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過去編① 邂逅
第四話 超金持ちなあいつ
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啓がひとり暮らしをしているという部屋は、都心にある超高級マンションの最上階だった。リビングダイニングだけでも俺の部屋が十個くらい余裕で入りそうなくらい広い。でかい窓に四角く切り取られた夜景は完璧すぎて、まるで作りもののパネルのように見えた。
「まじで何もんだよ、あいつ」
生まれも育ちも下町で根っからの庶民な俺には、このゴージャスすぎる環境は妙に落ち着かない。座り心地のよすぎる贅沢な革張りのソファーの上で膝を抱えて溜息を吐く。
そもそも一夜限りの関係なんて俺の柄じゃないし、拓真さんを見かけて動揺してたのは確かだし、啓を誘惑したのも成り行きではあったけど、ここまで付いて来たのは自暴自棄になってたせいでも、流されたからでもない。
この先ずっと自分のことを好きになれないまま、自分がゲイだってことを呪って生きていくなんて嫌だった。変わりたい、自分を変えたいと思った。乱暴なやり方かもしれないけど、今までの自分じゃ思いつかないことをやってみよう、そうしたら変われるんじゃないかって思った。
そう思えたのは、啓との出会いが鮮烈だったからかもしれない。啓は俺の人生に突如として現れたイレギュラーな存在で、なんかすごく、上手く言えないけど、すごく輝いて見えた。自分とは全然違う、こんなやつもいるんだなって。卑屈に思うわけじゃなく、世界が開けたって感じた。この広い世界には色んなやつがいて、いろんな人生があって、俺が胸を張って生きられる、そんな未来もあるはずだって。そう思えた。
ぶっちゃけ啓の顔はすげえ好みだし、あの人懐っこい笑顔も可愛いと思う。いや、はっきり認めよう。俺は啓に惹かれてる。一夜限りの関係でも、啓ならいい。いや、それも違うな。一夜だけの相手としてなら、啓は願ったり叶ったりだ。遊び慣れてそうだし、何より危ないやつじゃなさそうだ。
けど啓はなんで俺なんかと?
啓は顔がいいだけじゃない、こんな桁外れに高級なマンションに住んでる金持ちの坊ちゃんでもあるわけで。女だろうと、男だろうと、電話一本かけりゃ飛んで会いに来る相手はごまんといるだろう。
それがなんで俺みたいのを?
もしかしてヤバい性癖があるとか?
SMとか? 複数プレイ? まさか乱交とか!?
はっ! そうだ、忘れてた。
俺のこと、姫って呼んでたんだっけ。
姫ってもしかして啓の性癖を満たすターゲットのことだったりして!?
いやムリムリ。
俺そんなの絶対ムリ。
今のうちに逃げた方がいいのかもと思い始めたとき。
「ぅわぁっ」
右の頬に冷たい何かを押し当てられて、俺は文字通り飛び上がった。ばくばく煩い心臓を手で押さえる俺の前には、ドリンクのボトルを手にした啓がしてやったりという顔で立っている。
「わりぃ。そんな驚くとは思わなかった」
俺の隣に腰かけながら啓がへらりと笑う。悪いなんて全く思ってないのが丸わかりだ。
「悪かったって。んな睨むなよ」
例の人懐っこい笑顔でにこにこ笑っている目の前の男に、ヤバい性癖があるとも思えない。けど人は見かけによらないって言うしな。
「水。飲むだろ?」
じっと観察の目を向ける俺を気にした様子もなく、啓が俺に手渡したのは金のラベルがついた瓶ボトルだった。なんだか水まで高級そうだ。
キャップは……、うん大丈夫、ちゃんと封されてる。
瓶だから注射器でヤバい薬を注入することもできないだろう。
