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2.王都書生編

17.妄想もたまには必要なことのススメ

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 パルスキーに戻ってから、はじめの一週間で、シンバと護衛のパリーを引き連れて、町中を見て回り、商人や宿屋の主人などいろいろな人の話を聞いた。

「想像以上にボロボロな状況だな」

と町の様子に驚いた。

 獅子の牙のせいで、犯罪率が高いから、事業主たちは、独自に傭兵やハンターを雇い自衛をしないといけない状況になっていた。代官所の兵士たちが動かないからだ。

 極め付けは金貨などを持ち歩くと物騒なので、事業主間での町札という独自紙幣を用いて決済をしているとのことだった。仮に、町札が盗まれても、町の外で換金ができないことと、盗難の訴えと町札を番号さえあれば、換金しようとすると犯人もすぐ捕まえらえるとのことだそうだ。

 これだと代官所からは正確なお金の流れもわからなくなるし、税金を徴収できなくなる。
 税収が落ちるはずだな、とあきれてしまった。

 ただ、ひとつだけ良い話もあった。
 
   事前に聞いていた、魔獣の被害で人口が減ったという話は、少し盛られていたようだ。確かに、魔獣に襲われる被害は、2、3年に一度あるが、そこまで高い頻度ではなかった。

 きっと、代官から、エクリン家へ人口減少の言い訳に使われたのだろう。
 
 悪いニュースではないから、盛りすぎ報告の件は許してやらうではないか。
 
「さて、どうやって税収をあげる再建案を考えるか?」

 ここでも「小役人のススメ」の知恵をお借りする。

「為政者、住食与うれば、民、これに懐き、国、ますます満ちるなり」

 つまり、国を治める為政者から、住み所と食べ物を国民に十分与えれば、国民がやる気になってくれて、経済活動も活発になる。結果、国は栄える、という一説だ。

 この教えを基に、二晩寝ずに考え、5つの復興計画の立案した。


 【復興計画案その1:クリーンなお代官様の擁立】
 まずは、エクリン家が、町を本気で変えるつもりだ!と住民に知らせるよう、ちゃんとしたクリーンな代官を擁立する。そうすると、俺も仕事がしやすくなるし一矢二鳥だ。

 ということで、賄賂大好きなゴットンの後任の代官を、エクリン家の親戚筋(チャールズさんの真面目しか取り柄のない従弟)から立ててもらい、代官がちゃんとした人間に変わったことを知らしめる。
 その代官の名前を使って、俺の政策を実現することにしてもらおう。

 これで、俺も新代官の名のもと、腕を振るえるようになるぜぃ。
 代官所の木っ端役人どもよ、俺の指示に従えよ。うひひ。

 【復興計画案その2:治安回復のための新組織「パトリ」創設】
 再建案の目玉としては、獅子の牙を一旦解散する。そして、取り締まるには人手が足りない兵士を補うため、代わりに取り締まる新組織「パトリ」の創設を行う。そこに獅子の牙の構成員を合流させる。獅子の牙では、犯罪予備者だったけれど、パトリに看板がかわったら、自衛団として、取り締まる側へ180度変わる。
 
 犯罪者たちに仕事のやりがいと給金をはらうことで、更生させる。当面、新組織「パトリ」の頭目を引き続きトビアスに引き続き担ってもらう。

 もちろん、獅子の牙の解散は、反発が起きないよう、元頭目のバッカスと現頭目のトビアスの名前で発表する。

 一応、パトリには、代官所からの正式な依頼で、犯罪を取り締まる業務を一部委託することになった、ということにしよう。その対価も住民に見える形で払い、代官所も認めた半民半官の組織であると認知させれば、みんな安心するだろう。

 ちなみに、「パトリ」の名前は、町を愛するという人という意味で「パトリオット」という古代語から名付けた。


 「パトリ」の構成員は「獅子の牙」から半分以上入れる予定だけど、それでも、パトリにも加入させられないほどの悪事を行ってきたアウトローたちもいて、そいつらを野放しにはできない。

 トビアスを棟梁として、極悪人たちの受け皿となる十数名の小規模な魔獣対策組織「赤獅子会」も同時に創設する。普段は町の外で魔獣狩りを行うが、必要に応じて、俺のために「汚れ仕事」をしてもらうつもりだ。「汚れ仕事」の部分はもちろんエクリン家には秘密だ。

 安全策として、「赤獅子会」構成員全員、全能草で暗示をかけ、俺とシンバ、トビアス、パリーに絶対服従させているのは、言うまでもない。

 それでも心配なのは、「赤獅子会」は「パトリ」に入れない根からの悪人しかいないので、犯罪を起こさないように徹底するというのは難しいだろう。奴らのガス抜きのため、しょっぱい少額のカツアゲや恐喝の軽めのものは許可しよう。アウトロー達よ、それで我慢してくれ。

 町の犯罪率の集計の際には、表にはでてこないレベルの軽犯罪だから大丈夫だよね?

