異世界帰りの魔王経験者、殺人事件を強引に解決する

遊野 優矢

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FILE 01 女学園バラバラ死体事件

FILE01 女学園バラバラ死体事件-13

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 あまりに美しいミカの半裸だが、いつまでも見ていると、また怒られてしまう。
 プランダラーをさっさと倒してしまおう。

 倉井はパワー&再生型だ。
 一見厄介そうに見えるが、倒す方法はいくらでもある。
 主任にも頼まれているし、ミカの参考になるような戦いをしたいものだ。

 最も簡単なのは、ガードされようがお構いなしの出力で、細胞を一つ残らず消滅させることだ。
 手持ちの魔術で簡単にできるが、こちらの世界の人間には、難しいだろう。
 次に有効なのは、毒だ。
 再生型は新陳代謝も早いので、毒がよくまわる。
 強い毒をもっていれば、即死させることも可能だ。
 だが、象を一瞬で仕留めるような毒物を、常時持ち歩くのは、使う側も危険なことが多い。
 ミカは毒が専門ではないだろうし、参考程度にしかならないだろう。

 ふうむ……これでいくか。

 俺は土からケイ素を取り出し、即席の針を用意した。
 続いて毒を生成し、針の先に塗布する。
 本当は相手の体内で直接毒を生成する方法もあるのだが、傍から見て何がお起きているかわからないからやめておく。

 俺は手首だけの動作で、針を倉井に向けて投げた。
 それに反応した倉井は、手のひらで針を止める。

「その針には毒を仕込んだ。
 どうにかしないと、死ぬぞ?」

「くっ! 卑怯な!」

 倉井は迷わず自分の腕を、引きちぎった。
 どの口が卑怯とか言うのやら。

「だめだわ。毒も奴にはきかない!」

 沈んだ声を上げたのはミカだ。
 まあ見てろって。
 俺は2発目の針を、再生中の腕に撃ち込んだ。

「無駄だ!」

 倉井は再生した部分を、再び引きちぎった。

「そうかな?」

「な……ぐ……からだが……しびれ……」

 倉井はその場にゆっくりと崩れ落ちた。

「てっきり針をたくさん撃つ作戦だと思ったのになんで?」

 今のミカからの「なんで?」は、なぜたくさん撃たなかったのかと、毒が効いたのかという2つの疑問だろう。
 倉井を魔力の糸で拘束しながら、疑問に答える。

「それでもいいんだけどな。
 消耗戦になる場合も考慮して、武器はできるだけ節約する癖をつけておきたい。
 2回目の毒が効いたのは、再生中だったからだ」

「……?
 あ、なるほど。
 再生するってことは、細胞分裂を高速で繰り返してるってことよね。
 だから、異物もまた早く取り込んでしまうと」

「そういうことだ。
 ミカは賢いな」

 褒めてやると、ミカは「えへへ」と笑みを浮かべた後、照れたこと自体が恥ずかしかったのか、ぷいっと横を向いてしまった。
 タイプによっては、毒素の排出が早すぎて使えないヤツもいるのだが、それはまたの機会でいいだろう。

「く……こんな……こんな糸なんて……!
 ち、ちぎれない!?」

 痺れから回復した倉井が、身をよじるも、身動きが取れないでいる。
 ちなみに、両手両足を縛った上に、体育座りの格好でぐるぐる巻にしている。

「その糸は、一本で城をまるごと持ち上げられる強度があるんだ。
 まともな手段じゃ、絶対切れない」

「は? 何言ってんの?」

 信じてないなあ。
 本当にやったことがあるんだが。
 あのときは、城に部下を入れたまま、まるごと持ち上げた。
 勇者達の驚く顔が見ものだったな。
 別に倉井に信じてもらう必要はない。

「せっかくの生きたサンプルだ。
 有効に使ってくれ」

「サンプルって……」

 ミカは俺の物言いに少し引いているようだったが、本部に連絡をとってくれた。
 すぐに、迎えが来るだろう。

 組織は、プランダラーの死体や捕縛したサンプルを研究している。
 それは、ミカが使っているスーツにも応用されているようだが……。
 これを言うと、ミカはショックを受けるだろうから、黙っておこう。
 俺も見ていて気付いただけで、説明を受けたわけじゃないしな。