まずは落ち着こうと思って、一応安全を確認してから口をつけたんだけど。
「げ、まず」
普通の水だと思ったそれはシュワシュワしてて、はっきり言って不味い。思わず顔を顰めた俺に、啓は呆れ声だ。
「まったく、お前は……」
けどその声色とは裏腹に、啓が俺に向ける視線は柔らかくて。どきりとして目が泳いだ。
さっき驚いたときのばくばくとは違う、どきどきと高鳴る心臓に「これはやばい、引き返せ」とアラートが鳴る。これ以上、啓を好きになっても不毛なだけだ。だって俺と啓とじゃ何もかもが違いすぎる。乱交疑惑もあるし、深みにはまる前に帰った方がいい。
「俺やっぱ帰る」
早口で言い切った俺に、啓が「え?」と眉を上げた。
「気が変わった?」
「そういうわけじゃ……」
「幸が嫌ならなんもしない。けどもう終電もねえし、今夜はここに泊まっていけよ。な?」
啓は純粋に俺のことを心配してくれてるようにも見える。けど今日初めて会った俺みたいなやつに、ここまで親切にしてくれるのもなんか怪しい。
「変な趣味、ないよね?」
「ん? 変な趣味って?」
「乱交とか、SMとか」
「は? え? ……は?」
「俺、そういうのムリだから」
「いやいや、俺も乱交はムリ。てかなんでそう思った?」
「だって、俺のこと姫って呼んでたし。そういうやばい性癖の相手させる隠語かなって」
「や、違うからっ。姫ってのは……、そうじゃなくて、あれは……。まじで。変な意味ねえから」
明らかに動揺しまくりの啓に「じゃあどんな意味があんの?」と畳みかけると、啓はうーんと唸って頭を掻いた。
「まあなんつーか、姫は……、俺の好きな……タイプ?」
「やっぱり」
「や、違う。幸が想像してんのと違う。ほんとまじで俺、乱交とかしたことねしムリだから」
「複数プレイとかも?」
「や、それもムリ」
「SMは?」
「うーん、それは幸が興味あるっつーなら、や、待てって。冗談。冗談だから」
立ち上がって帰る素振りをしてみせたのは俺も冗談だったんだけど、啓は焦った様子で俺の腕を掴んでソファーに引き戻した。
動揺したり、焦ったり、意外にも余裕のない啓が可笑しくて、同時にちょっと安心した。くすくす笑う俺に、啓が不貞腐れた顔で文句を垂れる。
「幸お前、性質《たち》わりぃ」
「けど俺みたいのがタイプなんだろ?」
姫の真相はわからずじまいだけど、そういうことにしておこう。啓にヤバい性癖がないんなら、ヤることに異存はない。俺の視線の意味を正しく捉えたんだろう。啓がにやりと笑った。
・
・
・
ザザザ―――ザザザザ―――
ぽたぽたと滴り落ちる小さな水滴が、大きな水の流れに溶け合って流れていく。シャワーの栓をひねると、キュッと小気味の良い音がして、水の流れが止まった。
ふかふかのタオルで濡れた体を拭き、濃紺のバスローブに袖を通す。妙に落ち着かないのは、着慣れないバスローブのせいだけじゃない。目の前のでかい鏡には不安げな顔をした自分が映っていた。
夏だというのに生っ白いままの肌に、薄幸そうな薄い唇。昔はよく生意気そうだとケチをつけられていた、切れ長の目。通った鼻筋だけが唯一ましだと思える、俺の顔。
試しに、にっと笑ってみる。
…………うん、超、普通。
でも、ま、こんなもんだろ、俺だし。
深呼吸をひとつして寝室へ通じるドアを開けると、同じ濃紺のバスローブを着た啓がベッドに足を投げ出して水を飲んでいた。ボトルを持つ長い指も、水を流し込む度に上下する喉元も、無造作に後ろに流している濡れた髪も、バスローブの衿元から覗く胸板も、啓の纏うすべてが艶めかしい。
これから起こるであろうことを生々しく肌で感じて、緊張で足が竦んだ。
「幸」
