ても、彼が握るその太刀は見事な代物だった。
 特徴的な見た目こそしていないが、だからこそ伝わってくる存在感は計り知れない。
 あまつさえ、ただの刀である筈のそれから、妖気が放たれていると見紛う程に。
 そして何より。太刀の存在感以上に、セシルガという人間の雰囲気が変化した事に、ドラゴン達は驚かされていた。

「フッ──。」

 大きく一振り、たったそれだけだった。 
 たったそれだけだが、最上位者以外のドラゴン達は目の前の男が刀を振るった事にすら気が付かなった。
 テュラングルやリゼルを持ってして、“多分、振った”と勘に頼った感想しか浮かんでこないのだから、大多数のドラゴンが気付けないのは当然なのだが。
 
「ちょっ、危ないじゃない! 当たったらどうすんのよ!!」
「ちゃんとズラしたって。つうか、当たった所でガチじゃねえし、オメーのデカモモなら弾けるだろ」
「は? あんた、マジで殺すわよ??」
 
 目の前の人間達のり取りに、ドラゴン達は首を傾げた。
 セイリスの「危ないじゃない」という台詞と、セシルガの「ちゃんとズラした」という台詞。
 男は筈だが、あたかも何かをやり終えたかの様な会話を──。 
 と、全員がそこまで考えたタイミングで、上空にいたリゼルが目を見開く。彼女の視線の先には、黒異種の群れがあった。
 より正確には、セシルガが太刀を振るったその先で、身体が横に両断された黒異種の群れの残骸が。

「⋯⋯何をした?」

 思わず、テュラングルは尋ねた。
 王としては威厳に欠ける行為だったが、威厳よりも好奇心を優先させる程に、目の前の光景が不思議だったのだ。

「何をしたって? それは、どういう意味だ⋯⋯?」

 回答を待つテュラングル及びドラゴン族に、セシルガは疑問を浮かべた。
 具体的には、“なぜ疑問を持たれたかに疑問を持った”という形である。
 セシルガにとっては、“先程の行動”がそれ程までに当たり前で、なんて事の無いものだったからだ。

「斬撃を飛ばした、という事か?」
「お、おう? その通りだが⋯⋯?」

 ハテナを顔に浮かべ、セシルガは困惑する。
 有り得ない。そんな表情のテュラングルを見て、セシルガはセイリスへと振り向いた。
 “訳が分からん”とジェスチャーする彼に、セイリスは溜息をつく。
 セシルガにとって“斬撃を飛ばす”という行為は、通常攻撃の一つでしかないのだ。
 仕組みとしては、セイリスの『大崩貫』と同じだ。──が、根本的な違いが一つだけ存在する。
 セイリスは技を放つ際、“武器に魔力を込める”という手順を踏んでから放つ点がある。
 対してセシルガは、その手順を踏まない。必要が無いのだ。
 理由は一つ。セシルガは、手に持つ得物が肉体の一部と化す程の達人であるからだ。
 つまり、武器を握った時点で、それにも魔力が流れるという異常事態を引き起こせるのである。
 これは、セシルガ本人ですら無意識の内に行ってる事だ。
 それ故に、斬撃のサイズや威力も、本人の感覚に直結したものが誤差無く繰り出せるという反則ぶり。
 人類最強という肩書きは、それ程までに究極であり、そして伊達では無いのである。

「コレ、俺がおかしいのか?」
「はぁ、アホな男って嫌いだわ⋯⋯」

 首を横に振り、セイリスは無言になった。
 彼女がドラゴン達へ詳細の説明しなかったのは、彼女の職業が何だったかを思い出せば察せるだろう。
 つまるところ、味方なのは今だけ。情報を与えるのは、後に悪影響があるかもしれない。という訳である。

「──あれが、最高峰の冒険者達か⋯⋯!!」

 セシルガ達を眺め、男は言葉を漏らす。
 ヴィルジール・バディスト。ドラゴンの背に乗って戦場に向かう彼は、先陣を切る者達の様子を遠目に見ていた。
 戦列の最後方からであっても、セシルガとセイリスがどれ程の実力者であるかは大いに理解出来る。
 嫉妬や呆れも若干あるが、やはり強い者には強烈な憧れを抱いてしまうのが冒険者のサガというものだ。
 手を握りしめ、ヴィルジールはひたすらにそう考えていた。

「──やいコラ人間! じきに敵の軍勢と衝突するぞ! 降りる準備をしろ!」
「⋯⋯おう、分かった」

 足下のドラゴンの言葉に、ヴィルジールは両剣を肩に担ぐ。
 その数秒後、前線にて黒異種や黒異人コクトの群れが吹き飛んだ。
 後方まで飛んできた黒異種は、ドランゴ達によって焼かれ、凍らされ、粉砕される。
 敵の最前線をクッキーの様に破壊する先陣達に若干の苦笑いをしつつ、ヴィルジールもまた戦闘態勢に移るのだった。
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