「早く殺して。
 あの娘にも捨てられ、美しさも失った……。
 私をバカにしたあなた達を殺すこともできない。
 死んだ方がましだわ」

 本当に死んだほうがマシだと思うのは、これからだろう。
 それは、彼女が犯した罪への罰として、受けてもらう。
 だが、被害者の名誉のために、1つ訂正しておかなければならない。

「キミは柳さんに捨てられたと思っているだろうが、そうじゃない。
 彼女がキミの昔の写真を大事に持っていたことに、疑問はわかないのか?」

「私の醜かった頃を思い出したから、私を捨てたんでしょう?」

「それじゃあ、あの1枚だけを大切に持っている理由にならないだろ?」

「じゃあなんだっていうの」

「本当にわからないのか?
 彼女は、キミよりもずっと前から、キミのことを好きだったんだ。
 いや、正確には美しさに過剰にこだわる前のキミがね」

「そんなことあるはずない!
 メイクした後! 整形した後!
 誰だって美しくなった後の方が好きよ!」

「そういう人も多いだろう。
 でも彼女は違った。
 ありのままのキミが好きだったんだ。
 よくある話じゃないか。
 でもキミは、自分のコンプレックスと他人の評価ばかりを気にして、変わってしまった。
 彼女がキミを捨てたんじゃない。キミが彼女を捨てたんだ」

「嘘よ!」

「彼女は高校で再会したときから、キミのことに気付いていた」

「そんな素振りかったわ!」

「いいや、気付いていたよ。
 入試でトップ合格を果たした彼女は、入学前に学校に1つ願いごとをしている」

「なによそれ……」

 これは、ミカにこっそり調べておいてもらったことだ。

「中学で出会っていたキミたち二人が、たまたま寮で同室になるなんてあると思う?」

「運命の出会いだって思ったわ。
 ……まさか」

「そう。柳さんの願いは、寮で同室にしてもらうこと。
 彼女、入試会場でキミを見かけた時に、すぐ気付いたんだ」

「そんな……入試の頃にはもう、私は今の姿になってたのに……」

「彼女はずっと待っていた。
 本当のキミが戻って来るのをね」

「…………」

 倉井は唇を噛み締め、押し黙った。

「これで事件解決、かな?」

「そうね」

 ミカは唇を尖らせつつ、しぶしぶ頷いた。

「不満そうだな」

「ほとんどあなたの手柄じゃない」

「推理と洞察、あとトドメはね」

「ほらやっぱり!」

「でも、情報収集はミカの方が早かった。
 何より、俺だけで処理できる物量には限界があるからね。
 ミカがいなかったら解決できなかったし、いてくれてよかったよ」

「ほんとに……?」

 ミカはちょっと拗ねたような、それでいて嬉しさを隠せない表情で見上げてきた。
 しっぽが生えていたら、きっとぶんぶん振られていることだろう。

 一人で解決できなかったというのは嘘だが、助かったというのは本当だ。

「あらためて、俺の相棒になってくれないか」

 その一言で、ミカの顔がぱぁっと明るくなった。

「いいわよ。でも逆ね」

「逆?」

「私の方が先輩ってこと」

 そう言うと、ミカは「こほん」とわざとらしく咳払いをすると、両手を腰に当てて、胸をそらせた。
 大きな胸が、俺の学ランの下でぷるんと揺れる。
 あと、めっちゃパンツ見えてるからな。

「左端愁斗! あなたを私の相棒に任命します!
 末永くよろしくするように!」

「下手なプロポーズみたいになってるぞ」

「プロ……バッカじゃないの!?
 まだそういう関係じゃないでしょ!?」

「まだ?」

「くぅ~~~~っ!」

 ミカは顔を真っ赤にして唇を噛み締めた。
 これ以上いじめるのはかわいそうだな。

「ごめんごめん。
 よろしくな、センパイ」

 そういって差し出した俺の手を、ミカはほっぺを膨らませながら、がっしりと握りかえしてきたのだった。
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