啓がここへ来いとでもいうように、ぽんぽんと自分の隣を手で叩く。
緊張を悟られないように平静を装って啓の隣に座ると、「飲む?」と飲みかけのボトルを差し出される。思わず受け取ってしまった例の瓶ボトルに口をつけようかどうしようか迷っていると、「無理すんな」と苦笑した啓が俺の手からボトルを奪ってベッドサイドテーブルにことりと置いた。
「ほら」
代わりに手渡された、ありふれた銘柄のペットボトルの水を一気にあおる。勢い余って口の端から零れた水を拭おうと手を伸ばせば、啓の手にボトルごと握って止められて。何でだろうと思う間もなく、啓が舌でそれを舐めとっていた。顎から口の端を舐め上げた舌が、そのまま唇を割って入ってくる。
「ふっ、」
緊張がピークに達して強張った体がびくりと跳ねる。そんな俺を宥めるかのように背中を撫でる穏やかな啓の手つきに、ふっと体の力が抜けた。途端に啓に圧し掛かられ、深く侵入してきた舌に呼吸を奪われる。
「っんん、……ぅ、ふ……ぁ、んっ……」
貪るように舌を絡ませ吸い上げては角度を変えてまた唇を重ねてくる。息を継ぐことさえままならない激しいキスに、頭の中まで沸騰した。口内を蹂躙する啓の舌も、覆い被さる啓の体温も、肌を這う啓の手も、耳を犯す啓の吐息も、啓のすべてが火傷しそうなほど熱い。まるで灼熱の海に呑み込まれ、溺れないように必死にもがいているみたいだった。
緊張なんてどこかに吹き飛んでしまった。けど全てを委ねて気持ちいいと思えるほどの余裕もなかった。ただ熱くて、熱くてしょうがなかった。
体に篭った熱が弾けたのは、乳首をぎゅっと指で押し潰されたときだ。
「ぃ、ぁあっ」
その強すぎる刺激に背中がしなる。
「んっ、ぃっ、……ぁ、あっ」
きゅっきゅっと指で摘ままれるたび、快感がぞくぞくと這い上がり、びくんびくんと身体が跳ねる。
「ここ、弄られんの好き?」
「け、ぃ……ぁっ、……ふ、ぁ……」
冷静な啓の声にますます煽られて、ただ肌を撫でられただけで感じてしまうほど体中が敏感になっていく。
「こっちは?」
「あっ」
見下ろせばバスローブの紐はいつの間にやら解かれ、もともと下着のつけてないそこが啓の手にがっつり握られている。
「すげ。もうガチガチじゃん。濡れてっし」
「ひ、ぁっ」
先走りで濡れた先っぽをぐりっと刺激されて、思わず声をあげた。
「幸、舌出せ」
命令されることに仄暗い悦びを感じながら舌を差し出せば、啓の熱く濡れた舌がぬるりとそれを絡めとる。さっきとは違い、キスだけで頭が痺れるほど感じていた。そのうえ啓の手が容赦なく俺のものをくちゅくちゅと扱くのだ。声を抑えることなんてできなかった。
「いっ、……ぁっ、くぅ……、んっ……」
嵐のような激しさで、俺はあっという間に限界まで押し上げられた。経験値が違うことは端からわかってたつもりだった。けどこんな風に、一方的に啓にされるがままは嫌だった。
震える腕を叱咤して、啓の腕を掴む。
「んな、……されたら、も……で、る」
「もうイきそ? いいよ、一回イっとけ」
俺の顔を覗き込む啓の視線が蕩けるように熱っぽくて、それだけでイってしまいそうで。俺は身を捩って啓の腕の中から抜け出した。
「やだ……、俺も、したい」
啓のバスローブの紐を解くのももどかしくて、合わせ目から手を差し入れる。下には何も着けていなかったようで、啓のものに直に触れた。
それが硬く勃ち上がっているのに安堵して、そっと息を吐き出す。男とヤったことはあるんだろうとは思ってたけど、啓はゲイには見えないし、アナルセックスだけなら女とだってできる。もし男とヤったことがなくて俺に勃たなかったらどうしようかと心配してたけど杞憂だったみたいだ。
