異世界帰りの魔王経験者、殺人事件を強引に解決する

遊野 優矢

文字の大きさ
13 / 22
FILE 01 女学園バラバラ死体事件

FILE01 女学園バラバラ死体事件-5

しおりを挟む
 被害者である柳優南のボイスチャットに関する調査結果は、ものの数分で俺とミカのスマホに届いた。
 本来であれば面倒な手続きが必要なはずだが、このあたりにもしっかり予算をかけているのだろう。
 組織がいかに社会の奥深くまで根を張っているかがわかる。

 同時に俺たちは、柳のPCの中身を見ていた。
 俺たちが現場を訪れてすぐPCは押収されたのだが、それから間もなく、俺とミカの端末で柳のPCを直接触れるようになったのだ。
 リモートデスクトップ自体は珍しくないのだが、『専用回線』でというところがポイントだ。

 短時間でチェックできることは限られるため、デスクトップに並ぶアイコンをざっと眺めてみる。
 整理されたデスクトップには、いくつか気になるアイコンもあったが、特に目を引いたのは『勝率表 VS AMATU』というファイルだ。
 どうやら、柳がプレイしていた格闘ゲームの勝率表らしい。
 相手をアマツというプレイヤーに絞って、使用キャラから勝敗の状況まで事細かに記録されている。
 日常的に対戦をしていたようだ。

 また、ボイスチャットの記録には、相手のユーザー名も記載されている。
 特に頻繁にやりとりしている相手の中に、『AMATU』の文字があった。
 勝敗表の人物とみて間違いないだろう。

 しかし気になるのは、被害者のPCが犯人に漁られた形跡がなかったということだが。
 犯人が欲しかった『何か』が、被害者の体だけに隠されていると知っていたのだろうか。
 PCというプライベート情報の宝庫であるはずの箱に、目的の物が何もないと、事前に知っていたと?
 もしくは、その『何か』だけを盗ってくるよう頼まれた、プロの犯行という可能性もあるか……。

…………
……

 組織は通信からAMATUの住所を特定してくれた。
 というわけで、俺とミカは、AMATUこと、天ヶ崎数也(あまがさきかずや)の住むタワーマンションに来ていた。
 俺とミカの住むマンションに勝るとも劣らない高級マンションだ。
 資料によると、20歳の一人暮らしとある。

 門前払いを受けるかとも思ったが、YUNAの友人だと言ったら部屋に入れてもらえた。
 『YUNA』とは、柳優南がAMATUとの対戦で使っていたハンドルネームだ。

 天ヶ崎はさわやかなイケメンだった。
 身長も180センチはあるだろうか。
 芸能事務所からスカウトされてもおかしくないような容姿だ。

「YUNAさんとはどういったお知り合いで?」

 天ヶ崎はメイドが淹れたお茶を俺たちに勧めながら、ソファで優雅に脚を組んだ。
 自宅にメイドて!

「実は私達、高校の制服を着てはいるのですが、警察関係者なんです」

 ミカはそう言うと、警察バッジを取り出してみせた。

 そんなんあるんなら、最初から使ってくれよ!

 あやうく口から出かけた文句を飲み込む。

 それを察したのか、ミカは、

「高校への潜入捜査ばかりだったから……」

 と目を逸らした。
 額から、一筋の汗が垂れる。

 今の今まで忘れてやがったな……。
 というより、バッジを使うのは今回が初めてなのだろう。

「本当に高校生に見えますが……」

 天ヶ崎の疑問ももっともだ。
 本当に高校生だからな。

「若く見てもらえるのは嬉しいですが……」

「これは失礼。女性に年齢の話題を振るべきではありませんでしたね」

 ミカの返しは、紳士ぶっている天ヶ崎の性格を察したものだ。
 なかなか上手い。
 向こうが勝手に勘違いしてくれる。

「というわけで、先ほどの質問をこちらからさせてください。
 YUNAさんとはどういった関係だったのですか?」

「僕はとある格闘ゲームをプレイしていましてね。
 これでもランキング上位をキープしているんです。
 ランキングと言って通じますか?」

 ミカの質問に、天ヶ崎はにこやかに答える。
 ゲーマー以外への配慮も忘れない。
 中身もイケメンである。

「インターネットを通じて対戦した勝敗によって、ユーザーにランキングがつくのでしょう?
 タイトルによって基準は違うようだけど」

「そうなんです。これは話が早い。
 女性でそのあたりの話が通じる人はまれでしてね。
 僕の女性ファンも、理解しないまま視てくれている人が殆どです」

「女性ファン?」

 首を傾げたミカを見た天ヶ崎は、少し残念そうにほほえんだ。

「僕は格闘ゲーム以外にも色々なゲームの配信をやっていましてね。
 それこそ、アナログゲームからソーシャルゲームまで色々です。
 これでも、動画一本あたり最低100万再生は行くんですよ」

 下手な芸能人よりもよほどすごい数字だ。
 いわゆる、ユー○ューバーというヤツだろう。
 俺は格闘ゲームは嗜む程度にしかプレイしないし、どうが配信も殆ど見ない。
 だから気付かなかったが、そういえばAMATUという有名配信者がいると聞いたことがある。
 整った顔立ちと軽妙な語り口で、やたらと女性ファンの多い配信者だ。
 コイツのことか!
 そりゃあ、こんな高級マンションにも住めるというものである。

「すごいわね。それとYUNAさんとどういった関係が?」

「僕が配信中に、たまたま彼女とマッチングしたんです。
 とてもいい対戦でした。
 どうやら彼女、あとから僕の配信に自分との対戦が流れていたことを知ったようで、SNSを通じて連絡があったんです。
 それをきっかけに、定期的に対戦していたというわけです」