『主人殿は、相変わらず姑息だのう』

 数字のマジックを侮るなかれだ。エクスよ。

 まだ再建をはじめてから、期間が短いので、犯罪の抑止力にどれだけ貢献できているかわからないが、町の浄化を続けていこう。

 【復興計画案その3:公共住宅の提供と住民税の減税】
 住所不定者による犯罪発生に歯止めをかけたり、他の町からの人口流入を狙って、希望者に住宅を安価で貸し出す制度を創設する。エクリン家が没収したレングたちの隠し財産の一部を用地と住宅建設費に充てよう。

 家があれば、犯罪も起こさないだろうし、治安の回復や安価な賃貸住居があると噂を聞いた人たちもやってきて、人口減少にも歯止めがかかるだろう。それと、エクリン家へ感謝するから、忠誠心から納税率上がるかもしれない。

 加えて、住民が犯罪と物価高ですっかり疲弊しているので、住民税を5年間30%減税し、慰撫をする。数年後には町に人々も流入してくるだろうし、将来的には、住民税が増えることを狙う。現在期間の住民税の減少分の穴埋めを、事業主からの税収の伸びでカバーできる計算としている。

 【復興計画案その4:自由競争を推進】
 御用商人レングの専横により、主産業の宿場町機能が衰退してきてしまった。まずはそれを立て直し、同時に失業率を下げる。この町は元々王都の物流の補給基地として発展してきたので、それを、活かさない手はない。
 
 御用商人制を完全に廃止し、商家を事前登録制の完全自由競争へ2年で移行させる。多くの商家が自由競争で参入してくるので、価格競争がおき、質も向上し、物価もさらに下がるだろう。

 それと、新規で宿場町に関係する事業を行う場合は、低金利で、代官所がお金を貸し出す制度を創設する。新しい事業家が育ってくれるとうれしいな、と。




 宿場町として再生したら、周辺の産業(王都への物流などの運送業)も回復、発展してくるはずだ。

 「小役人のススメ」では、こう綴られている。

「地を知り、風を感じ、人を知る。かの地を紐解き、その未来を見出すべし。さすれば、繁栄すること、是、然なり」とある。俺が最も好きな一説の一つだ。この言は至言だと思う。

 その土地の特性を理解し、周りの町や国との関係を調査する。そして、その地に住まう人々の考えに耳を傾ける。そうすると、その町の成り立ちやこれまでの歴史から、未来に向けて、どういう対策を講じるべきが自然と見えてくるはず。そうならば、必ず、町を発展させることができる、という意味だ。

 少し先の話なるが、このままの調子で、王都よりも物価が安くなったら、王都の産業に真っ向勝負を挑めるようになる。

 例えば、
 鍛冶のよる武器整備や馬車整備
 王都までに護衛や定期馬車などのサービス提供
 王都の住宅費用は高いので、住宅供給地

 町がさらに発展する余地がある。そうなれば、職業訓練を行う施設や裕福な商家の子供たちへ読み書きを教える学校なんかも必要になってくる。

 希望は膨らむなー。

『とらぬ蛇革、皮算用じゃな。主殿よ』

 エクスよ。妄想もたまには必要だよ、と愚痴る。

 【五つ:税を徴収する役職の新設】
 最後に、町札を廃止させ、ちゃんと事業用の税金を払うようにさせないとならない。それには、専門の徴税官(通称:オイハギ)を置こう。元獅子の牙の残党に治安維持をさせれば、数人の代官所兵士を転属させることができる。もし、悪徳商人や脱税商家と、トラブルになっても兵士だったら、荒事も対応できるしな。







 一旦、王都に戻り、エクリン家のジェームスさんとチャールズさんへ、税収復興プランの許可を得る。2人に対しても、俺の説明は、シンバとエクスによると、非常に熱がはいっていたそうだ。

 これだけ、真剣に考えたのだから、そりゃ熱もはいるよ。

 しかし、ジャームスさんとチャールズさんはなかなか首を縦に振らなかった。
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