「ちょ、幸っ」
焦る啓の声に気をよくした俺は啓の足の間に蹲って、それを口に含んだ。
「まじで何もんだよ、あいつ」
生まれも育ちも下町で根っからの庶民な俺には、このゴージャスすぎる環境は妙に落ち着かない。座り心地のよすぎる贅沢な革張りのソファーの上で膝を抱えて溜息を吐く。
そもそも一夜限りの関係なんて俺の柄じゃないし、拓真さんを見かけて動揺してたのは確かだし、啓を誘惑したのも成り行きではあったけど、ここまで付いて来たのは自暴自棄になってたせいでも、流されたからでもない。
この先ずっと自分のことを好きになれないまま、自分がゲイだってことを呪って生きていくなんて嫌だった。変わりたい、自分を変えたいと思った。乱暴なやり方かもしれないけど、今までの自分じゃ思いつかないことをやってみよう、そうしたら変われるんじゃないかって思った。
そう思えたのは、啓との出会いが鮮烈だったからかもしれない。啓は俺の人生に突如として現れたイレギュラーな存在で、なんかすごく、上手く言えないけど、すごく輝いて見えた。自分とは全然違う、こんなやつもいるんだなって。卑屈に思うわけじゃなく、世界が開けたって感じた。この広い世界には色んなやつがいて、いろんな人生があって、俺が胸を張って生きられる、そんな未来もあるはずだって。そう思えた。
ぶっちゃけ啓の顔はすげえ好みだし、あの人懐っこい笑顔も可愛いと思う。いや、はっきり認めよう。俺は啓に惹かれてる。一夜限りの関係でも、啓ならいい。いや、それも違うな。一夜だけの相手としてなら、啓は願ったり叶ったりだ。遊び慣れてそうだし、何より危ないやつじゃなさそうだ。
けど啓はなんで俺なんかと?
啓は顔がいいだけじゃない、こんな桁外れに高級なマンションに住んでる金持ちの坊ちゃんでもあるわけで。女だろうと、男だろうと、電話一本かけりゃ飛んで会いに来る相手はごまんといるだろう。
それがなんで俺みたいのを?
もしかしてヤバい性癖があるとか?
SMとか? 複数プレイ? まさか乱交とか!?
はっ! そうだ、忘れてた。
俺のこと、姫って呼んでたんだっけ。
姫ってもしかして啓の性癖を満たすターゲットのことだったりして!?
いやムリムリ。
俺そんなの絶対ムリ。
今のうちに逃げた方がいいのかもと思い始めたとき。
「ぅわぁっ」
右の頬に冷たい何かを押し当てられて、俺は文字通り飛び上がった。ばくばく煩い心臓を手で押さえる俺の前には、ドリンクのボトルを手にした啓がしてやったりという顔で立っている。
「わりぃ。そんな驚くとは思わなかった」
俺の隣に腰かけながら啓がへらりと笑う。悪いなんて全く思ってないのが丸わかりだ。
「悪かったって。んな睨むなよ」
例の人懐っこい笑顔でにこにこ笑っている目の前の男に、ヤバい性癖があるとも思えない。けど人は見かけによらないって言うしな。
「水。飲むだろ?」
じっと観察の目を向ける俺を気にした様子もなく、啓が俺に手渡したのは金のラベルがついた瓶ボトルだった。なんだか水まで高級そうだ。
キャップは……、うん大丈夫、ちゃんと封されてる。
瓶だから注射器でヤバい薬を注入することもできないだろう。
まずは落ち着こうと思って、一応安全を確認してから口をつけたんだけど。
「げ、まず」
普通の水だと思ったそれはシュワシュワしてて、はっきり言って不味い。思わず顔を顰めた俺に、啓は呆れ声だ。
「まったく、お前は……」
けどその声色とは裏腹に、啓が俺に向ける視線は柔らかくて。どきりとして目が泳いだ。