「毎日?」

「そうですね。ここのところは……あれ? どうだったかな。
 ほぼ毎日だったと思います。
 ごめんなさい、記憶がはっきりしなくて。
 対戦のリプレイ履歴を見れば、彼女とどれくらい対戦していたかわかりますよ。
 おかしいですね。僕はゲームに関しては、物忘れなんてしないのですが……」

 彼にも記憶消去の影響が出始めているようだ。

「最近、彼女とのやりとりでかわったことはありませんでしたか?
 ボイスチャットもしていたのでしょう?」

「いえ……なかったと思います。
 あの……先ほどからYUNAさんのことばかり聞いてきますが、これはいったい何の事情聴取なんですか?」

「彼女、殺されたんです」

「え!?」

 天ヶ崎は本当に驚いたようで、少しの間、言葉を失った。

「彼女と直接の面識はありますか?」

「いえ、彼女とは格闘ゲームを通じてのやりとりだけでしたので」

 完全にウソというわけではないが、何か隠している。
 なんだ? 何を隠している?

「それにしても残念だ。
 彼女ほど聡明なプレイをするプレイヤーは貴重なのに」

「格闘ゲームに『聡明』なんていう表現をする人、初めて見ました」

「格闘ゲームは反射神経でやると思われがちですが、FPSなんかより反射神経の占める割合は小さいんです。
 彼女は分析力に長けていた。
 数学的思考と言い換えてもいい。
 瞬時に相手のクセなどを解析し、行動に移すことで最後には勝ってしまうんです。
 傾向と対策というヤツですね。
 彼女と対戦していると、自分の弱点がどんどん暴かれていくので、とても良い練習になっていたんです」

「へぇ……それは知りませんでした」

 ミカは素直に感心している。

「もしかして僕、容疑者なんですか?」

 不安そうな表情をしてみせる天ヶ崎だが、これは演技だな。
 自分は絶対に大丈夫という自信が見え隠れしている。
 やっていないからか、それとも絶対にバレないと思っているか。
 現状では特に手がかりはないので、なんとも言えないが。

「まだ容疑者かどうか、情報を集めている段階です」

 ミカはフラットな声音と態度で答える。

「早く犯人を逮捕してください。
 彼女はとても良い人だった……」

「もちろん、そのつもりです」

 おきまりのやりとりから得られる情報はこんなところだろう。
 俺は部屋を見回す。

 本人の性格なのか、メイドが優秀なのか、室内はショールームのように整頓されている。
 特に目立つのは、様々な格闘ゲーム大会のトロフィーだ。
 必ず視界に入るが、部屋の中心からは少し外した絶妙な位置に置かれている。

「すごい数のトロフィーですね」

「ええ、ちょっとした自慢です」

 ここで無駄な謙遜をしないあたりもイケメンである。

「ちょっと対戦してもらえませんか?」

「おお? あなたもイケるクチですか?」

「嗜む程度ですが」

「ちょっと愁斗、仕事中よ」

 俺を止めようとするミカだが、天ヶ崎はすでにモニターの電源を入れ、準備を始めている。

「アケコンもいくつかありますがどうします?」

「俺はパット派なんで」

 アケコンは高くて買えなかったんだ。
 なんとかゲーム機は手に入れたのだが、アケコンまでは手が出せなかった。
 最近のゲームはパッドでもプレイできるるように設計されてるものが多いしな。
 世界大会上位にも、パッド使いはたくさんいる。

「ちょっと二人とも! 人が死んでるのよ」

「だからですよ」

 意外と言うべきか、彼らしいと言うべきか。
 ミカの制止に、天ヶ崎がはっきりと意見した。

「格闘ゲーマーを偲ぶなら、格闘ゲームで。
 でしょ?」

「そういうことです。
 あなたとは仲良くなれそうだ」

 天ヶ崎はさわやかスマイルで俺のセリフに応えた。
 そう思われるように誘導したとはいえ、彼とは波長が合いそうだ。

 俺と天ヶ崎は、柳がプレイしていた格闘ゲームを、10試合ほどプレイした。
 その間、二人は無言である。
 グチや歓声、時には罵声で煽り合うのが格闘ゲーマーの正しい姿だが、彼の中にも何か思うところがあったのだろう。

 最初の数試合はボコボコにされた俺だが、後半5試合は勝ち越した。
 全体でみれば俺の4勝6敗。

「実力を隠していた、というわけではなさそうですね。
 この短時間に、高速で学習された感じだ」

 天ヶ崎の見立ては正しい。
 もともと、俺はネット対戦のランキングで、有名プレイヤーとたまにマッチングする程度には上位にいた。
 しかし、あくまでエンジョイ勢であり、大会で上位に入れるようなプレイヤーではない。

 だが、魔王を経験した今、相手の動きに慣れることなど造作もなかった。
 後半は全勝することも可能だったが、あえてギリギリ負け越しで終わらせた。
 内容も「俺はミスをしていないのに、読み負けた」ように見せている。
 これなら……。

「またぜひ対戦してください!
 彼女以来の逸材だ。
 なぜ今まで表に出ていないのですか!?」

 こうくるね。
 狙い通りだ。

「人前に出るのは得意じゃなくて。
 よかったらアカウント交換しませんか?」

 俺の誘いに、天ヶ崎は快く頷いたのだった。

 ミカの方に視線をちらりと送ると、「これが狙いだったのね」と目を丸くしているのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

宍戸亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

処理中です...