さっき驚いたときのばくばくとは違う、どきどきと高鳴る心臓に「これはやばい、引き返せ」とアラートが鳴る。これ以上、啓を好きになっても不毛なだけだ。だって俺と啓とじゃ何もかもが違いすぎる。乱交疑惑もあるし、深みにはまる前に帰った方がいい。
「俺やっぱ帰る」
早口で言い切った俺に、啓が「え?」と眉を上げた。
「気が変わった?」
「そういうわけじゃ……」
「幸が嫌ならなんもしない。けどもう終電もねえし、今夜はここに泊まっていけよ。な?」
啓は純粋に俺のことを心配してくれてるようにも見える。けど今日初めて会った俺みたいなやつに、ここまで親切にしてくれるのもなんか怪しい。
「変な趣味、ないよね?」
「ん? 変な趣味って?」
「乱交とか、SMとか」
「は? え? ……は?」
「俺、そういうのムリだから」
「いやいや、俺も乱交はムリ。てかなんでそう思った?」
「だって、俺のこと姫って呼んでたし。そういうやばい性癖の相手させる隠語かなって」
「や、違うからっ。姫ってのは……、そうじゃなくて、あれは……。まじで。変な意味ねえから」
明らかに動揺しまくりの啓に「じゃあどんな意味があんの?」と畳みかけると、啓はうーんと唸って頭を掻いた。
「まあなんつーか、姫は……、俺の好きな……タイプ?」
「やっぱり」
「や、違う。幸が想像してんのと違う。ほんとまじで俺、乱交とかしたことねしムリだから」
「複数プレイとかも?」
「や、それもムリ」
「SMは?」
「うーん、それは幸が興味あるっつーなら、や、待てって。冗談。冗談だから」
立ち上がって帰る素振りをしてみせたのは俺も冗談だったんだけど、啓は焦った様子で俺の腕を掴んでソファーに引き戻した。
動揺したり、焦ったり、意外にも余裕のない啓が可笑しくて、同時にちょっと安心した。くすくす笑う俺に、啓が不貞腐れた顔で文句を垂れる。
「幸お前、性質《たち》わりぃ」
「けど俺みたいのがタイプなんだろ?」
姫の真相はわからずじまいだけど、そういうことにしておこう。啓にヤバい性癖がないんなら、ヤることに異存はない。俺の視線の意味を正しく捉えたんだろう。啓がにやりと笑った。
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ザザザ―――ザザザザ―――
ぽたぽたと滴り落ちる小さな水滴が、大きな水の流れに溶け合って流れていく。シャワーの栓をひねると、キュッと小気味の良い音がして、水の流れが止まった。
ふかふかのタオルで濡れた体を拭き、濃紺のバスローブに袖を通す。妙に落ち着かないのは、着慣れないバスローブのせいだけじゃない。目の前のでかい鏡には不安げな顔をした自分が映っていた。
夏だというのに生っ白いままの肌に、薄幸そうな薄い唇。昔はよく生意気そうだとケチをつけられていた、切れ長の目。通った鼻筋だけが唯一ましだと思える、俺の顔。
試しに、にっと笑ってみる。
…………うん、超、普通。
でも、ま、こんなもんだろ、俺だし。
深呼吸をひとつして寝室へ通じるドアを開けると、同じ濃紺のバスローブを着た啓がベッドに足を投げ出して水を飲んでいた。ボトルを持つ長い指も、水を流し込む度に上下する喉元も、無造作に後ろに流している濡れた髪も、バスローブの衿元から覗く胸板も、啓の纏うすべてが艶めかしい。
これから起こるであろうことを生々しく肌で感じて、緊張で足が竦んだ。
「幸」
啓がここへ来いとでもいうように、ぽんぽんと自分の隣を手で叩く。
緊張を悟られないように平静を装って啓の隣に座ると、「飲む?」と飲みかけのボトルを差し出される。思わず受け取ってしまった例の瓶ボトルに口をつけようかどうしようか迷っていると、「無理すんな」と苦笑した啓が俺の手からボトルを奪ってベッドサイドテーブルにことりと置いた。
「ほら」
代わりに手渡された、ありふれた銘柄のペットボトルの水を一気にあおる。勢い余って口の端から零れた水を拭おうと手を伸ばせば、啓の手にボトルごと握って止められて。何でだろうと思う間もなく、啓が舌でそれを舐めとっていた。顎から口の端を舐め上げた舌が、そのまま唇を割って入ってくる。
「ふっ、」
緊張がピークに達して強張った体がびくりと跳ねる。そんな俺を宥めるかのように背中を撫でる穏やかな啓の手つきに、ふっと体の力が抜けた。途端に啓に圧し掛かられ、深く侵入してきた舌に呼吸を奪われる。
「っんん、……ぅ、ふ……ぁ、んっ……」
貪るように舌を絡ませ吸い上げては角度を変えてまた唇を重ねてくる。息を継ぐことさえままならない激しいキスに、頭の中まで沸騰した。口内を蹂躙する啓の舌も、覆い被さる啓の体温も、肌を這う啓の手も、耳を犯す啓の吐息も、啓のすべてが火傷しそうなほど熱い。まるで灼熱の海に呑み込まれ、溺れないように必死にもがいているみたいだった。
緊張なんてどこかに吹き飛んでしまった。けど全てを委ねて気持ちいいと思えるほどの余裕もなかった。ただ熱くて、熱くてしょうがなかった。
体に篭った熱が弾けたのは、乳首をぎゅっと指で押し潰されたときだ。
「ぃ、ぁあっ」
その強すぎる刺激に背中がしなる。
「んっ、ぃっ、……ぁ、あっ」
きゅっきゅっと指で摘ままれるたび、快感がぞくぞくと這い上がり、びくんびくんと身体が跳ねる。
「ここ、弄られんの好き?」
「け、ぃ……ぁっ、……ふ、ぁ……」
冷静な啓の声にますます煽られて、ただ肌を撫でられただけで感じてしまうほど体中が敏感になっていく。
「こっちは?」
「あっ」
見下ろせばバスローブの紐はいつの間にやら解かれ、もともと下着のつけてないそこが啓の手にがっつり握られている。
「すげ。もうガチガチじゃん。濡れてっし」
「ひ、ぁっ」
先走りで濡れた先っぽをぐりっと刺激されて、思わず声をあげた。
「幸、舌出せ」
命令されることに仄暗い悦びを感じながら舌を差し出せば、啓の熱く濡れた舌がぬるりとそれを絡めとる。さっきとは違い、キスだけで頭が痺れるほど感じていた。そのうえ啓の手が容赦なく俺のものをくちゅくちゅと扱くのだ。声を抑えることなんてできなかった。
「いっ、……ぁっ、くぅ……、んっ……」
嵐のような激しさで、俺はあっという間に限界まで押し上げられた。経験値が違うことは端からわかってたつもりだった。けどこんな風に、一方的に啓にされるがままは嫌だった。
震える腕を叱咤して、啓の腕を掴む。
「んな、……されたら、も……で、る」
「もうイきそ? いいよ、一回イっとけ」
俺の顔を覗き込む啓の視線が蕩けるように熱っぽくて、それだけでイってしまいそうで。俺は身を捩って啓の腕の中から抜け出した。
「やだ……、俺も、したい」
啓のバスローブの紐を解くのももどかしくて、合わせ目から手を差し入れる。下には何も着けていなかったようで、啓のものに直に触れた。
それが硬く勃ち上がっているのに安堵して、そっと息を吐き出す。男とヤったことはあるんだろうとは思ってたけど、啓はゲイには見えないし、アナルセックスだけなら女とだってできる。もし男とヤったことがなくて俺に勃たなかったらどうしようかと心配してたけど杞憂だったみたいだ。
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焦る啓の声に気をよくした俺は啓の足の間に蹲って、それを口に含んだ。
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